認知症

 日本は、世界に例がないほどのスピードで高齢化が進んでおりますが、 認知症人口も急激にふえ、2025年には445万人になると推計されています。2005年の統計調査では205万人でしたから、20年間で約2.2倍に増えるわけです。 65歳以上の人は10人に1人、85歳以上になると、アルツハイマー型に限っても、4人に1人は認知症になるという報告もあります。

 認知症とは、成人になってから起こる認知機能の障害で、このために普通の日常生活が困難になった状態です。 高齢者に著しく多いことから、高齢社会ではその対応が緊急の課題とされています。

 認知症では以下の症状が現れます。
 ・『あれ』『それ』『あそこ』が多くなる
 ・同じことを何度も言ったり、聞いたりする
 ・物の名前が出てこない
 ・置き忘れやしまい忘れが目立つ
 ・時間、日付や、場所の感覚が不確かになった
 ・病院からもらった薬の管理ができなくなった
 ・以前はあった関心や興味が失われた
 ・水道の蛇口やガス栓の締め忘れが目立つ
 ・財布を盗まれたと言って騒ぐ
 ・複雑なテレビドラマの内容が理解できない
 ・計算の間違いが多くなった
 ・ささいなことで怒りっぽくなった
 ・大切なことを忘れる
 ・先ほどの体験全体を忘れる
 ・言葉のやりとりが困難
 ・手順がわからなくなる
 ・道具が使えない
 ・親しい人を認知できない
 ・今までの暮らしが困難
 ・周りの人とトラブル
 ・話の内容にそぐわないピントはずれの受け答え
 ・人格変化
 ・理由もなく怒る
 ・悪口を平気で言う
 ・笑わない
 ・活気がない
 ・表情が乏しくなる
 ・服装がだらしなくなる
 ・不潔になる
 ・入浴しない
 ・歯を磨かない
 ・関心がなくなり投げやりになる

 認知症と痴呆症は同義語ですが、2004年の厚生労働省による公募に基づき「認知症」に統一されています。これは、痴呆症という言葉には差別的なニュアンスがあり相応しくないと判断された為です。

 物忘れには「加齢」によるものと「認知症」が原因となるものがあります。前者は、脳の生理的な老化が原因で起こり、その程度は一部の物忘れであり、ヒントがあれば思い出すことができます。本人に自覚はありますが、進行性はなく、また日常生活に支障をきたしません。

 後者は、脳の神経細胞の急激な破壊による起こり、物忘れは物事全体がすっぽりと抜け落ち、ヒントを与えても思い出すことができません。本人に自覚はないが、進行性であり、日常生活に支障をきたします。

「加齢による物忘れ」と「認知症による物忘れ」の違い

 

加齢による物忘れ

認知症による物忘れ

原因

老化

病気

体験した事

一部を忘れる

全てを忘れる

物忘れの自覚

あり

なし

日常生活

支障はない

支障がある

 

認知症になりやすい人

 年をとってもぼけたくない。誰もが、そう思います。しかし、結局のところ、年齢を重ねると多くの人が認知症を病んでしまいます。一方、80歳を超えても生き生きとした好奇心を失わず、判断力も衰えない人がいます。 この差はどこからくるのでしょうか。そこで、まず認知症のリスク因子となるものをまとめてみます。ただし認知症は、一つの因子で起こる病気ではありません。 いくつもの因子が、相互に影響し合って発症すると考えられるのです。 一つ一つを自分にあてはめ、一喜一憂するのではなく、ライフスタイルを見直してリスク因子を減らしていくヒントと考えてください。

加齢・家族歴・遺伝
 65歳以上から90歳まで、アルツハイマー病の有病率は5歳上がるごとに倍増するといわれます。 年をとることは認知症の最も大きなリスク因子の一つです。親兄弟にアルツハイマー病患者がいる人は、そうでない人よりも危険率が3.5倍高くなるとされます。アポE-4型のタンパク質遺伝子を持つ体質を受け継ぐと、アルツハイマー病のリスクになります。

頭部の外傷
 頭に繰り返し衝撃を受けるスポーツは、アルツハイマー病のリスク因子になります。 ボクシングをはじめ、アメリカンフットボール、サッカー、アイスホッケー、空手、相撲などをしている人は注意が必要です。同じ意味で、意識を失うような大きなけがを頭部に負った場合も要注意です。まだ20代でも、事故などで頭部を負傷すると認知症を発症するケースがあるのです。

