試用期間
「試用期間」は、労働者を採用するにあたり、雇用する労働者の勤務状況などから、その能力や適格性を判断し、問題がなければ本採用とするために設けられた一定期間のことです。
あくまで長期雇用を前提としつつ、適性を評価する期間という意味合いのものですから、契約社員などの有期の労働契約とはその趣旨を異にします。
従業員を採用するにあたって、「試用期間」は必ず設けなければならないものではありません。
試用期間の長さは法的に規定されているわけではありませんが、3~6ヵ月が一般的で、3ヵ月が最も多いです。
試用期間の長さについては、あまりに長いものについては無効になる場合があります。1年を超えると、民法90条(公序良俗)違反に問われることがありますので注意が必要です。
一方、期間の定めがない場合も、公序良俗に反するものとして無効となります。
試用期間中に判断される事項には、次のようなものがあります。
① 勤務成績
② 勤務態度
③ 健康状態
④ 出勤率
⑤ 協調性
⑥ 提出書類の不備
試用期間としての労働契約の法的性質は、「解約権留保付労働契約」となります。
採用リスクを軽減する試用期間
試用期間の設定と運用には多くの留意点がありますが、この前提として試用期間に関する事項を就業規則に規定しておく必要があります。
その事項は、以下のようなものになります。
① 試用期間の目的
② 試用期間の長さ
③ 試用期間中の賃金やその他の労働条件
④ 本採用しない場合の基準
⑤ 試用期間の延長に関する事項
⑥ 勤続年数の算定にかかる試用期間の取扱い
採用時には試用期間がある旨を従業員に説明しておくことが必要になるでしょう。より自社に適した人材を採用し、よりよい組織風土を築いていくためには、採用時に人材を見極めるようにする一方で、試用期間を利用し採用時には判断ができなかった点についても確認しておくべきです。そして、就業規則を整備するとともに、運用についてもチェックしておくことが求められます。
試用期間は、勤続年数に通算する旨を定めます。
試用期間中に適格と認められない者を本採用拒否するためには、就業規則において、試用期間の本採用拒否の旨を記載しておく必要があります。試用期間中に解雇(本採用の取り消し)の具体的な事由を定める事で『解雇紛争』を防止することができます。
就業規則規定例 2 試用期間は、会社が必要と認めた場合は、3ヵ月間の範囲で期間を定め更に延長することが出来る。この場合は2週間前に本人に通知する。 3 試用期間中を経て引き続き雇用される場合は、試用期間の当初から採用されたものとし、勤続年数に通算する。 4 試用期間中又は試用期間満了の従業員が次のいずれかに該当し、従業員として不適当であると認めるときは、会社は会社は雇用を解除することがある。 |
試用期間中の解雇や本採用の拒否は、通常の解雇の場合より広い範囲の解雇事由が認められております。
試用期間の法的性格について、判例では使用者の解約権が留保された労働契約(「解約権留保付労働契約説」)であるとの法理が確立しており、最高裁は、試用契約の法的構成が個別の試用契約ごとの具体的な問題であることを指摘しながらも、長期雇用制度下の通常の試用は解約権留保つき労働契約を構成するという判断基準を示しています(三菱樹脂事件 最高裁 昭48.12.12)。
「試用期間中の解雇は、解約権を留保した趣旨から、採用時には分からなかったが、試用期間中の勤務状態から判断して、その者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが試用期間を設定した趣旨・目的に照らし、客観的に相当である場合にのみ許される」
試用期間は「解約権留保つき労働契約を構成する」という判例法理は、期間雇用的な過渡的な労働関係にも拡張されており、雇用契約に期間を設けた新規採用の場合、その趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するものであるときは、期間の満了により契約が当然に終了する旨の明確な合意が成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、期間の定めのない労働契約下の試用期間と解すべきものとしています(神戸弘陵学園事件 最高裁 平2.6.5)。
本採用拒否をめぐる裁判例
