認知症の治療方法

認知症のリハビリ療法

 認知症の治療方法の一つとして、リハビリテーションが挙げられます。

リハビリの効能

 認知症の治療は、一般的に薬物療法とリハビリテーションを組み合わせて行います。

 認知症では、脳の神経細胞が壊れることで記憶障害などの中核症状が出ますが、一度壊れた神経細胞は元には戻らないため、その細胞が担っていた機能を取り戻すことはできません。ですから、認知症の治療とは残っている機能を維持しながら病状の進行を遅らせ、日常生活に支障となっている症状を軽減することが主な目的となります。

 一方で、中核症状に本人の性格や環境などが加わって起こる妄想や幻覚、徘徊などの周辺症状についてはリハビリで改善が見込めます。というのも、脳の神経細胞は全てが活動しているわけではなく、眠っているものもたくさんあるため、「見る」「聞く」「嗅ぐ」「味わう」「触れる」といった五感を使ったリハビリで脳に刺激を与えることにより、細胞を目覚めさせ、破壊された神経細胞の代わりとなって活動するようになる可能性があるからです。

 

効果的なリハビリのポイント

 リハビリを効果的に行うポイントは、「体を動かす」「考える」「心の満足」の3つをできる限り同時に取り入れることです。

 考えながら適度な運動を行うことで脳に刺激を与え、他者からの感謝などを通して心の満足が得られる、といったイメージです。例えば、料理はお湯を沸かしながら野菜を切るなど、段取りを考えながら複数の作業を同時に行うことが多く、脳の活性化が期待されます。料理以外にも、掃除、洗濯などの家事ができるようになると、家族から認められ、自分が必要とされている気持ちを持ちやすく、心の満足も得られやすいのです。

 家事以外にも、大工だった人には木工を、農家だった人には野菜の栽培を任せるといったように、その人の過去の仕事や趣味などを生かすことも効果的です。仕事や趣味で繰り返してきた動作は、認知症になっても覚えていることが多いため、失敗が少なく、その人の能力を発揮させられます。複雑な動作が難しい場合は、階段の上り下りや掃除など、できることから始めると良いでしょう。目標を立てるときには「着替えができるようになる」「畑仕事を再開する」など、その人に合った具体的な内容にすると達成したときの満足感が高まります。病状が進行して寝たきりの状態にある場合は、まずは座った生活を目標にすると良いでしょう。座ることで心肺機能や体のバランスを取る機能が高まり、座った状態を継続することで体力もつきます。

 

リハビリを行う上での注意点

 注意点としては、無理強いしてストレスを与えないこと、家族や介護者が常に本人を尊重する気持ちを持つことが大切です。認知症の人は記憶をなくして介護生活を余儀なくされていますが、子どもではありません。  

 子ども扱いをするなどしてプライドを傷つけないようにしましょう。また、なるべく本人のやりたいことを優先させ、嫌がるようであれば、別のリハビリを検討してみてください。

 

リハビリの種類

音楽療法

 音楽を聴いたり歌ったりすることで気持ちが落ち着いたり、気分が良くなったりする経験をしたことのある人は多いでしょう。音楽療法は、こうした効果で認知症の症状の改善を目指すリハビリテーションです。その方法には、音楽を聴くだけの「受動的音楽療法」と、自ら歌を歌ったり、楽器を演奏したりする「能動的音楽療法」があります。受動的音楽療法が取り入れられるのは、食事や介護などの場面です。音楽を聴きリラックスすることでスムーズに食事ができ、介護時の抵抗が和らぐといったことが期待されます。  能動的音楽療法では、複数人で合唱やカラオケ大会をしたり、音楽に合わせて体操やストレッチなどの簡単な運動をしたりします。いずれの療法も、採用する音楽は気持ちが落ち着きやすいクラシックや当人にとって懐かしい歌謡曲、演歌、童謡、唱歌などです。

 音楽を聴いたり歌ったりすることで、脳の血流が増し脳が働くためのエネルギー源である糖が運ばれる量も増えます。それによって脳が活性化し、徘徊など認知症の周辺症状において、下記のような症状の改善が見込まれます。

・行動面・・・徘徊、暴力、食行動の異常、睡眠障害、自発性、協調性

・心理面・・・不安、興奮、慢性的な落ち込みなどのうつ症状、無気力、妄想、幻覚  

 能動的音楽療法の特性を生かした効果も挙げられます。その一つが、ADL(日常生活に必要な基本的な動作)の向上です。歌うことで発声や発語、嚥下、運動機能が高まるとされ、タンバリンやカスタネット、ベルなど簡単に音が鳴らせる打楽器などを使って体を動かすとより効果的だと言われています。音楽療法は、歌うことが好きだった人や楽器を習慣的に演奏していた人に対して行うことで、より高い効果が期待できます。また、合唱などを通して友人や人とのコミュニケーションが増え、徘徊やうつ症状などの悪化を防ぐとも言われています。孤独などによるストレスが症状の悪化に起因しているためです。

