賃金
賃金に関する事項については、就業規則本体とは別に定めることもできます。その場合、別に定めた規程も就業規則の一部になりますので、所轄労働基準監督署長への届出が必要となります。
賃金制度は、各社各様であり、それぞれの会社の実情に応じて決定し、また経営者の意向を盛り込んだものとすることが大切です。そのため、 モデル就業規則を利用することは、不可能です 。 最重要事項でもありますので、「賃金規程」として別に詳しく定めるのが望ましいでしょう。
賃金規程では、以下の内容が重要です。
・給与の体系・ルールは複雑でなくわかりやすく規定されているか
・公平公正なルールに基づいて規定されているか
・給与体系は、「月給制」か「日給月給制」か
・手当は、統一ルールにのっとって定義されているか
・時間・金額の端数処理は適法なルールを設定しているか
・遅刻・早退/欠勤の場合に、どの手当を減額するのか
・給与から控除するものがあるときに、書面協定の作成が必要
・時間外手当の実態が法律に抵触していないこと
・時間外手当のルールが法律に抵触していないこと
・みなし労働時間や定額残業手当を検討しているか
・60歳以降の賃金は、年金や雇用保険を考慮して設定したか
・管理監督者の定義を適法な範囲で規定したか
・慶弔・休職・出産・育児などにかかる休みの給与はどうするか
・労務の提供の度合などによって減額もありうる事を規定したか
・やむをえない事情による減額など、免責事項を設定したか など
賃金の構成
基本給
基本給は、職務内容や職務遂行能力等の職務に関する要素や勤続年数、年齢、資格、学歴等の属人的な要素等を考慮して、各事業場において公正に決めることが大切です。
基本給には、月給(1か月の所定労働時間に対して賃金額が決められているもの)、日給月給(定額賃金制の一形態で、月給を定め、欠勤した場合にその日数分だけの賃金を差し引くという形の月給制)、日給(1日の所定労働時間に対して賃金額が決められるもの)、時間給(労働時間1時間単位で賃金額が決められ、業務に従事した労働時間に応じて支給されるもの)等があります。
具体的な賃金を決めるに当たり、使用者は最低賃金法(昭和34年法律第137号)に基づき決定される最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。
労働者に支払おうとする賃金又は支払っている賃金が最低賃金額以上となっているかについては、時間によって定められた賃金(以下「時間給」といいます。)の場合は、当該時間給を最低賃金額と比較することにより判断します。また、日、週又は月によって定められた賃金の場合は、当該金額を上記各期間における所定労働時間数で除した時間当たりの額と最低賃金額とを比較することにより判断します(最低賃金法第4条、最低賃金法施行規則第2条)。
諸手当
諸手当に関しては、本規程例で示したもののほか住宅手当、職務手当、単身赴任手当、営業手当等を設ける事業場がありますが、どのような手当を設けるか、また、設けた諸手当の金額をいくらにするかについては、各事業場で決めることになります。
賃金支払いの原則
労働基準法第24条は、賃金が労働者の生活を支える唯一の手段であることから、安全かつ確実に労働者の手に渡ることを保障するために、賃金支払の5原則を定めています。
(1) 通貨払いの原則
(2) 直接払いの原則
(3) 全額払いの原則
(4) 毎月1回以上払の原則
(5) 定期日払の原則
本規定は、労働の対償としての賃金が完全、かつ、確実に労働者本人の手にわたるようにしたものです。
ここで詳しくみていきます。
1.通貨払の原則
賃金は、通貨で支払わなければなりません。
通貨とは、強制通用力のある貨幣をいいます。具体的には、鋳造貨幣のほか銀行券(紙幣)が含まれます。
外国通貨や小切手による支払は違法になります。
次の例外があります。
(1) 法令に別段の定めがある場合
現在該当する法令はありません。
(2) 労働協約に別段の定めのある場合
現物給付、通勤定期券の支給、住宅の供与等は労働協約に定めておくことにより認められます。労働協約は使用者又はその団体と労働組合との間の協定ですので、実物給与は労働組合の存在が前提となります。労働組合のない企業や労働組合員以外の従業員には認められません。労働協約を締結することにより、通勤定期券の支給、住宅の供与等ができるようになります。
(3) 賃金と退職手当について、使用者が労働者の同意を得た場合
