ADHDの原因

 友人関係がうまくいかなかったり、学校でのルールが守れない、あるいは先生の指示に従えないのは、親の育て方に問題があるわけではありません。 ADHDの子どもは、多動・衝動的な行動から保育園・幼稚園・学校などで集団生活がうまくできないことが多いものです。 その行動特性から、ほかの子どもたちと衝突してしまうことが多く、いわゆる「問題児」扱いされてしまうこともあります。しかし、ADHDの子どもは、生まれつき自分の衝動を抑える能力が不十分なために、多動・衝動的な行動をとるのであって、育て方やしつけとは直接には関係ないのです。育て方やしつけの問題ではなく、生まれつきの行動特性なのです。 ADHDの子どもも、適切な指導をすることで、集団の場でのさまざまな困難を乗り越えていくことは可能です。

 ADHDの原因は、医学的にはまだはっきりとはわかっていません。 しかし、「家族性」があることや、周囲の「環境」にも原因があると考えられています。

 ADHDには「家族性」がある。家族性というのは、家族に糖尿病や近視の人がいると、自分もそうなる確率が高くなるという意味です。病気の遺伝子を受け継いだ子どもが、親と同じ病気を発症する「遺伝」とは少しニュアンスが違います。アメリカで行われたある調査によると、父親か母親のどちらかにADHDがあると、その子どもにADHDがあらわれる確率は最大50%だといわれてます。また、兄弟姉妹にADHDの子どもがいる場合、いない子に比べ5~7倍の率で発症するというデータもありますしかし、多動・衝動的な行動に対しては、周囲の対処の仕方で症状の出方は大きく変わります。 ADHDの家族性がある一卵性双生児でも、両方の子が発症する確率が100%ではないのは、成育環境などの影響によるものと考えられます。

 ADHD特有の脳の働きは、基本的には大人になっても変わりません。 多動性・衝動性はおさまってきますが、注意欠陥を持ち続けることはあります。

 ADHDは生まれつきのものですが、環境を変えたり、周囲が適切に働きかけることによって、支障なく社会生活を送ることが可能です。しかし、脳の基本的な働きは変わらないため、大人になっても症状をそのまま持ち続ける人もいます。  

 大人の症状では、一般には徐々に「多動」は見られなくなるため、「注意欠陥障害(ADD)」とよばれています。例えば、物忘れの激しい人が、大事な商談の約束を忘れてしまったら会社に大損害を与えてしまいます。しかし、これらの人々は、直感的なひらめきを必要とする仕事や、行動力を生かせる仕事が向いていたりします。 できるだけ本人のよい面が生かせるような生活をすることが重要です。

 

ADHDと他の疾患

 他者とコミュニケーションがうまくとれない「自閉症」も発達障害のひとつです。 ADHDとは違い、特定のものに強く執着するなどの特徴があります。「自閉症」と「ADHD」は、どちらも発達障害ですが、症状の背景はまったく違います。

 自閉症の大きな特徴は、
 対人関係がうまく築けない
 言葉の遅れがある
 特定のものや行為に対して強く執着する
という3点です。  

 「多動」は自閉症の子どもにも見られることがありますが、行動の原因はまったく異なります。例えば「授業中に立って歩いた」場合、ADHDの子は、窓の外などに興味のひかれるものを見つけたことがきっかけだったことがわかります。しかし、自閉症の子は何が誘引となったのか、周囲からは理由がはっきりわかりません。また、多動・衝動的な行動によって、自分だけでなく周囲も困らせてしまったことを十分に理解しています。一方、自閉症の子は、相手の気持ちを理解する能力が十分に備わっていないためにその場の雰囲気が読めず、ルールに従うことができません。

 

「アスペルガー症候群」とADHD

 「アスペルガー症候群」は知的障害はありませんが、コミュニケーション能力に欠けるのが特徴です。「アスペルガー症候群」は、自閉症と同じく「対人関係がうまく築けない」「ひとつのことにひどく執着し、こだわりを持つ」といった特徴を持っています。自閉症との違いは、言葉や知能の発達に遅れがないことです。知能に遅れのない自閉症(高機能自閉症)とよく似ています。しかし、アスペルガー症候群の子は、「相手の気持ちを汲む」「言葉の裏を読む」といった能力が不十分なため、他者とのコミュニケーションがなかなかとれません。また、自分がこだわっている対象に変化が生じると、とたんにパニック状態になるなどの症状も見られます。 行動の原因を周囲が理解することは難しく、人間関係がうまくいかなくなりがちです。その意味では表面的にADHDと共通しますが、ADHDの子は相手の気持ちを思いやることはできます。 衝動的な行動が原因で、結果的に対人関係がうまくいかなくなるだけなのです。

 

「アレルギー疾患」の子

 アレルギー疾患を持つ子は、落ち着きのない子が多いといいます。ADHDの多動と似ている部分もありますが、両者はまったく関係ありません。近年、気管支喘息やアトピー性皮膚炎、食物アレルギーといったアレルギー疾患を持つ子どもの数は年々増加しています。そういった子どもに落ち着さがないのは、静かにしていなければならない場でも、咳やくしゃみが出たり、皮膚や目・鼻のかゆみによって、常に体を動かしてしまうからだと考えられています。 この落ち着きのなさは、ADHDの多動とはまったく違うものです。アレルギー疾患は、一定の食物やハウスダストなどアレルギーの原因物質に触れることによって引き起こされます。生まれつきの行動特性を持つADHDとは根本的に違う疾患なのです。したがって、先にアレルギー疾患があり、それが原因であとからADHDを発症するということはありません。

 ADHDの子は、自分が周囲に理解されない経験を重ねるうちに精神的ストレスを抱え込み、それが原因で抑うつ状態になることがあります。心の風邪ともよばれる「うつ病」は、ADHDの子に多いといわれています。「ADHDがそのまま精神疾患に移行する」というより「ほかの精神疾患を合併する」といったほうがよいでしょう。

 ADHD特有の行動が原因で起こるさまざまな状況の中で、子どもは周囲から責められたり叱られたり、あるいは、いじめられたりすることがあります。小さい頃からそのような環境で育っていると、子どもは疎外感や孤独感に苦しみながら成長することになり、年齢が上がるごとに精神的ストレスを強めていきます。そのストレスが自分の内面に向かうと、抑うつ状態を招き、うつ病を合併します。逆に、内側にため込んだエネルギーが社会へ向かうと、「行為障害」(非行)という形であらわれます。周囲の大人は子どもの苦しみに目を向け、二次的な精神疾患が起こらないよう適切に対処したいものです。

ADHDの診断方法 に続く