皮膚病

皮膚に生じる特徴と増殖病変

萎縮性皮膚:

 皮膚が薄くなってくぼみ、しばしばしわのある「シガレットペーパー」状の外観を生じる。

水疱:

 直径5ミリメートルより大きい液体が入った斑点(小水疱)。

痂皮(かひ)(かさぶた):

 皮膚の表面で血や膿、体液が固まったもの。皮膚が傷ついた部分であればどこにでもできる。

嚢胞(のうほう):

 皮膚にできた壁を持つ中空のしこり。中空部分の中には液体や固体状の物質が入っていることがある。

びらん:

 皮膚の表層(表皮)の一部またはすべてが欠損した状態。感染、圧迫、刺激、温度などによって皮膚が損傷を受けると、びらんが生じる。瘢痕を生じることなく治る。

擦過傷(さっかしょう):

 皮膚がえぐれたり、線状にかさぶたができた状態。皮膚をひっかいたり、こすったり、突いたりしたときに生じる。

病変:

 皮膚に生じる異常な特徴や増殖を示す一般的用語。

苔癬化(たいせんか):

 皮膚が厚くなり、表面にしわや溝が深くくっきりと現れた状態。皮膚を長期間かいたり、こすることで生じる。

斑(はん):

 皮膚の表面にできるさまざまな形をした、直径約5ミリメートル以下の平らな変色部分。そばかす、平らなほくろ、ポートワイン母斑、各種の発疹などが斑状となる。大きな斑はパッチと呼ばれる。

結節:

 硬く盛り上がった部分で、丘疹よりも深くて触れやすく、通常は丸い。表皮の下にできた結節が、皮膚を押し上げているように見えることがある。

丘疹:

 直径約5ミリメートル以下の硬い盛り上がり。いぼ、虫刺され、皮膚の小突起、ある種の皮膚癌などが丘疹となる。

局面(プラーク):

 皮膚から平らに盛り上がった部位または小さな隆起(丘疹)の集合体で、通常は直径が約5ミリメートルより大きい。

膿疱(のうほう):

 膿を含んだ小水疱。

鱗屑(りんせつ):

 死んだ表皮細胞が蓄積し、カサカサに乾燥した斑状の病変。うろこ状になり、はがれて落屑を起こしやすい。乾癬、脂漏性皮膚炎など、多くの病気でみられる。

瘢痕(はんこん):

 正常な皮膚が線維状の組織で置き換わった(瘢痕形成)状態。真皮の一部が破壊されると生じる。

毛細血管拡張:

 皮膚表面付近の血管が拡張し、しばしば蛇行しているのが透けて見える状態で、圧迫すると白くなる。

潰瘍:

 びらんに似た病変で、深さが少なくとも真皮の一部にまで到達しているもの。原因はびらんと同じ。治っても瘢痕が残る。

小水疱:

 直径約5ミリメートル以下の、中に液体が詰まった吹き出もの。直径5ミリメートルを超える小水疱を水疱という。帯状疱疹、水ぼうそう(水痘)、やけど、アレルギー反応、炎症などによって小水疱や水疱ができる。

膨疹(じんま疹):

 皮膚の表面の軟らかく盛り上がったスポンジ状の腫れで、比較的急に現れ、たいていは24時間以内に消えてなくなる。薬、虫刺され、何らかの物質の皮膚への接触に対する一般的なアレルギー反応。

皮膚の異常 スピリチュアルな観点

皮膚の病気の診断

 皮膚を視診しただけで診断できる皮膚病はたくさんあります。病気を特定するには、皮膚に現れている異常部分の大きさ、形、色、部位を調べることに加え、その他の症状や徴候が現れていないかどうかを調べます。皮膚の異常がどのような場所にどの程度広がっているかを調べるため、通常は患者に衣服をすべて脱いでもらって診察します。たとえ患者本人はごく一部の皮膚の異常にしか気づいていない場合でも、同様の診察を行います。

 場合によっては皮膚から少量の組織を採取し、顕微鏡で調べる生体組織検査(生検)を行います。これはシンプルな処置で、通常は皮膚に小さな範囲で局所麻酔をかけ、小さなナイフ(メス)やハサミ、カミソリ(薄片生検)、ラウンドカッター(パンチ生検)で、病変の種類、部位、行う検査の種類に応じた大きさに皮膚を切り取ります。