音楽療法の取り入れ方

 こうした音楽療法をどのように取り入れていくかですが、望ましいのは、専門家である音楽療法士の指導を仰ぐことです。音楽療法を取り入れている医療機関や老人福祉施設などでは、音楽療法士が対象者のニーズや能力に合わせて歌や演奏、振り付けなどを決めてプログラムを作り指導してくれます。個人向けに訪問して音楽療法を提供している企業もあります。近くに音楽療法を行っている施設や企業がなければ、家族が当人の好きだった歌を聴かせるなどして反応を見てみても良いでしょう。コミュニケーションを図る良い機会になるとともに、家族の心のケアにも役立つ場合があります。

回想法

 楽しかった記憶を引き出して心の安定を図るリハビリです。新しいことは忘れてしまう一方、昔のことは覚えていることが多い認知症の特徴を踏まえたものです。過去によく使っていた生活品やおもちゃなどを手に取ってもらい、当時の体験を思い出して話してもらいます。

アニマルセラピー

 アルマルセラピーは「動物介在療法」といい、動物とのふれあいを通して精神的な健康をもたらす治療法です。

 ペットとして動物を飼う、子供がいない夫婦が子供代わりに動物をかわいがるなど、私たち人間と動物は密接な関係性を持っています。言葉は通じなくても、そのしぐさや行動に愛らしさや癒しを感じ、世話をしたいという気持ちに駆られるものです。この心の働きは認知症の予防や改善にも効果があります。アニマルセラピーでは、専門家の指導のもとでセラピー用にトレーニングを積んだ動物とふれあいます。動物が好きな人や、以前動物を飼っていた経験がある人に特に適したリハビリといえるでしょう。

 アニマルセラピーがもたらすもっとも大きな効用は、心身の安定を図ることです。特に認知症にかかると、表情が乏しく、無口になり、自発性がなくなる傾向にあります。これは今まで自分が人の世話をしていたのに、逆に世話をされる立場となり、自信を無くし落ち込む心理が働くためであると考えられています。しかし、自分よりも小さく、世話をしてあげないといけないと感じさせる動物と触れ合うことで、自信を取り戻すことができるのです。また、何かしてあげたいと言う人間らしい感情を取り戻し、表情が豊かになり言葉も増えます。使命感や世話をするという役割を意識することで、脳機能の改善にも働きかける事が出来ます。

ロボットを使ったアニマルセラピー

 アニマルセラピーは動物と触れ合う為、動物が苦手な人には負担となることもあります。また相性もあることから慎重に行う必要があります。動物が好きな方でも、最初は負担にならないように1時間程度からはじめ、反応を見ながら徐々に時間を伸ばしていくようにしましょう。

アニマルセラピーを行う場合の注意点

 アニマルセラピーは動物と触れ合う為、動物が苦手な人には負担となることもあります。また相性もあることから慎重に行う必要があります。動物が好きな方でも、最初は負担にならないように1時間程度からはじめ、反応を見ながら徐々に時間を伸ばしていくようにしましょう。

 

美術療法

 絵画や折り紙、粘土細工などを作るリハビリです。絵を描く対象に触れたり、食べ物であれば実際に食べたりして、五感を使うことで脳の活性化を図ります。

 

作業療法

 料理や掃除などの日常生活における作業や、趣味・運動などさまざまな活動を通して認知症のリハビリテーションに当たることを「作業療法」と言います。

 内容は以下のように幅広く、包括的なリハビリと言えます。医療機関の作業療法士などがプログラムを組んで行うほか、家庭内でも取り組みやすいのが特徴です。

日常生活の流れの中で行うもの

 料理、掃除、洗濯、整理整頓、買い物などの外出、食事、入浴、排せつ

集団で行うもの、または集団で行うことでより効果が増すもの

 体操、映画の上映会、音楽鑑賞、編み物や陶芸、折り紙などの手工芸、塗り絵、書道、囲碁・将棋、ゲートボール、茶話会などにおける他者とのコミュニケーション

リアリティ・オリエンテーション(現実見当識訓練)

 リアリティ・オリエンテーションを作業療法に組み込んでいる医療機関もあります。リアリティ・オリエンテーションとは、見当識障害を解消するための訓練です。現在が何月何日で季節はいつなのかなど、時間や今いる場所がわからなくなる障害を見当識障害と言います。例えば、朝と夕方に「今日の予定」「明日の予定」をボードに書き換えるようにするといった方法です。場所や日時がわからなくなる不安が軽減されるとともに、他者の予定がわかることで会話のきっかけも生まれます。

作業療法の効果

 これらの作業は「認知症の発症」と「発症後の進行抑制」の両方に効果があると言われています。脳に刺激を与えたり、達成感や喜びを感じたりすることで、うつや徘徊などの認知症の周辺症状の軽減も見込めます。具体的には、体を動かすと脳の運動野という部位が活性化します。この運動野の広い部分が手先の動きに関わっているため、特に手先を動かすことは脳の広範囲を活性化させることに有効です。料理や手工芸などが該当します。

 また、自尊心を回復する上でも、作業療法は効果が見込めます。その人に合ったものに取り組んでもらい、家族が感謝をすることで自分の存在意義を見出しやすくなります。例えば、料理をするのが苦手な人には、洗濯物を畳んでもらったり、掃除を頼んだり。家庭内での役割を担うことで、生活への意欲も高まるでしょう。さらに複数人のグループでこれらの作業を行うことも有効です。自分の作業が他者から認められたり、担当した自分の役割を成し遂げたりすることで喜びを感じ、自尊心が高まります。

