強迫性障害の原因・治療

強迫性障害の原因

 特別なきっかけなしに徐々に発症してくる場合が多く、原因もいわゆる心因(心理的・環境的原因)よりも、大脳基底核、辺縁系(帯状回)、前頭前野など、脳内の特定部位の障害や、前頭葉-皮質下回路の障害、セロトニンやドーパミンを神経伝達物質とする神経系の機能亢進が推定されています。 大脳基底核(淡蒼球・両側尾状核)の体積減少など、脳の形態学的変化も認められます。  

 遺伝に関しては、第一度親族に強迫性障害が見られる場合、障害発生率は10~20%となり、また一卵性双生児による一致率が60~90%と高いため、軽度の遺伝性を認めます。 小児期に、A群β溶血連鎖球菌の上気道感染によるリウマチ熱発症後の後遺症として強迫性障害が生じることがあります。  

 強迫性障害の人は、もともと几帳面、完璧主義、頑固、倹約家などの性格(強迫性格)の人に多くみられる傾向があります。

 強迫性障害 スピリチュアルな視点

強迫性障害の治療

 強迫性障害はなかなか自身だけで治そうと思ってしまうと、強迫行動を抑える行動がまた別の強迫行動に繋がってしまうことも多くあり、自分だけで治そうとせず、必ず周囲の人に相談することなどが重要です。

 治療の際には精神科や診療内科等を受診し、専門医による診察やカウンセリングを受け、薬を使ったり、行動や考え方のクセを少しずつ治していく治療がすすめられます。この障害は本人の強い考え方によるものなので、治療の際には長い期間がかかってしまうものですが、知識の豊富な医師やカウンセラー等のアドバイスを仰ぎ、焦らずに自らのペースで改善をしていくことが大切です。

 強迫性障害の有効な治療方法として以下のものが挙げられます。

強迫性障害 心理療法

強迫性障害曝露反応妨害法

暴露とは:
 エクスポージャーといいます。強迫性障害の症状のために不安・苦痛をもたらすものに直面しても、不安・苦痛が自然に減ると言うことを学びます。

反応妨害とは:
 儀式行為妨害とも呼ばれます。強迫行為をしたくなっても、あえて行わないことで、悪循環に戻らずに大丈夫であるということを学んでいきます。 たとえば、不潔恐怖の人が、汚いと思うものに実際に(ちょっとだけでも)触ってみて、苦痛や恐怖が徐々に減っていくのを体験するのが「曝露」です。 そして、その後手を洗ったりしないようにすることが「反応妨害」です。強迫観念と強迫行為とが組み合わさって悪循環となっている人が多いので、曝露反応妨害法として一緒に行われることが多いです。不潔恐怖の人が、手を洗わないようにするために、不潔恐怖を感じる物に面と向かうこと自体を避けてしまうのは、回避といい、これは反応妨害ではありません。こう書くと、これだけで怖く感じるという人や、「こんなこと私にはできない」と思ってしまう方も多いでしょう。

 治療にあたっては、いきなり曝露を行うのではなく、そこに至るまでに、次のような段階をたどるのが標準的です。

① 初回の面接
 治療者が医師なら初診、心理士ならインテークという初回の面接があります。そこで治療者は患者からの訴えを聞き、患者の抱えている状況についていろいろと質問をして調べます。

② アセスメント
 初回以降も何回か、さらに症状を調べます。この段階を、初期評価、アセスメントなどと呼びます。。

③ 心理教育
 認知行動療法が適当と判断されたら、患者や家族に対して治療法と病気についての説明が行われます。これを心理教育といいます。

④ 治療計画作成
 治療者が患者と信頼関係(治療同盟)を築き、曝露反応妨害法の治療計画を協同で作成します。治療計画では、どのような目標から曝露を始めるかを決めます。できそうなものから段階的に行うこともあれば、その人の生活に支障を来しているものに焦点を当てることもあり、ケースによってさまざまです。計画ができ、患者さんがそれに同意したら、曝露反応妨害法を行います。

 実際には、この間に薬を併用することも多い。また、認知への働きかけなど、他の技法が取り入れられることもあります。

 

