われわれの事業は何か ドラッカー・五つの問い から考える

 「われわれの事業は何か」を問うとは、わが社の事業はどうあるべきかを徹底的に考え抜き、わが社のあるべき姿を明らかにするということです。  経営者のそのような仕事の助けとなってくれるのが ドラッカー5つの質問です。

 ドラッカー5つの質問は思想ではありません。行動を決定するものです。「一人で学ぶこと」と「チームで取り組むこと」は違います。ドラッカー5つの質問は経営チームで取り組んでこそ意味があります。5つの質問は「答えを出して終わり」ではなく「問い続けるもの」です。

 

第一の問い 「われわれの使命は何か」

 「顧客を創造する」ために はじめに行うことは、「自分たちの使命を決めること」です。

 経営理念は「わが社の社会に対する根本的な考え方を言い表したもの」です。

 使命は「わが社が社会で実現したいことを言い表したもの」です。

 ビジョンは「わが社の使命が実現した時の状態を言い表したもの」です。

 「第一の問い われわれの使命は何か」における あなたのゴールは、「わが社が社会で実現したいことを言い表すこと」です。

何をもって社会の役に立つ会社なのか

 喜んでもらう人を増やすための第一歩を踏み出しましょう。会社は、物を買うことも所有することもできます。そして、場所を借りることもできます。会社は、法律によって人と同じ権利を与えられています。だから「法人」と言うのです。会社が社会に存在することを許されているのは、事業を通じて社会の役に立つからです。登記さえ済ませば、あとは勝手に儲けてよいということではないのです。

 あらゆる組織は、何らかの形でお客様に喜んでもらえるからこそ存在することができています。会社もそれぞれの事業を通してお客様のために存在しています。では、御社は具体的に何をもって社会の役に立つ会社なのでしょうか? それを問いただすのが「第一の問い われわれの使命は何か」です。

自分たちのメリットや都合は使命ではない

 使命とは「社会のお役に立てる具体的な何か」です。わが社は「何をもって喜んでもらう人を増やそうとしているのか」、「社会は何を求めているか」を理解し、自分たちが得意とするものを知るところから、使命を確立することができます。確立するということは明確な言葉で特定するということです。

 三人のレンガ職人の話をご存じのことと思います。一人は給与をもらうために仕事をしている。二人目は優れた職人になりたいと思って仕事をしている。三人目は「人々の心を癒す空間を造って喜んでもらおう」と思って仕事をしている。三人目の職人の思いこそが使命です。使命を考える時は、自分たちのメリット、自分たちの都合、自分たちにとっての希望は考えない、ということです。

使命が何をすべきかを教えてくれる

 多くの会社が、経営理念や使命を掲げながら、売上や会社の規模を大きくしていくことに頭を持っていかれてしまい、使命はただの飾り物になっています。使命はあると言いつつも、そこで働く一人ひとりの仕事は、使命と完全にかけ離れたものになっています。使命をはっきりさせ、使命が働く一人ひとりの仕事となって、実行されていなければ、何をやってもうまくいきません。たとえ一時的にうまくいくことがあっても長く続きません。使命が組織で共有されていなければ、一人ひとりの力はバラバラになってしまいますし、会社は本来持つ力を発揮することができません。やがて行き詰ることは必然です。使命は自分たちに何をすべきかを教えてくれます。会社は仕事の効率を高めるため、多くの仕事をルーチン化していきます。仕事をルーチン化すること自体は、組織全体の生産性が高まるので良いことです。一方、いったん仕事がルーチン化されてしまうと、改善すべきことが見えなくなることがあります。ルーチン化は大きなメリットがあると同時に、そのようなデメリットが隠れ潜んでいます。効果的だったやり方であっても、状況が変わって効果的でなくなったにも関わらず、改善の必要性に気づかずその仕事を続けてしまう。これは、組織で仕事を運営している以上、致し方なく起こることです。使命があることによって、仕事を改善する必要性に気づきにくい状況であっても、いま自分たちが行っていることは使命に向けてどうなのか、そんな視点をもつことができます。自分たちの使命が自分たちを導き、自分たちの今日を教えてくれるのです。

使命は働く人に意欲をもたらす

 使命は働く人に働くエネルギーを与えてくれます。仕事の価値を決定づけるものは、仕事の内容ではなく仕事の目的です。何のための事業なのか。使命の内容が働く人に意欲をもたらしてくれます。使命は、なんとなくこなすのではなく、最善を尽くそうとするエネルギーを与えてくれます。

 あなたは何のために働いていますか? 社員にこう尋ねたら、何と答えるでしょうか? 