労働基準法第24条では、賃金は、通貨で支払わなくてはならないと定めています。これは現物給与を禁止する趣旨ですが、銀行振込みも通貨払いではありません。今では、銀行振込みが認められていますが、要件が決められています。使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払についてその労働者の指定する銀行その他の金融機関の預金又は貯金への振込みができるとされています。(労働基準法施行規則第7条の2第1項)さらに、証券総合口座への賃金の振込みも認められるようになっています。(労働基準法施行規則第7条の2第2項) この同意については形式を問いません。
賃金の口座振込みを適法に行うためには、次のような条件があります。
(1) 口座振込みは、書面による個々の労働者の申出又は同意により開始し、その書面には振込みをする賃金の範囲、指定する金融機関の名称等を記載すること。
(2) 口座振込みを行う事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合と、ない場合においては労働者の過半数を代表するものと対象となる労働者の範囲、賃金の範囲等について書面による協定を締結すること。
(3) 使用者は、口座振込みの対象となっている個々の労働者に対し、所定の賃金支払い日に、賃金の金額、控除する額、振込み額等を記載した賃金の支払に関する計算書を交付すること。
(4) 振込まれた賃金は所定の賃金支払い日の午前10時頃までに払い出しが可能となること。
(5) 取扱金融機関は、金融機関の所在状況等からして一行に限定せず、複数とすること等労働者の便宜に十分配慮して定めること。
賃金の預金又は貯金への振込みによる支払
労働基準法施行規則第7条の2第1項における「同意」については、労働者の意思に基づくものである限り、その形式は問わないものであり、「指定」とは、労働者が賃金の振込み対象として銀行その他の金融機関に対する当該労働者本人名義の預貯金口座を指定するという意味であって、この指定が行われれば、同項の同意が特段の事情がない限り得られるものであること。また、「振込み」とは、振り込まれた賃金の全額が所定の賃金支払日に払い出し得るように行われることを要するものであること(昭63.1.1 基発1号)。
労働者の同意を得た場合には、労働者が指定する金融機関の労働者名義の預貯金口座への振り込み、又は労働者が指定する証券会社に対する労働者の預かり金への払い込みが認められています。その場合には、給与振込み明細を個々の従業員に交付しなければなりません。
ただし、労働者の意思に基づいているものであること、振り込まれた賃金の全額が所定の賃金支払日に払い出すことができる状況にあることが必要です。
退職手当は、賃金と同様金融機関、証券会社と金融機関が自己宛に振り出し、若しくは支払い保証した小切手又は郵便為替の交付での支払もできます。
労働者の同意は、労働者の意思に基づくものである限り、形式は問われませんが、個々の労働者から同意を得ることが必要です。労働協約や労使協定による代替はできません。
就業規則規定例 第○条 (賃金の支払方法) |
2.直接払の原則
賃金は、直接労働者に支払わなければなりません。未成年者にも直接支払わなければなりません。 直接払の原則は、労働者本人以外の者に賃金を支払うことを禁止するものです。従って、労働者の親権者その他の法定代理人に支払うこと、労働者の委任を受けた委任代理人に支払うことはいずれもできません。
次の例外があります。
(1) 本人の使者として受け取りに来た者に支払うこと
使者に支払うとは、本人が病気で休んだ場合に、妻が受け取りに来るような場合などをいいます。
(2) 労働者派遣事業の事業主が、派遣中の労働者に派遣先の使用者を通じて支払うこと
派遣先の使用者が、派遣中の労働者本人に対して、派遣元の使用者からの賃金を手渡すことだけであれば、直接払の原則には違反しません。
使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払いについて当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込によることができますが、この場合の労働者の同意については書面による必要はありません。
3.全額払の原則