曝露反応妨害法

 曝露反応妨害法では、不安を感じる対象に直面して、強迫行為などをしなくても、苦痛や恐怖が自然と減ってくることを学ぶのがポイントです。苦痛や恐怖が自然と減っていくということには、次の2つの面があります。1つは、1回の曝露で、不安の対象に直面しているうちに、時間とともに、そのような怖さが自然と減っていくことです。 治療計画に沿って行うので、何に直面するかは、その人の症状によって異なります。たとえば、外のトイレが苦手な人は、今まで避けていたトイレに行ってみたりします。戸締りの確認がひどい人は、カギを閉めた後、点検をしないで過ごすという反応妨害を練習します。

 曝露では、強迫の症状を打ち消そうとすると、かえって苦痛や恐怖は増します。まず、強迫の衝動を、しばらく共存するくらいの気持ちで受け入れます。そして放置しますす。そのような曝露を行い、主観的障害単位(SUD)を測ります。たとえば、曝露を始めた瞬間はSUDが90だったけれど、20分後には、それに比べると70、という具合です。 このような治療法をしたからといって、すぐには不安・苦痛がゼロという状態にはなりません。ゆっくりと不安・苦痛が減ってくるのですが、SUDを使わないと、その減ってくる感覚をつかむことが難しいのです。以前、「行動療法に挑戦したが、うまくいかなかった」という方にくわしく話を聞いたら、その人の受けた治療では、このSUDを用いていなかったということがありました。 もう1つの面は、そのような曝露を何日も、何週間も行い、回数を重ねることによって、恐怖や緊張が弱まり、平気なことが習慣になっていくことです。ただ、習慣になるには、外来で行っているだけでは回数が足りません。そこで、宿題(ホームワーク)として自宅で行い、次の外来で、結果を治療者に報告するという方法を取ることが多い。

利用のためのポイント  
 曝露反応妨害法は、患者が心理教育によって頭で理解したことを、実際に体を動かして、その効果を体験していく感じです。車の運転を覚えるのに、学科の授業だけでは無理なように、実技が大事です。

 

強迫性障害セルフモニタリング

 セルフモニタリング(自己観察)とは、患者が、自分の症状などを観察して、紙に記録するものです。

 たとえば、専用の用紙を自宅に持ち帰って、その表に、症状のあった日時、症状の内容、苦痛の度合いなどを書きます。  

 この苦痛の度合いとして、主観的障害単位(SUD)がよく用いられます。最高に不安・苦痛な状態を100点、不安・苦痛がまったくない状態を0点として、それに比べたら今の状態は何点かを評価する方法です。 セルフモニタリングは、アセスメントの段階でも利用しますし、曝露反応妨害法を、自宅でホームワーク(宿題)として行う場合にも利用されます。アセスメントの段階では、患者に症状に関する状況を書いてきてもらい、その結果を検討することで、治療者は認知行動療法をどのようにして始めていったらいいかなどを判断します。セルフモニタリングの記録を元に、症状をSUDの大きさによって並べた不安階層表を作ることも多い。これによって、曝露反応妨害法をどこから始めるかなどの治療計画を立てます。たまに、アセスメントの段階で、患者が「紙に書いてきてって言われたけれど、症状のために書けない」と言い、治療がそこで止まってしまうことがあります。しかし、これは患者が自宅でどの症状にどのくらい時間がかかり、どのくらい苦痛かなどという状況を、治療者が知ることが、主な目的なのです。患者が子どもだったり、症状のために自分で書けない場合は、家族が記録してもよい場合があるので、書けない事情を治療者に話してみてください。セルフモニタリングは、患者にとって、自分がとらわれていた状況を紙に書いてみることで、よりわかるようになるという効果もあります。これは、家計簿をつけてみることで、家計の状況がよくわかるのに似ています。そして、ホームワークの段階では、次の診察日に、治療者と患者とでその記録した結果を見ることで、治療の進行具合を共有し、検討することができます。また、患者にとっては、記録を保存し、読み返すことで、症状の改善度合いがわかるので、治療への動機を持ち続ける上での励みになります。

