反社会性パーソナリティ障害

 反社会性パーソナリティ障害は、社会の規範を破り、他人を欺いたり権利を侵害したりすることに罪悪感を持たない障害です。

 精神病質、社会病質、あるいは非社会性パーソナリティ障害とも呼ばれます。診断するには、少なくとも18歳以上で、15歳以前にいくつかの素行症の症状が出現していることなどが要件になります。

 素行症とは、社会から要求される規範や規則を守らない行動の反復、持続です。たとえば、人や動物への攻撃、所有物の破壊、虚偽または窃盗、重大な規則違反などが挙げられます。

 この障害を持つ人たちは、窃盗や非合法な職業、飲酒運転、速度超過など、逮捕されるかもしれない行動を繰り返すことがあります。いらだたしく攻撃的な面があり、殴り合いのケンカに参加したり、家族に身体的暴力に及んだりするケースもあります。子どもがいる場合は、虐待やネグレクトや、育児放棄につながる可能性もあります。自分の利益や快楽(金銭、性交渉、または権力を手に入れること)のために、人を欺いたり操作したりするほか、将来の計画を立てられないために衝動的な行動に出る傾向が見受けられます。深く考えずにすぐ決断し、その結果について顧みることはあまりありません。自分の行為によって他人が傷ついても、「人生は不平等なものだ」「負けるほうが悪い」などと被害者を非難する言動をとりがちです。自分の行為を償ったり、行動を改めたりする発想を持たないのです。自説に固執し、自信過剰な傾向も見られます。口が達者で、専門用語や特殊用語を用いて自分を誇示するため、表面的な魅力を示すように見えることもあります。また、いつも極端に無責任な傾向があります。十分な理由もなく職に就かなかったり、繰り返し仕事を休んだりします。借金や子どもの扶養の放棄、浪費による家計破綻などもよく見られます。性的な関係においても無責任で、過去に多くの相手と関係を持っており、一人と関係を続けたことがない人もいます。

 こうした行動の結果、貧困やホームレス状態に陥ったり、刑務所で過ごしたりするようになるかもしれません。また、暴力的な方法(自殺、事故、殺人など)によって若くして死亡しやすい傾向があります。

 

原因

 従来のDSMの基準を用いた調査では、反社会性パーソナリティ障害の有病率は0.2~3.3%だとされています。しかし、アルコール使用障害があることや物質乱用外来、刑務所などにおける男性は70%を超えます。貧困や、移民などの状況におかれた人は、さらに有病率が高まります。不安症、抑うつ障害、物質使用障害、および他の衝動制御の障害を伴っていることもあります。

 

有病率

 従来のDSMの基準を用いた調査では、反社会性パーソナリティ障害の有病率は0.2~3.3%だとされています。しかし、アルコール使用障害があることや、物質乱用外来、刑務所などにおける男性は70%を超えます。貧困や、移民などの状況におかれた人はさらに有病率が高まります。なお、不安症、抑うつ障害、物質使用障害、および他の衝動制御の障害を伴っていることもあります。

 

経過

 小児期あるいは青年期早期より始まり、成人後も続きます。慢性の経過をたどりますが、40歳までに症状が軽くなったり、寛解したりすることがあります。犯罪行為に関与することについては、特に寛解することが多いと言われています。その他の反社会行動、物質乱用も減少するようです。

 

診断基準

診断基準: ICD-10

 他人の感情への冷淡な無関心。
 社会的規範、規則、責務への著しい持続的な無責任と無視の態度。
 人間関係を築くことに困難はないにもかかわらず、持続的な人間関係を維持できないこと。
 フラストレーションに対する耐性が非常に低いこと。および暴力を含む攻撃性の発散に対する閾値が低いこと。
 罪悪感を感じることができないこと、あるいは経験、特に刑罰から学ぶことができないこと。
 他人を非難する傾向、あるいは社会と衝突を引き起こす行動をもっともらしく合理化したりする傾向が著しいこと。
 持続的な易刺激性も随伴症状として存在することがある。
 小児期および思春期に後遺障害が存在すれば、いつも存在するわけではないが、この診断をよりいっそう確実にする。

診断基準: DSM-5

1 他人の権利を無視し侵害する広範な様式で、15歳以上で起こっており、以下のうち3つ(またはそれ以上)によって示される。
・法にかなった行動という点で社会的規範に適合しないこと。これは逮捕の原因になる行為を繰り返し行うことで示される。
・虚偽性、これは繰り返し嘘をつくこと、偽名を使うこと、または自分の利益や快楽のために人をだますことによって示される。
・衝動性、または将来の計画を立てられないこと。
・いらだたしさおよび攻撃性、これは仕事を安定して続けられない、または経済的な義務を果たさない、ということを繰り返すことによって示される。
・自分または他人の安全を考えない無謀さ。
 一貫して無責任であること。これは仕事を安定して続けられない、または経済的な義務を果たさない、ということを繰り返すことによって示される。
・良心の呵責の欠如、これは他人を傷つけたり、いじめたり、または他人のものを盗んだりしたことに無関心であったり、これを正当化したりすることによって示される。

2 その人は少なくとも18歳以上である。

3 15歳以前に発症した素行症の証拠がある。

4 反社会的な行為が起こるのは、統合失調症や双極性障害の経過中のみではない。

 

接し方のポイント

 反社会性パーソナリティの人は、今までずっと否定されてきた人生を送っている場合がほとんどです。よって、他人からの否定や批判に敏感でそれらに強く反発します。それゆえ、彼らに対してはできる限り否定的な反応を避けることが原則です。

