認知症の進行の仕方

認知症の進行

初期:老化と間違えやすい時期

 重要な約束を忘れたり、新しい土地への旅行がむずかしくなるなど、物忘れや知的能力の低下はありますが、単なる老化現象と見分けがつかない時期です。

 物忘れはゆっくり進み、初めのうちは自分でも気づきますが、そのうち自覚が薄れていきます。 探し物がだんだんふえていき、「いつものところにない」「盗まれた」といって騒ぐこともありますが、慣れた環境での日常生活には支障ありません。

 こういった時期が2~3年、人によっては5~6年、ゆっくりと経過していくことがあります。

 

中期:混乱期で問題症状が活発化

 家計の管理や買い物などがむずかしくなります。必要なものを必要な量だけ買うということができなくなります。

 その瞬間の事柄しかわからず、季節の見当がなくなります。過去の記憶は比較的保たれるので、現在と過去を混同することもあります。  

 既に亡くなっている人が生きているような言動があらわれることもあります。自分の生年月日は言えますが、現在の年齢が答えられない人が多くなります。

 「実家に帰る」「会社に行く」などといって外出し、徘徊するのが問題になってくるのもこの時期です。 日常の動作では、衣服の前後がわからず着方がおかしくなる、家電製品の扱いがわからない、家事の手順がわからなくなる、入浴ができない、といったことが起こるようになります。

 トイレ以外の場所での排泄など、排尿・排便の失敗がふえていきます。

 この時期も2~3年続きます。

後期から末期:介助が必要な時期

 脳の萎縮がさらに進みます。言葉や数の認識が失われ、会話が通じなくなります。集中できなくなるため、食事には介助が必要になります。

 この時期になると身体機能も衰えていきます。歩行が緩慢になったり、姿勢が保てず、前や左右どちらかに傾くようになります。 さらに進むと、立位や座位が保てなくなり、歩けなくなっていきます。 寝たきりかつづくようになると、手足の関節がかたく曲がっていきます。 だんだん水や食べ物が飲み込めなくなったり(嘸下障害)、食べ物を認識できなくなります。 そのため、栄養不良や誤嚥による肺炎の危険性も高くなり、死亡原因の一つになります。

 

予後    病気の経過と見通し

 アルツハイマー病の発病からの全経過を統計で見ると、平均して約8年、長い人でも十数年で死亡するという結果が出ています。 一度失われた脳細胞は、残念ながら現代の医学では元に戻すことはできず、細胞消失は慢性的に進んでいきます。 合併症の発見が遅れることも多く、病気を抱えていない人より余命は短いとされています。

 認知症の症状があっても、もとの病気を治療すると治ることもあります。こうした病気を早く見つけて早く治療を始めるためにも、認知症かな?と思ったら、早めに専門医を受診することが大切です。

 

治るタイプの認知症

正常圧水頭症

 脳脊髄液(のうせきずいえき)が脳室に過剰にたまり、脳を圧迫します。

慢性硬膜下血腫

 頭をぶつけたりしたときに頭蓋骨と脳の間に血の固まりができ、それが脳を圧迫します。

 その他、脳腫瘍、甲状腺機能低下症、栄養障害、薬物やアルコールに関連するものなど

 

認知症の診断

 認知症の初期には診断を恐れるなどの理由で受診を拒むケースが少なくありません。ここでは受診時の予備知識から、実際の診断基準などを紹介いたします。

 

受診前の予備知識

診断の重要性

 認知症の診断において非常に大切なことは、脳卒中や心筋梗塞などといった病気と同様に早期発見が大事だという事です。認知症というと老化の一環だから仕方ないことだと諦めてしまう人も多いものです。  

 しかし、早期発見に努め、診断、治療を進めることで多くのメリットが生まれます。

1 治療で劇的に良くなるケースがある

 すべてのケースではありませんが、正常庄水頭症、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫などの場合は、脳外科的処置で改善します。また甲状腺ホルモンの異常が原因の場合は内科的処置で改善します。

2 進行を遅らせることが出来る

 特にアルツハイマー型などの場合は、薬で進行を遅らせることが出来ます。出来る限り医療を受けるチャンスを与えることが大切です。また、早期発見で、その先に起こる生活上の障害や徘徊をはじめとしたトラブルにも事前に対応することが出来ます。

3 早期に今後の治療方針や終末医療、介護方針を決めることが出来る

 人は最後まで人間らしく自分らしく生きる権利があります。そういった意味でも、早期に発見でき診断が下ることで、治療方針や介護方針なども共に決めていくことが出来ます。

 

現状の把握

 早期発見から診断に繋げるには正しい情報提供を行うことが大切です。医師は問診のプロである為、上手に聞き出してくれますが、診断を受ける本人に情報提供を提示させるのには無理があります。そこで、ご家族の方が以下のようなポイントで日頃から家人の状況をメモしておいて下さい。
 ・1冊メモノートを作り、毎日少しでも気づいたことを書き留める
 ・経過(いつ頃からどんな症状が、どんな頻度で出ているのか)
 ・病歴
 ・服薬している薬(いつからいつまで何の薬をどのぐらい飲んだか)

 

ご家族などに受診を勧める注意点と方法

 もしかして認知症なのではと感じたときは、早期診断を受ける為にも医療機関で受診することがまず一歩となります。ただ、家族から直接受診を勧める際には注意が必要です。今まで出来ていたことができない、物忘れがひどいという時、それを感じる本人も不安と同時に大きなショックを受けています。そして、認知症という可能性を受け入れがたい現実があるのです。特に日頃から自分で何でもやることができる人ほどプライドもあり傷ついてしまう事があります。  そこで、市町村からの検診が来ているからという理由や、地域包括支援センターなどに介入してもらうという方法を取るのもよいでしょう。

 

病院の選び方

かかりつけ医がいる場合

 いざ受診をするとなった時に、どこの病院の何科にいけばいいのかというのも悩んでしまうものです。また受診する本人からしても、いきなりもの忘れ外来となると抵抗を示すこともあります。そこで、一番よいのは、かかりつけ医に診てもらい、そこから紹介してもらうことです。医師が患者の過去の病歴や性格などもある程度把握していることから、より的確な認知症専門医を紹介してもらえるでしょう。そこで、受診時に症状メモノートなどを見せて相談するとよいでしょう。

かかりつけ医がいない場合

 脳外科、精神科、心療内科、神経外科などで診てもらう事が出来ます。またもの忘れ外来という科も存在します。地域包括センターなどに相談し、どこに行けばいいというのをアドバイスもらうのも一つの方法です。

セカンドオピニオン

 より的確な医療を受ける為に、自らが納得した治療を受ける為にも、1つの病院だけでなく複数の病院を受診することは大切です。他の先生に診てもらっているからと遠慮をする必要はありません。本人の不安を取り除き、あらゆる可能性を探りながらベストな治療を選ぶのは、私たち誰しもが持っている権利なのです。

認知症の診断 に続く