正光会宇和島病院事件 松山地裁宇和島支判決(平成13年12月18日)
(分類)
整理解雇
(概要)
精神病院を経営する財団法人Yが経営する病院の準職員(X1介護者、X2・X3准看護婦)として勤務していたX1・X2・X3三名が、X1・X2はそれぞれ期間1年の雇用契約を2回更新し、3回目の更新に際し妊娠していたところ更新拒絶され、X3は期間1年の雇用契約を四回更新されたが、5回目の更新に際し正規職員採用試験(勤続3年以上の者が対象)の不合格を理由として更新を拒絶されたため、Yに対し、それぞれ不当に雇用契約の更新拒絶を受けたとして、雇用契約上の権利の確認及び賃金・賞与の支払を請求したケースX1・X2・X3の雇用期間満了後もYが雇用を継続すべきものと期待することには合理性が認められるから、X1・X2・X3とYとの契約関係には解雇に関する法理を類推適用するのが相当であるとしたうえで、X1及びX2を雇止めした理由は結局のところX1・X2が妊娠したためであったと言わざるを得ないところ(なお争点となっていたX1・X2とYとの雇用期間終了の合意についても否定)、事業主が妊娠や出産を退職の理由として予定したり、解雇理由にしたりすることは雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律8条2・3項において禁じられており、その趣旨は、有期雇用契約について解雇の法理が類推適用される本件においても、当然に妥当するというべきであり、現にYにおいても契約更新した有期契約職員は育児休業を取得でき、そのことを理由として昇格等で不利益な取扱いを受けることはないとされ、又準職員の産前産後休暇及び育児休業期間は無給とされこの期間に限り代替要員を雇う限りYに経済的損失は生じないのであるから、Yにおいて準職員が通常勤務できない場合であっても、それが妊娠したことによる場合には、期間満了による雇止めは更新拒絶権を濫用したものとして無効であるとするのが相当であり、又X3についても、勤続3年を超える準職員について不合格の場合に雇止めとする本件試験制度は契約の反復更新を積極的に評価する就業規則に反すること、かかる準職員の雇止めを目的とする試験制度であることなどに照らすと、試験不合格を根拠として、期間満了による雇止めを行うことは信義則に反し、契約の更新拒絶権を濫用したものと言うべきであって無効であるとして、X1・X2・X3の請求が一部認容された事例(賃金、賞与の将来分の支払を請求する部分は却下)。
雇止めまでの契約更新回数は、原告X1及び原告X2はいずれも2回、原告X3は4回であり、その都度、契約期間を明示した契約書を作成していたものであるが、被告としては、有期契約職員の看護職員に対しては、経営の必要上、正規職員と並ぶ恒常的存在として、基幹的業務を担うことを期待すべき客観的状況が存したこと、平成7年以降には有期契約職員に適用される就業規則を明らかにして、契約を反復更新して勤務を継続する者に対して、給与その他の労働条件面で積極的に評価するにまで至ったこと、原告らの採用時には、継続雇用を期待される言動がみられたこと等の事情に照らすと、原告らの雇用期間満了後も被告が雇用を継続すべきものと期待することには合理性が認められるから、原告らと被告との契約関係には、解雇に関する法理を類推適用するのが相当である。したがって、契約期間が満了しても、いずれも当然には契約は終了しないことになる。〔中略〕 被告と原告X1との雇用契約につき、解雇に関する法理が類推適用されるべきことは前記のとおりであるところ、この法理が類推適用されるのは、原告X1が契約更新に対して期待を寄せることが合理的であって、それが法的保護に値するからであるから、その効果を障害するための雇止め承諾の意思表示は、消極的、受動的なものでは足りず、被告に対し、積極的、能動的になされたものである必要があると解するのが相当である。
本件において、原告X1は、雇止めが通告された際に「わかりました。」と述べたのみで、本件全証拠に照らしても、被告に対し、それ以上に積極的、能動的に承諾の意思表示をした事実は認められない。そして、雇止めの承諾が原告X1にとって4月以降の失業と収入の途絶を意味するものである以上、「わかりました」という言葉のみをもって、直ちに承諾の意思表示があったというべきでない。〔中略〕
雇止め承諾の意思表示は、消極的、受動的なものでは足りず、被告に対し、積極的、能動的になされたものである必要があると解すべきことは、前記のとおりであるが、原告X2は、被告の雇止めの通告に対し、何らの意思表示もせず、送別会に参加し、挨拶をしてはいるが、その一方で労働組合に雇止めのことを相談し、愛媛婦人少年室に事情を訴えるなどしていることに照らせば、被告に対し雇止めを承諾したと評価することはできず、積極的、能動的に承諾の意思表示をしたものとは認められない。〔中略〕
事業主が、妊娠や出産を退職の理由として予定したり、解雇の理由としたりすることは、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律8条2項及び3項において禁じられており、その趣旨は、期間を定めた雇用契約について解雇の法理が類推適用される本件においても、当然に妥当するというべきであり、現に、被告においては、平成7年8月1日以降1年を越えて契約更新した有期刑役職員は育児休業を取得でき、そのことを理由として、昇給等で不利益な取扱いを受けることはないとしている(〈証拠略〉)。また、被告においては、準職員の産前産後休暇及び育児休業期間中は無給とされており(〈人証略〉),この期間に限って代替要員を雇う限り、被告に経済的損失は生じない。 以上から、被告において準職員が通常勤務ができない場合であっても、それが妊娠したことによる場合には、期間満了による雇止めは更新拒絶権を濫用したものとして、無効とするのが相当であるところ、被告が、原告X1及び原告X2を雇止めとしたことは、両名の妊娠を理由とするものであるから、被告の原告X1及び原告X2に対する雇止めは、無効である。
(関係法令)
労働基準法14条 2章 男女雇用機会均等法8条2項、3項
(判例集・解説)
労働判例839号68頁
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