肝移植

 肝移植は、肝臓が機能しなくなった人々に残された唯一の選択肢です。

 肝移植を受けた人(レシピエント)が肝臓の機能を失った原因は、たいてい、原発性胆汁性肝硬変、肝炎、薬剤による機能障害(アセトアミノフェンの大量投与など)です。アルコール依存症により肝臓が破壊された人は飲酒をやめれば移植を受けられます。肝癌を発症した人も、癌があまり進行していなければ肝移植を受けられることがあります。

 肝臓移植(肝移植)には、脳死の人から肝臓を移植する「脳死肝臓移植(脳死肝移植)」と、生きている人から肝臓の一部をもらって移植する「生体肝臓移植(生体肝移植)」の2通りがあります。 

 完全な形の肝臓は死亡した人からしか提供を受けられませんが、肝臓の一部であれば生きているドナーでも提供できます。移植用の肝臓は摘出後8~15時間保存できます。適合する肝臓を待つ間に死亡する患者も大勢いますが、実際に肝移植を受けた人(レシピエント)の85~90%は1年以上生存します。

 肝癌の治療のために移植を受けた人の1年生存率は約86%です。ウイルス性肝炎や自己免疫疾患は肝移植を受けても再発してしまう傾向がありますが、それでも生存率は良好です。

 レシピエントの腹部を切開して機能を失った肝臓を取り除き、ドナーの肝臓にレシピエントの血管と胆管をつなぎます。通常は輸血が必要です。手術はたいてい4時間半以上かかり、入院期間は7~12日間です。

 移植した肝臓に対する拒絶反応は腎臓や心臓など、他の臓器を移植した場合と比べれば穏やかですが、それでも、移植後は免疫抑制薬を使わなければなりません。移植後に肝臓の腫大、吐き気、痛み、発熱、黄疸が現れたり、血液検査で肝機能に異常がみられたりした場合は針生検を行います。生検の結果で拒絶反応が起きているかどうかがわかり、免疫抑制薬による治療を調節する必要があるかどうか判断できます。

 腹水や黄疸が一般的な治療によって改善しない場合には、基準を満たせば肝移植を受けられます。

  肝臓移植を必要とする病気

 

成人

小児

慢性肝疾患

肝硬変 原発性胆汁性肝硬変 原発性硬化性胆管炎

胆道閉鎖症

急性肝疾患

劇症肝不全(劇症肝炎) 代謝性肝疾患の一部

代謝性肝疾患

FAP、ウイルソン病など

多種類

腫瘍性疾患

肝臓癌(多くは肝硬変に合併) 嚢胞性肝疾患

肝芽腫、肝未分化肉腫 肝血管内皮腫

血管性疾患

バッドキアリ症候群

 肝臓移植を必要とする病気は、肝臓自体が形の上でも働きのうえでも悪くなるものが大部分ですが、外観上全く正常な肝臓でも、その働きに問題があるために移植を必要とするような病気も含まれます。

 肝臓自体が形の上でも働きの上でも障害を示す病気には、ゆっくりじわじわ起こってくるもの(慢性肝疾患)と、急に起こってくるもの(急性肝疾患)とがあります。前者が圧倒的に多く、肝硬変と言われる病気の多くはこれにあたります。後者は劇症肝炎、あるいは劇症肝不全と呼ばれるもので、それまで元気だった方が何の前触れもなく急に肝臓が悪くなる病気です。このほか、肝臓が外観上全く正常でも、肝臓が本来の働きをせず、必要なものを作らなかったり、あるいは不要有害なものを作ったりする病気も含まれます。これらの多くは生まれつきの病気が多く、代謝性肝疾患という名前で分類されます。

 肝臓移植を必要とする病気は、患者の年齢によっても特徴があります。大人の患者が実数としても多いが、C型肝炎やB型肝炎が進行して生じる肝硬変の患者、さらにこれらを基礎に生じる肝臓癌が成人の移植を要する慢性肝疾患としての多くを占めます。成人の慢性肝疾患では、原発性胆汁性肝硬変など、特殊な後天的な病気が進行することによって結果的に肝硬変になって移植を必要とするような病気もあります。小児で移植を要する疾患では、胆道閉鎖症という病気が最も多い慢性疾患です。

 急性疾患としては、劇症肝炎、あるいは劇症肝不全という病気がこれにあたり、原因がはっきりわからないことが多い。B型肝炎ウイルスによるもの、あるいは薬物によるものなども含まれます。小児でも成人でもこの劇症肝不全はあります。

 代謝性肝疾患は、多くは生まれつきの障害であり、そのため、子供でその頻度が高くなります。多くは、肝臓が体に不要有害なものを分解代謝できないため、たとえばアンモニアといった脳に悪影響を及ぼす物質が体内に増えて、脳の機能が障害されて結果的に死に至ることもあります。成人期までその診断がつかない場合、あるいは、成人になってはじめて症状を呈してくるような代謝性肝疾患もあります。このほか、肝機能の悪化で通常の肝切除ができない場合や、通常の肝臓の部分切除では全部取り切れないが肝臓を丸ごと切り取れば全部取れて、体の他の部分に病気が残らない状態の悪性疾患(成人では肝臓癌が大半、小児では肝芽腫といわれる腫瘍が最多)でも、肝臓移植が検討されることになります。