三晃印刷事件 東京地裁 平成9.03.13

(分類)

 労働時間

(概要)

一部認容,一部棄却

・仕事がない場合は、午後5時以降帰宅してもよいとの取扱いがなされていても、割増賃金の起算点は就業規則上の終業時刻であるとされた事例 ・実労働時間の計算につき、タイムカード記録の出社時刻から退社時刻までを実労働時間として計算した事例 ・割増賃金を固定残業給方式にしている場合、時間外労働による割増賃金分がそれを超えているとして、差額分の支払を命じた事例

   一原告らの終業時刻(割増賃金の起算点)について  証拠(略)によると、従前から被告は、営業部、第四作業部の従業員に対して、仕事がないときには午後5時に退社してもよいという扱いをしており、そのことによる賃金カット等の不利益措置はしておらず、対外的に従業員を募集する際の社員募集要項や新聞の求人広告等の従業員募集関係書類にも終業時刻を午後5時と明記して募集していたこと、原告西村も昭和54年3月に被告に入社した際、終業時刻は午後5時という説明を受けたことが認められる。しかしながら、被告の就業規則(書証略)50条には、営業部・第四作業部従業員が該当する常駐勤務(単部制)事務の項には終業時刻は午後6時と明記されていること、被告から訴外組合に宛てた回答書(書証略)及び被告と訴外組合との了解事項と題する文書(書証略)によると、被告は、訴外組合に対し、昭和59年12月12日、事務系従業員の終業時刻は午後6時であるところ、管理監督者から特に仕事を命じられない場合等は午後5時以降ならば自由に終業帰宅してもよいとの事実上の運営は認めるが、これは終業時刻が午後5時であるということを権利として主張しない限りにおいて認めるということである旨通知し、訴外組合もこれを承諾した事実が認められ、さらに、要求書(書証略)、回答書(書証略)、確認書(書証略)、時差出勤制度に関する取扱い規定(書証略)、同(書証略)によると、右の取扱いは昭和63年四月18日の時点、平成元年8月7日の時点、同年11月8日の時点において、それぞれ被告と訴外組合との間で確認されていること、平成3年3月20日付け訴外組合作成の春闘闘争ニュース(書証略)には、1日1時間の労働時間引下げの回答が出たことによって、午前九時始業の職場は午後5時が終業時刻になる旨の記載があること、同年6月28日付けの被告と訴外組合との協定書(書証略)によれば、現行の終業時刻を一時間繰り上げることによって、1日の所定内労働時間を7時間とする旨の合意がなされていること、(人証略)によると、採用面接時や新入社員研修時に終業時刻は午後6時であることを説明しているし、採用時に就業規則を各従業員に配布していることが認められる。これらの事実に照らすと、原告らの終業時刻は午後6時であると認定すべきである。一般に、タイムカードの記載は、従業員の出社・退社時刻を明らかにするものであって、出社・退社時刻は就労の始期・終期とは一致しないから、本件原告らの時間外労働等の時間数をタイムカードの記載を転載した個人別出勤表に基づいて認定することが許されるかが問題となる。  証拠(略)及び弁論の全趣旨によると、被告においては、管理職等を除く従業員は、出・退勤時にタイムカードを打刻することが義務付けられており、被告作成の個人別出勤表の「始業時間」欄、「終業時間」欄、「所定内時間」欄、「所定外時間」欄、「実働時間」欄の各記載はいずれもタイムカードの記録を基に記載されていること、被告は、タイムカードの記録に基づいて、従業員の遅刻等による一時金からの賃金カットをするなど、タイムカードの記録により従業員の労働時間を把握していたこと、本件固定残業制度の適用を受けていなかった従業員の時間外労働等の割増賃金の計算は、営業部員を含めて、タイムカードの記載を基礎になされていたと考えられること、本件固定残業制度が廃止された後の時間外労働等の計算は、タイムカードの記録をも基礎にしてなされていること、出社時刻から退社時刻までの時間は、一般に実労働時間より長く、両者には誤差があるが、被告における時間外労働等の時間数の計算方法は、15分ごとに0.25時間ずつ加算される方法をとっているため、出社してから就労を開始するまでの準備作業や終業して退社するまでの後片付けに相当の時間を要する行為(着替えや入浴等)を通常必要とするような場合は格別、そうでない場合は右誤差の相当部分は解消されることが認められる。  右認定事実からすると、タイムカードを打刻すべき時刻に関して労使間で特段の取決めのない本件においては、タイムカードに記録された出社時刻から退社時刻までの時間をもって実労働時間と推定すべきである。
 原告らには本件請求期間中、固定残業時間を超える時間外労働等が存する。そして、前示のとおり、被告における従業員の終業時刻及び割増賃金の起算点は、午後6時とすべきであるので、午後6時を起算点として、個人別出勤表に基づいて原告らの時間外労働等及び未払割増賃金を計算すると、別表1未払賃金等計算表1ないし19のとおりである(なお、前記争いのない事実に記載のとおり、被告給与規定18条但書には、「但し、週平均実働48時間以内の時間外勤務に対する手当の計算においては次式の乗数を一とする」という規定があり、この規定の意味するところは一見明確ではないものの、1日の所定時間外に労働した場合であっても、当該日の属する1週間の実労働時間が48時間以内であるときには、右時間内の労働に対して支払われるべき賃金の計算においては割増率を加算する必要がないという趣旨と解されるが、右規定の適用については、被告の主張がない)。

(判例集・解説)

 労経速報1637号3頁

 

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