強皮症

 強皮症には全身性強皮症と限局性強皮症があり、両者は全く異なる疾患ですので、この区別がまず重要です。限局性強皮症は皮膚のみの病気で、内臓を侵さない病気です。
 一方、全身性強皮症は皮膚や内臓が硬くなる変化(硬化あるいは線維化といいます)が特徴です。
 限局性強皮症の患者さんが、医師から単に「強皮症」とだけいわれて、全身性強皮症と間違えて不必要な心配をしていることがしばしばありますので注意が必要です。
次に大切な点は全身性強皮症の中でも病気の進行や内臓病変を起こす頻度は患者さんによって大きく異なるということです。患者さんによっては病気はほとんど進行しないことから、従来欧米で使われていた「進行性」全身性硬化症という病名の「進行性」という部分はこの病気には適切でないことから、今は使われなくなりました。
 このように全身性強皮症の中でもいろいろなタイプ(病型といいます)があることがわかってきたことから、国際的には全身性強皮症を大きく2つに分ける病型分類が広く用いられています。
 つまり、典型的な症状を示す「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と比較的軽症型の「限局皮膚硬化型全身性強皮症」に分けられています。
 前者は発症より5~6年以内は進行することが多く、後者の軽症型では進行はほとんどないか、あるいはゆっくりです。この病型分類のどちらに当てはまるかによって、その後の病気の経過や内臓病変の合併についておおよそ推測ができるようになりました。

 本邦での全身性強皮症患者は2万人以上いると確認されています。
 全身性強皮症はレイノー症状発症することが多いのですが、その中には皮膚硬化がゆっくりとしか進行しない患者さんも多く、病気に気が付かなかったり、医療機関を受診しても診断されなかったりすることもしばしばあり、このような軽症型の全身性強皮症を含めると患者数は数倍以上になると推定されています。

 男女比は1:12であり、30~50歳代の女性に多く見られます。ごく稀に小児期に発症することもあります。
 また、70歳以降の高齢者にも発症することもあります。

 全身性強皮症の病因は複雑であり、はっきりとはわかっていません。しかし、研究の進歩によって3つの異常が重要であることが明らかとなりました。

 その3つの異常とは、
 (1 )免疫異常(自己抗体を産生)
 (2) 線維化(線維芽細胞の活性化によって生じます)
 (3) 血管障害(その結果、レイノー症状や指先の潰瘍などが生じます)
です。
 それぞれの異常についてはだんだんわかってきましたが、まだこの3つの異常がお互いにどの様に影響し合って全身性強皮症という病気になるのかがわかっていません。全身性強皮症の病因をジグソー・パズルに例えると、一つ一つのピースはだんだん集まってきましたが、まだいくつかの重要なピースが欠けていて、全体のジグソー・パズルが完成していない状態といえると思います。

 全身性強皮症はいわゆる遺伝病ではなく、遺伝はしません。しかし、全身性強皮症にかかりやすいかどうかを決定する遺伝子(疾患感受性遺伝子といいます)は存在すると考えられています。これら疾患感受性遺伝子は一個ではなく、多数存在し、一つだけをもっていても全身性強皮症にはなりません。多数ある疾患感受性遺伝子のセットを一人の人が、たまたまもっていると全身性強皮症になりやすいと考えられますが、それでもまだ不十分です。これら疾患感受性遺伝子に加えて、生まれてからの環境なども全身性強皮症の発症に複雑に関与すると考えられています。

症状

レイノー症状:
 冷たいものに触れると手指が蒼白~紫色になる症状で、冬に多くみられ、初発症状として最も多いものです。治療としては保温が大切です。

皮膚硬化:
 皮膚硬化は手指の腫れぼったい感じからはじまります。人によっては手のこわばりを伴います。また、今まで入っていた指輪が入らなくなったことで気づかれることもあります。典型的な症状を示す患者さんでは、その後、手背、前腕、上腕、体幹と体の中心部分に皮膚硬化が進むことがあります。注意してほしい点は、すべての患者さんで皮膚硬化が体幹まで進行するわけではないということです。つまり、前述した「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」では時に体幹まで硬化が進行しますが、「限局皮膚硬化型全身性強皮症」では体幹の硬化はきわめてまれです。

