摂食障害 診断基準

 摂食障害の診断はそれほど難しくありません。低体重なのに、活動的で治療に抵抗を示す場合は神経性無食欲症が疑われ、正常体重で大食や嘔吐を示す場合は神経性大食症が疑われます。

 診断基準にしたがって診断することは比較的容易ですが、治療を進めるにあたっては慎重を要します。まず、患者との人間関係を良好に築いて、患者の身体や精神状態、行動異常などを的確に把握することが重要ですが、それはそう簡単ではありません。患者自身やその親御さんから病歴の聴取、また診断基準をいかに適用するかが肝要となってきます。

 

病歴の聴取

 診断の手順としては、まず、病歴の聴取からです。聴取は、患者からの聴取と親からの聴取が必要になります。

①患者からの聴取 

 患者からの聴取で心掛けなければならないことは、自ら希望して受診したのか、それとも親や配偶者から言われて受診したのかによって聴取の仕方も異なってきます。自分から進んで受診したのであれば、治療に対する動機づけはかなり出来ていると考えられます。しかし、親から強制されて受診した場合は、患者と単独面接します。そして、親から受診するように言われた経緯について聴取しますが、その際、親の側に立った聞き方ではなくて、患者側に寄り添って共感的に接し、患者の感情や怒りを和らげるような対話が必要になります。患者の意志を尊重した治療が肝要であることを十分に説明し、協力を得られるようにします。また、このことを親にも伝えて納得してもらいます。

 神経性大食症の患者が単独で受診した場合は、受診したことを親は知っているか、また大食や嘔吐をしていることを親に打ち明けているかなどを聞いていきます。自分の行動を親に内密にしておくと、そのことがストレスを増強させたり、自尊心の低下にもなって大食を誘発する要因にもなります。親に伝えていなかったら、打ち明けたほうが良いことを話し、その時期は自分で決めるように説明します。

 次に、発症時期とその契機について聞きます。発症の契機については、例えばストレスなどで食思不振に陥る、体重を減らすためにダイエットを始める、母親からの注目を引くため、愛情を注いでもらいために食べなくなったりする、などのよって体重が減少した場合です。そして時期は、ダイエットなら低体重を生じたダイエットの開始時期、大食が生じた場合は最初に生じた大食の発症時期です。さらに、大食を生じた時の生活上の出来事の有無や内容についても聞きます。次に体重についても聞きます。摂食障害を発症する前の健康時の時の体重、体重減少が生じたときの一定期間の減少速度、現在の身長になってからの最低体重と最高体重およびその時期、そして願望体重などについても聞きます。そうすることによって、現在かなり低体重なのに、それ以上の体重減少を望む場合は痩せ願望が強いことが判断できます。

 次に、摂食行動や嗜癖行動についても聞きます。摂食量が減った原因が、食思不振なのか、無食欲なのか、ダイエットなのかを聞きます。大食については最近の1~2週間、また過去の最悪時の大食回数、大食が月経周期と関係しているかどうかも聞きます。排出行動については、嘔吐や下剤乱用の有無、あればいつ頃から、下剤の量と頻度、過剰な運動の有無、そして病院で利尿剤の投与を受けているかについても聞いておきます。嗜癖については、喫煙の有無、1日の量、動機などについて聞きます。喫煙すると食欲が低下して痩せると考えている人もいます。飲酒についても、頻度と量、アルコール依存や乱用の有無についても情報を得ます。

 その他、月経では初潮年齢や希発月経、無月経などの発症時期や持続期間、また月経異常と摂食障害発症時期との関係についても聞きます。神経性大食症の患者の中には、1ヵ月に2回の過剰月経の人もいます。月経の治療歴や現在受けている治療も聞いておきます。問題行動について、自分から話さない場合が多いので、問題行動調査票などを使って記入してもらいます。これにより、自傷行為、自殺、万引き、家庭内暴力などについて情報を得ることができます。この他、家庭・学校・職場などでの対人関係、親の干渉程度、父親像、母親像などについても聞きます。また、今まで治療を受けたかの有無、その効果や印象についても聞いておきます。

②親からの聴取

 まず、摂食行動や体重について聞きます。子どもの摂食量が低下した時期、家族と一緒の食事を避けるようになった時期、目立って痩せだした時期、食後すぐにトイレに行くようになった時期などについて尋ねます。家庭や学校や社会生活関係では、夫婦関係、養育方針、教育方針や教育歴、病気になってからの両親の子どもへの接し方、通学や通勤の様子、成績が下がりだした時期、不登校・欠勤などの有無についても尋ねます。問題行動についても、自傷行為、自殺企図、家庭内暴力、万引きなどについても聴取します。さらに今までに受けてきた治療についても聞きます。入院歴とその期間、治療前後の体重変化と摂食行動、また、外来通院の状態、転院した場合の理由などについて親御さんから情報を得ておく必要があります。

 

診察の注意点

 診察の際、会話を交わしながら視診でチェックするポイントがいくつかあります。それは、顔や四肢の痩せ具合、脱毛やうぶ毛の密生の程度、頬部の腫脹の有無、眼瞼や下肢の浮腫の有無、手背の吐きダコや手首切傷の有無、虫歯の状態、皮膚線条の有無などを、さりげなく観察します。

