中央タクシー事件 徳島地裁決裁定(平成9年6月6日)

(分類)

 セクハラ  解雇

(概要)

 セクシュアルハラスメント問題に関連して生じた裁判支援活動に伴うビラ配布行為等を理由とする解雇につき、会社の名誉・信用を傷つけるという解雇事由に該当せず無効とした事例。

 裁判支援闘争を理由とする始末書提出命令に従わないことを理由とする出勤停止処分につき、始末書提出命令は業務上の指示命令に当たらないとして、右処分を無効とした事例

 Aの行為が就業規則30条1項2号の「反社会的行為により会社の名誉及び信用を傷つけ従業員として不適当と認めたとき。」との要件に該当するかどうかを検討する。  まず、Aのビラ配布行為は、〔中略〕組合活動の一環としてなされたもので、Aは委員長の立場でこれに参加したものであるが、本来、労働組合は文書活動を重要な運動手段としており、文書によって職場環境の実情を外部に訴えることは当然認められなければならないから、その内容が事実であれば使用者がこれを受認しなければならないことは当然である。そこで、本件についてこれを見るに、〔中略〕債務者が特に問題とする記載は〔中略〕いずれも事実であると認められる(債務者は、記載〔1〕のような発言をしたことは事実であるが、それは軽い冗談であって趣旨が違うと弁解するが、仮に冗談としても新入女子社員に対する発言内容としてはなはだ適切を欠くばかりでなく、そういう言葉を受け取る側の気持ちを全く無視した一方的な弁解である。)。〔中略〕債務者の女子従業員のセクハラ問題は本件ビラの配布より先になされた別件仮処分に関するマスコミ報道によってB会社他同グループ二社のタクシー会社における問題であることが明らかにされていたのであるから、債務者の右主張は理由がない。

 次に、債務者は、Aが、これまでに債務者代表者に対し、「会社が従業員を殺した。」とか「〔中略〕」等と会社に嫌がらせをして会社を潰そうと意図する言動を繰り返してきたと主張している。しかしながら、このような事実を認めるに足る疎明はない。確かに疎明資料によれば、以前債務者の運転手が帰宅途中に事故死する事件があった際、Aは、会社のノルマが厳しいため過労になった事がその原因であると考えて、会社に対しノルマの撤廃を申し入れたことがあったが、執務状況の改善を求めること自体は従業員として当然なし得ることである。ところで、Aは、組合委員長としての立場上、債務者代表者に対し時に不穏当な発言をすることが無かったわけではないが、〔中略〕債務者代表者はAに対し過剰に反応しすぎた嫌いがあり、それは債務者代表者が組合活動を行うAを嫌悪し同人を会社から排除しようとする意図を有していたことを窺わせかねないほどである。

 以上のとおり、債務者が指摘するAの言動は、いずれも正当な組合活動として、あるいは従業員としての立場から当然認められるべきものであるから、反社会的行為であるとは到底いえず就業規則30条一項2号には該当しない。その他、Aについて就業規則30条1項各号に掲げる事由があるとの疎明もない(中略)。  よって、本件解雇は無効であり、債務者の前記抗弁は理由がないから、Aは債務者に対し雇用契約上の権利を有する地位にあり、かつ賃金請求権を有している。

 債務者は、Cが、同月7日、当庁で別件仮処分の審尋が行われた際、組合書記長として、何ら許可も届出もないまま債務者のタクシーを利用して裁判所に赴いたのは、就業規則六〔中略〕に違反し組合活動の限界を超えるとして、始末書を書くよう求めたが、同人がこれを拒否したので、〔中略〕平成8年3月8日付で10日間の出勤停止処分をしたと主張する。しかしながら、始末書の提出命令は、懲戒処分を実施するために発せられる命令であって、労働者が雇用契約に基づき使用者の指揮監督に従い労務を提供する場において発せられる命令ではないこと、また、始末書の提出の強制は個人の意思の尊重という法理念に反することから考えると、右命令は、懲戒処分発動の要件となるべき業務上の指示命令には当たらないというべきである。そうすると、本件で、債務者が、Cの始末書提出拒否を就業規則六五条一項4号の業務上の指示命令違反として、同人に対し同64条5号に基づき出勤停止処分を行うことはできないといわなければならない。  なお、疎明資料によれば、Cは、別件仮処分の審尋が行われた際、同事件の申立人の1人を有料乗車して当庁まで届けた上、自身も、午後2時45分頃債務者に対し休憩に入る旨の無線連絡を入れてから同四時頃に休憩終了の無線連絡を入れるまでの間約1時間15分の休憩をとって組合の裁判支援活動に参加していることが認められる。しかし、本来休憩時間をどのように使用するかは従業員の自由であり(労働基準法34条3項、就業規則34条1項)、また、タクシー運転手の業務内容から見て休憩場所を何処にするかはその裁量に任されていると考えられる。しかも、疎明資料によれば、債務者は、就業規則33条1項別表2のとおりタクシー運転手に1勤務時間の休憩時間を認めており、かつ、同別表2の定めにかかわらず休憩時間をどの時間帯でとるかはタクシー運転手の裁量に任されており、1時間を超えて2時間まで連続して休憩時間をとることも事実上容認されていたことが認められる。そうすると、Cが当庁まで別件仮処分の申立人を有料乗車させたことは勿論正当な業務であり(債務者は別件仮処分の申立人を乗車させたことを問題とするが、債務者がタクシー運転手に対し特定の乗客の乗車拒否を命じることが許されないことはいうまでもない。)、当庁を休憩場所に定めたことも休憩時間が連続して約1時間45分に及んだことも問題がない。そして、休憩時間をどのように使用するかはCの自由であることは前記のとおりであるから、その時間に組合の裁判支援活動に参加することも何ら問題ない。したがって、Cの前記行動を理由として同人に対し出勤停止処分をすることも許されない。〔中略〕

 債務者は、Cが前項の始末書を提出しないことに加え、同月17日に〔中略〕徳島駅前で本件ビラを配布したとして、就業規則66条1号違反を理由として、再度同月18日付で10日間の出勤停止処分をしたと主張する。  しかしながら、始末書の提出拒否を理由に出勤停止処分をすることが許されないことは前項で見たとおりであり、また、本件ビラ配布行為に問題がないことも前記2、(3)ないし(5)で見たとおりである。したがって、Cに対し出勤停止処分をする理由はない。以上のとおり、平成8年3月8日付及び同月18日付各10日間の出勤停止処分によりその期間中の賃金請求権がないとする債務者の抗弁は理由がない。さらに、疎明資料によれば、債務者は、平成8年3月27日、就労を求めて出社したCに対し、再び始末書の提出を求め、Cがこれを拒否すると、今度は始末書を提出するまで出勤を停止とすると申し向けて引き続き就労を拒否したため(これが許されないことは前記のとおりである。)、Cは、同年5月2日、本件仮処分を申立てざるを得なくなったこと、その後、同年5月28日になってようやく債務者との間で話し合いが持たれ、同年6月1日から再び就労することになったことが認められる。したがって、Cは平成8年3月8日から同年5月31日までの賃金請求権を有している。

(関係法令)

 労働基準法2章 89条1項9号

(判例集・解説)

 労働判例727号77頁

 

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