他の皮膚症状:
 爪上皮(爪のあま皮)の黒い出血点、指先の少しへこんだ傷痕、指先や関節背面の潰瘍、毛細血管拡張、皮膚の石灰沈着、皮膚の色が黒くなったり、逆に黒くなった皮膚の一部が白くなったりする色素異常などがみられます。特に、指先や関節背面の潰瘍に潰瘍ができたときには、自分で処置をせず、主治医に処置してもらうことが大切です。

肺線維症:
 ひどくなると空咳や息苦しさが生じ、酸素吸入を必要とすることもあります。前述した「びまん型全身性強皮症」で比較的多く見られる合併症です。肺線維症があると細菌が感染しやすくなり、肺炎を起こしやすいので注意が必要です。痰が増えたり、発熱が生じたら直ぐに主治医に連絡して下さい。

強皮症腎クリーゼ
 腎臓の血管に障害が起こり、その結果高血圧が生じるものです。急激な血圧上昇とともに、頭痛、吐き気が生じます。ACE阻害薬という特効薬による早期治療が可能ですので、このような症状が起きたときには、直ぐに主治医に連絡して下さい。

逆流性食道炎
 食道下部が硬くなり、その結果胃酸が食道に逆流して起こるもので、症状としては胸焼け、胸のつかえ、逆流感などが生じます。現在は症状を抑える治療法が開発されていますので、このような症状がでたときには主治医に相談して下さい。

その他の症状:
 手指の屈曲拘縮、関節痛、便秘、下痢などが起こることがあります。

 

治療法
 現在のところ、全身性強皮症を完全によくする薬剤はありません。しかし、あきらめないで下さい。最近の進歩によって、ある程度の効果を期待できる治療法は開発されてきました。特に発症から5~6年以内の「びまん型全身性強皮症」では治療の効果が最も期待できます。
代表的な治療法として、
 (1)ステロイド少量内服(皮膚硬化に対して)、
 (2)シクロホスファミド(肺線維症に対して)、
 (3)プロトンポンプ阻害剤(逆流性食道炎に対して)、
 (4)プロスタサイクリン(血管病変に対して)、
 (5)ACE阻害剤(強皮症腎クリーゼに対して)、
 (6)エンドセリン受容体拮抗剤(肺高血圧症に対して)
などが挙げられる。
 一方、「限局型全身性強皮症」では皮膚硬化の範囲も狭く、重い内臓病変もないため、症状を抑える治療法(対症療法)が主体となります。

 全身性強皮症の経過を予測するとき、典型的な症状を示す「びまん型全身性強皮症」と比較的軽症型の「限局型全身性強皮症」が役に立ちます。「びまん型全身性強皮症」では発症5~6年以内に皮膚硬化の進行および内臓病変が出現してきます。不思議なことですが、発症5~6年を過ぎると、皮膚は徐々に柔らかくなってきます。つまり、皮膚硬化は自然に良くなるのです。しかし、内臓病変は元にはもどりません。ですから、発症5~6年以内で、できるだけ早期に治療を開始して、内臓病変の合併や進行をできるだけ抑えることが極めて重要なのです。一方、「限局皮膚硬化型全身性強皮症」ではその皮膚硬化の進行はないか、あってもごくゆっくりです。また、例外を除いて重篤な内臓病変を合併することはありませんので、生命に関して心配する必要はありません。
 では、この「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」と「限局皮膚硬化型全身性強皮症」を区別する最も大切な目印は何でしょうか?それは自己抗体の種類です。自己抗体とは自分の細胞に向けられた抗体です。全身性強皮症では抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼ I(Scl-70)抗体、抗U1RNP抗体、抗RNAポリメラーゼ抗体などが検出されます。抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体や抗RNAポリメラーゼ抗体は「びまん皮膚硬化型全身性強皮症」の目印であり、一方、抗セントロメア抗体は「限局皮膚硬化型全身性強皮症」の目印となります。

 

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