賃金は、その全額を支払わなければなりません。全額払の原則は、賃金の一部の支払を留保することによって、労働者の足留め策とならないようにするとともに、直接払の原則とあわせて、労働の対償としての賃金の全額を労働者に帰属させるために控除を禁止したものです。
これには次の例外があります。
(1) 所得税の源泉徴収や社会保険料など法令に別段の定めがある場合
所得税や社会保険料の本人負担分については、賃金から控除することができます。
(2) 労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合
福利福利厚生施設の利用料、親睦会費、社内預金、旅行積立金、社宅等の賃貸料、控除されるものの内容が明らかなものを控除することは、労使協定を締結したうえで賃金の控除が認められます。
賃金の一部控除については、控除される金額が賃金の一部である限り、控除額についての限度はありません。 なお、民法及び民事執行法の規定により、一賃金支払期の賃金又は退職金の額の4分の3に相当する部分については使用者側から相殺することはできません。
過払い金の賃金の相殺について
行政解釈では、「前月分の過払賃金を翌月分で清算する程度は賃金それ自体の計算に関するものであるから、法第24条の違反とは認められない」(昭23.9.14基発第1357号)としています。
過払い分の給与天引きによる返還が、労働者の同意を得てなされた相殺で、その同意が労働者の自由意思に基づくものと認められるような事情がある場合に、相殺を認めています。
4.毎月1回以上支払の原則
賃金は、毎月1日から月末までの間に、少なくとも1回は支払わなければなりません。賃金の締切期間及び支払期限は決められていませんので、賃金の締切期間については、必ずしも月初から起算して月末に締め切る必要はなく、例えば、前月の16日から当月15日までを一期間としても差し支えありません。
支払期限についても、ある月の労働に対する賃金をその月中に支払う必要はなく、その期間が不当なものでない限り、締切後ある程度の期間をおいてから支払う定めをしても差し支えありません。
毎月少なくとも1回ですから、日払い・週払いも問題ありません。
次の例外があります。
① 臨時に支払われる賃金
② 賞与
③ 1ヵ月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当
④ 1ヵ月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当
⑤ 1ヵ月を超える期間にわたる事由によって算出される奨励加給又は能率手当
臨時に支払われる賃金とは、臨時的突発的事由に基づいて支払われるもの、及び結婚手当等支給条件はあらかじめ確定されているものが、支給事由の発生が不確定であり、かつ、非常にまれに発生するものをいい、就業規則の定めによって支給される私傷病手当、病気欠勤又は病気休職中の月給者に支給される加療見舞金、退職金等がこれに該当します。
5.一定期日払の原則
賃金は、毎月一定の期日に支払わなければなりません。
一定の期日は、期日が特定され、その期日が周期的に到来する必要があります。しかし、必ずしも月の10日、或いは15日等と期日を指定する必要はありません。月給の場合に月の末日、週休の場合に週の末日とすることは差し支えありません。
しかし、月給の場合に「25日から月末までの間」等のように日が特定しない定めをすること、或いは、「毎月第2月曜日」のように月7日の範囲で変動するような期日の定めをすることは許されません。
なお、支払日が休日にあたる場合は、支払を繰り上げても、繰り下げても、いずれも一定期日払に違反しません。
次の例外があります。
(1) 非常時払(労働基準法第25条)
(2) 金品の返還(労働基準法第23条)
賃金請求権は2年間の消滅時効にかかります。賃金の未払いについては、賃金支払いの原則に違反しており、使用者は30万円以下の罰金刑に処せられます。労働者は、違反について、労働基準監督署に申告することができます。
また、賃金未払いについて、簡易裁判所において、支払命令、給料支払調停などの申立て、給料支払請求の訴えができます。
賃金については、最低賃金法により、地域別最低賃金および産業別最低賃金の適用を受け、使用者は最低賃金額以上の賃金の支払いが義務づけられています。これより低い賃金を支払った場合には、それは無効となり、労働者は最低賃金額を請求でき、使用者は罰金に処せられます。