作業療法の留意点

 施設などで作業療法を行う上では、当事者の生活パターンや好みなどを把握することでその人に合ったプログラムを勧めることができます。作業療法に臨まれる人の家族は事前に担当者に発症前の生活や発症後の変化、人となり、得意なこと、苦手なことなどを伝えるようにしておきましょう。

 

リアリティ・オリエンテーション

 リアリティ・オリエンテーションは「現実見当識訓練」と訳され、1968年アメリカのアラバマ州にある退役軍人管理局病院で精神科医Folsom氏によって開始されました。当初は戦争の後遺症によって脳に損傷を受けた軍人に用いられた療法でした。現在は認知症を改善させるリハビリテーションの1つとして広く取り入れられています。

  ・今日が何月何日なのか?
  ・今いる場所がどこなのか?

 認知症を患うと、自分が今置かれている日時や場所が判らなくなる見当識障害が起こりやすくなります。リアリティ・オリエンテーションは言語障害がない初期段階の認知症に有効です。また、昔の「長期記憶」はあるが、今日昼食を食べたという「短期記憶」は忘れがちな人が対象となります。  

 リアリティ・オリエンテーションは、24時間リアリティ・オリエンテーションとクラスルームリアリティ・オリエンテーションの2種類があります。

24時間リアリティ・オリエンテーション

 日常の会話やコミュニケーションの中で行います。例えば着替えなどのサポートをしながら「今日は○月○日だから、ひな祭りですね」という会話を行い、見当識を補う手がかりを与えるのです。

クラスルームリアリティ・オリエンテーション

 小グループに分かれて、スタッフが進行役を務め、それぞれの基本的情報(名前・日時・場所)などを提供する方法です。

 リアリティ・オリエンテーションの目的は、スタッフが患者に日時や基本情報を繰り返し提供することで以下の2つの効果を図るものです。

認知症の進行を遅らせる

 繰り返し訓練を行うことで、記憶中枢に働きかけることで認知能力を改善させ、認知症の進行を遅らせることができます。また、見当識障害があると、自分がなぜ今ここにいるのかが理解できず不安になってしまいます。その不安を和らげる目的も持ち合わせているのです。

コミュニケーション能力を高める

 クラスルームリアリティ・オリエンテーションでは、認知症患者本人がお互いに思い出せないという葛藤を共有し、関わりあうことも目的としています。これは認知症が進行すると他人への関心がなくなり、触れ合いがなくなることでより進行が早まることを防止する意味合いもあるのです。楽しかった思い出の再体験やその気持ちを他者と共有することは明るい気持ちにさせてくれます。これにより他者とコミュニケーションを取ることの喜びを見出すことが出来るのです。  また、リアリティ・オリエンテーションは薬を使用しないことから副作用がないのもメリットです。

 リアリティ・オリエンテーションは作業療法として医療機関のリハビリ施設やケアハウスなどで多く取り入れられています。実際に行われた事例によると、リアリティ・オリエンテーションを取り入れると、MMSE(見当識、記憶力、計算力、言語的能力)に改善が見られ、認知症の進行を遅らせる効果が確認されています。また、視覚から入ってくる情報は非常に有効なため、患者が好きな俳優や女優の映像を見ながら実施することで、自ら言葉を発するという事例も報告されています。ただし、リアリティ・オリエンテーションは患者に強制的に思い出させることは意図していない為、方法を誤るとストレスを増やしてしまう危険性を持っています。認知症の患者が思い出せた時には、共に喜び、楽しみながら行うことが大切です。

 

回想法

 認知症のリハビリテーションの一つに、思い出を語ることで認知症の進行を遅らせ、精神的な安定を図る「回想法」があります。回想法は1960年代にアメリカの精神科医、ロバート・バトラー氏が提唱した心理療法です。当初は高齢者におけるうつ病の治療として行われていましたが、後に認知機能が改善することも明らかになり、認知症のリハビリとしても実践されるようになりました。現在、日本でも介護施設などで取り入れられています。認知症の患者は、短期記憶といって少し前にあったことを記憶することは得意ではありません。しかし、昔のことについては覚えていることが多いため、回想法を行うことができるのです。

回想法の効果

 昔のことを思い出そうとしたり、他者と「話す」「聞く」といったコミュニケーションを図ったりすることで自然と記憶力や集中力などが使われ、脳が活性化されます。  認知症の症状の進行を遅らせることが期待できるほか、蘇った思い出が楽しいものであるほど、心理的に安定する効果も見込めます。「自分はこんな人生を歩んできたんだ」と過去を振り返ることで失っていた自信を取り戻せることもあります。  

回想法の方法

 回想法には、1対1で行う「個人回想法」と6人ほどの複数人で行う「グループ回想法」があります。個人回想法は、特別な知識がなくても家庭で気軽に取り組むことができ、グループ回想法は施設などで専門家と一緒に行うのが一般的です。グループ回想法には参加者との新たな出会いが生まれ、ともに過去を楽しみながら語り合えるといった特徴もあります。どちらの回想法も、大切なのは当事者の記憶を引き出す「きっかけ」を用意してあげることです。きっかけは、当事者に尋ねる質問の内容や思い出の品などです。質問する側としては、以下のようにライフステージを示すキーワードを参考にすると良いでしょう。