EMDR (Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理)

 EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理)は、PTSD (Post Traumatic Stress Disorder:外傷後ストレス障害)に対して最も効果的と言われ、注目されている治療方法です。

 その他にも、パニック障害や強迫性障害、社交不安障害、全般性不安障害、うつ病、躁うつ病などへの応用も期待されています。

 

強迫性障害 薬物治療

 強迫性障害においては、大脳基底核(尾状核・淡蒼球・被殻)から大脳辺縁系(帯状回)、前頭前野に至る神経経路の亢進及び活動性の亢進が原因とされ、前頭前野の神経終末での脳内神経伝達物質セロトニンの作用が弱くなっていることが明らかになっています。 そこで、脳内のセロトニンの量を増加させる薬を服用することが優先されます。

 強迫性障害の治療薬としては、抗うつ薬としても用いられているクロミプラミン(アナフラニール)があります。 クロミプラミンは三環系抗うつ薬です。 クロミプラミンは強迫性障害には即効性があり、副作用として、口の渇き、便秘などがあります。

 他の強迫性障害の治療薬としては、SSRIがあります。SSRIには、フルボキサミン(ルボックス・デプロメール)とパロキセチン(パキシル)があります。SSRIは、脳内神経伝達物質のセロトニン系受容体のみに作用し、三環系抗うつ薬と比べて副作用が少ないことが特長です。 SSRIの主な副作用としては、吐き気や食欲不振など消化器系の症状が特徴です。 SSRIは効果を発揮するのに6~8週間程度かかります。うつ病で使用するときよりも多い量のSSRIを投与する必要があります。その他、強迫性障害の治療薬として、抗不安薬が併用されることが多くあります。抗不安薬は、GABA受容体に作用し、文字通り不安を抑える作用を持つ薬で、即効性があります。 その他、タンドスピロン・クロナゼパムを用います。ドーパミン作動薬で強迫性障害類似の症状が出現することから、ドーパミン遮断薬である抗精神病薬(リスパダール・ジプレキサ・アリピプラゾール)を用いることもあります。  

 薬物療法に加え、暴露反応妨害法・EMDRなどを組み合わせて約2年間程度の治療を行います。

 薬物治療の有効率は50%程度と低く、不安階層表行動療法・暴露反応妨害法・EMDRなどの心理療法が治療においては非常に重要です。

 

強迫性障害 漢方薬治療

柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう):
 強迫観念や強迫行為と共に、神経質、対人恐怖、視線恐怖、人からどう思われているかという不安を伴う場合に用いられる。

柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう):
 強迫性障害からの2次性うつ病などに用いられる。

抑肝散(よくかんさん)・抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ):
 神経が高ぶりやすく、怒ってばかりでこだわりが強い人に用いる。強迫性障害に最も適した漢方薬。

甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう):
 強迫確認行為があるときの頓服として用いられる。

五苓散(ごれいさん):
 天候・湿度・飲水バランス・体内水分代謝に敏感になっている強迫性障害の患者が頭痛・頭重感・めまい・吐き気・むくみを訴える場合に用いる。

六君子湯(りっくんしとう):
 抗うつ薬を内服して吐き気の副作用が出ている場合に用いる。

 

強迫性障害 漢方薬治療

柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう):
 強迫観念や強迫行為と共に、神経質、対人恐怖、視線恐怖、人からどう思われているかという不安を伴う場合に用いられる。

柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう):
 強迫性障害からの2次性うつ病などに用いられる。

抑肝散(よくかんさん)・抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ):
 神経が高ぶりやすく、怒ってばかりでこだわりが強い人に用いる。強迫性障害に最も適した漢方薬。

甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう):
 強迫確認行為があるときの頓服として用いられる。

五苓散(ごれいさん):
 天候・湿度・飲水バランス・体内水分代謝に敏感になっている強迫性障害の患者が頭痛・頭重感・めまい・吐き気・むくみを訴える場合に用いる。

六君子湯(りっくんしとう):
 抗うつ薬を内服して吐き気の副作用が出ている場合に用いる。

 