賃金の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項は、就業規則の絶対的記載事項に当たります。(労基法第89条)。
○割増賃金
労働時間について、1週間について、使用者は40時間を超えて、1週間の各日については、1日について8時間を超えて労働者を労働させてはならないことになっています。
休日については、使用者は1週間に1日または4週間を通じて4日の休日を与えなければならないことになっています。
しかし、仕事が忙しい場合には、この法定時間や法定休日では業務の遂行に支障をきたすことがあります。労働基準法第36条により、使用者と労働者の間で労使協定を締結し、その協定書を労働基準監督所長に届け出ることにより、労働者に法定時間を超えてまたは法定休日に働いてもらうことができます。
割増賃金とは、労働基準法によって定められた法定労働時間を超えて働いた場合、法定休日に出勤して働いた場合、深夜10時以降翌朝5時までの間に働いた場合に、通常の時間当たりの賃金にさらに上乗せをして支払われる賃金のことをいいます。
時間外や休日、深夜労働に対する割増率について、時間外労働については通常の賃金の2割5分以上、休日労働については3割5分以上、深夜労働については2割5分以上の割増賃金が支払われなくてはいけません。さらに、時間外労働が深夜に及んだ場合は5割以上、休日労働が深夜に及んだ場合は6割以上の割増賃金が支払われなければなりません。
なお、休日に時間外労働をした場合でも、時間外労働に対する割り増しを休日労働に対する割り増し賃金に上積みする必要はありません。
○割増賃金の支払義務
使用者は、次の場合に割増賃金を支払わなければなりません。
(1) 非常災害の場合、所轄労働基準監督署長の許可を得て、労働時間を延長し、若しくは休日に労働させた場合
(2) 非現業公務員を公務のため臨時の必要がある場合において、労働時間を延長し、若しくは休日に労働させた場合
(3) 労使協定をし、所轄労働基準監督署長に届出後、労働時間を延長し、若しくは休日に労働させた場合
(4) 深夜において労働させた場合
割増賃金は、労働基準法の規定に基づいて労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合に支払うべきものですが、違法に時間外労働をさせた場合にも、当然支払義務があります。
○割増賃金の計算方法
①時間当たりの単価 × ②割増率× ③時間外労働の労働時間数
○割増率
(1) 時間外労働
(1日8時間、1週40時間(注)(法定労働時間)を超えた労働)
割増率: 割増賃金の基礎単価の2割5分以上
(注) 常時常時10人未満の労働者を使用する商業・映画演劇業(映画の製作を除く)・保健衛生業・接客娯楽業の場合 1週44時間
時間外労働が所定労働時間(就業規則で定めた労働時間)を越えても、法定労働時間内であれば、就業規則で定めがある場合を除き、割増賃金を払う必要はありません。
(2) 休日労働
(1週間に1日、又は4週間に4日の休日(法定休日)に労働させた場合)
割増率: 割増賃金の基礎単価の3割5分以上
割増賃金を支払うべき休日労働とは、法定休日における労働をいいます。法定休日とは、毎週1日又は4週間を通じ4日の休日のことでして、土曜・日曜2日間の休日のうち日曜日を法定休日とした場合、土曜日は割増賃金を支払う必要はありません。ほかに、国民の祝日、年末年始、会社の創立記念日等も休日と定めている場合、その日に労働させても割増賃金を支払う義務はありません。
(3) 深夜労働
(午後10時以降翌日午前5時までの労働)
割増率: 割増賃金の基礎単価の2割5分以上
・深夜労働を所定労働時間内に行った場合
割増率: 2割5分以上
・時間外労働が深夜に及んだ場合
割増率: 2割5分以上 + 2割5分以上 ⇒ 5割以上
・休日労働が深夜に及んだ場合
割増率: 3割5分以上 + 2割5分以上 ⇒ 6割以上
交替制の場合で、その労働が深夜に及ぶときは、1日の労働時間が8時間に満たない労働者であっても、深夜に労働させたときは割増賃金を支払わなければなりません。ただし、就業規則その他によって深夜の割増賃金を含めて所定賃金が定められていることが明らかな場合には、別に深夜業の割増賃金を支払う必要はありません。
(4) 法定時間外労働が60時間を超えた場合
割増率: 割増賃金の基礎単価の5割以上