 次に、一般内科的所見についても調べる必要がありますが、中でも特に配慮するのが体重測定です。抵抗なく体重計に乗る患者は別として、抵抗する患者の場合が問題です。骨と皮だけのきわめて低体重であるにもかかわらず、体重測定を頑に拒否する患者もいます。その場合、強制的に測定をしないように留意することです。無理すると、次回から受診しなくなることがあります。患者に数字が見られない形での測定が可能かどうか、聞いてみる必要があります。

 神経学的所見については適宜行うとして、精神科的所見については、診察時の精神状態、診察への協力の程度、治療への動機づけの程度などを把握します。摂食行動異常や問題行動の評価については、自分で記入できる「摂食態度検査(EAT)」、「摂食障害調査票(EDI)」、「摂食障害症状評価票(SRSED)」、「大食症状調査票(BITE)」、「問題行動調査票」などを用います。

 

診断基準の使用

 診断基準で、最近もっともよく用いられているのが、アメリカ精神医学会の「DSM-Ⅳ」(精神疾患の分類と診断の手引き)と、WHO(世界保健機構)の「ICD-10」です。このほか、日本の厚生労働省研究班が作成した神経性無食欲症の診断基準や、DSM-Ⅲ-R、Feighnerの診断基準などが知られています。一般的に、研究目的ではDSM-Ⅳが、疫学調査ではICD-10が用いられています。

 

神経性無食欲症の診断基準

 以下、重要な項目について説明します。

① 体重の基準:
 DSM-ⅣとICD-10の基準では、標準体重より15%以上の体重減少となっていますが、ICD-10では標準体重は国や人種により異なるため、BMIで17.5以下も採用しています。日本人は民族的にスリムなので、20%の体重減少が採用されています。

② 食行動:
 食思不振、不食、絶食、節食、また、太りやすい食物を避けるなどの食行動異常で体重減少をもたらしますが、経過中には食物の貯蔵や盗み食いで多食になることもあります。体重増加を防ぐために自己誘発性嘔吐や下剤、利尿剤などの乱用を伴ったり、過活動で余分なエネルギーを消費する行動も現れます。

③ 歪んだ身体像:
 ひどく痩せているのに、痩せを認めず太っていると言ったり、お腹・お尻・大腿部・頬など体の一部が出ていたり太っていると信じ、病識がありません。

④ 痩せ願望:
 体重が正常範囲であっても、痩せ願望が強く、肥満恐怖がみられます。肥満していないのに肥満を恐れてダイエットに精を出したりします。

⑤ 無月経:
 無月経は3ヵ月以上持続することが必要で、女性ホルモン投与によって月経が生じても、無月経と見なされます。

⑥ 発症年齢:
 ほとんど25歳以下であるが、近年は14歳以下の低年齢化と、30歳以上の高年齢化が見られます。

⑦ 自己評価:
 体重が増えれば失敗したと思い、逆に減れば成功したと思い、自信を得ます。

 

◇DSM-Ⅳによる神経性無食欲症の診断基準

1 年齢と身長に対する正常体重の最低限、または、それ以上を維持することの拒否(例:期待される体重の85%以下の体重が続くような体重減少;または成長期間中に期待される体重増加がなく、期待される体重の85%以下になる)

2 体重が不足している場合でも、体重が増えること、または肥満することに対する強い恐怖

3 自分の体重または体型の感じ方の障害、自己評価に対する体重や体型の過剰な影響、または現在の低体重の重大さの否認

4 初潮後の女性の場合は、無月経、すなわち月経周期が連続して少なくとも3回欠如する(エストロゲンなどのホルモン投与後にのみ月経が起きている場合、その女性は無月経とみなされる)

 

病型を特定

制限型:

 現在の神経性無食欲症のエピソード期間中、その人は規則的にむちゃ食いや排出行動(つまり、自己誘発性嘔吐、または下痢、利尿剤、または浣腸の誤った使用)を行ったことがない

むちゃ食い/排出:

 現在の神経性無食欲症のエピソード期間中、その人は規則的にむちゃ食いや排出行動(自己誘発性嘔吐、下痢、利尿剤または浣腸の誤った使用)を行ったことがある

 

◇ICD-10による神経性無食欲症の診断基準

1 体重減少は(小児では通常のように体重が増加せず)、標準体重あるいは年齢と身長から期待される体重より少なくとも15%下回っていること

2 「太るような食物」を自らが避けることによって起こる体重減少

3 肥満に対する病的な恐怖を伴った太りすぎというボディイメージの歪みがある。このために体重の許容限度を低く設定して自らに課す

4 視床下部-下垂体-性腺系を含む広範な内分泌障害が顕在化する。それは、女性で無月経によって、男性では性的な関心と性的能力の喪失によって確認される(明らかに例外的なものとして、避妊薬に代表されるホルモンの補充療法を受けていると、神経性無食欲症の女性でも持続的な性器出血をみることがある)

5 神経性大食症(F50.2)の基準A、Bを満たさないこと

 

◇厚生労働省研究班による神経性無食欲症の診断基準

1 標準体重の-20%以上のやせ(3ヵ月以上)

2 食行動の異常(不食、多食、隠れ食い、など)

3 体重や体型についてのゆがんだ認識(体重増加に対する極端な恐怖など)

4 発症年齢:30歳以下(ほとんどが25歳以下、まれに30歳以上の初発)

5 (女性ならば)無月経(その他の身体症状としては、うぶ毛密生、徐脈、便秘、低血圧、低体温、浮腫などを伴うことがある。時に男性例がある)

6 やせの原因と考えられる器質性疾患がない

 