 私たち人間は、お金以外に頑張る理由が必要です。価値ある使命があるからこそ、その仕事に価値を共感する優秀な人材を獲得することができます。仕事はよいことばかりではありません。むしろ、辛く苦しいことの方が多いと言ってもいいでしょう。会社が大きいからとか、会社が有名だからとか、社長にあこがれたからとか、条件がいいからといった理由だけで入社した人は、仕事が大変になると他の会社に目がいってしまい、力を発揮してくれません。使命に共感して仕事をしてくれているからこそ、たとえ辛い時があっても、使命に向けて自らの意思で全力を尽くしてくれます。

使命を明確にするということ

 われわれの使命は何かというこの問いは、いざ日頃一緒に仕事をしている仲間と話し合ってみると、お互いの考えに違いがあることが明るみになります。ともに働き、理解し合えていると思っていた人たちと われわれの使命は何かというこの問いを共有すると、お互いの考えに違いがあることを知って愕然とされるはずです。組織で仕事をしている以上、行動のもととなる考えに食い違いがあれば、仕事はうまくいきません。そうなってしまえば、喜んでもらえる人を増やせなくなってしまいます。喜んでもらえる人を増やせなくなるということは、事業の存続に危険が及ぶということです。使命とは事業の存続に関わる重要なものなのです。喜んでもらえる人を増やしていくためにも、事業の繁栄のためにも仕事をしてくれている社員のためにも、「われわれの使命は何か」という問いを共有し、共通の考えを確定させてください。

 

第二の問い 「われわれの顧客は誰か」

 使命が決まったら、次に行うことは、「対象とするお客様を決めること」です。

お客様を明確にすることの重要性

 たとえ、これはすごいと思える商品を開発しても、素晴らしいと信じ切れるサービスを創り出したとしても、その商品やサービスをよいと思って、使ってくれるお客様がいなければ、その商品、サービスは、単なる自己満足になってしまいます。そこに費やした時間、労力は意味のないものになってしまいます。

本当に喜んでほしい人たちは誰か

 対象となるお客様は、自社が心から喜んでもらいたいと思える方です。本当に役立ちたいと思えるお客様を対象にしなければ、使命に対する情熱もいつの間にか薄れてしまいます。それでは、事業の方向性を見失い、社会に変化に振り回されて事業は右往左往してしまいます。この対象とするお客様を徹底的に考え、それを明らかにしないまま仕事を進めてしまえば、お客様と関係のないところで仕事を行ってしまうことになります。これが、頑張っているのに喜んでもらう人が増えていないという構図です。

お客様を明確にすると事業の成功率が高まる

 何から何まですべての決定権を持っているのはお客様です。決定権とは、物事において自分で決められるその範囲のことです。お客様は間違いなく、買うか買わないかすべてにおいて決定権を持っています。お客様に認めてもらわなければ事業は成り立ちません。事業を一から十まで決めるのはお客様です。事業を決めるのはお客様なのです。どのような人を事業の対象とするかで、何から何までやるべきことが決まってしまいます。ゆえに、対象とするお客様をはっきりさせればさせるほど、事業の成功確率が高まります。対象とするお客様をはっきりさせれば何をやるべきで、何をやるべきでないのか、何をどのように行うべきかが、それらがいやがおうにもが浮き彫りになるからです。ここでいう成功は、もちろん「売上」のことではありません。事業の成功とは「喜ぶ人が増えること」です。 