 真菌、細菌、ウイルス、ダニなどによる感染症が疑われる場合には、皮膚から組織を少量削りとり、ときには特殊な化学物質や染料で処理した後に顕微鏡で調べる方法もあります。採取した組織を検査室に送り、サンプルを培地(微生物が増殖できる物質)の中に入れて培養する方法もあります。サンプルの中に細菌や真菌、ウイルスがいれば、多くの場合、培地の中で増殖するため、病気の原因が特定できます。

 ある種の皮膚感染症が疑われる場合は、ウッド灯検査も用いられます。この検査は、暗い室内で皮膚に紫外線の照明(ブラックライトとも呼ばれます)をあてて行います。紫外線をあてると、一部の真菌や細菌は皮膚の上で明るく光って見えます。また皮膚の色素(メラニン)も強調され、白斑のような皮膚の色素異常もはっきり見ることができます。

 

皮膚の検査

 発疹の原因としてアレルギー反応が考えられる場合、「使用」テスト、パッチテストやプリック(穿刺)テスト、皮内反応試験といった皮膚テストを行います。

 使用テストとは、発疹が生じた元の部位から遠く離れた部分(通常は前腕)に原因として疑われる物質を塗るもので、香水やシャンプーなど、家庭内でよくつかわれる物質が原因の場合に有効です。

 パッチテストでは、アレルゲンとして知られる、原因として疑われることの多い多数の物質の少量サンプルを皮膚(通常は上背部)に塗り、その上に粘着テープを貼ります。パッチの下の皮膚を、48時間後にパッチをはがした時点、さらに96時間後に再度調べます。皮膚に眼に見える反応が生じるまでにはしばしば数日かかります。貼った部分に特徴的な赤い、多くの場合かゆみのある発疹が出れば、患者はその物質に対し、おそらくアレルギーがあることを示しています。ときには、物質が本当のアレルギー反応ではない炎症を起こすこともあります。

 プリックテストでは、原因が疑われる物質の抽出物を一滴、皮膚に塗ります。その後、その液体を塗った部分を針で刺し、ごく少量の物質を皮膚の中に入れます。その後、皮膚に赤みやじんま疹、あるいはその両方が生じないかを観察します。通常は30分以内に生じます。

 皮内反応検査では、少量の物質を皮下注射します。注射した部分を観察し、そこが赤くなったり腫れたりするようであれば、その物質に対しアレルギー反応を示すことがわかります。

 まれに、プリックテストや皮内反応検査により、生命に関わるアナフィラキシーとして知られる重篤なアレルギー反応が生じます。

 

皮膚の病気の治療

 皮膚の病気の治療では、局所用薬(皮膚に直接塗る薬)が主流です。全身用薬は経口か注射により投与され、全身に行きわたります。

局所用の製剤

 局所用製剤は、有効成分つまり薬物を薬理作用のない賦形剤と混ぜ合わせたものです。使う賦形剤によって濃く油っぽいものから薄く水っぽいものまで、さまざまな粘度の製剤ができます。また、有効成分が皮膚の表面にとどまるか、皮下に浸透するかも賦形剤によって決まります。同じ薬でも使う賦形剤の種類によって、軟膏、クリーム、ローション、溶液、ゲル、油、泡、パウダーといった異なる形状をとります。また、多くの製剤で効き目の強さ(有効成分の濃度)を調節することが可能です。

 軟膏(ワセリンなど)は油っぽく、水分をごくわずかしか含みません。やや扱いにくく、ベタベタして洗い流しにくい性質があります。軟膏は、皮膚になめらかさやうるおいが必要な場合に適しています。また、有効成分を皮膚に浸透させる力は、クリームよりも軟膏の方が優れています。薬の濃度が同じならば、クリームよりも軟膏の方が皮膚への効き目が強くなります。 

 軟膏は、びらんや潰瘍などの開放創に対し、クリームより刺激が少なく、ゲル、ローション、溶液よりもはるかに刺激が少なくなります。

 クリームは最も広く用いられる製剤で、油と水が乳化したものです。主に水分からなり、油性の成分が含まれているものです。(軟膏はその反対で、油が主で水分は少なくなります。) 

 クリームは塗りやすく、皮膚にすりこむと見えなくなります。刺激はあまり生じません

 ローションはクリームに似ていますが、さらに多くの水分を含んでいます。懸濁液といって、水、あるいは水と油のベースに粉末状の物質が細かく分散した状態になっています。薬を届かせる効果は軟膏やクリーム、ゲルより低く、同じ濃度では効き目が弱いと考えられています。 ローションには多数の利点があります。毛の多い皮膚の部位に使いやすく、接触皮膚炎、水虫(足白癬)、いんきんたむし(股部白癬(こぶはくせん))などで生じる炎症やじくじくしている病変を冷やしたり、乾燥させるのに特に有効です。