神経性大食症の診断基準

① 大食:
 DSM-Ⅳによると、一度食べ出すと途中で止められず、ある一定の期間内で通常食べる量より、明らかに多い食物を摂取するのを神経性大食症と定義しています。つまり、神経性大食症の病像の本質は、むちゃ食いをくり返すことで、食べることを制御できないという患者の感覚を伴う過剰な食事摂取のエピソードのことです。途中で食べることを制御できるかどうかが決め手となります。途中で止められれば神経性大食症としません。また、食べる量が多くても途中で止めることができれば、これも神経性大食症にはなりません。診断基準では一定の時間内とありますが、1日中だらだらと食べる患者もいますが、この場合も途中で止められるかどうかが決め手となります。また、DSM-Ⅳでは、むちゃ食いが最低週2回以上で3ヵ月間続くことが基準になっており、この条件を満たさない場合は、特定不能の摂食障害と診断されます。このことから、ICD-10で神経性大食症と診断されても、DSM-Ⅳでは診断されない場合も生じます。

② 排出行動:
 体重増加を防ぐために、自己誘発性嘔吐や下剤、利尿剤などを乱用して排出行動をしたり、大食後の絶食や過剰な運動などを行います。

③ 自己評価:
 痩せ願望は、神経性無食欲症ほど強くないが、肥満恐怖は強いため神経性無食欲症と同じように自己評価は体重によって過度に影響を受けます。

④ 神経性無食欲症との関係:
 神経性大食症と診断する際、診断の時点で神経性無食欲症の診断基準を満たしていないことが必要です。ただ、過去に神経性無食欲症と診断できる時期がある場合も少なくありません。 

 

◇DSM-Ⅳによる神経性大食症の診断基準

1 むちゃ食いのエピソードの繰り返し。むちゃ食いのエピソードは以下の2つによって特徴づけられる

(1)他とはっきり区別される時間帯に(例:1日の何時でも2時間以内)、ほとんどの人が同じような時間に同じような環境で食べる量より明らかに多い食物を食べること

(2)そのエピソードの期間では、食べることを制御できないという感覚(例:食べるのをやめることができない、または、何を、またはどれほど多く食べているかを制御できないという感じ)

2 体重の増加を防ぐために不適切な代償行動を繰り返す、例えば、自己誘発性嘔吐、下剤・利尿剤・浣腸・またはその他の薬剤の誤った使用による排出行動、絶食・または過剰な運動

3 むちゃ食いおよび不適切な代償行動はともに、平均して、少なくとも3ヵ月間にわたって週2回起こっている

4 自己評価は、体型および体重の影響を過剰に受けている

5 障害は、神経性無食欲症のエピソード期間中にのみ起こるものではない

 

病型を特定

排出型

 現在の神経性大食症のエピソードの期間中、その人は定期的に自己誘発性嘔吐をする、または下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用をする

非排出型 

 現在の神経性大食症のエピソードの期間中、その人は、絶食または過剰な運動などの他の不適切な代償行為を行ったことがあるが、定期的に自己誘発性嘔吐、または下剤、利尿剤、または浣腸の誤った使用はしたことがない

 

◇ICD-10による神経性大食症の診断基準

1 短時間の間に大量の食物を消費する過食のエピソードを繰り返すこと(週2回以上の過食が3ヵ月間以上)

2 食べることへの頑固なこだわり、および食べることへの強い欲求または強迫感(渇望)

3 患者は、次に示すうちの1項目以上のことで、食物摂取の増加による体重増加に対抗しようと試みる(代償行動)
(1) 自己誘発性の嘔吐
(2) 自発的な下剤使用
(3) 交代性にみられる絶食の時期
(4) 食欲抑制剤や甲状腺ホルモン剤または利尿剤のような薬物の使用。糖尿病患者が過食[大食]症になると、インスリン治療を故意に怠ることがある

4 肥満に対する病的な恐怖を伴う。太りすぎというボディ・イメージの歪み

 

診断基準にあてはまらない摂食障害

 DSM-Ⅳにおいては、神経性無食欲症や神経性大食症の診断基準の一部を満たさない場合は、「特定不能の摂食障害」と診断されます。

 特例不能の摂食障害の診断基準を示します。

 特定不能の摂食障害のカテゴリーは、どの特定の摂食障害の基準も満たさない摂食の障害のためのものである。例をあげると、

1 女性の場合、定期的に月経があること以外は、神経性無食欲症の基準をすべて満たしている

2 著しい体重減少にもかかわらず現在の体重が正常範囲内にあること以外は、神経性無食欲症の基準をすべて満たしている

3 むちゃ食いと不適切な代償行為(無理な排泄行動など)の頻度が週2回未満である、またはその持続期間が3ヵ月未満であるということ以外は、神経性大食症の基準をすべて満たしている

4 正常体重の人が、少量の食事をとった後に不適切な代償行動を定期的に用いる(例:クッキーを2枚食べた後の自己誘発性嘔吐)

5 大量の食事を噛んで吐き出すということを繰り返すが、飲み込むことはしない(チューイング)

6 むちゃ食い障害: むちゃ食いのエピソードを繰り返すが、神経性大食症に特徴的な不適切な代償行動の定期的な使用はない

 