 「ふるさと」「子ども時代」「小・中・高校時代」「趣味」「仕事」「交友関係」「出会い」「結婚」「出産」「子育て」「孫の誕生」「定年」「これから」  

 記憶を引き出す物としては、子どもの頃に遊んでいたおもちゃや昔の写真、若い頃に流行した映画のポスターやレコードなど。

回想法のコツや注意点

 行いやすい回想法ですが、以下のことを意識しておくとより効果的です。

当事者が答えやすいような具体的な質問をする

 子ども時代を思い出して ×
  子ども時代と言っても幅広いため、答えにくい質問です。

 小学校の頃は何の授業が好きだった? 〇
  「小学校」「授業」という具体的なキーワードが質問に盛り込まれているため、当事者は答えやすいでしょう。

無理に聞き出そうとしない

 過去の記憶は楽しいものばかりではありません。質問をしてみて進んで話すようであれば傾聴し、話したがらないことであれば質問の内容を変えてみましょう。

間違いを訂正しない

 当事者が語ったことが事実ではなくても、訂正せずに聞きましょう。大切なのは正確に思い出すことではなく、過去の記憶をたどることです。

 

その他

 他にも、園芸療法やアロマ療法、レクレーションなどが挙げられます。特に昼夜が逆転しているなど不規則な生活を送っている人には散歩やラジオ体操、ストレッチなどの軽い運動をしてもらうことで夜に眠れるようになり、徘徊や抑うつ、夜間せん妄などの改善が期待できます。

 

認知症 薬物治療

薬の種類と特長について

 2016年現在、日本国内では認知症の薬として、下記の4種類が認可されています。アリセプト、レミニール、リバスタッチパッチ/イクセロンパッチはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬というグループに分類され、効果などある程度共通した特徴を持ちます。メマリーはNMDA受容体拮抗薬と呼ばれ、上記の3剤とは異なる働きを持ちます。そのため、複数のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬を同時に使用することはできませんが、メマリーはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬のうち1剤と併用して治療することも可能です。

 アルツハイマー型認知症はいつの間にか発症し、年単位の経過で徐々に記憶力、判断力などが低下し日常生活に支障をきたすようになる病気です。症状の進行には個人差があり、初期の段階から高度の認知症に至るまでの期間は3.4年~10年程度と様々です。  現在、アルツハイマー型認知症により失われた記憶能力や精神機能を回復する治療法はありませんが、適切な治療によって症状の進行を遅らせることができます。治療していても病気は徐々に進行していきますが、症状の進行を遅らせることで、認知症の方がご本人らしく生きることのできる時間を長くし、ご家族・介護者の負担を軽減することにもつながります。アルツハイマー型認知症の場合、より早期の時点から認知症の方ご本人にあった薬を使用することで、認知機能の障害の進行を遅らせることができ、良い状態を保てる可能性があります。ただしごく初期の段階の認知症と加齢による物忘れは区別しづらい場合もあり、経過を見ていく中で治療開始のタイミングを見極めるといった対応が必要になることもあります。薬物療法を開始しても症状の変化がみられず効果が実感できない場合でも、何も治療しない場合より症状の進行を遅らせている可能性があります。また、服用を急に中止してしまうと、治療をしていなかった場合と同等の状態まで症状が急に悪化してしまう場合があります。自己判断で中止せず、主治医の先生と相談しながら治療を受けましょう。人によっては副作用が出ることがあります。薬を使用することによって得られるメリットとデメリットを比較しながら薬を使うか検討する必要があります。他に持病をお持ちの方や、認知症の薬が合わず副作用の出やすい方などの場合は、あえて薬を使わない場合もあります。

 その他、以下のようなことにも注意しましょう。

適応について

 認知症には様々な種類がありますが、上に紹介されている認知症の薬が適応となるのは現在のところアルツハイマー型認知症およびレビー小体型認知症(アリセプトのみ)に限られています。

副作用について

 問題なく使用できる方が多数ですが、中には副作用が出る方がいます。その場合、認知症の方自身では症状を認識し訴えることが難しい場合もあるので、周囲の方が気を付けてあげましょう。  

 代表的な副作用としてアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト、レミニール、リバスタッチパッチ/イクセロンパッチ)では下痢や嘔気などの消化器症状や興奮などの精神症状があります。  

 貼付剤であるリバスタッチパッチ/イクセロンパッチでは貼付部位のかゆみや発赤などの皮膚症状がみられることがあります。また、メマリーではめまいやそれに伴うふらつきが出現することがあります。

服薬管理について

 薬物療法では決められた量の薬をきちんと飲み続けることが大切ですが、認知症の方は記憶能力の低下が生じているため飲み忘れてしまったり、飲んだことを忘れて飲みすぎてしまう恐れがあります。お薬をきちんと飲むために、周囲の方のサポートが大切です。周囲に薬の管理ができる方がいない時は、サポートできる環境が整うまで処方を控える場合もあります。持病をお持ちの方の場合は、認知症の薬の使用に際し注意が必要な場合があります。現在治療中の病気や過去の病気も含め、主治医の先生に相談しましょう。薬物療法だけでなく、ご家族や周囲の方とのコミュニケーションや、デイサービスなどを活用した「非薬物療法」を併用していきましょう。