 入浴および浸漬法は、体の広範囲に治療が必要な場合に使われます。この治療法は、痔核などの軽症の皮膚病の市販治療薬において、座浴の形でよく用いられます。入浴法は薬の投与量をコントロールすることが難しいため、効き目の強い処方薬にはあまり用いられません。

 溶液は薬が溶けこんだ液体です。基剤としてはアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、水がよく使われます。溶液は塗りやすいのですが、皮膚をうるおすよりも、むしろ乾燥させる作用があります。しかし、この乾燥作用は湿ってじくじくする(滲出性の)皮膚の病気に有効です。使われる賦形剤によって、溶液が皮膚に刺激を与えることがあります。特にアルコールやプロピレングリコールを含む溶液を開放創に塗った場合は強い刺激が生じます。

 パウダーは乾いた粉末状の製剤で、皮膚同士がこすれ合う場所、たとえば足の指、お尻、わきの下、ももの付け根、乳房の下などを保護する場合に用います。パウダーは、水分でふやけて傷ついた皮膚に使われます。抗真菌薬などの薬を有効成分として混ぜることもあります。

 ゲルは水やアルコールを基剤とした製剤で、とろみがありますが油や脂肪分は含まれていません。皮膚は油や脂肪分を含む製剤ほどにはゲルを吸収しません。ゲルは開放創や患部の皮膚に強い刺激をもたらす傾向があります。

 

局所用薬の種類

 局所用薬は、用途により、洗浄剤、保護剤、保湿剤、乾燥剤、かゆみ止め薬、抗炎症薬、抗感染薬、角質溶解薬に分類されます。薬の種類によっては、これらの用途を複数兼ねているものもあります。

洗浄剤

 洗浄剤には主に、せっけん、清浄剤、溶媒(他の物質を溶かす性質のある液状の物質)などが使われます。最も一般的な洗浄剤は せっけん ですが、清浄剤もよく使われています。皮膚を乾かすタイプの せっけん と、クリームのようなタイプで皮膚を乾かしにくい せっけん があります。

 ベビー用シャンプーは、洗浄力がありながら皮膚に対する刺激が少ないものが多いため、創傷や切り傷、すり傷を洗うのに適しています。乾癬(かんせん)や湿疹などの病気、また死んだ角質がたまってうろこ状にはがれやすい状態(鱗屑、落屑)になる他の病気でも、皮膚表面の死んだ角質細胞を洗い流すために、ベビー用シャンプーを使います。ただし、皮膚が じくじく している場合は、刺激の少ない せっけん と水のみで洗い流す必要があります。このような場合に清浄剤や刺激のある せっけん を使うと患部を刺激することがあるからです。

 洗浄剤にはさまざまな化学物質が添加されている場合があります。たとえば、抗菌作用のある成分を含む抗菌せっけんといった製品もありますが、このような製品を使ったからといって、衛生状態が改善したり病気が防げるわけではなく、常用していると皮膚の表面の細菌の正常なバランスを崩してしまうこともあります。フケとり用のシャンプーやローションにはジンクジピリチオン、硫化セレン、タール抽出物が含まれており、皮膚の表面がはがれるのを抑えたり、湿疹や頭皮の乾癬を抑える働きをもたせています。

 洗浄用の主な溶媒は水です。他にもワセリンが溶媒として使われています。ワセリンは、タールのような水やせっけんでは落とせない汚れを皮膚から洗い落とすことができます。少量のアルコールを用いると、注射や採血の前に皮膚を安全に洗浄することができます。アルコールゲルは、手洗いができない場合は、日常的に手の衛生を保つ上で有効です。溶媒にはこのほかアセトン(マニキュアの除光液)、ガソリン、塗料用シンナーなどがありますが、これらは皮膚の洗浄用にはほとんど用いられません。このような溶媒は皮膚に元来存在する油分を溶かすため、かなりの乾燥と刺激が生じます。また、皮膚から吸収されて中毒を起こすこともあります。