鑑別診断

 痩せをきたす身体疾患や精神疾患が鑑別診断の対象になります。身体疾患の鑑別となる主なものは、脳腫瘍、糖尿病、シモンズ病、肝炎、膵炎、結核のほか、副腎皮質機能低下症、甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患も鑑別の対象になります。この一般的臨床検査を行うにあたっては、その症状や徴候、緊急度に応じて適宜に行われるもので、その結果、異常所見が発見されてもそれが一次的なものか、痩せによる二次的なものか判断が必要です。次に痩せをきたす精神疾患では、躁うつ病、統合失調症、心因反応などが鑑別対象になります。神経性無食欲症ほど痩せる疾患は、統合失調症の拒食状態ぐらいですので、鑑別は容易です。

摂食態度検査(Eating Attitudes Test ; EAT)

 この摂食態度検査(EAT)は、患者の観察から経験的に導きだされた摂食行動や態度に関する40項目の質問からなる検査票で、神経性無食欲症の患者さんの臨床症状を簡便に評価するのによく用いられます。自己評価は、各項目ごとに「いつも」「非常にしばしば」「しばしば」「ときどき」「たまに」「まったくない」の6段階で評価します。記入者は最もあてはまる項目に○をして、各項目の点数の合計を計算して診断基準をご覧ください。

摂食障害調査票(Eating Disorder Inventory ; EDI)

 この調査票(EDI)は、神経性無食欲症や神経性大食症患者にみられる摂食行動や心理的特徴を、包括的かつ多面的に評価することを目的に開発されたものです。

EATが神経性無食欲症患者の症状や行動特徴のみを評価しているのに対し、この摂食障害調査票は、①痩せ願望、②体型不満、③過食、④無力感、⑤完全主義、⑥対人不信、⑦内部洞察、⑧成熟恐怖の8つの下位尺度64項目からなっています。項目ごとに「いつも」「ほとんどいつも」「しばしば」「ときに」「めったにない」「一度もない」の6段階で自己評価します。 

また、8つの解釈度のうち、1痩せ願望、2体系不満、3日職の3尺度は摂食行動や体型に対する態度に関するもので、その他の④無力感、⑤完全主義、⑥対人不信、⑦内部洞察、⑧成熟恐怖の5尺度は、患者さんに見られる心理的な特徴についてのものです。

大食症状調査票(Bulimic Investigatory Test Edinburgh : BITE)

 この調査票(BITE)は、一般の人において大食症のスクリーニングのためと、神経性大食症の患者の症状とその重症度を評価するために作成されたものです。症状を評価する項目は30項目からなっていて、評価が20点以上であれば、大食症の可能性が高いことになります。

 次に、重症度を評価する項目は3項目あって、大食の程度は5段階で、排出行動の程度は7段階で答えるようになっています。重症度評価では5点以上が臨床的に重症であるとされています。

 

摂食障害チェック

大食症状調査票(Bulimic Investigatory Test Edinburgh : BITE)

 この調査票(BITE)は、一般の人において大食症のスクリーニングのためと、神経性大食症の患者の症状とその重症度を評価するために作成されたものです。症状を評価する項目は30項目からなっていて、評価が20点以上であれば、大食症の可能性が高いことになります。

 重症度を評価する項目は3項目あります。大食の程度は5段階で、排出行動の程度は7段階で答えるようになっています。重症度評価では5点以上が臨床的に重症であるとされています。

 

疾患の詳細

神経性無食欲症とは

 アメリカ精神医学会(DSM-Ⅳ-TR)による神経性無食欲症の診断基準を要約すると次の4点です。

1 年齢と身長から計算された標準体重の85%以上を維持することを拒否すること。

2 体重が不足している場合でも、体重が増えることや肥満になることに対する強い恐怖がある。

3 自分の体重や体型の感じ方の障害:

 自己評価が体重や体型に過剰な影響を受けている。または現在の低体重の重大さを否認する。

4 初潮後の女性の場合は、3回以上続けて月経がない(女性ホルモンを投与されたときのみ月経が起こっている場合は、無月経とみなす)。

病型

◇制限型

 現在の神経性無食欲症の間、定期的な大食や嘔吐、下剤・利尿剤・浣腸などの乱用をしていない。

◇むちゃくい/排出型

 現在の神経性無食欲症の間、定期的な大食や嘔吐、下剤・利尿剤・浣腸などの乱用をしたことがある]

 ここでは標準体重の85%未満と定めていますが、日本人とアメリカ人では体型のうえで大きな違いがあるため、それを考慮して現在日本では標準体重の80%未満を神経性無食欲症と診断しています。

 このように、標準体重より2割も体重が減少すれば、普通の健康的な人であれば「こんなに痩せてしまって!」と非常に心配になりますが、神経性無食欲症になると、この病的な痩せを異常と考えないところが、まさに神経症の病気そのものなのです。したがって、体重を増やそうとは思わないし、むしろ体重を増やすことに恐怖感があります。ですから、未治療の段階で、自分が痩せていることについて深刻な危険性をもたないのが神経性無食欲症の特徴なのです。また「むちゃ食い/排出型」の人に多いのは、痩せていないと自分は人間としての価値がない、と思うのが特徴的です。神経性無食欲症の間に、定期的に大食をし、定期的に嘔吐や下剤、利尿剤、浣腸などを乱用するようになります。一方、「制限型」の場合は、「むちゃ食い/排出型」のような、定期的な大食、嘔吐、下剤、利尿剤、浣腸などの乱用はありません。

 