いったん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇傭関係に入った者は、本採用、すなわち当該企業との雇傭関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、前記留保解約権の行使は、上述した解約権の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしてその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができる。
裁判では、それに該当した社員を勤務状況内規に照らし社員として不適格と判断した本採用拒否による解雇は正当とされた。
・経歴・学歴詐称
解雇を認めないもの(三愛作業所事件 名古屋高裁 昭55.12.4)
解雇を認めたもの(日本精線事件 大阪地裁 昭50.10.31)
判例の傾向としては解雇を無効とするものが多い。
・山武ハネウェル事件 東京地裁 昭32.7.20
本採用拒否が政治的信条を理由とする場合には、憲法14条・労働基準法3条に違反するとされた。
・日本コンクリート工業事件 津地裁 昭46.5.21
会社の試用期間中の社員の継続雇用に関する認定基準内規の試用期間中の出勤率90%に満たないとき、あるいは3回以上無断欠勤した場合などには、社員として継続雇用しないものとされた。
・雅叙園事件 東京地裁 昭60.11.20
総務経験者として採用したが、
(1) タイムカードのチェックなどの簡単な作業でも2日かかり、人事労務関係の書類の作成にもミスが多かった。
(2) 試用期間を延長した後も、給与計算や報告書のミスが何度注意されても直らず、仕事に対する注意力にも欠けていた。
などを理由とした本採用拒否について有効とされた。
・松江木材事件 松江地裁 昭46.10.6
業務の修得に熱意がなく、上司の指示に従わず、協調性に乏しいことを理由として、解雇を有効とした。
・持田製薬事件 東京高裁 昭63.2.22
中途採用の場合には、即戦力を期待している場合が多く、期待する能力に満たなければ「雇用を継続させることできないやむを得ない業務上の事情がある場合に当たる」として、労務管理上の解雇を有効とした。
・高橋ビルディング事件 大阪地裁 昭45.10.9
試用期間中の者に若干責められるべき事実があったとしても、会社には教育的見地から合理的範囲内でその矯正・教育に尽くすべき義務があるとして、解雇権の濫用と判断した。
・サカモト事件 大阪地裁 平15.9.26
会社が、試用期間中の原告の経理処理をもって経理担当者として不適切と判断したことは、合理的な理由があるというべきであり、経理担当の目的で雇用された原告の解雇は有効。
・小太郎漢方製薬解雇事件 大阪地裁 昭52.6.27
会社の人事課員として試用期間中の者に対し、賞与の袋詰作業中連続して4回も金額を数え違えたことなど初歩的な誤りが多いことを理由とする本採用拒否。些細なミスとは言えないが、人事課員としての職業能力を疑わしめるほどの過誤があるとはいえないとして、解雇を無効とした。
・ニッセイ電機事件 東京高裁 昭50.3.27
業績不振による本採用拒否が整理解雇の要件を満たさない限り無効とされた。
・新田交通事件 東京地裁 昭40.10.29
申請人が、試用期間中、粗暴な放言をしたり、軽率な発言等により同僚多数の反感を買う等、非協調性を明らかに示す行為があったため、会社は申請人を従業員として不適格と判断し、本件解雇に及んだものと認めるのが相当である。
・淡路交通事件 神戸地裁洲本支部 昭43.1.10
試雇傭中のバス車掌が乗務中、職場の先輩たる従業員に対し、車掌として不適当な言葉を使い、同人を立腹させ、上長の監督者から謝罪するように言われて謝罪したが、その謝罪に一片の誠意も見られない態度は、会社の期待を裏切ったものであり、車掌としての適格性を欠くとしてなした会社の解雇は有効である。
試用期間中の解雇については、最初の14日以内であれば、労働基準法20条で定められている解雇予告手続をとることなく即時に解雇することができます。しかし、試用期間中の解雇であっても、雇い入れから14日を超えて使用した場合には、通常の従業員を解雇するときと同様に扱わなければなりません。少なくとも30日前に予告するか、平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。
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