労働契約
労務を提供するときの契約にはいくつかの種類がありまして、それぞれ目的や労務の提供方法が異なります。
労働契約
労働契約とは、労働者が使用者の指揮・命令に従って労務を提供し、使用者がその対価として労働者に賃金を支払うことを基本的な内容とする、諾成、有償、双務契約をいいます。
労働者からの申込みに対して会社が承諾した場合、または会社からの申込みに対して労働者が承諾した場合に労働契約が成立します。
労働契約の目的は、労務に服することで、会社の一般的指揮監督関係に入り、一定の規律に従い「労働者」として労務を提供します。
賃金、労働時間、休日、休暇などについて、労働基準法、最低賃金法などの労働関係法規が適用されます。
家事使用人や同居の親族を専従従業員として採用するものは労働基準法の適用範囲外であるために、労働契約とはなりません。民法623条でいう「雇用契約」なのです。
労働契約が遵守されることは、労使トラブルを防止するために非常に重要です。そのため、労働契約法第3条第4項では、労働者と使用者は労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならないこと、すなわち、「信義誠実の原則」を労働契約に関して確認しています。 これは、労働条件を定める労働協約、就業規則、労働契約の遵守義務を規定した労働基準法第2条第2項と同様の趣旨です。
請負契約
請負契約とは、請負業者が仕事の成果を提供し、注文者がその仕事の成果に対して報酬を支払う契約のことをいいます(民法632条)。
仕事を完成させることと、報酬の支払いが対価関係になっています。
労働基準法上の労働者ではないので、労働関係の法律の適用はありません。
最低賃金法の適用を受けないため、話し合いの上で報酬を自由に決定できます。
健康保険・厚生年金の被保険者にはなりません。
請負会社に雇用された労働者は、労働基準法をはじめとする労働者保護法が適用され、加入条件を満たしている場合には、社会保険にも加入する義務があります。
委任契約
業務委託契約とは、委託者より特定の業務の処理を委託され、他人の指揮命令下に入らず、自己の道具を使い、委託者に特定の業務の処理を提供する契約です(民法656条)。
業務委託社員とは、労働契約ではなく、業務委託契約を締結し、労働時間の管理を受けずに、上司の指揮・命令下にも入らず、自己の裁量で労働し、委託者より受託した業務を処理し、報酬を受領します。
一般的指揮監督関係に入らず「事業主」として独立して仕事を処理します。
労働基準法上の労働者ではないので、労働関係の法律の適用はありません。
最低賃金法の適用を受けないため、話し合いの上で報酬を自由に決定できます。
健康保険・厚生年金の被保険者になりません。
「使用従属関係」を見る場合の判断要素
具体的な判断基準としては、労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」(昭60.12.19)で示されております。
そのポイントは次のとおりです。
(1) 仕事の依頼、業務従事の指示に対して、指揮監督関係がある場合は労働契約と考えられる。
(2) 業務の内容や遂行方法について、使用者の具体的な指揮命令を受けている場合や、その命令、依頼で、予定されている業務以外の業務に従事することがある場合には、労働契約と考えられる。
(3) 勤務場所や勤務時間が指定され、管理されている場合には、指揮監督関係があると判断される。ただし、業務の性質や安全の確保などの必要からのみそれらが指定されている場合には、これにあてはまらない。
(4) 労務の提供をしない時間に対しては報酬が控除され、労働時間を延長した場合には割増賃金が支払われるというように、報酬が時間や労務を提供したことへの対償という形で支払われる場合には、労働契約と考えられる。これに対して、あらかじめ定められた報酬が時間や労務提供の有無にかかわらずに支払われる場合には業務委託契約となる。
(5) 本人に代わって他の者が労務を提供したり、本人が自らの判断で補助者を使うことが認められているなど、労務の提供に代替性がある場合には、指揮監督関係はないものと判断され、業務委託契約と考えられる。
労働契約書の締結
労働者の採用に当っては、後の労働トラブルを避けるため、雇用契約書又は労働契約書を取り交わすことが必要です。
労働者からの申込みに対して会社が承諾した場合または会社からの「申込み」に対して労働者が承諾した場合に労働契約が成立します。承諾者としての「承諾」の意向を相手方に明示するために一般に用いられているのが、書面に署名または記名押印するという手続きであり、その際の書面が「労働契約書」です。会社と従業員双方で1通ずつ保管します。
法的には、労働条件の通知(事業主からの一方的な通知)で足りますが、事業主・労働者の双方から捺印をいただくことで、何らかのトラブルが生じた時に会社を守ることとなり、無駄な時間や労力や費用をかける必要がなくなります。
労働基準法や労働契約法は、『労働条件通知書』を交付することを定めています。通知書という名前の通り、双方で署名捺印はしませんし、法律上はそこまで求めていません。お互いの勘違いから起こる労使トラブルを防止するため、『労働件通知書兼同意書』という形で、『労働契約書』を作成することをお勧めします。
なお、労働契約書には盛り込めないもので、重要な事項は「秘密保持に関する誓約書」「個人情報管理誓約書」などでフォローするのがよいでしょう。
基準に達しない労働条件を定めた労働契約全部が無効になるのではなく、基準に達しない部分のみ無効になり、その他の部分は有効となります。無効となった部分は就業規則で定める基準によります(労働基準法第13条)。
労働契約より就業規則の方が効力は強く、就業規則より労働協約(使用者等と労働組合が締結した協定)のほうが効力は強くなります。労働契約、就業規則、労働協約のいずれも労働基準法に違反することはできません。
これらの関係を示すと次のようになります。
法令(労働基準法など)>労働協約>就業規則>雇用契約
「会社を守る」観点からは、「秘密保持に関する誓約書」、「個人情報管理誓約書」の提出を求めるべきです。
「秘密保持に関する誓約書」は、顧客情報の漏洩や企業の情報漏洩を防ぐための手段です。
誓約書は精神的な効果をねらうものです。誓約書において、法律で禁止されていることを誓わせてはなりません。
(例:損害賠償の具体的金額、女性が結婚した場合や妊娠の場合は退職すること など)
会社として不利益を被るおそれがある行為については、禁止、処罰内容を具体的かつ明確に規定しておくことが重要です。また、社員への自覚を促すことを目的に、入社時および退職時には「業務上知りえた機密事項を漏洩しない」旨の誓約書を取り交わすことをお薦めします。これは入社時だけではなく、退職時にも改めてその契約の内容を本人と確認しあうことが重要です。
会社側としては、退職後も守秘義務があることを就業規則に定めておくこと、また特に必要のある者については、退職後の守秘義務契約や競業避止契約を退職時に結んでおくのがよいでしょう。そして、これらの誓約に違反したときは、損害賠償請求をすることがある旨を付記しておくのがよいでしょう。
なお、会社の明示した見込の労働条件の内容は、必ずしも守られないことがあります。採用前に明示された労働条件が採用時点で異っている場合、労働者は労働契約を解除できます。
(判例)
岡谷鋼機事件 大阪地裁判決(昭和55年2月22日)
かなざわ総本舗事件 東京高判決(昭和61年10月14日)河合塾(非常勤講師・出講契約)事件 最高裁第3小(平成22.4.27)
中央林間病院事件 東京地方裁判所(平成8年7月26日)
電電公社帯広局事件 最高裁第1小(昭和61・3・13)
十勝女子商業事件 最高裁第2小(昭和27・2・22)
北海道国際航空事件 最高裁第1小(平成15.12.18)
安田病院事件 最高裁第3小(平成10.9.8)
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