東谷山家事件(福岡地裁小倉支部 平成9.12.25)

 株式会社東谷山家事件は、トラック運転手が髪を黄色く染めてきたことが争われたケースです。頭髪を黄色く染めたトラック運転手に、これを黒く染め直すよう指示したことについて、会社は、トラック運転手が茶髪を改めるようにとの命令に従わず、また、始末書を提出しなかったことから、諭旨解雇にしました。 これに対し、裁判所は、まず、髪の色・型、容姿、服装といった労働者の自由を制限する場合、企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内とどまるべきものとしました。 そして、次の点から、解雇を無効としました。 ・会社は、対外的な影響よりも社内秩序維持を念頭に、茶髪を元に戻すよう発言したと推測されること ・会社側の態度は、労働者の人格や自由への制限措置について、その合理性、相当性に関する検討を加えた上でなされたとは認めがたいこと ・運転手から始末書をとることに眼目があったこと ・茶髪は就業規則のけん責事由に該当せず、始末書の不提出も社内秩序を乱したと言えないこと 本件では、会社の主張が認められませんでした。

 使用者は企業秩序維持のための措置を講ずることができるが、その権限はおのずとその本質に伴う限界があり、労働者の髪の色、服装等に対する制限は、企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるべきであるとされた。「労働者の髪の色・型、容姿、服装などといった人の人格や自由に関する事柄について、企業が企業秩序の維持を名目に労働者の自由を制限しようとする場合、その制限行為は無制限に許されるものではなく、企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるものというべく、具体的な制限行為の内容は、制限の必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことのないよう特段の配慮が要請される」とされ、使用者がなした諭旨解雇は懲戒権の濫用として無効とされた。

 一般貨物運送等を業とするY社にトラック運転手として業務に従事していたXが、髪の色を黄色く染めて勤務していたことに対して、Y社の課長Aが取引先から好ましくないとの連絡があったことを理由としつつ、Xに対して髪の色を元に戻すよう指示した。これに対してXは、髪の色で干渉するのはおかしい、自然に髪の色は戻るからいいではないかと反論した。AはXに始末書の提出と理髪店での黒髪への染色を指示したが、Xは始末書の提出を拒み、自ら染髪料を用いて少し茶色が残る程度に髪を染め直した。Aは、Xに対して「就業規則に基づき諭旨解雇とする」旨通告した。 Xは、Y社の労働者であること及び賃金の支払を求めて仮処分申請を行った。 

(決定の要旨)

 一般に、企業は、企業内秩序を維持・確保するため、労働者の動静を把握する必要に迫られる場合のあることは当然であり、このような場合、企業としては労働者に必要な規制、指示、命令等を行うことが許されるというべきである。しかしながら、このようにいうことは、労働者が企業の一般的支配に服することを意味するものではなく、企業に与えられた秩序維持の権限は、自ずとその本質に伴う限界があるといわなければならない。特に、労働者の髪の色・型、容姿、服装などといった人の人格や自由に関する事柄について、企業が企業秩序の維持を名目に労働者の自由を制限しようとする場合、その制限行為は無制限に許されるものではなく、企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるものというべく、具体的な制限行為の内容は、制限の必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことのないよう特段の配慮が要請されるものと解するのが相当である。<中略> 以上要するに、Xが頭髪を黄色に染めたこと自体がY社の就業規則上直ちにけん責事由に該当するわけではなく(Xもこのような主張をしているとは解されない。)、上司の説得に対するXの反抗的態度も、すでにみたように、Y社側の「自然色以外は一切許されない」とする頑なな態度を考慮に入れると、必ずしもXのみに責められる点があったということはできず、Xが始末書の提出を拒否した点も、それが「社内秩序を乱した」行為に該当すると即断することは適当でない。<中略>  本件解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効というべきである。

 

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