大和交通事件 大阪高裁判決(平成11年6月29日)

(分類)

 懲戒

(概要)

 タクシー会社の乗務員である組合委員長が、タクシー会社の車庫でピケを指導したこと、駅前で客待ちしていた別組合所属の運転手に暴言を吐いて脅迫し、乗務を断念させたこと、業務命令を受けてタクシーを出庫させようとした別組合所属の運転手に暴言を吐いたうえ、ネクタイを掴み引っ張るなどの行為を行ったとして懲戒解雇されたケースで、会社側の控訴が認められ、当該懲戒解雇は相当性を欠き無効であるとした原判決が取り消された事例。

 控訴人の社名が入ったタクシー10台に、そのようなスローガンを記載した大きな横断幕を張り付けて、奈良市内の目抜き道路を40分間にわたり走行することは、控訴人の名誉、信用を毀損する違法な行為であって、正当な組合活動であるとはいえない。〔中略〕以上の次第で、本件タクシーパレードは、控訴人の施設管理権を侵害し、従業員の就業時間中の職務専念義務、組合活動禁止義務に違反し、控訴人の名誉、信用を害する違法な組合活動である。その違法性の程度は小さくない。〔中略〕

 被控訴人の前示各行為は、当該行為の性質、態様、情状、控訴人の事業の種類、規模、経営方針、被控訴人の会社における地位、職種等、諸般の事情から総合的に判断して、右行為により控訴人の企業秩序、社会的評価に及ぼす影響が相当重大なものであると認められる。それ故、控訴人(会社)が、被控訴人に対し懲戒処分をするに際して、諸般の事情を総合して懲戒解雇処分を選択し、出勤停止としなかったからといって、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量を濫用したものとは認められない(最判昭和52・12・20 民集31巻7号1101頁)。

 以上のとおりであるから、被控訴人に有利な前示(1)(5)の事実を考慮しても、被控訴人の前示違法な争議行為に関連してなされた前示各行為を懲戒解雇事由とする本件懲戒解雇が、懲戒解雇処分としての相当性を欠くものとは認められないし、懲戒解雇権の濫用により無効であるともいえない。〔中略〕

 使用者の行う懲戒処分を、労働契約や集団的合意ではなく、企業秩序の違反者に対する制裁であると考える以上(最判昭和52・12・13民集31巻7号1037頁)、それが私企業内の懲戒手続であるとの理由のみで、これは適正手続ないし自然的正義の原則に照らし、被処分者に弁明ないし弁解の機会を与えるべきであるとの保障の枠外にあるとはいえない。  しかし、一般に、懲戒手続は刑事手続とはその性質を異にし、またその目的に応じ多種多様で、懲戒処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、懲戒処分の内容、性質、その懲戒対象事実の性質、明確度等を総合較量して決定すべきものである。  懲戒処分では、就業規則に弁明、弁解の手続規定がない場合には、弁解聴取の機会を与えることにより、処分の基礎となる事実認定に影響を及ぼし、ひいては処分の内容に影響を及ぼす可能性があるときに限り、その機会を与えないでした懲戒処分が違法となる。
 控訴人の就業規則、旧労働協約には、控訴人が従業員、A労組員に懲戒権を行使するにあたり、当該被懲戒者に弁明の機会を与えることを義務づけた規定はない(〈証拠略〉)。また、控訴人には、従前から、従業員に懲戒権を行使するにあたり、当該被懲戒者に弁明の機会を与えるという慣行も存在しない(〈人証略〉)。しかも、懲戒処分の理由となった事実の殆ど全部が、前認定のとおり明白で、弁解、聴取の機会を与えることにより、処分内容に影響を与えたものとは認められない。
 したがって、控訴人が本件懲戒解雇処分をするにあたり、被控訴人に弁明の機会を与えていないからといって、本件懲戒解雇処分が違法になるとはいえない。

(関係法令)

 労働基準法89条1項9号  労働組合法1条2項 8条

(判例集・解説)

 労働判例773号50頁  労経速報1719号10頁  法政研究〔九州大学〕67巻2号245~259頁

 

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