 

アリセプト(ドネペジル)

 アリセプト(ドネペジル)はアルツハイマー型認知症およびレビー小体型認知症の症状進行を抑制する薬(エーザイ株式会社 製品名「アリセプト」)です。認知症治療薬の中でも古くから使用されており、国内外とも大きなシェアを占めています。 

アリセプトの種類・剤型

(1) 口腔内崩壊錠(OD錠):

 少量の水分で溶けるように設計された薬です。口の中に入れると唾液で瞬時に溶けるため、水なしで飲むことができます。飲み込む力の弱い方に便利です。通常の錠剤と同様に水と一緒に飲むこともできます。最もよく処方されています。

(2) ゼリー剤:

 カップに入った一口サイズのゼリー状の製剤です。水でもムセてしまうためトロミを付けているなど、飲み込む力が弱い人に適しています。3mg、5mg、10mgの3種類がありますが、用量が変わってもゼリーのサイズは同一です。服用しやすいように、はちみつレモンの風味が付けられています。

(3) ドライシロップ:

 粉末を水に溶かして液体として飲むことができます。粉末のまま飲むこともできます。

 上記のような、錠剤の薬を沢山飲んでいる方や、拒薬の方に負担が少ないと言われています。他に錠剤や顆粒もありますが、使われる機会は少なくなってきています。

用法・用量

アルツハイマー型認知症

 1日1回3mgから開始し、副作用の有無を観察した上で、通常は1~2週間後に1日1回5mgに増量し継続します。高度のアルツハイマー型認知症では5mgを4週間以上継続した後に、1日10mgに増量することができます。

 開始用量の3mgから開始するのは副作用の出現の有無を見極めるためと、薬を内服することで起きる神経伝達物質の変化に身体を慣れさせるためです。

 いずれも1日1回内服します。食後であるか空腹であるかは吸収に影響しないため食事のタイミングに縛られず飲むことができますが、他の薬とタイミングを合わせて朝食後に処方されることが多いです。

 また、脳の活性化を促す薬であるため、昼夜のリズムを作っていく目的で朝に処方されることも多いのですが、薬が体に留まる時間(半減期)が長いため飲む時間による血中濃度への影響は少ないです。主治医と相談の上、ご本人や介助者のライフスタイルを考慮し飲む時間を決めましょう。 

レビー小体型認知症

 1999年に発売された当初はアルツハイマー型認知症のみが適応でしたが、臨床試験の結果レビー小体型認知症に有効であることが確認され、2014年よりレビー小体型認知症への適応が拡大されました。

 1日1回3mgから開始し、副作用の有無を観察した上で、1~2週間後に1日1回5mgに増量し継続します。5mgを4週間以上継続した後に、1日10mgに増量します。ただし症状によって1日5mgに減量することができます。

アリセプトの効果・作用機序

 認知症に対してどのように効くのか

 私たちの脳は神経伝達物質を介して記憶・学習を行なっているのですが、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症では、神経伝達物質の1つであるアセチルコリンが脳内において減少していることが知られています。

 脳内にはアセチルコリンを分解する役割を持つ酵素であるアセチルコリンエステラーゼがあり、アリセプトはこのアセチルコリンエステラーゼの作用を阻害することで、脳内でのアセチルコリンの濃度を高め神経伝達を助けます。

アリセプトの注意・副作用について

 他に持病のある方は内服にあたり注意が必要な場合があります。現在治療中の病気、過去の病気も含め必ず主治医に相談してください。

 飲み忘れた場合は、基本的には気が付いた時に服用してください。ただしいつも飲む時よりも12時間以上離れていたときは、その日はお休みして次の日から通常通りに飲んでください。薬が体に留まる時間(半減期)が長いため、1日飲まなくても影響は少ない。

副作用、消化器症状

 代表的な副作用として、食欲不振、嘔気、嘔吐、下痢などの消化器症状があります。消化管における神経伝達物質の変化により生じると考えられており、多くは内服開始後および増量後に出現します。軽度なものであれば、多くは様子をみているうちに体が慣れてきて自然に軽快します。個人差がありますが、軽度の場合はおおむね数日から1週間程度で治まる方が多い。

 症状が比較的強かったり長引いたりする場合は、整腸剤や吐き気止めなどを併用することで内服を継続できることもありますが、それらを追加してでも内服を続けるか否かは、主治医の判断や副作用の程度、患者・介護者の状況により異なります。重度の場合には、基本的に中止または減量が必要になります。

精神症状

 興奮やイライラ感、落ち着きのなさなどが出現することがあります。これは脳内のアセチルコリンが増加することにより、神経細胞が刺激されて生じるものと考えられています。投与開始や増量に伴い生じた場合は、慣れてくるに従い、自然に軽快することもありますが、介護者の負担が大きい場合にはアリセプトを減量、中止せざるを得ないこともあります。

 また、これらの症状はアリセプトとは関係なく認知症の症状としても出やすいものであるため、これらの原因となるようないつもと変わった出来事がなかったかなど検討しましょう。

徐脈・不整脈

 心臓の病気をお持ちの方は内服にあたり注意が必要です。

パーキンソニズム

 アリセプトにより脳内のアセチルコリンとドパミンのバランスが崩れ、パーキンソニズムの悪化・出現を招く可能性が指摘されています。症状や介護者の負担など、主治医の先生と相談しながら治療を受けていきましょう。