組織を正しい方向に導くための道しるべ

 お客様は日々刻々と変化していきます。ゆえに、事業は常にお客様を中心に考え、お客様を中心に進めていくようにしなければなりません。誰のための事業なのか? お客様のための事業だからです。ここで心の持ち方や心掛けをお伝えしているのではありません。ここでお伝えしているのは、お客様を中心に進められる事業の運営を確立することは、具体的な仕事であるということです。組織は、進もうとする方向とは違う方向に進んで行ってしまう弱点を持っています。誰もが、その方向に進めようとは思っていないにも関わらず、組織は意図しない方向へ進んでしまうことがあるのです。組織とはそのようなものだと思って、事業の運営を確立していかなければなりません。ゆえに、会社の外に目を向けざるを得ない工夫、お客様に関心を注がざるを得ない取り組み、商品やサービスを提供する側の目線から離れたところから、お客様のための事業を確立していきましょう。 

2種類の顧客

 非営利組織の顧客には2種類ある。

 一方は、活動対象としての顧客である。外部の世界にいて、組織の活動によって生活と人生を変えられる人たちである。

 第1の問いは「ミッション」て゛ある。ミッションは内的な動因であり、明確な言語化を必要とする。そのミッションを行動に転換し、具体的な成果につなげるためには、外部の世界への架橋が必要となる。その際、活動対象としての顧客を絞らなければならないとドラッカーはいう。

 もう一方は、パートナーとしての顧客である。従業員、ボランティアスタッフ、寄付者、委託先など、自ら活動することで満足を得る人々である。

 組織が提供するものに「No」と言える立場でもあり、気に入らないことがあれば、さっさと辞めてしまえる立場でもある。自発性を基礎とする非営利組織において、そのようなパートナーとしての顧客が満足しなければ、成果をあげることはできない。

 それゆえ、非営利組織のマネジメントにおいては、つい内部の「組織の論理」を優先したくなる。ドラッカーは、そこに硬く鋭い釘を一本刺す。

 「パートナーとしての顧客を活動対象としての顧客と同一視したくなるのは人情である。しかし、成果をあげるには、焦点はあくまでも活動対象としての顧客に絞らなければならない」

顧客は変化する

 顧客は千変万化である。そのつど創造されたり刷新されたり、消滅したり形を変えたりする。

 積極的に動いて顧客を開拓しなければならない局面もあれば、顧客のニーズが満たされて活動をやめなければならない局面もある。

 あるいは、何かの行動がまったく異なる顧客のニーズを顕在化させることもある。「いかに検討した後でも、顧客には驚かされることがある」とドラッカーはいう。

 

第三の問い 「顧客の価値は何か」

 対象とするお客様が決まったら、次に行うことは、「お客様が望んでいるものを知ること」です。お客様が望んでいるものを知るために具体的な仕事の進め方を教えてくれているのが、ドラッカー5つの質問「第三の問い 顧客の価値は何か」です。

 対象とするお客様から選んでいただいて、はじめて事業は事業として成り立ちます。対象とするお客様から選ばれるためにどうすればよいのでしょうか。まずは、お客様が望んでいることを知り尽くすということです。お客様を知り尽して、はじめて自分たちは何をどのように仕事を進めていけばいいのかがわかり、何をどのようすれば喜んでいただけるのかがわかるからです。こうして、自分たちが対象とするお客様から選んでいただけるようになります。

顧客と市場を知っているのはただ一人 顧客本人

 お客様が求めているものを知り尽くすためにどうすればよいのでしょか。ドラッカーはこう言っています。

 「顧客と市場を知っているのは、ただ一人顧客本人である。したがって、顧客に聞き、顧客を見、顧客の行動を理解して、はじめて顧客とは誰であり、何を行い、いかに買い、いかに使い、何を期待し、何に価値を見いだしているかを知ることができる。」