 強迫症では、本人のみならず、家族など周囲の人にも著しい影響が及びます。特に深刻なのは巻き込み症状です。これは、例えば手洗いや確認などがちゃんとやれたかが心配で、大丈夫という保証を家族に繰り返し求める「保証の要求」や、ある儀式的行為(寝る前の鍵の確認など)を、大抵は本人の監視下で家族に強いる「強迫行為の代行」、そして、自らが作ったルール(帰宅した際の手洗いや入浴など一連の洗浄行為など)を家族にも従うよう強制する「ルールの強要」などがあります。通常、巻き込み症状は、経過と伴に生活全般に拡大し、ルールはより厳密化していきます。これも強迫行為と同様で、より完璧を求めて切りがなくなり、家族はいずれ応えきれなくなります。例えば、患者から「大丈夫か」と繰り返し尋ねられる「保証の要求」は、返答を繰り返す中で却って要求がエスカレートし(もっと真剣に言えなど)、納得して終えることが難しくなります。すると、患者の不安やイライラは高まりますし、一方、家族は長時間拘束されて疲労困憊するなど、心身に大きな負担がかかります。この場合、まず本人は他者を巻き込みコントロールしようとすることが結局は自分の思うようにならず、不安焦燥を招く不安定要因となりうるものと知る必要があります。一方、家族は過度の責任感や罪悪感を抱いており、要求に応えることが患者の為と考える傾向にありますが、結果的には要求に応えられず、不安や怒りを増幅させるだけとなります。この様な巻き込み症状の不合理性、非現実性を双方が理解し、ルールを決めて(例えば保証の要求は一回のみとする)、その実行を心掛けることは、病状の悪化を防ぎ治療環境を安定させる上でも重要です。

 他にも、家族がこの病気の理解に努めること、患者が治療を受けるよう根気強く支えること、患者自身が最も辛く苦しんでいることを忘れず、病気について責めないこと、ご自身の健康にも気をつけつつ、主治医にも相談しつつ無理なく一貫した応援を心がけることなどが大切です。

 

『強迫性障害』の認知行動療法

薬物療法と併用で効果をあげる

 強迫性障害における認知行動療法は、薬物療法と並んで効果が高い治療法です。認知とは「考え方、思い、言葉、視覚的なイメージ」のことで、行動とは「体を動かす」ことです。これを強迫性障害にあてはめると、強迫観念が認知に生じる症状であり、強迫行為が行動に現れる症状です。たとえば、汚染恐怖の人の場合でいうと、汚染されると思う強迫観念が認知の症状で、それによって過剰に手を洗ってしまう強迫行為が行動の症状になります。強迫性障害の治療は、この「認知」と「行動」の両面に働きかける技法です。

 認知への働きがうまくいくと行動面も改善され、行動面が改善されれば、強迫観念である認知や不安や恐怖の感情も改善されます。これらは相互に影響しあっています。また、認知行動療法は単独で行う場合もありますが、多くの場合、薬物療法と併用されることが多い。薬を使って不安を軽くしておくことによって、認知行動療法の課題にとりくみやすくなります。薬物療法と認知行動療法はまったく別のものではなく、薬を飲みながら生活の中でチャレンジしていきます。お金に触る、つり革にさわる、鍵の確認は1回だけ、トイレの後の手洗いは石けんを使わない、ドアノブにさわるなど、毎日の暮らしの中で、できなかったことを少しずつ出来るようにしていきます。

 

「学習理論」に基づく治療法

 「学習理論」というのは、その人の問題のある考え方や行動は、それまでの生活体験の中で誤った学習をしてきた結果だととらえる理論です。それを正しく学習し直して、考え方や行動を変えていこうというものです。認知行動療法は、この「学習理論」をふまえた治療法といえます。