現行法では、1ヵ月あたりの法定時間外労働が60時間を超えた場合、その超えた部分については割増賃金の率を5割以上にしなければならないとされています。一方、負担が大きすぎるという観点から特例を設け、中小企業に限り当分の間適用しないものとしています。
法定労働時間を超えて労働させた場合には2割5分以上、法定休日(週1回又は4週4日)に労働させた場合には3割5分以上、深夜(午後10時から午前5時までの間)に労働させた場合には2割5分以上の割増率で計算した割増賃金をそれぞれ支払わなければなりません(労基法第37条第1項・第4項)。
時間外労働が深夜に及んだ場合には5割以上、休日労働が深夜に及んだ場合には6割以上の割増率で計算した割増賃金をそれぞれ支払わなければなりません。
会社の定める所定労働時間が法定労働時間よりも短い場合、所定労働時間を超えて法定労働時間に達するまでの時間分については、労基法を上回る措置として割増賃金を支払う契約となっていない限り、通常の労働時間の賃金を支払えばよいこととなります。
月給制の場合の割増賃金の計算の基礎となる1時間当たりの賃金は、基本給と手当(本規程例の場合、役付手当、技能・資格手当及び精勤手当が該当します。家族手当や通勤手当等割増賃金の算定基礎から除外することができる手当は除きます。)の合計を、1か月における所定労働時間数(ただし、月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1か月の平均所定労働時間数)で除して算出します。また、時間給の場合は、時間額が1時間当たりの賃金となります(労基則第19条)。
割増賃金の算定基礎から除外することができる賃金には、家族手当や通勤手当のほか、別居手当、子女教育手当、住宅手当、退職金等臨時に支払われた賃金、賞与等1か月を超える期間ごとに支払われる賃金があります(労基法第37条第5項、同法施行規則第21条)が、これらの手当を除外するに当たっては、単に名称によるのでなく、その実質によって判断しなければなりません。
労基法第41条第2号に定める「監督又は管理の地位にある者」(以下「管理監督者」といいます。)については、同条によって労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しないとされている一方、深夜労働に関する規定の適用は排除されていません。このため、時間外労働又は休日労働の割増賃金の支払の問題は生じませんが、深夜労働については割増賃金を支払わなければなりません。
月60時間を超える時間外労働については、割増賃金率は5割以上とされています。ただし、中小企業については、当分の間、引上げが猶予され、月60時間を超える時間外労働の部分についても2割5分以上とされています。
適用が猶予される中小企業に該当するか否かについては、「出資金の額又は出資の総額」と「常時使用する労働者の数」で判断されます。社会福祉法人等で資本金や出資金の概念がない場合には、労働者数のみで判断することとなります。
三交替制勤務の割増賃金
三交替制勤務において、各シフトの所定労働時間を超えて労働する場合は時間外労働となり、8時間を超える場合には、2割5分増以上の割増賃金を支払う必要があります。また、時間外労働が深夜に行われた場合には、時間外割増と深夜割増を合わせて、5割以上の割増賃金を支払わなければなりません。
休日についてですが、三交替制勤務の場合は特例として休息時間を継続24時間確保されていれば、休日と取り扱ってもよいとされています。
「継続24時間を含む休息時間中に暦日による継続24時間がある場合には、その暦日が労働基準法第35条にいう休日である」(昭26.10.7基収3962号)。
例えば、土曜日の午前9時から日曜日の午前9時までの継続した24時間を法定休日とした場合、この24時間中に労働すれば休日労働となり、3割5分以上の率で計算した割増賃金が必要となります。さらに深夜まで労働が延長された場合は、6割以上の割増率で計算した割増賃金を支払うことになります。
三交替制勤務等で深夜業が含まれるようなシフトに対しては、深夜割増賃金をあらかじめ固定的な手当として支払うことができます。その際には、その手当に深夜割増賃金が含まれていることを就業規則で明らかにしておくべきです。
半日有給の場合の残業の取扱い
例えば、午前中を半日有給とし、午後労働した場合には割増賃金の扱いはどうなるのでしょうか?
