電通過労自殺事件 最高裁第2小(平成12.3.24)

(分類)

 労働時間  安全衛生  労災

(概要)

 長時間の残業を恒常的に行っていた労働者がうつ病に罹患し、自殺した場合に使用者の民法715条の損害賠償責任を肯定するもの。原審が、自殺者の性格、業務態様、遺族(同居の両親)の態様をもって会社の賠償額を減額したことについて、法令の解釈適用を誤った違法があるとしてその部分を差し戻すもの。

 「うつ病に罹患した者は、健康な者と比較して自殺を図ることが多く、うつ病が悪化し、又は軽快する際や、目標達成により急激に負担が軽減された状態の下で、自殺に及びやすいとされる。」とするもの。

 (労災保険においても、労働省の平成11.9.17通達で、うつ病と自殺の因果関係は推定されるものとされている。)

 「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負う」とするもの。

 「原審は、・・・業務の遂行とうつ病罹患による自殺との間には相当因果関係があるとした上、・・・(上司には、自殺者が)恒常的に著しく長時間に渡り業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らなかったことにつき過失があるとして、一審被告(会社)の民法715条に基づく損害賠償を肯定したものであって、その判断は正当として是認することができる」とするもの。

 「労働者の性格が前記の範囲(同種の業務に従事する労働者の個性の多用さとして通常想定される範囲)を外れるものでない場合には、裁判所は、業務の負担が過重であることを原因とする損害賠償請求において使用者の賠償すべき額を決定するに当たり、その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等を斟酌することはできない」とするもの。

 同居していた両親について、「勤務状況を改善する措置を採りうる立場にあったとは、容易にいうことはできない。」とするもの。

 平成12年6月23日、差し戻しの東京高裁で、会社が1億6800万円を支払い謝罪するとの内容で和解が成立した。

(関係法令)

 民法  労働基準法  安全衛生法

(判例集・解説)

 労判779・13  労判847・5  判時1707・87  判タ1028・80 

(関連判例)

 高知営林署事件 最高裁第2小(平成2.4.20)
 電電公社帯広局事件 最高裁第1小(昭和61・3・13) 
 日立製作所武蔵工場事件 最高裁第1小(平成3・11・28)
 東加古川幼児園事件 最高裁第3小(平成12・6・27) 
 横浜南労基署長(旭紙業)事件 最高裁第1小(平成8・11・28)
 横浜南労基署長(東京海上支店長付運転手)事件 最高裁第1小(平成12年7月17日) 

 

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