コーポレートガバナンス

 ガバナンス(governance)とは「統治・支配・管理」を示す言葉です。企業におけるガバナンスは「健全な企業経営を目指す、企業自身による管理体制」を指します。

 具体的には、「内部統制やリスクマネジメントを向上させる部門の設置」や「役割と指示系統を明確にする仕組みづくり」などが挙げられます。

 企業がステークホルダー(利害関係者)との信頼関係を築いていくためにも、ガバナンス体制を構築し、強化していくことは重要な取り組みだと言えるでしょう。

 

ガバナンスとコンプライアンス

 コンプライアンス(compliance)とは、企業活動における「法令順守」を指すビジネス用語です。コンプライアンスが順守するのは「法令」だけでなく、業務規定や社内ルールである「社内規範」、社会常識や良識による「社会規範」、企業理念や社会的責任(CSR)といった「企業倫理」なども含まれます。
このコンプライアンスを維持・改善するための「管理体制」がガバナンスです。ガバナンスを強化していくことがコンプライアンスを強化することにもつながります。

 

ガバナンスとリスクマネジメント

 リスクマネジメントとは、想定される経営リスクを事前に把握するための管理手法です。企業を取り巻くリスクが多様化・複雑化している現代では、リスクマネジメントのプロセスを適切に構築する必要があります。プロセスが適切に構築・運用されることによってリスクが発生した際の損失を最小限に抑えることが可能です。リスクマネジメントは健全に企業経営を行っていく上では欠かせないもので、ガバナンスにおける大切な機能の一つと言える。

 

ガバナンスと内部監査

 内部監査とは、経営活動への助言や勧告、支援を行う部門のことです。組織内で独立して機能していることが特徴で、ガバナンスやリスクマネジメントにおけるプロセスの有効性を、客観的に評価しコントロールする役割を担います。ガバナンス体制を構築していくためには欠かせない役割の一つです。

 コーポレートガバナンスが、経営層の独走を抑止して株主やステークホルダーの利益を守る仕組みを指しているのに対し、内部統制は経営層を含む全ての従業員が公正な企業活動を行うために必要な仕組み・プロセスを指しています。

 この二つの概念の関係性においては、コーポレートガバナンスにおける「透明性のある適切な情報開示」と、内部統制における「財務報告の信頼性」という点でつながりが深いことが分かります。つまり、コーポレートガバナンスを保つには、内部統制による透明性のある企業活動が必要不可欠といえます。

 企業には、CEOをはじめとする業務執行者と、株主をはじめとする様々なステークホルダーがいます。いずれの立場にせよ、企業が法令を遵守し、効率的に運営されることが求められています。そのように業務執行がなされるようにコントロールしたり、モニタリングしたりする仕組み、体制のことをコーポレートガバナンスと言います。

 これまでの日本企業は、従業員重視としている企業が多く、株主価値の最大化を追求する株主重視が軽視されていましたが、日本企業のコーポレートガバナンスは大きくかじを切ってきています。

 

コーポレートガバナンスの目的

 コーポレートガバナンスは、企業としての社会的責任を果たし、企業価値を持続するうえで重要な役割を果たします。

 主な目的には以下の三つがあります。

1 企業経営の透明性を確保する

 経営戦略や課題、財務状況、リスクマネジメントといった情報は、企業の現状を知るうえで大変重要です。企業には経営に関する情報はもちろん、自社の透明性を示す適切な情報開示が求められます。

2 株主の権利と平等性を確保する

 株主の権利や信頼を守ることは、企業としての大きな責務です。特に少数株主の場合、平等性の確保に課題が生じやすい傾向にあります。コーポレートガバナンスは、全ての株主に対する平等性を保つうえで大きな役割を果たします。

 また、企業は、株主の関心や懸念点に真摯に耳を傾け、より分かりやすく明確に説明する責任があります。企業と株主の双方に利益を創出する経営戦略を提示し、株主の理解を得られるように努めなければなりません。

3 ステークホルダーの権利・立場を尊重する

 企業が継続的な成長・発展を遂げる過程においては、地域社会をはじめ、顧客・取引先・従業員など多くのステークホルダーが関わっています。株主や投資家だけでなく、ステークホルダーの権利・立場を尊重し、協働に努めることも重要なポイントです。

 企業は経営者の力だけで成り立っているわけではないことを認識したうえで、一方的な企業経営にならないよう心がける必要があります。

 