保護剤

 皮膚を保護するための製剤にはさまざまな種類があります。油や軟膏は皮膚に油分でできた保護膜をつくり、皮膚がこすれたりヒリヒリするのを防ぎ、皮膚のうるおいを保つ働きをします。パウダーは皮膚同士、あるいは皮膚と衣服がこすれ合うのを防ぎます。ハイドロコロイドドレッシング材は床ずれ(褥瘡(じょくそう))や皮膚の潰瘍、他に皮のむけた部位を保護します。日焼け止め製品は、皮膚に有害な紫外線を反射したり吸収、除去します。

保湿剤

 保湿剤(皮膚軟化剤)は、皮膚の水分と油分を回復させ、維持します。保湿剤は、入浴やシャワーの直後などの皮膚が、すでにうるおっているときに使うと最も効果的です。保湿剤に含まれる成分は、グリセリン、鉱物油、ワセリンなどです。保湿剤の形状・タイプとしてはローション、クリーム、軟膏剤、バスオイルなどがあります。より効果の高い保湿剤には、尿素、乳酸、グリコール酸などの成分が含まれています。

乾燥剤

 皮膚同士がこすれ合う部位の水分が多すぎると、特に温かく湿りがちな体のひだの部分に、炎症や皮膚の軟化(浸軟)が生じます。足の指の間、お尻の間、わきの下、ももの付け根、乳房の下、腹部の皮膚のひだによくみられます。これらの部位は温かく湿度が高いため、真菌や細菌が繁殖しやすく、感染症の発生源でもあります。

 タルカムパウダー(粉末状のタルク)は最もよく使われる乾燥剤です。タルクは皮膚の表面の水分を吸収します。さまざまなタルク製剤がありますが、そのほとんどは香りや容器以外にあまり違いはありません。コーンスターチも優れた乾燥剤です。タルカムパウダーのほうがよく使われますが、乳幼児の場合は例外です。乳幼児はパウダーを誤って吸いこんでしまうことがあるため、万が一吸いこんでも害が少ないコーンスターチを用います。

 アルミニウム塩を含む溶液も、市販の制汗剤でよくみられる乾燥剤です。過剰な発汗については、処方により高用量のアルミニウム塩が利用できます。

 収れん薬は血管を狭める液体の乾燥剤です。最もよく使われる収れん薬の溶液に含まれているのは酢酸アルミニウムです(ブロー液やドメボロ液)。ドレッシング材とともに使ったり、浸漬法で使うことが多く、感染性の湿疹、じくじくした皮膚病変、褥瘡(じょくそう)の治療に使用します。マンサクもよく使われる市販の収れん薬です。

かゆみ止め薬

 皮膚の病気には、かゆみを伴うものが多くあります。かゆみと軽度の痛みは、鎮静剤、具体的にはカモミール、ユーカリ、樟脳、メントール、酸化亜鉛、タルク、グリセリン、カラミンなどで抑えることができます。これらは市販の製剤として入手できます。

 局所用製剤の中には、アレルギーによるかゆみを抑えるために、ある種のアレルギー反応を抑える抗ヒスタミン薬が含まれていることがあります。ドキセピンは多くの疾患に用いられる有効な局所用抗ヒスタミン薬です。しかし、抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミン(多くの市販局所用製剤に含まれています)は、皮膚に塗るとアレルギー反応を起こすことがあるため、通常は推奨されません。経口薬で服用するとこのようなアレルギー反応を引き起こしにくいようなので、かゆみを抑える目的で抗ヒスタミン薬を使う場合は、塗り薬より内服薬での使用が多くなっています。

抗炎症薬

 皮膚の炎症に伴う腫れ、かゆみ、赤みなどを抑えて和らげる局所用薬として主に使われるのは、コルチコステロイド薬です。ツタウルシ、金属、衣服、薬、湿疹、その他様々な原因で起こるアレルギー反応や炎症反応でできた発疹に最もよく効く薬です。コルチコステロイド薬は、細菌や真菌による感染症への抵抗力を弱め、傷の治りを遅らせてしまうので、皮膚の感染している部分や傷に使うべきではありません。にきびのような病気には、局所用コルチコステロイド薬はあまり効かないことが多く、かえってにきび状の皮疹が生じることがあります。真菌感染が原因で起こる赤みやかゆみを抑えると同時に真菌を根絶するために、抗真菌薬とコルチコステロイド薬を混ぜて使用することがあります。

