更生会社三井埠頭事件 東京高判決(昭和12年12月27日)

(分類)

 賃金

(概要)

 港湾運送業等を営む株式会社Yの希望退職募集に応募し退職した元従業員Xら3名が、在職中に、Yが約束手形の不渡りを生じさせ、経理に混乱が生じたことから管理職全員を対象にその意思確認がなされないまま賃金額の20%が調整金の名目で控除して支払われたため、Xらは退職に先立ち「未払賃金に関する申込書」を管財人宛てに作成し、減額分の賃金支払を請求したが、管財人が右申込書を受領しなかったため、右減額分の未払賃金の支払を請求したケース(なお、Yの就業規則には賃金控除を許容する規定はなく、賃金控除を許容する内容に変更する措置も採られていない)の控訴審(Y控訴)で、原審の結論と同様に、労基法24条1項本文は全額払いの原則を定めているところ、就業規則に基づかない賃金の減額・控除に対する労働者の承諾の意思表示は、それが労働者の自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに限り有効であると解すべきであるが、Xらが賃金減額を承諾する旨の意思表示をしたものとは認めることができず、外形上承諾と受け取られるような不作為がXらの自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということもできないとして、Yの控訴が棄却された事例。

 当裁判所も、被控訴人らの請求はいずれも理由があるものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」中「第3 争点に対する判断」(同2項まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。〔中略〕労基法24条1項本文はいわゆる賃金全額払の原則を定めているところ、これは使用者が一方的に賃金を控除することを禁止し、もって労働者に賃金の全額を確実に受領させ、労働者の経済生活を脅かすことのないようにしてその保護を図る趣旨に出たものであると解されるから、就業規則に基づかない賃金の減額・控除に対する労働者の承諾の意思表示は、賃金債権の放棄と同視すべきものであることに照らし、それが労働者の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに限り、有効であると解すべきである。

(最高裁判所昭和48年1月19日第二小法廷判決・民集27巻1号27頁、最高裁判所平成2年11月26日第二小法廷判決・民集44巻8号1085頁参照)〔中略〕
 本件全証拠に照らしても、被控訴人らが本件減額通知の根拠について十分な説明を受けたことも、更生会社において本件減額通知に対する各人の諾否の意思表示を明示的に求めようとしたとも認められないこと(承諾の意思を明確にするための書面の作成もなければ、個別に承諾の意思を確認されたこともない。)、被控訴人X1及び同X2がその各本人尋問において「本件減額通知に異議を述べなかったのは、異議を述べると解雇されると思ったからである」旨供述し、被控訴人X3もその本人尋問において「異議を述べなかったのは、自らの在籍期間が短く、他の人を差し置いて異議を述べるべきではないと思ったからで、賃金の控除に納得していたわけではない」旨供述していること、さらに、本件減額通知の内容は、管理職従業員についてその賃金の20パーセントを控除するというもので、被控訴人らの不利益が小さいとはいえないものである上、仮に更生会社の存続のためには賃金の切下げの差し迫った必要性があるというのであれば、各層の従業員に応分の負担を負わせるのが公平であると考えられるのに(本件において、管理職従業員に対して一律20パーセントの賃金の減額をすることが真に経済的合理性を有し、かつ、公平に適うものと認めるべき事情は存しない。)、管理職従業員についてのみ右のような小さくない負担を負わせるものとなっていることなどにかんがみると、被控訴人らがその自由な意思に基づいて本件減額通知を承諾したものということは到底できないし、また、外形上承諾と受け取られるような不作為が被控訴人らの自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということもできない。したがって、賃金の控除分の支払を求める被控訴人らの請求はいずれも理由がある。

(関係法令)

 労働基準法24条1項 2章 3章 

(判例集・解説)

 労働判例809号82頁  労経速報1782号11頁  ジュリスト1239号161~164頁
 季刊労働者の権利243号45~48頁

 

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