企業にもたらす効果やメリット

企業価値が向上する

 ガバナンスを強化することにより、企業の対外的な信頼や魅力が向上し、優良企業として認知度が高まります。企業の社会的価値の向上は株主やステークホルダーの利益を守るだけでなく、企業の中長期的な発展の支えにもなるでしょう。また、企業価値は株価算出の基準にもなります。企業価値が向上することで金融機関からの信頼も厚くなり、出資や融資を受けやすくなるなど、財務状態の安定も期待できるでしょう。

企業の持続的な成長力や競争力を高められる

 ガバナンスの強化により企業経営を円滑に進められれば、中長期的に収益力を高めることができます。収益力が向上すれば、新規事業への投資や優秀な人材の獲得など、競争力を高めるための施策を積極的に取り入れられるでしょう。また、企業の成長は、経営層だけでなく社内全体のエンゲージメントを高め、より強固な組織体制の構築にもつながることが期待されます。

 「ガバナンスが効いていない」というときは、企業内の監視体制が適切に行われていない状態を指します。その場合、企業にはどのようなことが起こるのでしょうか。

不正や不祥事を防止できず、社会的信用を失う

 ガバナンスが効いていない状態では、企業内の監視体制が行き渡らず、経営や業務プロセスにおいて不正や不祥事が発生するリスクが高まります。一度不祥事が発生すれば、社会的信用を大きく失うことは免れません。消費者や投資家から大きな批判が起こった結果として経営不振となり、倒産に陥る可能性もあるでしょう。

世界経済のグローバル化に対応できない

 グローバル化が進む中で市場競争を勝ち抜くためには、ガバナンスの強化は欠かせません。企業統治がなされていない状態では経営の健全性や透明性、業務執行の効率性を確保できず、世界経済のダイナミックな変化に柔軟に対応できなくなるでしょう。特に海外への市場拡大や事業展開などを視野に入れている企業では、価値観や文化の差で生じるリスクにより、経営状態の悪化も懸念されます。

 

コーポレートガバナンスによる効果

 コーポレートガバナンスに取り組むことで得られる効果は以下の通りです。

1 一部の経営陣による経営の暴走を防止

 バブル経済崩壊後の日本では、組織内部の人間が絡むさまざまな不正が表面化しました。これらは、コーポレートガバナンスが徹底されておらず、一部の経営陣が暴走した結果ともいえます。

 企業の不祥事によるステークホルダーの損失は大きく、日本経済の悪化はもとより、企業に対する信頼が損なわれる結果になりかねません。企業経営が適切に行われているかを監視するうえで、コーポレートガバナンスは大変重要です。

2 利益重視に偏らない健全な経営の実現

 企業は利益のためだけでなく、社会から認められる方法で運営され、需要に見合った商品・サービスを提供していかなければなりません。企業は社会の公器であるという認識のもと、利益重視に偏らない経営を行っていく上で、コーポレートガバナンスは効果を発揮します。

 企業が長期的に安定した経営を続けていくには、組織全体で同じビジョンを共有していることが重要です。コーポレートガバナンスを整備することで、企業理念から逸脱することなく、全従業員が企業価値の創出に努めることができるようになります。

3 長期的に企業価値を向上させる

 コーポレートガバナンスは株主の利益を守るだけでなく、全てのステークホルダーの権利や利益を保護します。その結果、企業への信頼が高まり、長期的に企業価値を向上させることが可能になります。

 企業価値が高まることで継続的な成長が見込めるほか、金融機関から融資を受けやすくなるなど、将来的な経営戦略を描きやすくなるメリットもあります。

 

コーポレートガバナンスを強化

 コーポレートガバナンスを強化するためには、以下の取り組みが必要でしょう。

1 内部統制を構築・強化する

 ガバナンスを強化するためには内部統制の構築と整備が重要です。内部統制が機能していればこそ、社内外に対する「透明性の高い情報の開示」が可能となります。社内で順守すべきルールを定め、ルールに従って業務が行われているかを監視・指導する体制を構築しましょう。そのためには取締役会や内部監査部門など、各部門の役割を明確にすることが重要です。

2 第三者視点での監視体制をつくる

 一部の経営陣や社員による不正を防ぐには、第三者的視点での監視体制が有効です。そのためには内部監査だけでなく、独立性を持って客観的に評価できる、専門人材による監視体制をつくることが効果的でしょう。外部による監査が入ることにより、社内ではなかなか気付くことができない不透明なルールや業務プロセスが発見しやすくなります。社外取締役や社外監査役、報酬委員会などを設置することが有効でしょう。