実労働時間が法定時間である8時間となるまでは割増賃金の支払義務はありません。割増賃金は8時間を越えた以後の分についてとなります。就業規則の取り決めで、年次有給休暇分も合わせて所定労働時間あるいは法定労働時間を越えた分について割増賃金を支払っても差し支えありません。どのような運用にするかを就業規則に明確に記載しておくことが、トラブル防止には重要と考えます。
定額残業
時間外労働手当の代わりに毎月一定額の手当を支給する場合は、労働契約書や就業規則(賃金規程)に、「時間外労働手当として支払うものである」との内容を明記し、その計算方法(何時間分の割増賃金になるのか)について明示する必要があります。
就業規則規定例 第○条 (外勤手当) 2 第○条の時間外労働の割増賃金で算出された時間外労働の割増賃金が当該外勤手当の額を超えるときは、その差額を支払うものとする。 |
定額の残業手当の支給は、人件費の予定が立てやすく事務の手間を軽減できる等もありますが、本来の時間外手当より多額を支給することとなる可能性も高く、良策かどうか、疑問が残ります。
○休暇等の賃金
年次有給休暇を付与した場合は、
①平均賃金
②所定労働時間働いたときに支払われる通常の賃金
③健康保険法第99条第1項に定める標準報酬日額に相当する金額(平成28年4月1日より、同法第40条第1項に定める標準報酬月額を30分の1に相当する額(1の位は四捨五入))(ただし、③については労働者代表との書面による協定が必要です。)
のいずれかの方法で支払わなければなりません。
また、これらのうち、いずれの方法で支払うのかを就業規則等に定めなければなりません(労基法第39条第7項)。
産前産後の休業期間、育児時間、生理休暇、母性健康管理のための休暇、育児・介護休業法に基づく育児休業期間、介護休業期間及び子の看護休暇期間、裁判員等のための休暇の期間、慶弔休暇、病気休暇、休職の期間を無給とするか有給とするかについては、各事業場において決め、就業規則に定めてください。
また、有給とする場合は、例えば「通常の賃金を支払う」、「基本給の○○%を支払う」とするなど、できるだけ具体的に定めてください。
就業規則規定例 第○条(休暇等の賃金) 2 産前産後の休業期間、育児時間、生理休暇、母性健康管理のための休暇、育児・介護休業法に基づく育児休業期間、介護休業期間及び子の看護休暇期間、裁判員等のための休暇の期間は無給とする。 |
○賃金の日割り計算
賃金の日割り計算については、平均賃金や標準報酬を計算する場合のように法定された基準はありません。「賃金の計算」に関する事項としてその取り扱いについて就業規則(または給与規定)に定めておけば、日割り計算は差し支えないことになります。
中途入社者の給与を日割計算する場合には、
① 暦日による方法
② 当該月の所定労働日による方法
③ 月平均の所定労働日による方法
の3つの方法があります。
①は労働者に不利になりますので、②か③の方法がよいでしょう。
③により中途入退社者の日割計算をするとき、分母に年間平均月所定労働日数を用いて計算すると、中途入退者の出勤日が、分母の年間平均の月所定労働日より多くなるケースがありえます。
中途採用者の入社月の実出勤日数が、年平均の月所定労働日数以上になるときは、所定の月例給与の全額を支払っても問題はないと思います。
○遅刻・早退による賃金の減額
不就労についていくら賃金カットをするかについては法律の定めはないので、給与規程の定めに従ってカットすることになります。
賃金はもともと、労働の対価(代償)として支払われるものですから、遅刻、早退等によって労務の提供がなかった時間分の賃金を支給しないことは、「ノーワーク・ノーペイ」の原則に基づくもので問題ありません。
30分で実際の遅刻を超える分の賃金の減額をするという場合は、就業規則上の制裁金の範囲内であれば違法ではありません。
「減給の制裁」は、「労務提供がなされ、本来支給すべき賃金の一部を控除すること」ですので、次のような法律上の制限が設けられています。
(1) 1事案(1件)に対する減給額は、平均賃金の1日分の半額を超えないこと
(2) 複数事案に対して減給する場合にも、一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えないこと
「遅刻・早退3回を欠勤1日とみなす」はよいか?