 お客様が求めているものを、勝手に憶測せずに、お客様に聞き、お客様を見て、お客様の行動を理解する取り組みを欠かさず続けていってください。

お客様が望んでいることに向き合い続ける

 一方、その事業に携わり、その仕事に精通すればするほど見えなくなるものがあります。それは、「お客様が望んでいること」です。お客様が求めているものは品質だろうと考えてしまいます。気が付くと、売り手の勝手に陥ってしまいがちです。お客様が手に入れているものは、商品やサービスそのものではなく、商品やサービスを通して得られる「欲求の充足」です。商品やサービスはお客様のニーズを満たすための橋渡しに過ぎません。商品やサービスが価値となって現れるのは、お客様のところです。商品やサービスを価値あるものに変えてくれるのは、唯一、お客様だけです。お客様の求めているものが明確になるまで、商品開発をスタートさせない、お客様が求めていないような商品やサービスを作らないことです。

まだ「お客様になっていないお客様」を見る

 喜んでもらう人を増やすためには、現在のお客様だけでなく、お客様になっていないお客様についても考えていく必要があります。なぜなら、現在のお客様よりも、お客様になっていない人の方が圧倒的に数が多いからです。事業に影響を及ぼすような大きな変化は、お客様になっていないお客様から生まれるのです。お客様になっていないお客様はそれだけ市場に対する影響力が強いのです。しっかりとお客様になっていないお客様へ関心を注がなければならないのです。

「顧客の価値」を知るための問い

 喜んでもらう人を増やすために、次のような問いに対する答えを創り出してください。

 ・お客様は何のために買ってくださっているのか

 ・お客様はどんなニーズを満そうとされているのか

 ・お客様はわれわれの商品・サービスを買うことで何を手に入れようとしているのか

 ・どのような人にお客様になってほしいか

 ・そのお客様はどこにいるのか

 ・現実のお客様はどのようなお客様なのか

 ・お客様になってほしい人たちから選ばれているか

 ・継続的にお客様になってくれているお客様はどんなお客様なのか

 ・なぜお客様になってくれているのか

顧客はみな合理的である

 顧客のニーズはあまりに複雑であって、顧客本人しかそれを知らない。顧客自身もうすうす感じているのみで、明確に言語化できない場合もある。

 それでも、ドラッカーは、あえて「顧客はみな合理的である」ことを前提にせよという。

 そこでいう「合理的」とは、客観的な合理性ではなく、「それぞれの内部的世界においては辻褄が合っている」という意味である。そうした観点においては、いかに不合理に見える顧客の行動も、首尾一貫した内的合理性を持つといえる。

 とはいえ、それらはあくまでも顧客の内面で進行することであり、第三者が見て簡単にわかるはずはない。「私は顧客をよく知っている」などと自惚れて安易に答えを想像する姿勢を、ドラッカーは強く批判する。

「顧客を知らない」からスタート

 「自分は顧客を知らない」からスタートすべきである。知らないのならば、言うべきことは一つしかない。「教えてください」である。

 「顧客にとっての価値は何か」を知るための最も確実な方法は、顧客に答えを直接聞くことである。ドラッカー自身も、大学教授やコンサルタントとして、自らの顧客に対して「聞くこと」を実践していた。毎年、10年前の卒業生50~60人に電話をして話を聞いていたという。そして、「振り返ってみて、この大学院はあなたにどんな貢献ができたか」「今でも役に立っていることは何か」「どうしたら改善できると思うか」「私たちが止めるべきことは何か」といった質問をする。そこから得た情報ほど役立つものはなかったという。

プロでありながら非プロの目線を

 ドラッカーは、あえて この第3の問いが「5つの質問」のなかで際立って重要であるとした。同時に、実践の難しい問いでもあるとした。それはなぜか。

 非営利組織も企業も、プロフェッショナルからなる組織のはずである。プロたちはその分野に精通し、顧客の言動もよく見ている。しかし、そうしたプロとしての想像力が仇をなす場合がある。

 自らは顧客を知っているとしながらも、それはあくまでも「提供する側の目線」である。「顧客の目線」を獲得するというのは、演奏家が演奏しながら観客の目線を持つのと同様に難しい。「プロでありながら、非プロの目線を持て」という、ある面で矛盾した要請だからである。