生活習慣病
 脂質異常症や糖尿病、高血圧、脳血管障害は、脳血管性の病気だけでなく、アルツハイマー病のリスク因子にもなるという調査報告があります。44歳から54歳の中年期に、収縮期血圧(最大血圧)が160mmHg以上あった人は、血圧が正常な人に比べ、アルツハイマー病の危険率が2.3倍になります。中年期にコレステロール値が260mg/dl以上の脂質異常症だった人は、コレステロール値が正常な人に比べ、アルツハイマー病になる危険率が2.1倍になります。高血圧で脂質異常症の人は、どちらも正常な人に比べ、アルツハイマー病になる危険率が3.5倍になります。

生活環境
 過度の喫煙や飲酒は、アルツハイマー病のリスク因子になると考えられています。

 生活習慣病を防ぐ 中年期にどんな生活をするかで、その後にやってくる老年期の健康が決まるといっても過言ではありません。 肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病は、認知症のリスク因子になりますが、いずれも暮らし方を変えることで改善できるものです。 年齢や遺伝はどうにもなりませんが、こちらは方法があるのです。

 

人とふれ合い、社会活動に参加する

 認知症と社会的ネットワークとのかかわりに注目したスウェーデンの調査があります。その調査報告は、次のようにまとめています。

・一人暮らしや、社会とのつながりが欠けることは、認知症のリスクを1.5倍高める。

・既婚で同居者がある人に比べ、非婚の単身者のリスクは1.9倍になる。

・社会的ネットワークが豊富な人に比べ、ネットワークが少ない人は認知症の危険度が60%増加する。

脳を生き生きと活動させる
 脳を活発に働かせると、神経細胞の間をつなぐネットワークがふえ、知的能力が高まって、それが認知症予防にもつながると考えられます。 具体的な活動効果を調べた調査によると、読書、ゲートボール、楽器の演奏、ダンスには、アルツハイマー病をはじめとする認知症の原因疾患を防ぐ効果をあらわしました。

抗酸化物質が豊富な食事
 活性酸素は誰の体内にもありますが、これが多くなると、細胞を老化させ、がんの発生を促すとされています。活性酸素は、アルツハイマー病のリスク因子でもあります。 この活性酸素の作用を抑えるように働く抗酸化物質が、ビタミンE、ビタミンC、βカロテンなどです。抗酸化物質が豊富な緑黄色野菜、果物、日本茶などをとり入れた食事を、バランスよく食べましょう。

肉よりは魚中心の食事にする
 不飽和脂肪酸は、健康一般ばかりでなく、認知機能にもよいとされています。特に、魚に含まれる不飽和脂肪酸には、血栓予防や抗炎症作用などが認められています。シカゴの研究チームが調べたところ、魚の摂取量が最も多いグループは、最も少ないグループと比べ、認知症の危険率が70%も低くなったと報告しています。

体を動かす
 運動には、さまざまな病気に対する予防効果がありますが、アルツハイマー病にも有効です。中でも、ウォーキングのような有酸素運動が効果的です。 有酸素運動は、脳の血流を活発にするのです。ただし、同じ運動でも重量挙げなどの無酸素運動には、このような効果は認められません。

おかしな兆候に早く気づく
 認知症は、早く見つけて専門医を受診することができれば、症状の進行を遅らせるためのさまざまな治療が可能です。さらに、延命率も高くなります。早期発見・早期治療は、がんなど命にかかわる病気だけでなく、認知症にとっても大きな予防策なのです。

 

主な認知症の種類と特徴

 

アルツハイマー型

レビー小体型

脳血管性型

脳の変化

老人斑や神経原繊維変化が、海馬を中心に脳の広範囲に出現する。脳の神経細胞が死滅していく

レビー小体という特殊なものができることで、神経細胞が死滅してしまう

脳梗塞、脳出血などが原因で、脳の血液循環が悪くなり、脳の一部が壊死してしまう

画像で分かる脳の変化

海馬を中心に脳の萎縮がみられる

はっきりとした脳の萎縮はみられないことが多い

脳が壊死したところが確認できる

男女比

女性に多い

男性がやや多い

男性に多い

特徴的な症状

認知機能障害(もの忘れ等)

もの盗られ妄想

徘徊

とりつくろい など

認知機能障害(注意力・視覚等)

認知の変動

幻視・妄想

うつ状態

パーキンソン症状

睡眠時の異常言動

自律神経症状 など

認知機能障害(まだら認知症)

手足のしびれ・麻痺

感情のコントロールがうまくいかない など

経過

記憶障害からはじまり広範な障害へ徐々に進行する

調子の良い時と悪い時をくりかえしながら進行する。ときに急速に進行することもある

原因となる疾患によって異なるが、比較的急に発症し、段階的に進行していくことが多い

認知症の原因 に続く