アリセプトの特長

 認知症の周辺症状(BPSD)の中でも、意欲低下、無関心、抑うつといった症状への改善効果が報告されており、これらを伴った患者にとってよい適応となります。2015年現在、レビー小体型認知症に適応がある唯一の薬となっています。

 コリンエステラーゼ阻害薬の中で、唯一高度のアルツハイマー型認知症に適応のある薬です。軽度から高度まで適応があるため、途切れのない治療を行うことができます。1日1回の内服で済むため、飲み忘れの防止や本人・介護者の負担軽減になります。

ジェネリックについて

 2011年にドネペジルの日本での特許が切れたことに伴い、各社からジェネリック品が販売されています。薬価は2015年現在ではおおよそ半額から6割程度のものが多いです。

 内服が長期にわたる認知症においては自己負担の軽減に有効です。ただし、有効成分については同一であっても添加物については異なるため、味や溶けやすさ(口腔内崩壊錠の場合)などの飲み心地の部分については同一とは限りません。ドネペジル自体には苦味があり、各社が軽減のための工夫をしていますが、ジェネリック品では苦くて飲みにくいという方は、先発薬であるアリセプトを試してみるのも良いと思われます。

 また、アリセプトはレビー小体型認知症への適応がありますが、ジェネリック品にはありません。アリセプトは発売当初は「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症」に対して承認され、その後「高度のアルツハイマー型認知症」、さらに「レビー小体型認知症」に対して適応が拡大されたという経緯があります。

 ジェネリック品については、現在のところ「軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症」「高度のアルツハイマー型認知症」のみ認可されています。これは効能・効果の違いではなく、保険制度上の認可の問題によります。

メマリー(メマンチン)とは

 メマリーとは第一三共株式会社が2011年6月8日に発売した、中等度および高度アルツハイマー型認知症における症状の進行を抑制する薬です。錠剤およびOD錠があり、それぞれ5mg,10mg,20mgの各3種類があります。OD錠とは、特に嚥下状態の悪い方について、少量の水で無理なく服薬できる「口腔内崩壊錠」です。

メマリーの服用量

 1日1回5mgから開始し、1週間毎に増量し、4週間後に目標とする維持量(最大で1日20mg)とします。用法用量は患者毎に異なりますので、必ず医師の指示に従って下さい。錠剤およびOD錠いずれも同じ増量法となります。

 メマリーの効果

 「グルタミン酸仮説」という考え方があります。グルタミン酸は脳内において記憶や学習に関わる神経伝達物質という役割がありますが、認知症患者の脳内では、異常なタンパク質によってグルタミン酸が過剰な状態となってきます。グルタミン酸の量が正常であれば記憶できる事が、過剰な状態となる事で記憶のシグナルが妨害され、記憶する事が困難となってしまうという考え方です。

 メマリーには、過剰なグルタミン酸の放出を抑え、結果的に脳神経細胞死を防ぐ働きがあります。ここで大事なのは、「過剰な」という部分で、正常なグルタミン酸の放出や記憶のシグナルまで抑える事がない為、統合失調症や幻覚などの副作用はありません。

 アリセプトを初めとするドネペジルの効能は「アセチルコリンエステラーゼの阻害」であり、メマリー(メマンチン)の「グルタミン酸の過剰放出の抑制」とは異なるため、同じ認知症の薬でありながら、併用が可能という利点があります。よって、アルツハイマー型認知症が中等度まで進行した頃からメマリー(メマンチン)を投与する事で相乗効果が得られると言われています。

メマリーの注意点・禁忌・副作用について

 メマリー(メマンチン)は初期のアルツハイマー型認知症の方への効果は薄いと言われています。アルツハイマー型認知症の初期における服薬治療はアリセプト(ドネペジル)にて行い、中等度以降に進行した場合は、医師の指示のもとメマリー(メマンチン)を併用していく流れになると思われます。

 体調面では、飲み始めに目眩の症状が多く見られます。認知症になると危険認識力が低下し、普段歩き慣れた場所であっても、目眩が起きることで、不意の転倒など、思わぬ事故が起こり、それが原因で骨折し廃用症候群による体の動きの低下を招くという事があります。

メマリーの他の副作用

・頭痛
 認知症があると頭痛の認識がない事もあります。声かけ等で様子観察を行ってください。

・催眠
 不眠が無くても日中傾眠が見られる事があります。

・食欲不振(体重減少)
 介護者の方は服薬直後の食事量の確認を行ってください。

・便秘
 認知症があると排便があったか否かを本人が分からなくなる事があります。もし本人に確認してもあいまいな場合は、トイレの後の確認を出来たら行ってください(臭いや形跡の確認)

・血圧の上昇
 出来れば自宅で定期的に血圧測定を行ってください。高齢者の高血圧は、それだけでリスクの高いものです。

 その他、稀に見られる重篤な症状としては、痙攣・失神や、精神症状があります。

 

レミニール(ガランタミン)

 ガランタミンはアルツハイマー型認知症の症状の進行を抑制する薬であり、日本では2011年からヤンセンファーマ株式会社より「レミニール(R)」の商品名で販売されています。軽度および中等度のアルツハイマー型認知症に適応があります。