神経性大食症とは

 アメリカ精神医学会(DSM-Ⅳ-TR)による神経性大食症の診断基準は次の5点になります。

1 大食を繰り返す。

 大食の特徴は次の2つ。

①大食時間として区別できる時間内に(例:1日のどこか2時間以内など)、ほとんどの人が同じような時間に同じような環境で食べる量よりも、明らかに多い食物を食べる。

②大食している間は、食べることを制御できないという感覚(例:食べるのを止めることができない、または、食べる物や食べる量をコントロールできないという感じ)がある。

2 体重の増加を防ぐために、不適切な代償行為を繰り返す。

 例えば、自分で嘔吐する、下剤・利尿剤・浣腸、そのほかの薬物の乱用、絶食、過剰な運動など。

3 大食および不適切な代償行為は、ともに少なくとも3ヵ月間にわたって、平均週2回以上起こっている。

4 自己評価が、体重や体型に過剰な影響を受けている。

5 現在、神経性無食欲症の診断は満たさない。

 上記1~4を満たし、同時に神経性無食欲症を満たす場合は、神経性無食欲症のうちの「むちゃ食い/排出型」という診断になる。

病型

排出型

 現在の神経性大食症の間、定期的な嘔吐、下剤・利尿剤・浣腸などの乱用をしたことがある。

非排出型

 現在の神経性大食症の間、絶食や過剰な運動などの不適切な代償行為をしたことがあるが、定期的な嘔吐、下剤・利尿剤・浣腸などの乱用はしたことがない]

 神経性大食症は一見“食べたい病気”のように見えますが、実は“痩せたい病気”なのです。では、なぜ痩せたい人が大食をするかというと、食べることで自分の気持ちを麻痺させたいという感覚や、ストレスを発散させたいという気持ちの現れです。体重が標準体重の80%以上あって、この大食症状があれば神経性大食症と診断されるのです。

 ここでいう大食症状とは、単に“食べ過ぎ”とか “だらだら食い”とは違います。明らかに大食行為の始まりと終わり(多くは嘔吐)があり、それが繰り返される状態(症状)をいいます。ひとたび、大食モードに入りますと、まるで人が変わったように、また、とりつかれたように食べます。大食衝動によって食べるため、自分の意志でもってどこかで止めることはまず出来ません。仮に、食べている最中に他人が入ってきて邪魔になり、一時的には止めても、その後また大食をする場合が多くなります。もともと痩せたいと思っている人が大食するわけですから、食べたあと太ってしまうと思いパニックになります。とにかく太りたくないので、大食した行為を埋め合わせるために、食べたらすぐに嘔吐をする人が多く、または下剤、利尿剤、浣腸などの代償行為をするのです。しかし、実際には、この代償行為は痩せる保証にはなりません。下剤を使えば、食物が腸に留まることなくすぐに排出されて太らないと考えがちですが、実際には水分の出入りだけで、脂肪分などには影響しません。下剤を使っていると太らないだろうという見かけ上の行為に振り回され、乱用が止められない人も多くいます。

 大食症と診断されるには、大食行為が平均して週2回以上あり、それが3ヵ月以上続いている場合です。それと、自己評価が体重や体型に過剰に影響を受けていることです。つまり、自分の体重や体型に過剰に反応するため、痩せれば人間としての価値が上がり、太れば価値が下がると考えます。また、痩せれば活動的になり、太ると家に引きこもる人もいます。さらに、痩せたいのに大食してしまうジレンマに苛まれ、抑うつ的になる人も多いです。

 神経性大食症は2つの病型に分けられます。1つは、嘔吐、下剤・利尿剤・浣腸の乱用をする「排出型」と、もう1つは排出行為をしない「非排出型」です。ただ、非排出型でも絶食や過剰な運動など不適切な行為をすることはあります。診断基準にもありますが、大食症の診断基準を満たしていても、体重が標準体重の80%未満で、かつ生理が3カ月以上続けて起きていない場合は、神経性無食欲症の〈むちゃ食い/排出型〉という診断になります。

 

特定不能の摂食障害とは

 摂食障害で生活の質がひどく損なわれているが、しかし、神経性無食欲症や神経性大食症の診断基準のどこにも当てはまらない患者のことを特定不能の摂食障害と呼んでいます。その中で、病名として確立してきたのが「むちゃ食い障害」です。このむちゃ食い障害(BED)は、DSM-Ⅳにおいては今後さらに研究を要する暫定的な診断名として分類されています。

 このむちゃ食い障害の本質は大食で、肥満しているタイプの人に多いです。そして大食への衝動は、しばしば味覚や食物の質と深く結びついています。しかし、大食はするものの、神経性無食欲症のような体重や体型へのとらわれはそれ程ありません。大食症の人が体重や体型で自分の価値を決めているのに対し、むちゃ食い障害の人は大食をコントロールできない自分に強い罪悪感を抱き、大食をしていることが原因となり自分の価値を低く決めているのです。体重や体型にとらわれないといっても、大食の結果太ることは情けないと感じ、痩せたいと思っています。とはいえ、神経性無食欲症のように痩せ過ぎの体重を目指しているのではなく、標準体重の範囲かそれより少し痩せたいと考えています。したがって、痩せるために嘔吐したり、下剤や利尿剤などの排出行為は基本的にはしません。それ以外は大食症とほとんど同じです。

 このほか、「体重が標準の80%未満だけれど生理はある人(生理以外は神経性無食欲症の診断基準を満たす人)」、「大食の頻度が診断基準(最低週に2回)ほどではないけれど長期間持続している人」、「大食はしないけれど体重を減らそうとして嘔吐をしたり、下剤を乱用している人」、「大量の食物をかんでは飲み込まずに吐き出す行為(チューイング)だけを長期間にわたり続けている人」などは、特定不能の摂食障害に分類されます。もちろん、特定不能の摂食障害は治療の対象となります。

