懲戒処分の種類

 懲戒処分は、労働者が企業の規則に違反することを制裁する目的で規定されております。

 懲戒処分を適法に行なうには、懲戒処分の内容を就業規則に定めておかなければなりません。罪刑法定主義の考え方ですから、刑の内容についてあらかじめ特定しておくのです。

 懲戒の種類としては「譴責」「減給」「出勤停止」「懲戒解雇」の4段階を設けている企業が多いようです。就業規則に、懲戒基準を懲戒の種類ごとに程度を明記すべきです。

 このほかの定めとしては、例えば、
 ・停職(出勤停止の期間を数ヵ月以内とすること)、
 ・賞与の支給停止、
 ・昇給又は昇格の停止・延期、
 ・配置転換
 ・降職・降格、
などを規定することがあります。

 

1.戒告

 口頭で注意を行い、将来を戒めること(将来を戒める旨の申渡しをすること) 

 将来を戒めるのみで、始末書の提出はありません。

 ・JR東日本(高崎西部分会)事件(最高裁 平8.3.28年)  
 就業規則等に規定がなく、それ自体としては直接的な法律効果を生じさせるものではない。厳重注意も、労働者の職場における信用評価を低下させ、名誉感情を害するものとして労働者の法的利益を侵害する性質の行為であるとされた。

・三和銀行事件(平成12年 大阪地裁判決)
 
主として労働条件の改善等を目的とする出版を行うことは、形式的に就業規則所定の懲戒 事由に該当するとしても、使用者に対する批判行為として正当であると評価され、労働者に対してなされた戒告処分は懲戒権の濫用とされた。

 

2.譴責

 始末書を提出させ、将来を戒めこと。

立川バス事件(東京高裁 平2.7.19)
 始末書を取り将来を戒める譴責処分の無効確認の訴えについて、過去の事実関係又は法律関係の確認を求める訴えを起こす必要性は特になく、労働者が当該企業から退職している状況においては、訴えの利益を欠いているとして却下された。

 

3.減給

 労働者が受け取ることができる賃金から一定額を差し引くこと。

 始末書を提出させるほか、給与の一部を減額します。

  就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはなりません(労働基準法第91条 昭和23.9.20 基収1789号 昭和25.9.8 基収1338号)。この規定は、制裁としての減給の額があまりに多額であると労働者の生活を脅かすことになるため、減給の制裁について一定の制限を加えたものです。

 遅刻、早退又は欠勤に対して、労働のなかった時間に相当する賃金だけを差し引くことは一つの賃金計算方法ですので、制裁としての減給に該当しません。

 しかし、遅刻、早退又は欠勤の時間に対する賃金額以上の減給は制裁とみなされます。

 なお、その10分の1を超えた場合、次の賃金支払期に減給するのは許されます。

 1日に2つの懲戒事由に該当する行為があれば、その2つの行為についてそれぞれ平均賃金の1日分の半額ずつ減給することは差し支えありません。

 減給の制裁は、毎月の賃金からだけでなく、賞与も対象とすることができます。通常、賞与の金額は毎月の賃金より多額となりますので、賞与からの減額は賃金からよりも総額として多く減額することができます。

 遅刻や早退をした時間分の賃金を支給しないことは、減給の制裁には該当しませんが、30分に満たない遅刻や早退を常に30分に切り上げて減給するような場合は、減給の制裁に該当します。

 3回遅刻した場合は1日欠勤とみなす取り決めなども、減給の制裁に該当します。

 制裁として、従来通りの仕事をさせながら、賃金額だけを下げた場合は、減給の制裁に該当します。

 就業規則に懲戒処分として出勤停止処分を定め、その期間中の賃金を支払わないことは、減給の制裁に該当しません。

 就業規則に懲戒処分を受けた場合は、昇給させないと定めても、減給の制裁に該当しません。

 懲戒処分として役職を降格させ、格下げとなった役職手当を支給することは、減給の制裁に該当しません。

 就業規則に定める制裁は、減給に限定されるものではなく、その他譴責、出勤停止、即時解雇等も、制裁の原因たる事案が公序良俗に反しない限り、禁止する趣旨ではありません。

 無断遅刻により平均賃金の2分の1をカットすることは認められますが、30分の遅刻で1時間に相当する賃金のカットは制裁とみなされます。

 