強迫症状

 玄関のドアにきちんと鍵がかかっているかが気になり、何度も確認する症状がある。

認知の修正

 医師や治療者に正しい知識や情報を提供してもらって、一緒に行動実験をし、「心配する必要はないかもしれない」と考えるようになる。

行動の修正

 確認行動をしないで、がまんする練習をくりかえして行う。

馴化が起こる

 確認しないでいることへの不安に、だんだん馴化(徐々に慣れていくこと)していく。

 患者が強迫行為にかりたてられるのは、「なにかしなければ不安が強まる」という実体験ですが、不安から逃れようと強迫行為をくりかえすと、ますます恐怖や不安が高まるだけです。逃れようとしないで、がまんしていれば次第に慣れてきて、不安が和らいできます。そうした体験をつんでいけば、「逃げなくても平気」という正しい学習をすることになります。

 

責任感の拡大が認知のゆがみ

 手の汚れや玄関の施錠、また不吉な思いつきなどに心をとらわれ、なにか行動せずにはいられなくなる状態を、迫性障害といいます。ふと不安になることは誰にもあり、多くの人はそれをあまり深く考えず、大抵はやりすごすことができます。しかし、強迫性障害の人はそれをやりすごすことができず、何かしなければいけないという強迫行為にかられてしまうのです。  

 強迫性障害の発症メカニズムについて、まず「手が汚れていないかどうか」「家の鍵をしめたかどうか」などが気になること自体は誰にでもあることで、これを「侵入思考」といいます。ところが、強迫性障害の患者の場合は、この「侵入思考」に対して、非常に強い責任感を感じるようになり、その範囲が拡大して必要のないところまで責任を感じるようになります。手がきれいで、施錠も十分確認できているのに、さらに責任を感じ、不安という「侵入思考」に反応して、すぐに行動しなければ不安でたまらなくなるのです。そのまま反応しなかったら、後悔の念や罪悪感を抱くことになるため、手がきれいであっても、石けんをつけて何十回も手を洗ったり、何回も戻っては施錠を確認したりする儀式行動(反応)をとるようになるのです。「こんなに不安になるのだから、行動しなければ」と考え、「行動したら安心できた」という思いに変わり、反応したことを肯定します。この負の連鎖が、認知の歪みを増していくのです。そこで、この認知のゆがみである「反応しなければならない」という誤解を、「反応しなくてもいいのだ」、または「心配する必要はないのだ」という正しい認知に変える必要があります。 

 この場合の認知は、侵入思考とその侵入思考を拡大解釈しようとしている責任感ですが、修正しなければならない認知は責任感の方です。責任感を修正すれば、侵入思考は気にならなくなり、放置しても恐ろしい事態にはならないことが理解できます。この修正技法が「曝露反応妨害法」と言われるもので、不安と思うものに触ったり聞いたりして不安になっても、反応しないように練習します。つまり反応を抑える治療法です。

 

不安階層表の作成と治療の流れ

 考え方や行動を変えていくためには、自分の状態を知ることです。自分の症状を客観的に把握することによって、治したい症状を具体的に整理することができます。どんな時にどれくらい不安になるのか、自分で自分の症状をチェックしてみます。そして、何ができないのか、何を出来るようにしたいのか、具体的な治療の目標を考えてみる必要があります。セルフモニタリング(自己観察)といって、専用のシートを自宅に持ち帰り、症状のあった日時、症状の内容、苦痛の度合いなどを具体的に記入します。

 このように記録することで、目標と治す方法がみえてきますし、治療への意欲も高まってきます。苦痛の度合いを表す尺度としては、「主観的不安尺度表=SUD」、または「不安階層表」などが用いられます。不安・苦痛などがまったくない状態を0点、最も不安や恐怖を感じる状態を100点として、どんな時にどのくらいの不安や恐怖を感じるか、数値にして示します。

 たとえば「電気を消して、一度確認しただけで部屋を出る・・・30点」「台所のガスを消して、元栓を一度確認しただけで外出する・・・50点」「家族が家にいないときに、一度鍵を確認しただけで1人で外出する・・・100点」などのように、項目をリストアップして数値化し、それを不安・恐怖が強いものから弱いものへ順に並べます。ここで、認知行動療法を始めるまでの、標準的な流れを紹介しますと、最初に初期評価としての「アセスメント」があります。治療者と患者さんで、何回か面接を行い、治療者は患者さんからの訴えを十分に聞き、患者の抱えている状況を把握します。また、そのとき、セルフモニタリング(自己観察)といって、患者に症状の様子を自宅で記録してもらい、それを評価に利用したりします。