3 コーポレートガバナンスを社内へ浸透させる

 コーポレートガバナンスを強化するためには株主や社外だけでなく、従業員に対しても考えや方向性を浸透させることが重要です。行動規範や倫理憲章などを作成し、従業員が業務遂行や意思決定するための判断基準を明確にしましょう。また、従業員が行う業務プロセスを可視化して、業務の遂行内容を把握することも大切です。「業務フローをまとめてマニュアル化する」などの対策を行うとよいでしょう。

 

日本企業が抱えるコーポレートガバナンスの課題

資本コスト

 企業は、株主(=企業の所有者)が主人公であり、責任も成果も全て所有者に帰属します。資本主義の下では、工場など生産手段を個人や私企業が持つことが認められており、それらの活動が社会を発展させてきました。このような社会ではリスクのない預金に比べてリスクの高い生産手段に投資する方が高いリターンを得られます。つまり、経営者は株主から預かった金を元手に高い利益を上げて株主に帰属する持ち分を増やしたり、再投資していくことになります。

 株主からの利益の期待が資本コストとなります。期待値以上の成果を達成できると想定される企業には、資本が配分され、人材も集まってきます。しかし、期待値を下回る成果しか達成できないと想定される企業は、資本を得られなくなり、人材も集まってきません。その結果、買収されることや倒産ということにもなりかねません。明らかに非合理的な投資を行った場合、株主から訴訟を受けることもあり得ます。

日本の制度:株式の持ち合い

 日本企業がグローバル水準になっていないのは、株式会社制度に関わることがあります。企業間で株式の持ち合いが多く、互いに白紙の委任状を出し合っているために社長が最初から過半数の決議券を手にしている状態で株主総会を迎えるために、開始前に結論が出ていることがあります。

 このように権力への牽制が効いておらず、株式会社制度の仕組みが機能していないとも言えます。

 創業者一族による株式の支配も類似した状況になります。

日本の制度:子会社との関係

 利益を生み出す子会社を株式上場させて、キャピタルゲインを得て、含み益を享受するということは日本でよく見られる独自ルールになります。これは場合によっては、少数株主の利益を損なう制度となります。

 日本企業のコーポレートガバナンスにおいては、日本独自のルールによって成り立っている部分がまだ多くの残っています。

 しかし、昨今、事業はグローバル化に直面し、コーポレートガバナンスの対象範囲もグローバルに拡大しています。

 このように日本企業が抱える課題は戦略策定に影響を及ぼしています。

 そのため、従来の日本企業が推し進めてきたコーポレートガバナンスからグローバル標準の考え方に移行していく必要があります。

 今後は日本独自のルールから脱却し、グローバルレベルで物事を考え、原理原則に従って、競争優位を求める戦略策定が必要となります。

 

コーポレートガバナンスの開示事例

キヤノン

 キヤノンはキヤノン販売を株式上場させています。本来は子会社の価値は親会社の株価に反映されているため、子会社も上場しているとみなすこともできます。親会社が上場しており、資金調達できる状況にあるので、子会社を上場させる必要はありません。キヤノンとキヤノン販売の場合、株式取引を通じて子会社株の価格を上げることも下げることもできてしまいます。株価を移転価格で操作して株の売買によって少数株主の利益を阻害することができてしまいます。このようなことを利益相反といいます。これが認められているのには、キヤノンのような企業が株価操作をするはずがないという前提の上に成り立っています。しかし、そのような暗黙の了解は本来制度としては欠陥となります。

 

GE

 取締役会の機能は、経営陣が経営に関する意思決定を行うことに対する監督、経営戦略の策定、業績評価、役員報酬の決定、取締役の選任などに関する検討、が挙げられます。

 GEにおける取締役会の特徴は、取締役会を構成する人員を多様化させている点にあります。例えば、女性役員の積極的な登用や、出身国においても多極化しています。これらの情報を開示することで、外部に対する企業イメージの向上を図っています。また、取締役会自体の評価プロセスにも工夫が見られます。取締役会の評価は、第三者であるコーポレートガバナンスの専門家が行うことで中立性を保っています。評価するポイントは、取締役会や取締役で構成される委員会の運営状況や取締役のパフォーマンスについてです。実際、各取締役に対してヒアリングを行い、各コメントを収集した後に、評価内容についてディスカッションを行い、最終的な評価を下しています。その結果、取締役会の重要な機能である経営戦略の策定や経営に関する意思決定などの機能の改善を追求し、機能強化する仕組みとなっています。

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