 局所用のコルチコステロイド薬には、ローション、クリーム、軟膏、溶液、発泡剤、油、ゲルがあります。クリームを、皮膚の上に見えなくなるまでそっと塗りこむと、最も高い効果が期待できます。一般的に効力の強さの点では、軟膏が最も高いといえます。薬としての全般的な効果の高さは、含まれるコルチコステロイド薬の種類と濃度によって決まります。濃度が0.5%以下のものは効き目があまり期待できません。濃度が高いコルチコステロイド薬を買うには処方せんが必要です。医師は通常、濃度が高く効き目の強いコルチコステロイド薬を最初に処方し、病気が良くなるにしたがって使う薬の濃度を下げていきます。一般に局所用コルチコステロイド薬は1日に2~3回薄く塗りますが、強力な製剤では1日1回のみ塗る場合もあります。

 コルチコステロイド薬は、顔などの皮膚の薄い部位や、わきの下やももの付け根などの閉じた部位に使用する場合は注意が必要です。通常、このように敏感な部位には効力の弱い薬を用い、数日から1週間を超えて使うことはありません。どのような部位であれ、長期的(1ヵ月以上)に使用すると、皮膚が破れたり、引き伸ばしたようなスジが現れたり、にきびのような皮疹が生じたり、ときにはコルチコステロイド薬自体に対しアレルギー性の皮膚反応(接触皮膚炎)が生じることがあります。口囲皮膚炎(口、あご、ときには眼の周囲に赤くでこぼこを伴う発疹が生じる)は、中等度から強い製剤を顔に使用した場合によく生じ、軽い製剤ではそれほどみられません。強力な製剤は、小児や、広範囲の皮膚に用いたり、特に密封包帯法の下で長期的に使用した場合に、副腎の機能を阻害することがあります。

 治療に反応しない斑点や小面積に、局所用のより効力の強いコルチコステロイド薬を使う必要がある場合は、皮膚のすぐ下に注射したり、コルチコステロイド薬のフルドロキシコルチドを染みこませたプラスチックテープを貼ることもあります。これ以外に、局所用コルチコステロイド薬を塗った上から、家庭で使うラップフィルムのような薄いプラスチックフィルムをかぶせるやり方(密封包帯法)もあります。プラスチックフィルムには薬の皮膚への浸透と効き目を高める効果があり、貼りつけたフィルムは、通常、一晩そのままにしておきます。この方法は、重度の乾癬や湿疹の場合に用います。密封包帯法の下にコルチコステロイド薬を使うことに伴うリスクとして、あせも(紅色汗疹)、皮膚の薄化(萎縮)、引き伸ばされたスジの出現(線条)、皮膚表面の血管の拡張(毛細血管拡張症)、細菌や真菌による感染症があります。

 市販薬の中に、抗炎症作用を持つとされる薬草製剤がいくつかありますが、その有効性は十分に確立されているとはいえません。薬草製剤や「天然」製剤は標準化されていないものが多く、皮膚にアレルギー反応や炎症反応をよく起こします。その中で最も多く使われているのは、カモミールとカレンデュラです。

タール製剤

 石炭製造の副産物であるタール製剤は、皮膚の細胞の分裂速度を低下させ、皮膚の過度の産生(鱗屑)を引き起こす乾癬などの病気の治療に有効です。副作用には刺激、毛包炎、衣服や家具のシミ、光に対する過敏性(光感作)などがあります。

抗感染症薬

 ウイルス、細菌、真菌、寄生虫は、いずれも皮膚に感染症を引き起こします。感染症を防ぐうえで最も優れ、確実な手段は、皮膚をせっけんと水でていねいに洗うことです。感染症を患者にうつすことのないよう、看護師や医師は手の消毒用に、より強力な消毒薬をよく使います。手術の前には、皮膚に抗菌薬を使用(術前準備)し、皮膚の細菌数を減らして術後の感染症を防止します。皮膚に感染症が生じた場合は、診断された、もしくは疑われる感染症の重症度と種類に応じ、局所用薬か全身用薬を使って治療します。局所用抗感染症薬には抗生物質、抗真菌薬、殺虫薬があります。

 局所用抗生物質には用途がほとんどありません。クリンダマイシンとエリスロマイシンが、にきびの主要治療薬あるいは追加的治療薬として使われることがあります。ムピロシンを膿痂疹(皮膚のブドウ球菌感染症)の治療に使うこともあります。バシトラシンやポリミキシンなどの市販の抗生物質は、しばしば皮膚生検部位の術後管理や、掻爬(そうは)、軽度のやけど、表皮剥離での感染防止に使われます。局所用抗生物質は概してきわめて安全と考えられていますが、いくつか副作用もあります。たとえば、ネオマイシン(市販抗生物質軟膏によく含まれる成分)はよくアレルギー反応を起こします。