1ヵ月の遅刻・早退が3回になったときに、1事案の制裁事由が発生することになりますが、1事案について減給の制裁として控除できる額の上限は平均賃金の1日分の半額に相当します。所定労働時間が1日8時間である場合、4時間分の賃金に相当します。3回の遅刻・早退の合計が4時間以上であれば、1日分(8時間分)の賃金をカットすることは差し支えありません。しかし、3回の遅刻・早退の合計不就労時間が4時間未満の場合に1日分の賃金控除を行うと、4時間を超える時間分の賃金、すなわち平均賃金の1日分の半額を超える額に相当する賃金を控除することになりますので、労働基準法第91条の減給の制裁の制限に抵触することになります。
「遅刻早退についてその時間に比例して賃金を減額することは違法ではないが、遅刻早退の時間に対する賃金額を超える減給は制裁とみなされ、労基法91条の適用を受ける」(昭26.2.10基収4214号、昭63.3.14基発150号)。
遅刻や早退に対してペナルティを課すには、就業規則に『遅刻または早退(合理的理由のないもの)が3回以上に及んだときは不就労時間の賃金を控除するほか、平均賃金の1日分の半額を控除する。』のように定めるのがよいと考えます。
遅刻時間相当分と残業時間との相殺
従業員が遅刻したときに、通常の終業時間を繰り下げて労働させ、その時間相当分を当日の残業時間と相殺することが可能です。
行政解釈では、労働者が遅刻した場合、その時間だけ通常の終業時刻を繰下げて労働させた場合には、1日の実労働時間を通算して8時間を超えないときは、36協定及び割増賃金の必要はない(昭29.12.1 基収)としています。
就業規則等には、『やむをえない場合は、所定労働時間を繰り下げまたは、繰り上げる場合がある』旨を定めておく必要があります。
○臨時休業の賃金
会社側の都合(使用者の責に帰すべき事由)により、所定労働日に労働者を休業させる場合には、平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません(労基法第26条)。
また、1日の所定労働時間の一部のみ使用者の責めに帰すべき事由により休業させた場合についても、現実に就労した時間に対して支払われる賃金がその日1日分の平均賃金の60%に満たないときは、その差額を支払わなければなりません。
就業規則規定例 第○条(臨時休業の賃金) |
○賃金の非常時払い
労働者又はその収入によって生計を維持する者に出産、疾病、災害等の臨時の出費を必要とする事情が生じた場合に、当該労働者は賃金支払日前であっても既往の労働に対する賃金の払いを請求できることとしたものです(労基法第25条)。
この「非常の場合」に該当するケースが「労働基準法施行規則」第9条で定められています。
就業規則規定例 第○条(賃金の非常時払い) |
○昇給
就業規則の不利益変更の場合、それが従業員を拘束するか否かのポイントは「合理性」の判断にあるということになります。
就業規則規定例 第〇条(昇 給) 2 昇給の検討は、原則として引き続き6ヵ月以上勤務したものについて行う(試用期間も含む)。 3 勤務成績不良のもの、業務外の事由により実就業日数が所定の就業日数の3分の2に達しない者、休暇中の者、休職中の者については昇給をしない、もしくは降給を行う場合もある。 |
給与の見直し
給与の改定は、就業規則に基づいて行うもので、就業規則の定めが、例えば「会社は、毎年1回4月に社員の給与の見直しを行うことがある」のように、昇給、据え置き、降給、いずれのパターンも想定した定め方とされている場合には、特別な問題はありません。この場合には、業績不振のため、今年は、全員の日給額を据え置く旨を従業員に通知するだけでもよいでしょう。しかし、「昇給は、毎年1回、4月に行う」などと、昇給することを前提とした定め方をしている場合は、就業規則違反となる可能性があります。
就業規則の賃金規程によくあるのが、次のような記載です。
注意すべき就業規則規定例 第○条(昇 給) |
これでは昇給を見送ることができても、今まで以上に賃金を下げることはできません。現状維持は必須になってしまいます。
労働者に対し賃金を削減する等の現状の労働条件を下げる(労働条件の不利益変更という)場合には、原則その労働者の同意が必要になります。だから会社の業績が悪いからといって勝手に賃金を下げる訳にはいかないし、これは法的にも非常に難しい問題をはらんでいます。
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就業規則規定例 第○条 (賃 金) |
(裁判例)
・みちのく銀行事件(最高裁 平成12.9.7)
「企業経営上、賃金水準切下げの差し迫った必要性があるのであれば、各層の行員に応分の負担を負わせるのが通常である」とされ、全従業員について賃金原資を一定割合での一律減額する場合の方が合理性は認められ易いと言えます。
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