統合失調症の病型

 統合失調症の病気の現れ方は、人によってさまざまです。10人の患者がいれば、10人ともそれぞれ病気の現れ方が違うのが特徴的です。うつ病の場合は、10人いれば10人ともほぼ同じ症状・経過・転帰(病気が経過してほかの状態になること)をたどりますので、統合失調症の診断や治療の難しさがあります。また、1人の患者にすべての症状が現れるわけではありません。

 統合失調症はこのところ軽症化してきております。急速に荒廃状態になるケースは少なく、軽症のまま推移したり、神経症と見分けがつかないようなケースがあります。

 病型について明確に分類することは難しいのですが、これまでの伝統的な精神医学の中で分類された病型としては、「妄想型」「破瓜型」「緊張型」の3つが代表的なタイプです。このほかに「分類不能型」「統合失調症後抑うつ」「残遺型」「単純型」といったタイプもあります。

妄想型

 妄想型は、幻覚(幻聴)や妄想を伴うことが多い陽性症状が中心の病気で、統合失調症の中で最も多い病型です。感情鈍麻や思考貧困はほとんど見られず、あっても軽度のものです。そのため、患者の中には、妄想以外は一見問題なさそうな人も見られます。発症時期は他の病型より遅く18歳くらいで、中には30歳代の発症もみられます。

 妄想や幻覚には、抗精神病薬がほかの症状より効きやすいので、治療の面では進めやすいタイプです。ただし、患者によっては、少量の薬物で症状が改善する人もいれば、治療しても長期間にわたって症状が継続する場合もあります。また、感情が不安定で怒りっぽい人や、思考障害のためにひとつの判断に固執する人など、生活行動に問題があるケースもまれではありません。長期的にみると、高年齢で発病した人ほど予後がよいとされています。

破瓜型 

 破瓜とは「女性の16歳」の称のことで、この頃を『破瓜期(はかき)』ともいい、初めての月経が起こる15~16歳の思春期のことです。統合失調症の破瓜型は、もう少し年齢幅が広く、15~25歳の青年期に発病する病型で、男女を問いません。統合失調症は、人生でも前半の早い時期に発病する病気です。破瓜型が最も早く発症し、10代前半から始まる病気です。

 破瓜型の症状は陰性症状を主体としており、思考の障害が中心です。妄想や幻覚も起こりますが、あまり顕著ではありません。目立つ症状といえば、性格が急に変わったように見えたり、身なりがだらしなくなったり、また、奇妙な服装になったり、風呂に入りたがらないなど、生活行動に乱れが生じます。何をたずねても反応が少ないのが特徴です。感情が鈍っているのかと思うと、普段は温和なのが突然激しい感情のほとばしりを見せることもあります。過敏と鈍感が一緒に存在している状態です。静かで表情に乏しく、時にはニコニコと笑い顔を見せる人もいますが、これは表情を消す空笑いです。典型的な破瓜型の患者と接したとき、表面的な挨拶は交わせても、それ以上に互いの気持や感情を通じ合わせることが難しく、疎通性に乏しいと言えます。この人間的な接触の欠落こそ統合失調症の特性でもあります。したがって、家に引きこもり、自閉的になりがちです。

 治療においては、興奮した時などは薬が有効ですが、一般に破瓜型は生活指導を早くから根気強く行う必要があります。

 3病型のなかでは、最も予後不良の病型です。

緊張型

 破瓜型と並んで若年発症で、20歳前後で急激に発症します。妄想や幻覚はありますが、行動面の症状に隠れてわかりにくい面があります。妄想や幻覚の症状につづいて、理由のわからない不眠などのあとに緊張病症状が現れます。緊張病症状というのは、興奮した状態と昏迷(意識はあるが無動・無言)した状態をいいます。

 緊張病症状には次のようなものがあります。

興奮
 叫び声をあげながら壁にぶつかったり、戸を叩いたりします。時には暴力などがみられることもあります。

昏迷
 急に体を硬くして動かなくなったり、声をかけても返事をしない無言になったりします。意識は正常なのに全く反応を示さない状態です。

拒絶症
 食事もとらず風呂にも入ろうとしません。着替えをさせようとすると抵抗します。

表情の変化
 うつろな顔つきになって、急に眉をひそめたり、しかめっ面をしたり、また、尖り顔をしたりします。

硬直
 全身を曲げたまま、あるいは伸ばしたままじっとしています。

常同
 体を前後にゆするなどの同じ動作を繰り返します。

反響動作
 目の前の相手と同じ動作をします。

 これらの症状がすべて起こるというわけではありません。非常に興奮した状態(緊張病性興奮)か、または、極端に動きがなくなる昏迷の状態のどちらかの症状が多いようです。また、興奮が昏迷に変わったり、昏迷が興奮に変わったりすることもあります。興奮や昏迷などの症状が現れている最中は、妄想や幻覚などはありません。普通はこの緊張型の前後に妄想型や破瓜型の症状が認められます。また、感情的ストレスの後に緊張病症状が発現する場合もあります。 

 緊張型は薬がよく効いて、症状は比較的すみやかに消失し、正常な状態に戻ることが多い。時には、症状の悪化が繰り返され、周期性の経過をたどることもあります。症状が消えているときは それほど重篤な障害は残らず、ほぼ完全に治ります。緊張型の予後は比較的よいとされています。

 

その他の病型

分類不能型

 上記の3病型(妄想型、破瓜型、緊張型)のいずれにも属さない病型で、症状が重なっていたり、また、十分に強く出ていなかったりした時に診断されます。当初は3病型のいずれかに診断されていても、時間の経過とともにこの分類不能型に診断されることが多い。また、統合失調症の軽症化もこの病型を増やしている一因です。

統合失調症後抑うつ

 急性期の症状が改善したあとも、うつ病症状が持続する病型です。急性期にて入院治療を受けた患者の4分の1に生じています。 

残遺型

 診断基準に示されているような著明な症状はないが、何らかの陰性症状が長期間持続した病型です。長期経過後はこの型に分類されることが多い。

単純型

 陰性症状のみを呈する病型です。非常にまれにしか出現しない病型で、実際は経過中に陽性症状がなかったことを証明することは困難といわれています。

統合失調症はどのような経過をたどるか に続く