自閉症スペクトラム障害

 自閉症スペクトラム障害とは対人コミュニケーションに困難さがあり、限定された行動、興味、反復行動がある障害です。

 さらに、知的障害や言語障害を伴う場合と伴わない場合があります。

 これらの症状は、発達段階、年齢や環境などによって大きく変化するといわれています。

 自閉症スペクトラム障害と一言で言っても、生活に支障をきたすほど症状が強い方から、症状が軽度で日常生活にほとんど支障なく暮らせる方まで様々です。症状の強弱や、知的障害を伴う・伴わないなどによって、十人十色の理解やサポートが必要な障害です。

 自閉症スペクトラム障害の原因はいまだ特定されていません。しかし、何らかの生まれつきの脳機能障害であると考えられており、しつけや愛情不足といった親の育て方が直接の原因ではないとされています。脳機能障害を引き起こすメカニズムとして、遺伝的な要因が原因の一部であると推測されています。何らかの先天的な遺伝要因に様々な環境的な要因が重なり、相互に影響しあって脳機能の障害が発現するのではないかという説が現在有力です。  

 文部科学省では自閉症スペクトラム障害を以下のように定義しています。

 「自閉症スペクトラムとは,自閉的な特徴がある人は,知能障害などそ の他の問題の有無・程度にかかわらず,その状況に応じて支援を必要とし,その点 では自閉症やアスペルガー症候群などと区分しなくてよいという意味と,自閉症や アスペルガー症候群などの広汎性発達障害の下位分類の状態はそれぞれ独立したも のではなく状態像として連続している一つのものと考えることができるという二つ の意味合いが含まれた概念である。したがって,自閉症スペクトラム障害には下位分類がなく,自閉的な特徴のある子供は全て自閉症スペクトラム障害の診断名となる。」

 

自閉症スペクトラム障害という診断名ができた経緯

 自閉症スペクトラム障害は、いくつかの自閉症状のある障害が統合されてできた診断名です。

 自閉症スペクトラム障害は、2013年に出版されたアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神疾患の診断・統計マニュアル』第5版)において、これまでアスペルガー症候群、高機能自閉症、早期幼児自閉症、小児自閉症、カナー型自閉症など様々な診断カテゴリーで記述されていたものを、「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」の診断名のもとに統合されました。  『DSM-5』以前の診断カテゴリーである自閉症やアスペルガー症候群などは、それぞれの症状に違いがあるとされ、それに伴って診断基準も異なるため、独立した障害として考えられてきました。しかし、幼少期にアスペルガー症候群と診断された方が、年齢や環境などの変化によって自閉症と診断されたり、3歳以降になってから自閉症の症状が明確に表出する場合がありました。脳画像の研究ではそれぞれの差異が認められないこともあります。また、症状の程度によって生活に支障をきたす方もいれば、ほとんど支障なく生活できる方もいます。 さらに支援方法も共通であることが多いため、『DSM-5』では、「連続体」を意味する「スペクトラム」という言葉を用いて障害と障害の間に明確な境界線を設けない考え方が採用されたのです。  

 自閉症スペクトラム障害の症状には多様性があり、連続体として重なり合っているという考え方が、「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」という診断名に込められています。  

 『障害の兆候もまた、自閉症状の重症度、発達段階、歴年齢によって大きく変化するので、それゆえにスペクトラムという単語で表現される。』

 『DSM-IVでは症状の数と程度によって、自閉症障害、Asperger障害、PDD-NOSの順に重症度は軽くなるよう位置づけられたが、これらの下位カテゴリーが量的に違うだけでなく質的にも異なる独立した障害単位であることを支持するに足るエビデンスはないと判断された。』

 自閉症スペクトラム障害がある方々の約70%が少なくとも1つ以上の精神医学的障害を合併しているという研究結果に基づき、『DSM-5』においては、障害の併存が認められました。

 

自閉症スペクトラム障害の診断基準

『DSM-5』における診断基準

 自閉症スペクトラム障害と診断するためには、「社会的コミュニケーション」領域のもとに分類される3項目すべてを満たしつつ、「限定的な行動・興味・反復行動」領域の4項目中2項目の合わせて5項目を最低限満たす必要があります。

1 複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応における持続的な欠陥があり、現時点または病歴によって、以下により明らかになる(以下の例は一例であり、網羅したものではない)。