 局所用抗真菌薬は、たむしや水虫を含め、皮膚のさまざまな真菌感染症の治療に非常に有効です。しかし、このような局所用抗真菌薬も、爪の真菌感染症の治療にはあまり効き目がありません。一般に、爪の感染症は多くの場合テルビナフィンなどの経口抗真菌薬により治療しますが、経口薬を服用した場合でも非常によく再発します。

 ペルメトリンやマラチオンなどの殺虫薬は、シラミ症や疥癬の治療に使われます。

 抗生物質ではない局所用抗菌薬には、ヨード液(ポビドンヨード、クリオキノールなど)、ゲンチアナ紫、銀製剤(硝酸銀やスルファジアジン銀など)、ジンクピリチオンなどがあります。 

 ヨードは手術前の皮膚消毒に用います。ゲンチアナ紫は、安価で化学的・物理的に安定している抗菌薬か抗微生物薬、あるいはその両方が必要なときに用いられます。銀製剤(スルファジアジン銀など)は、やけどや潰瘍の治療に有効で、強力な抗微生物作用があります。銀が含まれている創傷用のドレッシング材もあります。ジンクピリチオンは抗真菌薬で、一般的に皮膚上の真菌増殖によって生じるフケを治療するシャンプーによく含まれている成分です。

 創傷の治療は一般に銀以外の局所用抗菌薬で治療すべきではありません。ほかの抗菌薬を使うと刺激が生じ、脆弱な再生組織(肉芽組織)を傷害しがちなためです。

角質溶解薬

 角質溶解薬は表皮細胞を軟らかくし、かさつきを抑えて剥離を促進するものです。サリチル酸や尿素がその例です。

 サリチル酸は、さまざまな濃度で乾癬、脂漏性皮膚炎、にきび、いぼの治療に使われます。副作用がよくみられ、ほてり感、刺激、また皮膚の広範囲に使用した時の全身毒性があります。サリチル酸は小児や乳幼児に対しては基本的に使用すべきではありません。

 尿素は、保湿性を高め、かゆみを和らげ、落屑を減らすのに用いることができます。足の裏の厚くなりすぎた皮膚(足底角皮症やたこ)、毛孔性苔癬(アレルギーがある人の太腿や腕の後ろに生じる乾いた丘疹)、重度の乾燥皮膚(魚鱗癬)の治療によく使われます。副作用は刺激とほてり感です。尿素は皮膚の広い面積に塗らないようにします。

ドレッシング材

 ドレッシングは開放創を保護し、治癒を促進し、薬物の吸収を高め、患者の衣服を保護します。ドレッシングには非密封ドレッシング材(傷までの通気性がある)と密封ドレッシング材(傷を覆って密封し、通気性がない)があります。

非密封ドレッシング材

 最もよく用いられるのはガーゼによるドレッシング材(包帯)です。ガーゼによる包帯は創面への通気性が最も優れており、傷を乾燥させます。溶液で湿らせた非密封ドレッシング材は、肥厚化したり、痂皮化または壊死した組織の浄化と除去(デブリドマン)に有効で、通常は生理食塩水を用います。このドレッシング材は湿った状態で創面に置き、液体が蒸発した後に除去します。乾燥した物質がドレッシング材に付着します。

密封ドレッシング材

 密封ドレッシング材は、局所用薬の吸収、効力、効果(また副作用も)を高めます。ポリエチレン(家庭用のプラスチックラップ)などの透明で不透過性のフィルム、または柔軟で透明な半透過性のドレッシング材が最もよく用いられます。親水コロイドのドレッシング材は皮膚の潰瘍の治癒を促進するために使用します。亜鉛華ゼラチン(ウンナのブーツ)は、うっ血性皮膚炎で生じる下腿の皮膚の炎症や潰瘍に有効な密封ドレッシング材です。密封ドレッシング材は、特に重度の乾癬、アトピー性皮膚炎、エリテマトーデスの皮膚病変、手の慢性皮膚炎に勧められることがあります。

 他に、やけどの保護および治癒の促進にも密封ドレッシング材を用います。最近、他のタイプの開放創でも、密封ドレッシング材の下で湿った状態に保ったほうがより速く、完全に治癒することが判明しています。このようなドレッシング材を行うことで、水分が適度に保たれ、新しい皮膚が再生する条件が整いやすくなります。