マタニティ・ハラスメント

 「マタハラ」とは『マタニティ・ハラスメント』の略で、職場における女性の妊娠・出産等を理由とした解雇や降格などの不利益取扱いや、嫌がらせなどによる精神的・肉体的なハラスメントのことをいいます。

 「妊娠を告げたこと、あるいは妊婦であることによって、上司、同僚、職場、会社から何らかの嫌がらせやプレッシャーを受けること」「働く女性が妊娠・出産を理由とした解雇・雇止めをされることや、妊娠・出産にあたって職場で受ける精神的・肉体的なハラスメント」のように定義されています。a0001_012467

 

 マタハラに関して、平成26年秋に初の最高裁判決が出ましたので載せました。

地位確認等請求事件(最高裁 平26.10.23)

 広島市の病院で、理学療法士として働いていた管理職(副主任)の女性が妊娠し、労働基準法65条3項に基づく軽易な業務への転換を請求したところ、その請求が認められ希望通りの部署に異動となったが、その際、副主任のポストを外されてしまう。また、育児休業からの復職後についても副主任に任命されることはなかった。そのため、この取扱いが、男女雇用機会均等法9条3項に違反するものであると主張して、損害賠償を求めたものです。

 裁判の争点は、女性労働者の妊娠中の軽易な業務への転換があったことを契機として降格させた事業主の措置は、男女雇用機会均等法に違反するものであるかどうかという点です。

 原審(広島高裁)は、人事配置上の必要性に基づいて裁量権の範囲内で行われたものであるとして、本件措置を有効と判断しました。

 女性労働者につき労働基準法65条3項に基づく妊娠中の軽易な業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は、原則として「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」9条3項の禁止する取扱いに当たるが、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易な業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する取扱いに当たらない。

 最高裁は、以下のとおり判示し、本件を原審に差し戻しました。

 「一般に降格は労働者に不利な影響をもたらす処遇であるところ、上記のような均等法1条及び2条の規定する同法の目的及び基本的理念やこれらに基づいて同法9条3項の規制が設けられた趣旨及び目的に照らせば,女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主は、原則として同項の禁止する取扱いにあたるものと解されるが、当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度、上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足る合理的な理由が客観的に存在するとき、又は事業主において当該労働者について降格の措置を執ることなく経緯業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって、その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして、上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である」

 その上で、上記の「自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる道理的な理由」が客観的に存在するとはいえず、また、原審の判断は、上記「特段の事情」の有無について十分に審理し検討し判断をしていないため、法令の解釈適用を誤った違法があるとして、原判決を破棄しました。

 

 マタハラ裁判の最高裁判決を受けて、厚生労働省は、男女雇用機会均等法と育児・介護休業法について厳格な解釈通達を発しました。  「雇児発0123第1号」

 妊娠・出産・育児休業等の事由を「契機として」不利益取扱いを行った場合、原則として男女雇用機会均等法、育児・介護休業法に違反するとの考えが示されました。

 「契機として」とは、妊娠・出産・育児休業等の事由と、不利益取扱いとの時間的近接性によって判断されます。
 例外として、
① 業務上の必要性と労働者の不利益を比較考慮して、その不利益取扱にやむをえない特段の事情が存在するとき
② 不利益取扱について労働者の同意がある場合において、その不利益の内容が一般的な労働者であれば同意するようなものであるとき
は法違反とはならないとされました。

(参考法令)

・「仕事と生活の調和にも配慮しつつ労働契約を締結又は変更」しなければならないこと(労働契約法第3条3項)

・産前6週間以内に出産する女性が休業を請求した場合の就業の禁止(労働基準法第65条1項)産後8週間を経過しない女性の就業禁止(労働基準法第65条2項)

・妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならないこと(労働基準法第65条3項)

・女性労働者が婚姻し、妊娠し、出産し、又は労基法65条の産前産後の休業をしたことを理由としての解雇の禁止(男女雇用機会均等法9条3項)。

・法に定められた手続きを踏んで育児休暇をという意思表示をすれば育児休業が取れることれること
 事業主はその休業を拒否できず、解雇もできないこと(育児休業法第5条、6条)

・育児休業・介護休業の申出をしたこと、育児休業・介護休業をしたことを理由とする解雇の禁止(育児介護休業法10条、16条)。

性的な言動について均等法は労働者が不利益を受けることを禁止し、就業環境が害されることがないような体制の整備や雇用管理上の措置を講じなければならないこと(男女雇用機会均等法第11条)

・ハラスメントの心配なく職務に専念できる環境を整えること(労働契約法第5条)

 

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