(1)相互の対人的・情緒的関係の欠落で、例えば、対人的に異常な近づき方や通常の会話のやりとりのできないことといったものから、興味、情動、または感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることができないことに及ぶ。

(2)対人的相互反応で非言語コミュニケーション行動を用いることの欠陥、例えば、まとまりの悪い言語的・非言語的コミュニケーションから、視線を合わせることと身振りの異常、または身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ。

(3)人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥で、例えば、様々な社会的状況に合った行動に調整することの困難さから、想像上の遊びを他人と一緒にしたり友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如に及ぶ。

2 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式で、現在または病歴によって、以下の少なくとも2つにより明らかになる(以下の例は一例であり、網羅したものではない)

(1)常同的または反復的な身体の運動、物の使用、または会話(例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同運動、反響言語、独特な言い回し)。

(2)同一性への固執、習慣へのかたくななこだわり、または言語的・非言語的な儀式的行動様式(例:小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりすることへの要求)

(3)強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味(例:一般的ではない対象への強い愛着または没頭、過度に限定・固執した興味)

(4)感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音、感覚に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)

3 症状は発達早期に存在していなければならない(しかし社会的要求が能力の限界を超えるまで症状は明らかにならないかもしれないし、その後の生活で学んだ対応の仕方によって隠されている場合もある)。

4 その症状は、社会的、職業的、または他の重要な領域における現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしている。

5 これらの障害は、知的能力障害(知的発達症)または全般的発達遅延ではうまく説明できない。知的能力障害と自閉スペクトラム症はしばしば同時に起こり、自閉スペクトラム症と知的能力障害の併存の診断を下すためには、社会的コミュニケーションが全般的な発達の水準から期待されるものより下回っていなければならない。

 (『日本精神神経学会/監修『DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル』2014年 医学書院)

 

自閉症スペクトラム障害の年齢ごとの特徴

 自閉症スペクトラム障害の症状は成長とともに変化していきます。この特徴がみられるようになるのは、生後約2ヵ月から2歳前後が最も多いといわれています。発達の遅れが顕著にみられる場合は12ヵ月よりも早く、軽度であれば2歳を過ぎてから特徴が表出するといわれています。

幼児期(0歳~小学校就学前)

 自閉症スペクトラム障害は発達障害のひとつですが、発達障害は、言語・認知・学習といった発達領域が未発達の乳児では、その特徴となる症状が分かりにくい場合があります。生後すぐに自閉症スペクトラム障害の診断がでることはありません。しかし、幼児期全体を通してみると、以下のような特徴的な行動をとっていたことが多いと言われています。

・周囲にあまり興味を持たない傾向がある  
 視線を合わせようとしない子が多い。
 他の子どもに興味をもたなかったり、名前を呼んでも振り返らないことが多い。
 障害がない子が興味をあるものを指でさして示すのに対し、広汎性発達障害の子は指さしをして興味を伝えることをしない傾向があります。

・コミュニケーションを取るのが苦手
 知的障害を伴う広汎性発達障害の子は、言葉の遅れや、オウム返しなどの特徴がみられます。会話においては、一方的に言いたいことだけを言ってしまったり、質問に対してうまく答えられないなどの特徴があります。障害がない子が友達とごっこ遊びを好むのに対し、広汎性発達障害の子は集団での遊びにあまり興味を示さないことが多い。

・強いこだわりを持つ  
 興味を持つことに対して、同じ質問を何度もすることが多い。また、日常生活においても様々なこだわりを持つことが多いので、ものごとの手順が変わると混乱してしまうことが多い。

児童期(小学校就学~卒業)

・集団になじむのが難しい  
 年齢相応の友人関係がないことが多い。
 周囲にあまり配慮せずに、自分が好きなことを好きなようにしてしまう子が多い傾向があります。
 人と関わるときは何かしてほしいことがあるときなだけのことが多く、基本1人遊びを好みます。
 人の気持ちや意図を汲み取ることを苦手とする子が多い。

・臨機応変に対応するのが苦手  
 きちんと決められたルールを好む子が多い。
 言われたことを場面に応じて対応させることが苦手な傾向にあります。

・「どのように」「なぜ」といった説明が苦手  
 言葉をうまく扱えず、単語を覚えても意味を理解することが難しい場合があります。
 自分の気持ちや他人の気持ちを言葉にしたり、想像するのも苦手です。そのため、説明ができないこともあります。