 もう一つ大切なのは、「顧客それぞれは、まったく異なる目線で組織を見ている」という事実である。たとえば、

学校であれば、教育委員会、現場の先生、父母会、市民などパートナーとしての顧客は、それぞれが見たいように学校を見ている。価値観もばらばらである。

 これほどまでに難しい問いであり、安易に顧客になり代わって自ら答えようとするのは傲慢にすぎない。「顧客にとっての価値を知るには、顧客に耳を傾けよ」というのがドラッカーの一貫した助言である。

 

第四の問い 「われわれの成果は何か」

 お客様が望んでいるものを十分に理解できたら、次に行うことは「成果を決めること」です。成果を決めるために具体的な仕事を教えてくれているのが、ドラッカー5つの質問「第四の問い われわれの成果は何か」です。真面目にやっていればそれでいい。そんな仕事は一つとしてこの世にありません。ありとあらゆる仕事が、なんらかの成果をあげるためにあります。どんな成果をあげるためにどんな仕事をすべきか、といったことが明確でないまま漫然と仕事をしていては、たまたまうまくいくことはあっても、成果をあげ続けることはできません。「仕事を終えた」ではなく、「仕事を終えたその先」に、何が起こったか。つまり、仕事の結果、組織の外で起こる変化を見ていかなければ、どれくらいお客様のお役にたっているかがわからなくなってしまいます。どれくらいお客様のお役にたっているかがわからなければ、喜んでもらう人を増やしていくことができなくなってしまいます。成果は自分たちの行動を、使命の実現に向けさせてくれるものでなければなりません。喜んでもらう人を増やすために、あげるべき成果の内容を明らかにしてまいりましょう。

成果を明確に定義する

 成果とは単一のものではない。たとえば、樹木が健康かどうかは、果実を見ただけでは判断できない。葉や幹の様子はどうか、見えない土の中では根がどう生育しているのか。いくつもの視点が必要である。

 企業の場合、樹木でいう果実に相当する「利益」というわかりやすい尺度がある。企業と利益のメカニズムは単純である。どんなに意味ある活動をしていても、利益をあげられなければ企業は存続できない。しかし、非営利組織の場合などは、利益に相当する明瞭な尺度は存在しない。だからこそ、ドラッカーは「成果をはっきりさせよ」という。非営利組織こそ、日ごろから「成果とは何か」を考え抜き、明確に定義していく姿勢が求められる。

 そのためにはどうしたらよいか。「2つの種類の成果を設定せよ」とドラッカーはいう。定性的な成果、定量的な成果である。

定性的な成果  

 定性的な成果とは、質的なものである。たとえば、

活動が世の中に与えた変化を、物語として持つことである。

 組織には、数値には換算不能な物語がある。一例として、活動を始めたときの神話がある(イーライ・リリー物語)。どのような志でスタートしたか、当初の難局をどう乗り切ったか、倒産の危機を救ったのは何だったか。こうした物語が組織の信念を表し、これを共有することが組織の絆となる。

定量的な成果 客観的な尺度

 もう一つは定量的な成果である。たとえば、活動の結果として社会に起きた変化を表す測定可能なデータであり、次のようなものである。

 ・美術の授業時間数と非行の減少の関係

 ・24時間電話受付による児童虐待事案数の減少

 こうした客観的な尺度をもとにした定量的な成果は、定性的な成果より明確化しやすいだろう。

 このように、「定性と定量、あるいは主観と客観をともに追求して、成果の本質に至れ」とドラッカーは助言する。

「売上」は成果ではない

 売上だけを成果としてしまうと、社員は「売上げのためだけに仕事をしている」ことになってしまいます。私たちはつい組織内部の事情や都合に関心が引っ張られてしまいます。ややもすれば、成果の内容も自分たちの事情や都合にしてしまいがちです。その典型的な成果の例が売上です。どんな事業もお客様のために存在しています。ゆえに、お客様のためになって初めて成果と言えるのです。映画であれば面白かったと思ってもらうことであり、本であれば役に立ったと思ってもらうことであり、飲食店であれば美味しかったと思ってもらうことです。成果とは、使命に対する貢献度合いであり、お客様に起こる良い変化の内容です。

