商工組合中央金庫(男女差別)事件 大阪地裁判決(平成12年11月20日)

(分類)

 人事  均等  考課

(概要)

 中小企業の相互組織の金融機関Y1に昭和47年に事務職として雇用され、昭和62年のコース別人事制度導入により「総合職」に移行した女性従業員Xが、昇格において低い資格(総合8級)に据え置かれ、更に男性総合職に対してはなされない窓口補助業務の配転命令等を受け、またXの人事考課を行う男性上司Y2及びY3からお茶出しの協力等女性としての役割を求めるような発言を受けたことが、男女差別に基づく違法なものであるとして、(1)Y1に対し、労働基準法四条に基づき差別がなければ到達していたであろう資格(総合6級)にあることの地位確認及び差額賃金の支払、債務不履行ないし不法行為に基づき、差額賃金相当額(将来分も含む)、精神的損害について慰謝料の支払を請求し、(2)Y2及びY3に対して、女性であることを理由に違法な査定を行ったとして、債務不履行又は不法行為に基づき、Y1と連帯して差額賃金相当額の支払、前記発言により受けた精神的損害に対する慰謝料の支払を請求したケースで、Y1では総合職における資格、号俸及びそれに基づく賃金について男女間で差が生じていたとしたとしたうえで、コース別人事制度、旧制度の考課方法、また研修については男女差別も認められず、また昇格及びこれに伴う昇給の決定をする人事考課についても、Xが6級はもとより、7級Bに昇格できなかったことが男女差別であるとまではいえないとしたが、平成4年度のXの業績に対する人事考課及び窓口補助業務の配転に関しては、女性であることを理由とした不当な差別的取扱いというべきであるとして、(1)については、男女差別に基づく平成4年の人事考課についての裁量権の濫用及び違法な配転によってXが被った経済的ないし精神的損害について不法行為責任に基づく慰謝料請求が一部認容され(確認請求については、Yによる昇格決定の意思表示がなければ昇格の効果は生じないとして請求が棄却)、(2)については、人事考課についてはY2及びY3は第2次評定者にすぎず、考課全体における両者の寄与度を単純に判定できないとして、不法行為責任を認めることはできず、また債務不履行責任については契約当事者でないことから請求が棄却、その他の請求も棄却された事例。

 被告金庫では、総合職における資格、号俸については、男女で差が生じており、右資格、号俸は、被告金庫の人事制度上、賃金面にも反映されるから、賃金額についても差が生じていたといえる。〔中略〕被告金庫の人事制度は、前提事実欄3ないし5に記載のとおりであり、旧制度もコース別人事制度も、制度そのものあるいは考課方法において男女で異なっているわけではない(〈証拠略〉)。従って、制度自体が男女別労務管理制度であるとまではいえない。〔中略〕  原告は、昭和62年のコース別人事制度導入時、男性職員には、総合職を、女性職員には、一般職を選択するように説得が行われ、これにより、被告金庫は、従前旧制度における運用上の男女別の労務管理を、事実上制度上も男女別労務管理を行うことにしたと主張する。確かにコース別人事制度の導入の際に、ほとんど全ての男性職員が総合職を選択し、ほとんどの女性職員が一般職を選択したこと、当時、原告を含め総合職を選択しようとした女性職員に対して、面接の際、暗に総合職を選択することをあきらめるように説得がなされていたことを認めることができる。しかし、コース別人事制度導入時、すでに資格が副主事以上の者については、男女の区別なく自動的に総合職へ移行となったこと、総合職と一般職では、職務内容、転勤範囲等で差があることから、すべての職員が総合職に適するとはいえないこと、そこで、管理職が、職種の内容などを説明し、そのうえで当人の意思確認を行うことも不当とはいえないこと、当時男性でも一般職を選択した者が12名おり、女性で総合職を選択した者が約50名いたこと(弁論の全趣旨)を考慮すれば、右事実をもって、コース別人事制度が男女別労務管理であるとまでいうことはできない。〔中略〕被告金庫の人事考課上、1人の評価について最終的に五個以上のAがつくことはめずらしいことではないと推認できるにもかかわらず、業績を挙げた原告に対するAの考課項目の個数が2にとどまり、仮にCの項目がなくとも総合評価としてはあ(資格相応)にしかならないというのは明らかに不当に低い評価といわざるを得ない。そして、原告とほぼ同時期に入庫した女性の総合職16名の中で、被告金庫に入庫して約20数年以上経過した平成5年当時で、役付者(総合7級)以上の者は1名しかいないこと、原告と同じく総合職であるTの人事考課について、支店が総合評価で四を付けたにもかかわらず、人事部の調整により3となったことがあったことなどをも合わせ考慮すれば、かかる原告に対する低い考課の理由について、原告が女性であることを理由としたものであったと判断せざるをえず、右以外に、証拠上これを否定するに足りる特段の合理的な理由はみあたらない。  したがって少なくとも平成4年度の原告の業績に対する人事考課については、男女差別に基づくものであり、これについては、被告金庫に、違法な裁量権の濫用があったといわざるをえない。〔中略〕