思春期~成人期(小学校卒業~)

・不自然な喋り方をする  
 抑揚がない、不自然な話し方をする子が多い。アスペルガー症候群の子に多いと言われる特徴です。

・人の気持ちや感情を読み取るのが苦手  
 コミュニケーション能力が乏しく、人が何を考えているのかなどを考えるのも苦手な傾向にあります。

・雑談が苦手  
 目的の無い会話をするのを難しく感じる子が多いです。

・興味のあるものにはとことん没頭する  
 広汎性発達障害の子は上でも述べたように物事に強いこだわりをもっています。そのため、興味のあることにとことん没頭することが多いですし、その分野で大きな成果をあげられることもあります。

 

 自閉症スペクトラム障害の診断基準に当てはまり、自閉症スペクトラム障害の傾向があるかも と思っても、いきなり医療機関を受診するのはハードルが高いと感じる人も多いのではないでしょうか。また、特に日常生活にも支障がない場合だと、誰にも相談せずに医療機関を受診するまでには踏み切れないこともあるでしょう。しかし、適切なサポートを受けなければ、本人にも周囲の方にも負担をかけてしまいがちです。自閉症スペクトラム障害の対人関係のトラブルなどは、障害への理解がない状態ではなかなか修復が難しかったり、本人が自分を責めてしまったりなど、状況が悪化してしまう場合もあります。専門機関への相談を事前に行うことで、そのような状態が起こらないようにできる限りのサポートを受けることができるかもしれません。たとえトラブルがあったとしても、上手く乗り越えていけるフォロー体制を家族以外の専門家も交えてつくっていけます。「いきなり医療機関を受診するのは抵抗がある」という方は、まずは無料で相談できる身近な専門機関の相談窓口を利用するのがおすすめです。早めに相談し、自閉症スペクトラム障害に対して正しい知識を得るのは重要です。家族で試行錯誤をして対処法を見つけていくよりも、専門機関に相談し色々な方法を教えてもらった方が、時間もかかりませんし、ストレスも少なくすみます。必要であれば医療機関を紹介してもらうこともできます。  

 子どもか大人かによって、行くべき機関が違います。

子どもの場合

  ・保健センター ・子育て支援センター ・児童発達支援事業所 など

大人の場合

  ・発達障害者支援センター ・障害者就業・生活支援センター ・相談支援事業所 など  

 身近な相談センターに行って相談し、自閉症スペクトラム障害の疑いがあり、診断を希望すればそこから専門医を紹介してもらえます。自宅の近くに相談センターがない場合には、電話での相談に乗ってもらえます。自閉症スペクトラム障害を含む発達障害の専門の医療機関は他の病気に比べると少ないですが、発達障害者総合支援法などの施行によって年々増加はしています。  医療機関での診断は、子どもの場合は、専門外来のある小児科、脳神経小児科、児童精神科などで行われることが多いです。また、18歳以上の場合は一般的に精神科や心療内科などで診断がなされます。

 

自閉症スペクトラム障害の診断

 自閉症スペクトラム障害の診断は、本人の年齢や状態によって検査のボリュームは変化します。また、総合的に問診や検査の結果を受けて自閉症スペクトラム障害の診断をしています。

臨床的診断

 医療機関を受診した際の臨床的な診断として、行動観察と生育歴について聞き取りを行います。

行動観察  

 遊びの空間で子どもを遊ばせ、それを注意深く観察することと保護者の方へのインタビューに基づいて行われます。

生育歴  

 産まれてから今までの社会性や対人コミュニケーション、言葉の発達、幼稚園・保育園での様子や1歳半健診・3歳児健診での様子などをヒアリングします。発達面で知的障害の疑いがありそうか、発達にどんな特性がありそうかなどを見立てていきます。

専門的診断

 自閉症スペクトラム障害について、より専門的な診断を行う場合には以下の検査が用いられることが多いです。

ADOS(エイドス)  

 検査用具や質問項目を用いて、自閉症スペクトラム障害(ASD)の評価に関連する行動を観察するアセスメントです。発話のない乳幼児から成人の方まで、幅広く対応しています。

