退職勧奨

 退職勧奨とは、使用者が労働者に対し「会社を辞めてもらえないか」と労働契約の解約を申し入れることです。「退職勧告」とも言います。

 使用者の契約解除の申し込みに対して労働者が応じる合意退職のことです。

 退職に「正当な理由」があると判断され、自己都合扱いよりも優遇される会社都合退職となります。

 退職勧奨は、従業員に対して個別に退職を勧めて自主的な退職を促すもので、希望退職の募集と平行して行われたり、また募集の結果、当初の目標人数に達しなかったときなどに行われれます。

  退職勧奨は、使用者が本来解雇を以って挑むべき労働者に対して、解雇することによって予想されるリスク(労働者の解雇無効の主張によって労使紛争となること)を予め避けるために、使用者からの働きかけによって労働者と労働契約の合意解約を成立させるために行われるものです。ですから順序としては使用者からの労働契約の合意解約の申込と労働者のこれに対する承諾からなると考えられます。退職勧奨は労働者の承諾がなければ成立しませんから、労働者の側から見れば当然、退職勧奨に応じるか否かはその自由な意思によるものといえます。ですから退職勧奨は、労働者の退職に係る自由な意思形成を促進するために、通常は退職金の上乗せや、退職後数ヶ月分の賃金保証などの、金銭的優遇措置を伴います。

 退職に応じるかどうかは、あくまでも労働者の自由です。退職の意思がなければ退職願を提出する必要はありません。

 退職届の提出を求められ、自分の本心に基づかないで提出するような場合もありますが、そのまま会社に留まりたいと思うのなら、会社を辞める意思がないことを伝えるべきです。

 使用者が退職に応じるように圧力をかけたり、不利益に扱うなどと脅したりした場合には、実質的に解雇と認められたり、また、退職の意思表示が強迫によるものとして取消が可能となります。退職勧奨を行い、労使間で合意退職が成立した場合でも、この退職が従業員の自由な意思表示に基づかないものであり、会社側の「強迫」によるものであるときは、従業員にはこの退職を取り消す権利が発生し、この場合当然に合意退職の効力も失われる場合があります。

  退職の意思表示を勧奨し、退職しない場合は解雇する旨を告げるだけでは、一般的には強迫には当たらないと考えられております。

 退職勧奨行為が労働者の権利侵害に及んだ場合には民事上の不法行為に該当し、損害賠償が生じる場合があります。すなわち、責任能力あるものが、故意または過失により、他人の権利を違法に侵害し、その行為によって損害が発生した場合には、損害賠償を請求される可能性があります。

 繰り返してなされる執拗で半強制的な退職の勧めは違法とされ、退職勧奨を行った者は損害賠償責任を負うことがあります。男性教師らに対して教育委員会が退職を強く勧め、3~4ヵ月の間に11~13回にわたり出頭を命じ、長いときは2時間にもおよぶ退職勧奨を行い、さらに退職勧奨を受け入れない限り配転をほのめかすなどした事件で、裁判所は、退職勧奨は多数回かつ長期にわたる執拗なものであり、退職の勧めとして許される限界を超えているとして、男性教師らがこうむった精神的苦痛に対して損害賠償責任を負うと判示しました。(下関商業高校事件 最高裁 昭55.7.10

 勧奨を受けた従業員の態度表明、優遇措置、勧奨を受けた回数、期間等を総合的にみて、従業員の自由な意思決定ができるように行ったかどうかが、退職勧奨の合法性の有無の判断要因となっているようです。退職勧奨を行う際はこの点について注意が必要です。

 

退職強要とは

  退職強要とは、労働者が退職の意思を有しないにも拘らず、使用者によって退職を強いられることです。

  退職勧奨が過ぎたる場合には、退職強要と判断される場合があります。退職強要の場合には、退職の意思表示の取り消しを主張できるほか、使用者等の退職強要行為に違法性がある場合には、これによって発生した財産的精神的損害(慰謝料)を、会社の義務違反や不法行為を理由として賠償請求ができることがあります。

 

(判例)

石見交通事件 松江地裁益田支部判決(昭44・11・18)
エフピコ事件 水戸地裁下妻支部判決(平成11年6月15日)
大阪府科学技術館事件 大阪地裁判決(昭和40年12月27日)
岡野バルブ製造事件 福岡高裁判決(昭和30年4月27日)
岐阜相互銀行事件 名古屋高裁判決(昭和45年10月29日)

 

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