 昇格は、当該労働者の職務の等級を上位に引き上げることである。原告は、総合六級の地位にあることの確認を求めるが、被告金庫においては、前述の被告金庫の総合的な裁量的判断である人事考課に基づき、被告金庫が決定するものであり、被告金庫による昇格決定の意思表示がなければ、昇格の効果は生じないから、原告が総合6級の地位にあることを認めることはできない。  この点原告は、男女雇用機会均等法を根拠とするが、これは企業に対する努力規定にすぎないから根拠とならない。また、原告は、労基法4条により、被告の違法な考課の部分は無効であり、その雇用条件の空白は、男性総合職の標準者のそれをもって充てられるべきだとも主張するが、労基法4条は賃金に関する男女差別を禁止する規定であり、本件のような昇格における男女差別に直接適用することができるものではなく、また、仮に同条、あるいは同法13条の適用を認め、原告の現在の職務の等級の格付が無効であるとしても、同法13条は、無効となった部分の基準を同法の中に求めており、原告が主張する男性総合職の標準者をもって充てることができないのはもちろんのこと、基本的には労働者に対する職務の格付は、被告金庫の裁量によるものであるから、無効となった部分に対応する基準を一義的に同法の中に求めることはできず、原告の右主張もとりえない。
 前記認定のとおり、被告金庫の原告に対する平成4年度の人事考課は、男女差別という公序良俗に反し、違法な裁量権の濫用であったといえる。また、原告に対し「窓口補助」を発令したことも男女差別であって違法というべきである。したがって、これら被告金庫の違法な行為により、原告が経済的あるいは精神的に損害を被った場合には、被告金庫は、少なくとも不法行為に基づき、原告が被った右損害を賠償する責任を負う。  次にその損害額について検討する。確かに右時期の被告金庫の人事考課及び配置が違法なものであったとはいえるが、他方、当時の原告に対する正当な考課が、総合7級Bへの昇格の要件を満たすものであったかについては、一概に決しえない。しかし、熱心に仕事に取り組み成果を上げたことを正当に評価されなかったことによる原告の精神的苦痛については、多大なものがあったといえる。実際に原告は自己に対する違法な査定を知ったことにより、鬱状態にまでなっている。また、総合職でありながら、窓口補助に配置されたことも、原告に精神的苦痛を与えたことが推認される。これらの事情を総合考慮すれば、その精神的損害に対する慰謝料としては200万円が相当である。  また弁護士費用については、諸般の事情を考慮し、その1割をもって相当とする。

 

(関係法令)

 労働基準法4条 2章  民法90条 709条  男女雇用機会均等法8条

 

(判例集・解説)

 労働判例797号15頁  労働法律旬報1517・1518号120~123頁
 平成13年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1096〕274~275頁

 

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