 

神経性無食欲症の本質

 神経性無食欲症が発症する契機は、多くの患者さんに共通しているものがあります。それは、今まで普通にやってきた生活が、ある時期を境にそれがまったく通用しなくなり、知らない土地に一人放り出されて自分を見失ったような気持ちになった時に起こっています。そのタイミングが思春期です。子どもの頃から、親の言う通りに勉強を頑張って、良い成績をとれば褒められ、いい子でいれば皆から好かれます。そういう子どもは自分で努力するタイプですし、人に頼らず、自己責任で良い結果を出そうとします。

 ところが、思春期にはいると、様子ががらりと変わってきます。進学してどんなに頑張っても必ずしも良い成績はとれない。いい子にしていても、周りからは好かれるとは限らず、いい子ぶっていることがかえって嫌われ、理由もなくいじめられることもあります。また周りはグループをつくって群れ始める頃で、その中に素直に入っていけない自分がいます。このような環境や周りの状況変化などに出会うたびに、今まで自分がやってきたルールが崩れていき、通用しなくなることに気づくのです。つまり、自分の人生をコントロール出来なくなってしまうのです。その不安を何とかしようとして向けた行為が“拒食”です。食べることを拒む不食行為です。食べなければ体重は減ってくれて、自分の思った通りになり、努力が報われます。実生活が混沌としている中で、唯一のよりどころになるのが、食べないで体重を減らす行為です。それが自分にとって安心感と達成感を与えてくれるのです。

 こうして不食行動を起こした初期は、患者さんは活発で行動的になり、元気に明るく振る舞うことが多くなりますが、やがて安心感や達成感はだんだんと恐怖症へと変わってきます。不食をし続けなければならない、低い体重を維持し続けなければならない、という義務感に縛られ、現状を変化させる事への恐怖に襲われる日々となります。つまりは、体重へのこだわりが自分を苦しめるようになるのです。頭では多少の体重の増加は問題ないと理解しつつも、理屈ではないところで恐怖に苛まれます。この強迫症状が恐怖感を増幅させ、ますます深みにはまっていきます。さらにこの強迫症状は、周辺を巻き込んでいきます。例えば家族に、食事の用意の際に食物のグラム数の計算をきちっとやるように要求し、やってもらえないと激しく怒りますが、家族は当然「いい加減にしなさい!」と言って逆に患者さんを叱ることになります。自分は不安を回避しようとしてやったことが、家族から叱られることによって、ますます不安が強まります。その不安が、不合理なものであることは本人が一番よく解っていますので、周りが説得しても効果はありません。

 

神経性大食症の本質

 普通、人間の摂食行為は生物として生きるための本能的なものです。何らかの理由で食物摂取が出来なくなって、飢餓状態に陥れば、人間は自分の生命を守るために食思が自然と旺盛になり、大食することで生命の維持をはかろうと懸命になります。そして、栄養的にもカロリー的にも十分に満たされると、大食の行為は自然と解消されます。これは、人間の生体防御能力による自然な営みです。

 しかし、神経性大食症の大食行為は、これとはまったく別なものです。標準体重の範囲であっても、大量の食物を食べては吐いたり、下剤を飲んで排泄する行為は、神経性無食欲症の痩せ願望と同一線上あるもので、病気そのものです。これは、患者の心や気持ちの本質にかかわっていて、発症の要因はさまざまですが、いずれにしても自身の内にあるモヤモヤしたネガティブな気持ちから逃れたいというのが動機にあります。ストレスが引き金になって、その発散のために大食をする人もいれば、とにかく自分の気持ちを麻痺させたいという感覚で大食にのめり込む人も多くいます。もともと大食症になる人は、対人関係で自己主張することが苦手です。自己主張できないために、他人に振り回され、相手に伝えられないまま内に抱え込んで、それを大食することで一時的に心のバランスをとっているに過ぎません。そして、大食に対する罪悪感や嫌悪感も手伝って、精神的にもさらに悪い状況に陥ります。

 

病気としての摂食障害の苦痛

 摂食障害は、行き過ぎたダイエットと思われている人もいますが、根本的には性質が異なります。ダイエットは単なる食事制限による体重減少ですが、摂食障害はれっきとした病気です。病気というのは心身ともに苦痛を伴うものであり、自分で症状をコントロールできないものです。傍から見ていると、摂食障害の患者は好んでダイエットをしているように思えますが、本人からすれば、体重が増えることへの恐怖感から、苦痛を押し通して痩せるために食事制限を行っているのです。その苦しさは、他人には容易に理解できないものです。

 例えば、神経性無食欲症であれば、健康な体の指標としての標準体重がある中で、それを20%以上も体重減少させた時点で、もはや病気の状態と言えます。まともな物は食べませんから、栄養状態は非常に悪く、なおかつ栄養を摂取しない、摂取してもすぐに嘔吐したり排出する、といった悪循環に自分の身を置いているのです。それでも、本人はそれが病気であるという認識が持てないのです。この神経性無食欲症という病気は、治すのも怖いし治らないのも怖い、というきわめて心の不安定さがこの病気の本質にあります。不食の症状が長引くと、日常生活においてもさまざまな制約を受けることになります。他人と一緒に食事ができない、身近な人の食べ物が気になって仕方ない、痩せすぎているために好きな洋服が着られない、子どもが欲しくても妊娠できない、痩せていると硬い椅子に座るときに骨があたって痛くて座れないなどがあり、それらを自由に行うことができる健康な人がうらやましく思えるようになります。それは、神経性大食症においても同様で、大食を維持するための経済的な不安、ゴミ処理などの苦痛もあります。なによりも大食そのものをコントロールできない自分、大食しては嘔吐する自分への強い嫌悪感などの苦痛が常にあります。

