日本航空事件 東京地裁判決(昭和53年9月29日)

(分類)

 職務評価

(概要)

 労働協約によって導入された職務給制(5職級及び各職級における40の号俸)が実施されている航空会社に対して、職務の評価付けが不当だとして、あるべき職務の評価づけ及び同格づけに基づく賃金と支給された賃金の差額の支払が求められた事例。  (請求棄却)

 以上の事実によれば、本件協約により定められた賃金体系においては、従前と異なり職務と賃金とが制度上結び付けられ、社員は、一定の職務が命じられることによりそれに対応する職務に格付けられ、更にその職級内で昇給が行われる仕組となっており、その中でも、1ないし3職級は、いわゆる非役付社員で、勤続年数の経過が中心的な要素となって上位の職級に格付けられるのに対し、4、5職級は、いわゆる役付社員で、被告が社員の勤続年数以外の要素も考慮した上で当該社員を一定の職務に任命することが昇格の要件となっているものということができる。そして、前記認定事実によれば、昭和42年4月1日付で行われた格付は、同日現在における各社員(管理職未満)の担当職務の決定の性質を有し、同日までに現実に担当していた職務と決定された職級の職務とが異なる場合は、担当職務の変更が行われたものと解すべきものであるが、証人Aの証言によれば、被告は、各社員の入社以来の年数を基に三職級までの格付を行い、更に当時の担当職務、職務への適性及び能力を考慮して、4、5職級への格付を行うという方法をとったが、結果的には、同日現在各社員が担当していた職務を原則としてそのまま引続いて担当させることとなり、その職務に対応する職級を決定し、更に本件協約所定の方法によりその職級内の号俸を決定したことが認められる。
 そこで、原告の昭和42年4月1日付の格付について検討する。《証拠略》によれば、原告は、昭和42年4月1日当時検査部試験課において、計量管理係長Bの下にC及びDと共に係員として配置され、同係長の指導監督を受けて、航空機諸部品の整備及び検査をするための計測機器(主として電気関係)の精度検査の業務に従事していたこと、原告の担当業務は、E会社入社以来一貫して右精度検査の業務であり、その業務内容は、入社時から昭和42年4月1日までの間、質的に変化したところはなかったことが認められ、被告が右同日付で原告を3職級35号俸に格付したことは、当事者間に争いのない事実である。右認定事実と前記2(4)及び(5)で判示した1ないし3職級と4、5職級との質的な差異とを併せて考えると、原告の昭和42年4月1日現在の担当職務が4職級(班長又は技術主任)以上の職務であったものとは認められない。(中略)次に、原告の昭和43年4月1日以降の格付について検討する。 原告の右同日以降の格付についての請求は、4職級又は5職級への昇格の請求を前提とするものであるところ、本件協約における上位の職級への昇格についての定めは、前記2(4)及び(5)で判示したとおりである。右の定めによれば、本件協約上、2職級及び3職級への昇格は、被告の行う昇格行為が必要ではあるものの、一定の勤続年数と標準年令に達している者については、これを昇格させる義務を被告が負っているものと解する余地があるのに対し、4職級及び5職級への昇格は、被告の行う昇格行為が必要であるだけでなく、一定の昇格基準に達している者でも昇格有資格者となるに過ぎず、被告がこれを当該職級に対応する職務に就けない限りは、昇格を行う余地はない制度となっており、しかも、社員が上位の職務に就けられることを求めうる旨の定めがないから、被告には、4職級及び5職級への昇格を行う義務もないこととなる。なお、原告主張の請求原因2(2)及び5の各事実も、4職級及び5職級への昇格の性質が前記のとおりである以上、前記判断を妨げる事由とはなりえない。従って、昭和43年4月1日以降、原告が当然に原告主張の職級に格付けられたこと又は被告において原告を右職級に格付する義務があることを前提とする原告の未払賃金請求、債務不履行による損害賠償請求及び原告主張のとおり格付を行うことを求める請求(予備的請求を含む。)は、その余の点について判断するまでもなく、すべて理由がない。

(関係法令)

 労働基準法2章

(判例集・解説)

 時報917号120頁  労経速報994号7頁  労働判例306号17頁

 

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