労災 交通事故などの第三者行為
労災保険における第三者行為災害とは、通勤中や営業中の交通事故などにおいて、一般的に事故の相手方の加害者が存在する災害です。第三者行為災害では、労災保険の当事者ではない相手方となる第三者が損害賠償の義務を負うことになります。
第三者行為災害に該当する災害が発生した場合、被災者は「加害者となる第三者に対する損害賠償請求権」と「労災保険の給付請求権」の両方を取得することになります。そうなると、損害賠償金と労災保険給付の二重取りとなり、実際の損害額より多くのお金が被災者に支払われるという不合理が起こります。そのため、国は労働者災害補償保険法(労災保険法)第12条の4で、第三者行為災害における労災保険給付と民事損害賠償との支払い調整について、保険給付が重複しないようルールを定めています。それが「求償」と「控除」です。
求償
「求償」とは、被災者等が第三者に対して有する損害賠償請求権を、政府が保険給付の支給と引換えに代位取得し、この政府が取得した損害賠償請求権を、第三者や保険会社などに直接行使することをいいます。
第三者行為災害が発生した場合、労働者の傷病等が業務上の事由又は通勤によるものである限り、労災保険の給付が行われることとなっていますが、労災保険の給付はもともと人身損害についてのてん補を目的としているものですから、民事損害賠償と同様の性質をもっています。また、被災者等の負った損失を最終的にてん補すべき者は、災害の原因となった加害行為等に基づき損害賠償責任を負った第三者であると考えられます。
これらのことから、労災保険の給付が第三者の損害賠償より先に行われますと、第三者の行うべき損害賠償を結果的に政府が肩代わりした形となりますので、(労災保険法第12条の4第1項の規定により)政府は、労災保険の給付金額に相当する額を第三者(交通事故の場合は損保会社など)から返してもらうこととなります。たとえば、ケガで仕事を休んだときには、入通院をして4日目から給付基礎日額の60%の休業補償が労災保険によって受けられますが、初めの3日分(待機期間)と残りの40%分は加害者側が負担することになります。
控除
「控除」とは、第三者の損害賠償(自動車事故の場合は自賠責保険や任意の損害保険)が労災保険の給付より先に行われていた場合であって、当該第三者から同一の事由につき損害賠償を受けたときは、政府は、その価格の限度で労災保険の給付をしないことをいいます。
同一の事由により、第三者から損害賠償を受け、さらに労災保険の給付が行われますと、損害が二重にてん補されることとなり、被災者等は計算上利益を生ずることとなってしまいます。
損害賠償のうち、労災保険の給付と同一の事由に相当する額を控除して給付を行い、損害の二重てん補という不合理を避けることとしています。
「同一の事由」は、次のものを指します。
療養(補償)給付 休業(補償)給付 傷病(補償)年金 介護(補償)給付
遺族(補償)給付 葬祭料 葬祭給付
先に民事損害賠償が行われた場合、労災保険で支払われる金額より、民事損害賠償で支払われた金額を差し引いて給付する「支給調整」が行われます。
控除を行う期間は、原則として災害発生後 7年間 です。
第三者行為災害届
第三者行為災害で被災者等が労災保険給付を受ける場合、労災保険給付に関する請求書と同時または それより先に、被災者が所属する事業所を管轄する労働基準監督署に「第三者行為災害届」を提出する必要があります。
添付書類
・念書(兼同意書) 労災保険給付を受ける被災者本人(またはその遺族)が署名する。
第三者行為災害における「念書(兼同意書)」は、不用意な示談により労災保険給付を受けられなくなる、あるいは受取済の労災保険給付を回収されるなどの損失を被ることを防ぐための重要書類です。
・「交通事故証明書」または「交通事故発生届(様式第3号)」
「交通事故証明書」は、原則として自動車安全運転センターで交付されます。
証明書の交付ができない場合は、「交通事故発生届」を提出してください。 交通事故以外の災害で公的機関の証明書が得られるときは、その証明書を提出します。
・示談書の謄本 示談が行われた場合に提出
・自賠責保険等の損害賠償金等支払い証明書または保険金支払い通知書(写しでも可)
仮渡金または賠償金を受けている場合に提出
・死体検案書または死亡診断書(写しでも可)
死亡の場合に提出
・戸籍謄本(写しでも可)
死亡の場合に提出
労災保険給付と損害賠償項目の対比
労災保険給付 |
対応する損害賠償の損害項目 |
療養補償給付 (療養給付) |
治療費 |
休業補償給付 (休業給付) |
休業により そう失したため得ることができなくなった利益 |
傷病補償年金 (傷病年金) |
休業により そう失したため得ることができなくなった利益 |
障害補償給付 (障害給付) |
身体障害により そう失又は減少して得ることができなくなった利益 |
介護補償給付 (介護給付) |
介護費用 |
遺族補償年金 (遺族年金) |
労働者の死亡により遺族がそう失して得ることができなくなった利益 |
葬祭料 (葬祭給付) |
葬祭費 |
( )内は通勤災害の場合です。
受給者の精神的苦痛に対する慰謝料及び労災保険の給付の対象外のもの(遺体捜索費、義肢、補聴器等)は、同一の事由によるものではないので、支給調整の対象とはなりません。
自賠責保険を使っても休業特別支給金は貰えます
仕事中・通勤中に交通事故に遭った場合には、加害者が加入する任意保険(+自賠責保険)と労災保険の両方を受けることができます。任意保険(+自賠責保険)と労災保険の両方を受けるといっても、交通事故によるケガで休まざるを得なくなり、給料が払われなかったときに、任意保険(+自賠責保険)からの休業損害の支払いと、労災保険からの休業(補償)給付が二重に支払われることにはなりません。これを「支給調整」といいます。
しかし、任意保険(+自賠責保険)から治療費や休業損害についての支払を受けているとしても、労災保険から支給される「特別支給金」や「アフターケア」「労災就学等援護費」「長期家族介護者援護金」、保険給付の対象外となる費用(慰謝料、自動車修理代等)などは支給調整はされません。休業(補償)給付のような損害の填補のために支給されているものではなく、社会福祉的観点から拠出されているものであるためです。
労災保険では、休業補償として給付基礎日額の6割に加えて、「休業特別支援金」としてさらに給付基礎日額の2割の金額、合計で給付基礎日額の8割の金額を受け取ることができます。
自賠責保険の保険金を受け取っていれば、労災保険を申し込んでも控除されてしまいますが、この休業特別支援金は控除の対象にならず、自賠責保険を適用した場合でも、基礎給付日額の2割の給付を受け取ることができるわけです。
給付基礎日額の2割の金額が給付されるようになり、もともとの自賠責保険の休業損害補償と合わせれば、12割もの金額になります。