レミニールの種類・剤型

 4mg、8mg、12mgの3種類があり、それぞれ1日2回内服します。剤型は錠剤、口腔内崩壊錠(OD錠)、内用液の3種類があり、患者や介助者に合わせ選択することが可能です。

特徴

・口腔内崩壊錠(OD錠):
 少量の水分で溶けるように設計された薬です。口の中に入れると唾液で瞬時に溶けるため、水なしで飲むことができます。飲み込む力の弱い方に便利です。通常の錠剤と同様に水と一緒に飲むこともできます。

・内用液:
 1回分の液剤が小さなパウチに入っています。先端を切り取り中身を飲み込みます。内服に際し介助が必要な方に便利です。

・錠剤:
 通常タイプの錠剤です。飲み下す必要があるため、飲み込む力が弱い人には不向きです。メリットとしては、薬局で他の薬と1包化してもらうことができます(別途費用がかかります)。1包化とは複数の薬を処方されている場合にそれらを内服のタイミングごとにまとめて1袋にしてもらうことで、飲み間違いや介助者の負担を減らすことができます。

用法・容量

 1日8mg(1回4mgを1日2回)から開始し、副作用の有無を観察した上で、4週間後に1日16mg(1回8mgを1日2回)に増量し継続します。その後は、症状に応じ1日24mg(1回12mgを1日2回)まで増量することが可能ですが、その前に、増量する前の量を4週間以上継続して内服してから行う必要があります。1日8mgは有効量ではありませんが、その量から開始するのは副作用の出現の有無を見極めるためと、薬を内服することで起きる神経伝達物質の変化に身体を慣れさせるためです。通常は投薬開始4週間後に1日16mgに増量します。

レミニールの効果・作用機序

 私たちの脳は神経伝達物質を介して記憶・学習を行なっているのですが、アルツハイマー型認知症では神経伝達物質の1つであるアセチルコリンが脳内において減少していることが知られています。

 レミニール(R)は、次の2つの作用で脳内のアセチルコリンによる神経伝達を助けます。

作用(1)

 神経細胞から放出されたアセチルコリンが受容体に結合することで、情報の通り道が開き情報伝達が行われます。情報伝達が終わると、役目を終えたアセチルコリンはアセチルコリンエステラーゼという酵素により分解されます。レミニール(R)はこのアセチルコリンエステラーゼの作用を阻害することで、脳内のアセチルコリンの濃度を高め神経伝達を助けます。

作用(2)

 アセチルコリン受容体に作用し、受容体の立体構造を変化させ、アセチルコリンに対する感受性を高めアセチルコリンの働きを助け情報の伝達を活性化します。情報の通り道が広くなることで、より効率的に情報伝達が行われるようになります。

 アルツハイマー型認知症ではアセチルコリンだけでなくアセチルコリン受容体も減少していることが知られており、少ない受容体で効率的に情報伝達が行えるようになることが期待されます。

 アルツハイマー型と診断されて間もなく服用を開始すると、基本的には、まず1日8mg(2回服用)から開始されます。そこから4週間を経て1日16mgに増量されます(1回の服用量が増えても1日2回の頻度は変わりません)。

2ヵ月目以降1日16mgを継続的に処方されている方の場合
 191.50円(8mg錠1錠あたり) ×1日2回× 30日 ×1割負担= 1,149円/月

 それ以外に薬局の調剤料や病院の診察料(初診料または再診料、検査料など)が必要です。

レミニール服用における禁忌および注意点

・レミニール(R)の内服を中止・減量すると、認知症の症状が急に悪化することがあります。ご家族の判断ではなく、必ず主治医に相談してください。

・レミニール(R)の適応であるアルツハイマー型認知症は記憶力や判断力が低下する病気です。薬を飲み忘れたり、飲んだこと自体を忘れてしまったりすることがあるので、薬の管理は周囲の方が行うようにしましょう。服薬手帳やお薬カレンダーなどの活用も有効です。

・飲み忘れた場合でも2回分を1度に内服しないでください。飲み忘れに気づいた場合はその場で内服していただき、本来の内服時間から数時間以上経っていた場合は、その内服はお休みにして次の内服時間から再開にしてください。

・心疾患、消化器疾患、肝機能障害、腎障害などがある方は服用にあたり注意が必要です。現在治療中の病気、過去の病気も含め必ず主治医に相談してください。病気によっては通常より少ない量で使用したり、レミニール(R)の使用を控える必要がある場合があります。

・認知症の薬のうち、同じアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に属するアリセプト(R)(ドネペジル)、リバスタッチ(R)/イクセロンパッチ(R)(リバスチグミン)との併用はできません。

レミニールの副作用

 代表的な副作用に吐き気、食欲の低下、下痢、めまいがあります。これらの副作用は内服を開始した時や、薬の量を増やしたときに出現しやすい症状です。身体が慣れてくると症状が消失することが多い。

リバスタッチパッチ/イクセロンパッチ(リバスチグミン)

 リバスタッチ(R)パッチ/イクセロン(R)パッチ(リバスチグミン)は貼り薬のタイプの認知症の薬です。軽度および中等度のアルツハイマー型認知症に適応があります。

 リバスチグミンはアルツハイマー型認知症の症状の進行を抑制する薬であり、日本では小野薬品工業株式会社から「リバスタッチ(R)パッチ」 、ノバルティスファーマ株式会社からは「イクセロン(R)パッチ」の製品名で販売されています。両者の有効成分は同一です。