挑発に乗らない

 それを実行するのは簡単ではありません。彼らは相手を試すかのように、挑発的な言動でこちらの心を揺さぶってくるからです。

 彼らの挑発に乗ってしまい、怒りを爆発させたり、罵ったりすると、彼らの思うツボです。軽蔑され、それ以上の関係の改善は足踏み状態になります。

 その挑発やテストに合格することが第一関門です。挑発に乗らないと少しずつ良い関係を築くことができます。目に見える言葉や態度に反応するのではなく、その背後にあるものが何か深く考えてみることが必要になります。

中立を保つ

 大切なのは敵でもなく、味方でもない厳正中立の立場を死守することです。

 親しくなりすぎると、友人としてではなく、利用対象としてみられ、つけ入られることになります。彼らにとって他人は敵なので、敵ではないことをはっきりと示す中立のバランスが求められます。それには、おどおどした弱腰な態度をしないことも含まれます。自分の立場、意見はどのようなものなのか、はっきりと決めておく必要があります。

 相手を攻撃しないようにしつつも、脅せば何とかなるなどと思われないよう、弱さを見せず、自分の考えを貫きましょう。

裏切りや搾取されることを覚悟で

 反社会性パーソナリティの人は自らを弁護し、かばってくれる人をさえ裏切ることがあります。

 「長い付き合いだから、恋人だから、家族だから、あの人にはこういう良いところがあるから」こういったことは通用しません。

 もし、これからも接触があるなら、覚悟を決める必要があります。お金を貸すなら、返済は期待しないようにしましょう。恋人や配偶者に選ぶなら、DVや裏切り、見捨てられることなどを覚悟で臨みましょう。

犯罪に巻き込まれそうな雰囲気なら逃げる

 友人や同僚などの関係で接することがあるかもしれません。もし、関わっていると自分も犯罪に巻き込まれそうな場合は迷わずに身を引くようにしましょう。

 彼らの中には、自分のすることは何でも許されると勘違いしていたり、犯罪行為をしても見つからない、見つからなければ何をしてもいい、見つかるのは愚か者だけなどといった考えが存在しています。

 ずるずると関わっていると、無理やり、あるいは脅されて、犯罪行為に加担させられるかもしれません。また、巧みに事を運ばれて、身代わりとなって罪を着せられることにもなりかねません。

受け入れるという選択

 反社会性パーソナリティの人は35歳くらいを境に少しずつ落ち着いてくる場合があります。もちろん、すべてのケースがそうであるとは限りません。

 彼らが変わるきっかけとなるのは、自分のことを誰かが受け入れてくれ、認めてくれるという体験であることが観察されています。無論、許してもらっても「得した」くらいにしか思わず、ますます調子に乗ることもあります。

 彼らは、すぐに変化するというより、誰かに許してもらい、認めてもらう受容を長期間、何度も体験することにより、それが次第に心に浸透してゆき、少しずつ生き方を変えてゆくといった感じです。

 人から心底信頼され、許されることで、人間不信や自分の間違った行動に疑問を持つようになるのです。

変わるきっかけ

 だれかに受容される体験のほか、反社会性パーソナリティの人が変化するきっかけとなるのは、身近な人の死です。

 仲間、恋人、根本的な恨みを抱いてきた家族が亡くなるとき、それまで抱いていた恨みや怒りの感情が静まり、自らの生き方を見つめ直すことがあります。

 また、本当に愛する人に出会ったときや自分の子供ができて、その育つ姿を目にするとき、彼らの内で変化が生じることがあるようです。それは他者を愛することを経験した時でもあります。

 自分自身がめちゃくちゃな生き方をしていたとしても、自分が愛する弱い存在に同じことを求めようとは思わないのです。愛する者への考え方が自らの生き方を考慮する助けになるようです。

 

治療

 基本的にはカウンセリングの治療が行われます。患者が自ら医療機関へ相談に来るのではなく、何かしらのトラブルがきっかけでカウンセリングを受けるところから始まることがほとんどです。特効薬があるというわけではなく、症状が改善するかどうかも本人の意思次第。治療といっても治療らしいことはほとんどできません。しかし、本人がこの症状に悩んでいればいるほど症状が改善する可能性も高くなってきますので、最後はあきらめないことが肝心です。

 反社会性パーソナリティ障害の場合、自ら治療の必要を認めて精神科を受診することは少ない。アルコール依存の治療で入院した場合など、治療を受ける機会があれば、自分を変えるための心理療法を始め、必要に応じて、気分の落ち込みなどに対処する薬物療法が行われます。

 反社会性パーソナリティ障害がどのような経過をたどるかは個人差が大きい。一般に症状がピークを迎えるのは10代後半と言われています。以後、年齢を重ねるにつれて症状が緩和することが多いようです。  

 反社会性パーソナリティ障害の場合、傲慢で怒りやすい印象の人を想像しがちですが、表面的に魅力ある人の場合もあります。本人のそれまでの行いを知らないと、感じの良い人だと勘違いしていまうこともあるでしょう。ただ、自分のためなら他人のことを顧みず、平気で嘘をついたり、後で深刻なトラブルを生じさせやすいのが、この病気の特徴です。  

 反社会性パーソナリティー障害は、いったん症状が顕著になると、そのまま症状が固定しやすい病気。症状が深刻化していく前の子供時代に、もしも問題行動が目に付くようなら、専門家に診てもらうのが望ましいと思います。

 ※参考文献

   『ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン(新訂版)』(医学書院)

   『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』(医学書院)