何が、どのように、どれだけ良くなったかモニターする

 何をもって成果とするか。それが決まったならばその成果をモニターしていきましょう。多くの会社が自分たちの事業を見直そうと思う時は、売上が落ち始めてからです。大事なことは、自分たちが事業を通して関わることによって、「お客様の何が良くなったか」、「お客様がどのように良くなったか」、「お客様はどれだけ良くなったか」といったことをモニターしていくことです。そうすれば、打つべき時に、打つべき手立てが打たれ、漠然と事業を進めてしまうようなことにはなりません。成果をモニターしていくということはどういうこと? と思われたかもしれません。モニターとは呼んで字のごとく、レーダーでその状態を監視することです。必要な情報を正確に知るということです。たとえば、飛行機がある目的地に向かって飛行するためには様々な情報が必要です。飛行機が安全な飛行をするには、天候、気温、気象、気圧、高度、緯度、経度、方位、走行距離、走行速度、振動、燃料、電力、油圧、室温、湿度、日出、日没、風向、風速、風力、磁気といった情報が必要です。同じように、会社が事業を通じて喜んでもらう人を増やしていくために、様々な情報が必要です。必要な情報は、会社によって、事業によって、業種業態によって違います。使命に向けて事業が適切に進んでいるかどうかを見極めるために、あなたの会社はどんな情報が必要でしょうか。

正しい成果の設定が日々の仕事を使命に繋げる

 部下の意識づけに悩まない上司はいません。それは、部下の意識に問題があるのではなく、何を成果としているか、その成果の内容に問題があるのです。何を成果とし、何をモニターしていくか、その内容が働く人の関心事と行動を決定付けてしまうからです。たとえば、上司に「今月はいくら売上をあげたのか?」と聞かれ続ければ、頭の中は当然、売上だけになります。部下は、会社の使命を記憶として留めているだけで、会社の使命は自分の仕事にとって完全に関係のないものになってしまいます。一方、上司から「今月は、どんなことをしてどれくらいお客様に喜んでもらえたか?」と聞かれ続けられれば、部下の頭の中は「お客様に喜んでもらうこと」でいっぱいになります。会社の使命は日々の仕事として実行され、使命は部下の行動に定着している状態になります。あげるべき成果を明らかにし、その成果をモニターしていくことで、どんな仕事をどのように進めていけばいいのかを決めてください。

 

第五の問い 「われわれの計画は何か」

 あげるべき成果が決まったら、次に行うことは、「計画を立てること」です。計画を立てるために具体的な仕事を教えてくれているのが、第五の問い 「われわれの計画は何か」です。

計画は「使命に向かい主体的に進むための旗印」

 これまで決めてきたことが、社員一人ひとりの日常の仕事になっていなければ、決めたことは実行されることのない善き意図で終わってしまいます。決めたことを日々の仕事に落とし込み、確実に成果をあげるために計画を立てていきましょう。

 計画は、社員一人ひとりの行動を強制するものではありません。計画は、社員一人ひとりのエネルギーを総動員するためのものです。したがって、社員一人ひとりが、使命の実現のために打ち立てた旗印に向かって、主体的にどんな仕事をしていけばいのかを考えることができるものでなければなりません。

 主体的とは、何をやるべきか決まっていなくても、自ら何をやるべきかを自ら考えることができ、自ら行動を起こせる状態のことです。  

 計画を立てるということは、「事業を底上げするための目標を立てる」ということです。

 目標とは、わが社が目指すべき旗印です。

計画は「手段」である

 ドラッカーにとっての「計画」とは、明日への指針であって、変更不能な原則ではない。活用すべき「手段」である。あくまでも手段であり、変更は宿命である。

 計画は、現実に合わせて柔軟に対応することが求められる。そのうえ、過去も現在も未来も縛らないものでなければならない。

 計画とは、行くべき場所と行き方についての見解の一つにすぎない。いかに優れた計画も、意思決定やリーダーシップの代替物ではありえない。ドラッカーはこう述べている。

 「計画は、未来が現在と異なるとの認識からスタートしなければならない。計画がリスクを回避しうると素朴に信じられているが、それほどに危険な妄想もない。計画はリスクを創造し、リスクを引き受ける」(『変貌する産業社会』)