リバスタッチパッチ/イクセロンパッチの剤形

 1日1回貼るタイプの薬であり、4.5mg、9mg、13.5mg、18mgの4種類があります。有効成分の量が増えるほど、パッチの面積も大きくなります。

リバスタッチパッチ/イクセロンパッチの用法、用量

 1日1回、4.5mgから開始し、4週間ごとに大きいサイズに変更し、18mgで治療を継続します(パッチのサイズが変わっても1日1枚であることは変わりません)。少量から開始し徐々に増量していくのは、パッチを使用することによって生じる神経伝達物質の変化に体を慣らし副作用を軽減するためです。

 2015年8月より9mgから開始し4週間後に18mgにするという増量方法が認められました。これは、後者の増量方法でも副作用の出現率などに違いがないことが認められたためです。

 速やかに有効用量まで増量できるようになったことでより早期からアルツハイマー型認知症の症状の進行抑制への効果が期待されます。

リバスタッチパッチ/イクセロンパッチの効果・作用機序

 私たちの脳は神経伝達物質を介して記憶・学習を行なっているのですが、アルツハイマー型認知症では神経伝達物質の1つであるアセチルコリンが脳内において減少していることが知られています。

 神経細胞から放出されたアセチルコリンが受容体に結合することで、情報の通り道が開き情報伝達が行われます。役目を終えたアセチルコリンは酵素により分解され神経伝達が終了します。

 脳内のアセチルコリンを分解する酵素にはアセチルコリンエステラーゼ(AchE)とブチルコリンエステラーゼ(BchE)の2種類があります。リバスチグミンはアセチルコリンエステラーゼ(AchE)を阻害する作用だけでなく、ブチルコリンエステラーゼ(BchE)も阻害するという特徴があります。

 作用する部位が違うので他のアセチルコリンエステラーゼ(AchE)阻害薬で効果が見られない場合や副作用が強く使用できない場合に切り替えて使用されることがあります。

リバスタッチパッチ/イクセロンパッチの特徴・メリット

 リバスタッチ(R)パッチ/イクセロン(R)パッチの最大の特徴は、認知症の薬の中で唯一の貼るタイプの薬だという点です。

 貼付剤であるメリットは、薬の成分が皮膚から持続的にゆっくり吸収されるため血液中のリバスチグミンの濃度の変動が少なくなることです。リバスチグミンも開発された当初は他の認知症の薬と同様に内服薬として製剤化されたのですが、吐き気などの消化器系の副作用のため日本では導入されていません。これは内服直後にリバスチグミンの血中濃度が急上昇することに由来すると考えられたため、貼り薬として皮膚から持続的に吸収されるように開発が進められたという経緯があります。

 また、誤って過剰に使用してしまった場合や副作用が出現した場合には、内服薬と違い、パッチを剥がすことでそれ以上の薬の吸収を阻止できるというメリットもあります。

 他にも、薬を毎日欠かさず使用できているか不安がある場合、内服薬では飲んだか飲んでいないかわからなくなってしまう可能性がありますが、貼り薬なら使用状況が客観的に確認できるというメリットがあります。内服が苦手で時間がかかってしまう方にも便利です。

 アルツハイマー型認知症と診断された場合、1日4.5mgから開始されます。そこから段階的に18mgまで増量されます。

18mgを継続的に処方されている方の場合
  44.0円 × 30日 = 1320円/月

 それ以外に薬局の調剤料や病院の診察料(初診料・再診料、検査料など)が必要です。

使用の際の注意点

・パッチは1日1枚です。1度に2枚以上貼ることがないように、古いものを剥がしてから新しいものを貼るようにしてください。

・剥がすときはやさしく剥がし、剥がした部位を濡れタオルなどで拭き取ってください。

・使用後のパッチは粘着面を内側にして折り畳み、確実に破棄してください。

・使用後のパッチにも薬の成分が残っているため、子供や認知症の方などが間違って体に貼ってしまうことがないように注意してください。

 1日1回、ほぼ同じ時間であれば貼るタイミングはいつでも良く、食事の時間に関係なく貼ることができます。貼ったまま入浴することもできますが、剥がれることがあるので、入浴のタイミングで貼り替えることが多い。

 傷や発赤などの皮膚トラブルがない場所を選び、水分やクリームなどが付着していない状態で貼ってください。

リバスタッチパッチ/イクセロンパッチの副作用

 代表的な副作用は、かゆみや発赤などの皮膚症状と、嘔気などの消化器症状です。 皮膚症状の予防には新しいパッチを貼るときに前回と異なる場所に貼ることが大切です。貼る場所を複数決めておいて、その中でローテーションするのも有効です。

 入浴後(または体を拭いた後)に保湿剤を塗ることも有効です。新しいパッチを貼った後、貼った部位の周囲を避けて塗るようにしてください。発赤やかゆみが続く場合には軟膏などを使用することもあるので主治医に相談してください。

 心疾患、消化器疾患、肝機能障害などがある方は、使用にあたり注意が必要です。

 認知症予防 に続く