 

こんな人が摂食障害になりやすい

 世の中の多くの若い女性が「痩せたい」と思い、老いも若きもダイエットを行っている風潮の中で、ダイエットするすべての人が摂食障害になっているというわけではありません。もちろん障害となるリスク要因はたくさんある時代ですが、やはり摂食障害になりやすい人、なりにくい人はいます。神経性無食欲症になりやすい人というのは、基本的に「不安」が強い人です。もともと努力家ですので、それが機能している間はしっかりした人であり、きちんとした人ですが、ひとたび自分のルールが機能しなくなったような状況では、その変化に対応しきれず、一人大海に放り出されたように気持ちになって強い不安感を生じます。この不安が「不食」へと向かいやすくなるのです。不食になりやすいタイプの人というのは、「自分のペースでやりたい」、けれども「それを私はこうやります」と人に対して自己主張できないタイプです。「努力すれば報われ、いい子にしていれば褒められる」という状況にある時は問題ありませんが、この2つの要素が両立できなくなった時に苦しみます。この苦しみが「不食」という病気につながっていくものと考えられます。そしてそれを促進させている要因のひとつに生育環境等もあると思います。

 一方、神経性大食症になりやすい人というのは、「自分が嫌いだ」「自分を好きになれない」という強い感情を常に溜め込んでいる人です。自分を嫌いだと思う気持ちが蓄積されている例として、自分自身が虐待を受けたことがある、両親が不仲なのは自分のせいだ、両親が離婚できないのも自分のせいだ、といった事例などは典型的な例です。虐待の被害にあっていて、自分を好きだという人はいないでしょう。また、批判的な親や、世間体を優先させる親がいた場合でも、自分が好きになれないことが多いのです。自分を好きになれない理由というのは、自分の本心を人に言えない、肝心なことが言えない、その苦しさを胸にいっぱい溜め込んでいて、そのエネルギーが大食症を引き起こす引き金になっています。

 

身体・精神・生活面に及ぼす影響

身体面への影響(身体合併症)

1 血液の異常:
 さまざまな程度の貧血症状があります。白血球の減少もしばしば認められ、重症の場合は血小板まで減少します。ただし、かなりひどい痩せにもかかわらず、血液検査で正常範囲内を示すことがありますが、これは痩せて循環血液量も減少して血液が濃縮されているために、見かけ上は正常値を示すからです。

2 電解質の異常:
 極端な摂食制限や嘔吐によって低カリウム血症が生じます。低カリウム血症は、心臓に影響して不整脈を引き起こし、突然死の原因になることがあります。また希ですが、極端な塩分制限による低ナトリウム血症で、けいれんが起きることもあります。

3 循環器系の異常:
 低体重になると、徐脈や不整脈、低電位差、STIT変化、QT時間の延長、T波異常などの心電図異常がみられます。また、胸部X線で心陰影の縮小、心エコーでは左室径・右室径・大動脈径の減少、左室重量の減少などが認められています。

4 消化器の異常:
 亜鉛の摂取量が減少して血中濃度が減少すると、味覚障害が起きて、味付けが極端になります。また低栄養状態になると、胃や腸の粘膜が萎縮し、消化管の運動の停止によると考えられる腸閉塞症も希に起こります。その他、胃の内容物の排泄時間が遅くなるため食後の腹部膨満感や、腸機能の低下によると考えられる便秘も起こります。大食による影響としては、嘔吐のために唾液腺が刺激され、おたふく風邪のように顔が腫れたようになります。また胃拡張や嘔吐による食道の傷も生じます。消化機能の低下や血便が出たりします。

5 肝機能障害:
 低栄養状態が続くと、肝臓の酵素が軽度に上昇します。また飢餓状態になると、重篤な肝障害を引き起こして希に死亡することもあります。

6 腎機能の異常:
 腎機能が低下し、浮腫が生じます。

7 ホルモン系の異常:
 低体重で低栄養状態になると女性ホルモンが減少し、そのために無月経や甲状腺ホルモンが低下したり、副腎皮質ホルモンの上昇などの異常が生じます。これは脳の視床下部の機能異常によるものと考えられます。

8 脂質代謝の異常:
 摂食制限や不食によって脂肪をほとんど摂らず、低体重なのに、血中コレステロール値がしばしば上昇します。原因はコレステロールの胆汁への排泄低下やコレステロール代謝が低下するためと考えられます。

9 骨・筋肉系の異常:
 神経性無食欲症になると骨粗鬆症が進み、骨折することがよくあります。また思春期前に神経性無食欲症になると身長の伸びが停止します。筋肉系の異常としては、筋肉の萎縮が認められています。

10 中枢神経系の異常:
 睡眠が浅くなって不眠症になります。原因は不明ですが、脳波異常や希に全身けいれん発作も起こります。さらに脳のCTスキャンやMRIで脳萎縮像がみられ、認知機能や集中力が低下することもあります。