 次に行うのが「心理教育」です。これは認知行動療法の治療を始めるにあたって、患者本人や家族に対して、病気と治療法についての説明が行われます。

 この心理教育が終わったら、次は「治療計画作成」です。治療者と患者で治療計画を作成しますが、どのような順番で治療を始めるかを検討します。出来そうなものから始めることもあれば、生活に支障をきたしているものから優先して行うこともあります。

 治療計画ができたら、いよいよ治療開始です。

 

曝露反応妨害法

 認知行動療法の技法にはいろいろありますが、中でも効果が高いのが「曝露反応妨害法」と呼ばれる方法です。曝露反応妨害法は、受けた人の7割以上に症状の改善がみられ、効果の高い治療法です。これは、「曝露法」と「反応妨害法」を一緒にして行われる方法のことです。

 曝露法とは、強迫症状によって不安や苦痛をもたらすものにあえて立ち向かい、立ち向かうことで不安や苦痛を自然に減らしていく技法です。これをエクスポージャーともいいます。また、反応妨害法とは、強迫行動が起こっても、強迫行為をあえてしない方法を訓練します。これを儀式妨害法とも呼んでいます。たとえば、不潔恐怖の人が、汚いと思うものに実際に触ってみて、苦痛や恐怖を小さくしていくことを体感するのが曝露法で、その後、手を洗わないように訓練するのが反応妨害法です。  

 このように、曝露反応妨害法は、不安状態に自分を曝したまま(曝露)、不安を小さくする行為をしないようにがまんする(反応妨害)ことによって、強迫行為をおこなわなくても不安が軽減していくことを体感する治療法です。不安な状況にあえて向き合うことは、非常に勇気がいることです。そして、強迫行為をがまんすることは、非常に辛いことかもしれませんが、不安階層表を参考にしながら、不安の程度の低いものから始め、時間をかけて向き合っていけば、不安は徐々に軽くなっていくものです。

 

曝露反応妨害法をうまく進めるためのポイント
 ① 出来ることから始める。
 ② 家族の協力が不可欠。
 ③ 治療のルールを決めておく。
 ④ ある程度の苦痛があるが、徐々に弱まることを知っておく。

 

回数を重ねることで不安を解消

 曝露によって、苦痛や恐怖の感情に慣れてきて、その後自然と苦痛や恐怖が減っていく過程を「馴化」といいます。馴化には2つの面があって、一つは、1回の曝露で起こる苦痛や恐怖の程度の推移です。もう一つは、曝露の数を重ねることで、苦痛や恐怖が弱まっていくということです。一つ目の1回の曝露で起こる苦痛や恐怖の程度の推移ですが、たとえば、不潔恐怖症でカバンを地面に置けない人が、実際にカバンを置きます(曝露)。その後、カバンを拭いたりせず、じっと我慢します(反応妨害)。最初は、かえって苦痛や恐怖の度合いが増しますが、時間とともに、苦痛や恐怖が自然に減っていくことが実感できます。曝露する前は、苦痛の度合いが100点だったのが、曝露を始めて20分後には60点にまで下がってきた、ということを確認できるのです。2つ目は、曝露の回数を重ねた場合ですが、これは「人間の不安は習慣化する」という心理学の考え方に拠るもので、不安に曝され続けると、感覚のマヒから慣れが生じて、不安をあまり強く感じなくなるということです。最初は強い不安を覚えても、回数を重ねれば重ねるほど、不安の度合いが下がってきます。その結果、恐れていた状況に直面しても、不安は自然になくなるものだということが実感できるようになります。不安がなくなれば、強迫行為をする必要もなくなります。ただし、これを習慣化するためには、通院して治療を受けるだけでは回数が少なく、ホームワークとして自宅でも行うことが重要となります。

 曝露反応妨害法は、苦痛を取り除く治療ではなく、苦痛になれるための治療であることを認識することが、成功するための鍵となるのです。