4.出勤停止

 始末書を提出させるほか、出勤を禁じること。

 法律上、出勤停止の期間の上限は定められていません。最長10日ないし15日間の期間が多いようです。不当に長い出勤停止は「公序良俗の見地」から無効になります。行政指導では7日間とされています(大15.12.13 労発第71号)。

 出勤停止中は、給料は支払われません(ノーワーク・ノーペイの原則)。

 自宅待機と出勤停止とは明確に区別されております。企業の都合による自宅待機には最低60%の賃金を支払う義務がありますが、懲戒処分としての出勤停止処分は賃金支払い免除となります。

 出勤停止といっても、現実に外出を禁止する法的効果を有するものではありません。

 出勤停止は公休を入れるかどうかは企業の自由裁量です。出勤停止は懲戒的要素で減給をさせるのが目的ですから公休を含まない企業がほとんどのようです。

 懲戒処分前の出勤停止について、暫定的なものであり独立した懲戒処分ではないので、その後懲戒処分しても同一事由による二重処分にはならないようです。その場合の出勤停止期間中の賃金は支払っておいたほうがよいでしょう。

 出勤停止は、出勤停止期間中の賃金を受けられないことは制裁として出勤停止の当然の結果ですので、同様に制裁規定には抵触しません。

 職務ごとに異なった基準の賃金が支給されることになっている場合、格下げ、降職等の職務替えによって賃金支給額が減少しても制裁規定の制限には抵触しません。

 交通事故を起こした自動車運転手を制裁として助手に降格し、賃金も助手としてのものに低下させても、交通事故を起こしたことが運転手として不適格であるので助手に格下げするものであるならば、賃金の低下はその労働者の職務の変更に伴う当然の結果ですので、制裁規定には抵触しません。

 格下げ、降職については、職務ごとに異なった基準の賃金が支給されることになっている場合、職務替えによって賃金支給額が減少しても制裁規定に抵触しません。また、交通事故を起こした自動車運転手を制裁として助手に降格し、したがって、賃金も助手のそれに低下させても、交通事故を起こしたことが運転手として不適格であるから助手に格下げするものであるならば、賃金の低下はその労働者の職務の変更に伴う当然の結果であるため、制裁規定の制限に抵触するものではありません。

 

5.昇給停止・延期

 次期の昇給を停止、減額すること、または延期すること

 

6.降格

 職制上の地位を免じ、または降格すること

 降格処分は職種の変更に限られており、減額となるときが多い。降格の場合には、従来の業務をさせながら賃金のみ減らすことはできません。

 降職処分を行った場合で、その後も反省の様子が見られないときに、処分後の服務規律違反の事実について新たに降職処分に処することになります。就業規則の制裁の条項に『制裁処分を受けたにもかかわらず、改悛向上の見込みがないと認められるとき』のように、制裁処分後の本人の状況によっては従前よりも重い制裁処分を行うことがある旨の定めがある場合には、新たに降職処分(あるいはそれより重い制裁処分)を行うことができます。

 

 7.諭旨退職

 本来は懲戒解雇の対象となる行為であるが、情状酌量の余地がある場合には退職届を提出させるように勧告すること

 退職金の全部または一部を不支給とすることも可能です。

 退職願や辞表の提出を勧告し、即時退職を求め、催告期間内に勧告に応じない場合は懲戒解雇に付するものです。

 

 8.懲戒解雇

 予告期間を設けずに即時解雇するもの(極刑として)

  重大な規律、秩序、勤務義務違反などをしたことにより、就業規則上の最も重い懲戒処分が科されて行われる解雇のことをいいます。

 普通解雇の場合は、30日前に予告するか平均賃金の30日分の予告手当を支払わなければなりませんが、懲戒解雇は即時に解雇するのが普通です。

 退職金を全額不支給にしたり、減額支給することもあります。

 解雇予告なしに即時解雇するためには、労働基準監督署長に「解雇予告除外認定許可」を申請し、許可を受ける必要があります。「懲戒解雇」を行って、その解雇事由について労働基準監督署長の認定を受けた場合には、解雇予告手当を支払う必要がなくなります。認定を受けていない場合には、懲戒解雇であっても解雇予告手当の支払いが必要となります。ただし、就業規則に定めがない事項について、使用者が勝手に懲戒解雇を行うことはできません。それぞれの企業の事情に即した解雇事由を定めておくことが大切です。

 

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