11 尿の異常:
 急激な体重減少により、尿中にケトン体が生じます。

12 皮膚系の異常:
 皮膚が乾燥してたるみやしわが増えます。またうぶ毛が濃くなり、頭髪の脱毛が生じます。

13 歯の異常:
 嘔吐を繰り返すため、胃散が口の中に上がって歯のエナメル質や象牙質が溶けて、虫歯になりやすくなります。30歳代で歯が脱落してしまう人もいます。

14 膵臓の異常:
 膵炎を発症したりします。

 

精神面への影響(精神合併症)

1 うつ気分:
 神経性無食欲症においては低栄養や体重減少によって、また、神経性大食症においては大食して嘔吐を繰り返し、自己嫌悪となって無気力やうつ気分が生じます。特に神経性大食症の場合、抑うつ気分が生じるため、それを解消するために大食し、その後再びうつ気分が生じるといった悪循環に陥ります。うつ気分とは、ふさぎ込んで意気消沈し、物悲しい気分になることです。

2 強迫症状:
 強迫とは、自分では望まないのに、つまらない考えや感情などが頭にこびりついていて、それが何度も頭に浮かんできて抑えようとしても不可能な状態をいいます。摂食障害においても、自分では望まないのに、意味のない行動を繰り返して行い、それをしないと不安にかられます。この傾向性は神経性無食欲症においては顕著で、食物やカロリーに対しては強いとらわれがあって、痩せるために徹底したダイエットや過剰な運動をします。この強迫症状は、痩せれば痩せるほど強くなり、古くから神経性無食欲症との関係が指摘されてきました。

3 性格の変化:
 神経性無食欲症と性格は古くから研究されてきたテーマです。フランスの精神医学者・ジャネは、神経性無食欲症の人を強迫性タイプとヒステリータイプの2つに分類しました。その後も研究され、完全主義的で強迫的タイプ、内気で恥ずかしがり屋タイプ、内向的で強迫タイプ、親の夢を満たす完全で手のかからない良い子タイプなどが指摘されました。いずれも、完全主義的で強迫的な性格傾向を表しています。几帳面で、生真面目で、何事もきちんとしている良い面と、物事にこだわり頑固で融通が利かないといった悪い面を持ち合わせています。ところが、病気になって大食をし、嘔吐するようになると、性格が変わって衝動的になり、我慢ができない性格に変わります。

4 不安:
 摂食障害の場合、体重の増加や肥満に対しての不安や恐怖が常にあります。神経性無食欲症においては食事時に緊張と不安が高まり、神経性大食症においては大食後の体重増加が不安になります。この不安や緊張を緩和するために、嘔吐や下剤の乱用が行われるのです。不安や緊張が続くと、体の調子が悪くなって、動機や息切れ、腹痛や下痢、頻尿や手のひらの発汗などが生じてきます。

5 集中力の低下:
 低体重で栄養不良になると、脳の働きが弱くなって考える力がなくなります。頭が冴えず、物事に集中できないため同じことを考えて堂々巡りになります。

6 イライラ感:
 気分がイライラすることが多く、家族や友人、同僚や仲間との人間関係がうまくいかなくなります。そして、家庭や学校や職場でさまざまな問題を起こし、結局まわりの人たちと仲違いすることになります。

 

行動面や社会生活への影響

1 儀式的行動:
 神経性無食欲症や神経性大食症になると、いつも決まった行動パターンを儀式のように繰り返すようになります。不安や恐怖や嫌悪感があっても、儀式を繰り返さないと気が済まなくなります。これは、強迫症状や完全主義的傾向と深くかかわっています。

2 過剰な運動:
 とにかく太ることが嫌だから、何キロも走ったり、常に体を動かしたりして過剰な運動をするようになります。じっとしていると、カロリーが脂肪となって太るのではないかという不安や恐怖が根底にあります。また、座ったり眠ったりして休むことは怠け者の証拠だと考え、罪悪感をもつ人もいます。

3 うそをつく:
 うそをつくことが、日常茶飯事になります。たくさん食べたと言ったり、また食べたように見せ掛けたり、体重をごまかしたりします。

4 家族や友人関係:
 摂食障害になると、家族や友人からのけ者にされたと感じます。人付き合いが嫌になり、次第に周囲から孤立していきます。最初のうちは、周りの人も患者を心配して話しかけたりしますが、そのうちにかかわらなくなると無視されたと思い、怒ったりします。ますます周りの人たちも避けるようになります。例えば、食物を小さく切り刻んだり、食べ物の真ん中だけを食べたり、食事に関して厳しい規制をつくったりする食生活を見たりすると、周りは患者を避けるようになります。家族や友人は、健康や体重の話題にまったく触れなくなるか、そのことばかりを口にするかのどちらかになります。

5 学校や仕事での挫折:
 神経性無食欲症の人の関心といえば、ただひとつ痩せることだけです。やせ細った患者を見て、友人や周りの人たちはそれが病気であることを察しても口に出しては話さなくなり、やがて患者から離れていきます。本人も世間からおかしな目で見られたくないと思い、必死になって勉強したり働いたりしますが、結局は挫折してしまいます。

6 社会からの独立:
 食事も家族と一緒にしなかったり、友達との食事や集いにも言い訳をして顔を出さなくなっていくと、孤立しかありません。減量に夢中になればなるほど孤立して寂しくなり、ひとりぼっちになります。また、大食して肥満傾向になれば、太った自分を見られたくないと思い、外出しなくなって引きこもりになります。

摂食障害 治療方法 に続く