「目的は何か、何のためか」

 計画の初めに行うべきことが、「ミッション」を確認し、目標を設定することである。とくに、非営利組織の場合、組織の存続を確定する一義的な尺度がないために、ときにミッションの高邁さに陶酔する傾向がある。だからこそ、企業以上の熱意をもって、「目的は何か、何のためか」を問い続ける必要がある。

 計画にあって、何に資源を集中するかを示すものが「ゴール」である。ドラッカーは、自らの体験から、「ビジョン」「ミッション」から「ゴール」に至る筋道として、次のような例を挙げる。ある市立美術館についてのものである。

ビジョン:世界の多様な美術品を市民の心の糧とする街

ミッション:市民と美術品との触れ合いの増大

ゴール1:美術品の保全と収集

ゴール2:展示、講座、出版による啓蒙

ゴール3:来館者数の増加

ゴール4:設備の充実と運営の改善

ゴール5:財務基盤の確立

 途中で行動の前提が変わってしまったり、成果があがらなかったり、あるいは意外なところからチャンスが現れたりすることもある。そんな不測の事態が日常だからこそ、計画に意味がある。計画の最大の利点は「修正できること」である。

目標達成していくための目標の立て方

 どうやって目標を立てていけばよいのでしょうか。目標設定のポイントは、社員一人ひとりの目標達成が部門の目標達成につながっていて、それぞれの部門目標の達成が、会社全体の目標達成につながっているようにすることです。

 会社全体の目標と各部門の目標、各部門の目標と一人ひとりの目標の内容が、それぞれつながっていないと、個人間でそれぞれの都合が衝突したり、部門間に争いが起こってしまいます。

 こうなってしまうと、たとえ目標を達成できる力があったとしても、目標は達成されずじまいとなってしまいます。ほんの少しで目標達成できないという状態が何年も続いている会社は、組織内部で個人間の衝突や部門間の争いが頻繁に起こっています。

 経営者はもちろんのこと、部門の責任者は、組織内部の問題解決に労力が引っ張られています。そのような会社に共通していることは、議論すべきことを避けて、決定すべきことを常に先延ばしにする傾向があります。

 立てた目標が達成されないのは、目標達成する力がないのではなく、目標を達成する運営に至っていないためです。立てた目標を着実に達成している会社は、面倒な議論を避けることなく正面から議論を戦わせています。

 そして、決定すべきことは先延ばしにせずに勇気ある決定を行っています。目標を達成しているのは、目標を達成する運営に至っているからです。

計画を立てる時期

 目標を立てて計画をつくることは大仕事です。会社全体の計画は、新しい期を迎える3ヵ月前から取り組むことをお勧めします。

 経営の仕事は、「事業全体を見渡して、喜んでもらう人を増やすための意思決定をすること」です。事業全体を見渡すということはいったいどういうことでしょうか。 ドラッカーはこう言っています。 

 「事業は、顧客を創造することができなければならない。したがって、マーケティングについて目標が必要である。事業は、イノベーションすることができなければならない。さもなければ、誰かに陳腐化させられる。」

 したがって、イノベーションについての目標が必要である。あらゆる事業が経済学でいう3つの生産要素、「人」「金」「物」に依存している。したがって、それらのものの獲得と利用についての目標が必要である。事業が発展を続けるには、生産性を向上させていかなければならない。したがって、生産性の目標が必要である。

 さらには、事業が社会の中に存在する以上、社会的責任を果たさなければならない。社会的責任についての目標が必要である。そして最後に利益が必要である。

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