沼津交通事件 最高裁第2小(平成5・6・25)

(分類)

 年次有期休暇

(概要)

 年次休暇の取得に対して不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

 労働基準法附則第134条の規定について、使用者の努力義務を定めたもので、労働者の年次休暇取得に対する不利益取扱いの私法的効力を否定するまでの効力を認めたものではないとするもの。

 年次休暇に対する不利益取扱いの効力について、その趣旨、目的、労働者の失う経済的利益の程度、年休取得への抑止力の強弱等を総合して、年休所得の権利行使を抑制し、権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものでない限り、公序に反して無効とは言えないとするもの。

 年次有給休暇所得に対して、皆勤手当(給与支給月額に占める割合が最大1.85%)を減額する制度について望ましくはないが、公序に反して無効とまではいえないとするもの。

 

  被告Yタクシー会社では、昭和40年頃から、乗務員の出勤率を高めるため、ほぼ月ごとの勤務予定表どおり出勤した者に対して、報奨として皆勤手当を支給していた。Y社は、社内のA組合との間で締結された昭和63年度及び平成元年度の労働協約において、勤務予定表に定められた労働日数及び労働時間を勤務した乗務員に対し、昭和63年度は1か月3,100円、平成元年度は1か月4,100円の皆勤手当を支給するが、年休を含む欠勤の場合は、欠勤1日のときは昭和63年度は1か月1,550円、平成元年度は1か月2,050円を皆勤手当から控除し、欠勤が2日以上のときは皆勤手当を支給しないことにした。原告労働者Xの昭和63年5月、8月、平成元年2月、4月、10月における現実の給与支給月額は、年休取得によって皆勤手当が控除された結果、22万円余ないし25万円余であったが、皆勤手当の額の現実の給与支給月額に対する割合は、最大でも1.85%に過ぎなかった。XはY社に対して、不支給分の皆勤手当の支払いを求めて提訴し、一審はX勝訴としたが、二審はY社勝訴としたため、Xが上告した。

 (現)労基法136条それ自体は会社側の努力義務を定めたものであって、労働者の年休取得を理由とする不利益取扱いの私法上(市民一般の関係を規律する法分野:筆者注)の効果を否定するまでの効力(無効にする意義:筆者注)を持つとは解釈されない。また、先のような措置は、年休を保障した労基法39条の精神に沿わない面を有することは否定できないが、(現)労基法136条の効力については、ある措置の趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年休の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年休を取得する権利の行使を抑制し、労基法が労働者に年休権を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、公序に反して無効(民法90条)とはならない。

 Y社は、タクシー業者の経営は運賃収入に依存しているため自動車を効率的に運行させる必要性が大きく、当番表が作成された後に乗務員が年休を取得した場合には代替要員の手配が困難となり、自動車の実働率が低下するという事態が生ずることから,このような形で年休を取得することを避ける配慮をした乗務員については皆勤手当を支給することにしたと考えられる。 

 したがって、そのような措置は、年休の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものではないと考えるのが妥当であり、また、乗務員が年休を取得したことにより控除される皆勤手当の額が相対的に大きいものではないことなどから、この措置が乗務員の年休の取得を事実上抑止する力は大きなものではなかった。

 したがって、Y社における年休の取得を理由に皆勤手当を控除する措置は、公序に反する無効なものとまではいえない。

(関係法令)

 労働基準法

(判例集・解説)

 労判636・11 

(関連判例)

 日本シェーリング事件 最高裁第1小(平成1・12・14) 
 白石営林署事件 最高裁第2小(昭和48・3・2) 
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 代々木ゼミナール(東朋学園)事件 最高裁第1小(平成15.12.04)  

 

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