ADI-R  

 対象者の行動の系統や詳細な特徴を捉える検査です。精神年齢が2歳0ヵ月以上であれば、幼児から成人まで、幅広い年代に対応しています。社会性、対人コミュニケーションや限定的な行動・興味・反復運動などに焦点を当てて構成されています。

PARS-TR  

 自閉症スペクトラム障害がある方の特性理解を深め、一人ひとりに合った支援を可能にしていくために、日常の行動の視点から簡単に評価できるアセスメントです。対人、コミュニケーション、こだわり、常同行動、困難性、過敏性の評価項目をもち、全57項目から構成されています。

 

合併する症状の診断や発達アセスメント

 自閉症スペクトラム障害には、知的障害、てんかん、感覚過敏、鈍麻などの合併症を伴う場合があります。合併する障害があるかアセスメントを行ったうえで検査する場合が多い。

知能検査

 知能検査は心理検査のひとつであり、精神年齢、IQ(知能指数)、知能偏差値などによって測定されます。最近では、ウェクスラー式知能検査、田中ビネー知能検査、K-ABC知能検査などがよく使われています。

脳波検査  

 自閉症スペクトラム障害はてんかんとの合併症を伴っている場合があるため、CTやMRIといった脳波検査を行ういます。自閉症スペクトラム障害の子どもの場合は狭い空間に入るとパニックになることもあるので、検査をする際には注意が必要です。

感覚プロファイル  

 自閉症スペクトラム障害をはじめ、発達障害の人たちの感覚特性を客観的に把握するためによく使われている尺度です。質問票は保護者と本人が記入し、聴覚、視覚、触覚、口腔感覚など、幅広い感覚に関する125項目で構成されています。

Vineland(バインランド:社会生活能力検査)  

 0歳から92歳の幅広い年齢帯で、同年齢の一般の人の適応行動をもとに、発達障害や知的障害、あるいは精神障害の人たちの適応行動の水準を客観的に数値化する検査です。対象者にどんな特性があるのかを評価してくれます。また教育や福祉分野の個別支援計画の立案はVinelandの評価に基づいて行われることがあります。  

 また、精神疾患との合併症の疑いがみられる方には精神病に関する検査を行う場合があります。

「自閉症スペクトラム指数(AQ)」

 「自閉症スペクトラム指数(AQ)」という評価尺度があります。AQは50項目の設問に本人が答えていきます。数値が高いほど自閉症スペクトラム障害の傾向が強いといわれています。しかし、AQが高いから低いからといって、自閉症スペクトラム障害がある・ないと断定できるわけではありません。あくまで、本人の一人称的な視点から評価された指標であり、他者からは違った印象を持たれている可能性もあります。あくまで参考として捉えて、社会生活に大きな困難がある場合には、専門機関への相談を行い、医療機関で診断してもらうことをおすすめします。

 

自閉症スペクトラム障害の治療

 自閉症スペクトラム障害を根本的な治療法や手術といった医学的な方法は確立していません。しかし、早期からの療育や環境調整などを行うことで、症状を緩和したり、困りごとを軽減することができます。教育・療育によるアプローチで、本人が困難への対応法を学んだり、保護者や家族が困難を未然に防ぐためのフォローなどを学び、お互いに生きやすい環境をつくっていくことが可能です。また、てんかん等の合併症を緩和させる薬が処方されることがあります。自閉症スペクトラム障害そのものを治すための薬ではなく、不安障害を抑える薬やパニックを抑える薬など、あくまで症状や合併症を緩和するためのものです。

 

自閉症スペクトラム障害の療育方法

ABA(エービーエー、Applied Behavior Analysis/応用行動分析)

 人間の行動を個人と環境の相互作用の枠組みの中で分析し、問題解決に応用していく理論と実践の体系です。自閉症スペクトラム障害に対する療育だけでなく他の障害や教育、福祉、医療、スポーツ分野でも利用されています。

TEACCH(ティーチ、Treatment and Education for Autistic and related Communication handicapped Children)  

 米国ノースカロライナ州で生まれた、自閉症スペクトラム障害の当事者とその家族を障害支援する総合的なプログラムです。

PECS(ペックス、Picture Exchange Communication System)  

 絵カードを使ったコミュニケーション援助プログラムです。上記のABAの原理に基づいて作成されています。

SST(エスエスティー、ソーシャルスキルトレーニング)  

 対人関係をうまく行うための社会生活技能を身につけたり、障害の特性を自分で理解し自己管理をするためのトレーニングの総称です。

 

自閉症スペクトラム障害がある子どもをもつ家族の支援プログラム

ペアレントトレーニング

 保護者の方々が子どもとのより良いかかわり方を学びながら、日常の子育ての困りごとを解消し、楽しく子育てができるよう支援する、保護者向けのプログラムです。

ピア・カウンセリング

 似た立場の親同士の横の関係をつくり、対等な立場から意見や情報を交換、正しい行動の選択についてみんなで考え、ペアレントトレーニングの一部に設けられている場合が多い。

メンタリング

  「ペアレント・メンター」と呼ばれる発達障害がある子どもの子育て経験がある方が先輩として、初めて発達障害と向き合う親の相談やアドバイスに応えています。

 

自閉症スペクトラム障害や合併症の症状を緩和を目的とした薬物療法

 薬物療法は医師の指示のもと用法や用量を守って服用していかなくてはなりません。薬に頼り切って多用するのは避けましょう。薬の服用により特徴が緩和されている時には療育や教育の効果も上がりやすくなるとも言われています。  

 以下が使われることの多い薬です。

非定型抗精神病薬  

 自閉症スペクトラム障害によってみられる攻撃性、興奮、自傷およびチック(身体が勝手に動くこと)に使用されます。ただし、保険適応外使用になります。

SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬  

 こだわり行動、うつ、不安障害などに使用されます。 抗不安薬、SSRI、ベンゾジアセピン系  不安、心身症、抑うつ、睡眠障害、緊張、PTSD(フラッシュバック)に使用されます。

抗てんかん薬  

 気分変調、躁うつ、てんかん発作、イライラなどに使用されます。 抗ヒスタミン薬  不安、睡眠障害に使用されます。

 

自閉症スペクトラム障害の支援をする上で心に留めること

 自閉症スペクトラム障害は早期から療育を行うことで二次障害や二次的問題を予防することができます。

 

自閉症スペクトラム障害の二次的問題

 自閉症スペクトラム障害の二次的問題とは、例えば対人関係が上手くいかない理由でいじめの被害を受けてしまったり、不登校・ひきこもりになることや、親や周囲からの期待に応えられずに常に怒られることでストレスが溜まり、うつ や不安障害などを引き起こすといった問題です。  

 自閉症スペクトラム障害には特有の発達過程・スタイルがあります。周囲の理解がない状態では、「不器用」「ちょっと変わった人」「無神経な人」「こういう性格なんだ」と理解され、それらによって二次的な問題が発生する場合があります。

 

自閉症スペクトラム障害は特有の発達過程・スタイルがあることを理解する

 自閉症スペクトラム障害は、特有の発達過程・スタイルがあります。それを理解しながらサポートしていくことが大切です。

 例えば、「子どもは○歳で○○ができます」という情報が広く一般の方に浸透しています。その情報は、大勢の子どもたちを集めた実験研究から統計的に導かれています。あくまで参考程度の統計データのはずが育児本やインターネットに「1歳頃になったらバイバイを教えてみましょう」という書き方をした記事があることで、「子どもは1歳までにバイバイさせなければいけない」と思い込み、いつの間にかノルマにすり替わってしまっている場合があります。しかし、自閉症スペクトラム障害特有の発達過程・スタイルがあります。発達の遅れや言動への困難さに悩むこともあるかもしれませんが、サポートする側が障害を正しく理解することが大切です。  

 早期療育の効果は認められていますが、一人ひとりの発達の状態をアセスメントし、本人に合わせた課題を設定することが大切です。トレーニングによって獲得したり支援できることもありますが、困難な場合もあります。個々の障害のレベルや発達に応じた環境調整や支援グッズの活用も合わせて考えていく方がよいでしょう。

 周囲の方はその時々の本人の状態に合わせて接していくことが大切です。自閉症スペクトラム障害はその発達過程やスタイルが特有なものといわれています。障害がある方が定型発達を基準として合わせていくような考え方がありました。しかし、発達に優劣をつけることはできません。定型発達の方と比べるのではなく、障害の特性・個性に焦点を当て、理解し合うことでお互いにリスペクトし合った関係性がつくれます。