聴覚

耳は聴覚と平衡感覚をつかさどる器官で、外耳、中耳、内耳で構成されています。音波は外耳、中耳、内耳の連携した働きによって神経インパルスに変換されて脳に伝えられ、脳で音として認識されます。内耳は体のバランスを保つ機能にも役だっています。

 

外耳

外耳は、耳介(じかい)と呼ばれる耳の外側の部分と外耳道で構成されています。耳介は軟骨組織が皮膚で覆われたもので、音波をとらえて外耳道から鼓膜へとまとめて送るのに適した形をしています。薄い膜でできた鼓膜によって外耳と中耳は隔てられています。

 

中耳

中耳は鼓膜と空気で満たされた小さな空間(鼓室)からなり、鼓室には、鼓膜と内耳を結ぶ、互いに連結した小さな3つの骨(耳小骨)があります。3つの耳小骨の名称はそれぞれの形にちなんで付けられています。つち骨は鼓膜の中耳側に付着しています。きぬた骨はつち骨とあぶみ骨の間にあって両骨を連結し、あぶみ骨は内耳の入り口にある前庭窓という薄い膜につながっています。鼓膜の振動はこれらの耳小骨の作用によって増幅され、前庭窓へと伝えられます。

中耳には2つの小さな筋肉(耳小骨筋)もあります。このうち、つち骨に付着した鼓膜張筋は音の調子を整え、耳を保護する働きをもっています。あぶみ骨筋はあぶみ骨と前庭窓につながっています。大きな騷音に反応して収縮することで、耳小骨の動きを抑え、音を伝わりにくくします。この反応は聴覚反射といい、大きな音によって繊細な内耳を損傷から保護するのに役立っています。

耳管は中耳と鼻の奥をつなぐ細い管で、外の空気を中耳の中に取り入れられるようにしています。ものを飲みこむと耳管が開いて、鼓膜の内外の空気圧を等しく保ち、中耳に水がたまるのを防ぎます。空気圧が等しくないと鼓膜はふくらむかへこむかして、不快感が生じたり、音が聞こえにくくなったりします。飛行機に乗った場合などでよくみられますが、急な気圧の変化により鼓膜にこのような圧力がかかったときは、つばなどを飲みこんだり、意図的にいわゆる「耳抜き」を行うことで、圧力を和らげることができます。かぜなどの上気道感染で耳管が炎症を起こしてふさがってしまうと、中耳にも感染が及んだり、中耳の空気圧が変化して耳が痛くなったりするのは、耳管と中耳がつながっていることで説明が付きます。

 

内耳

内耳(迷路)は複雑な構造をもち、聴覚をつかさどる器官である蝸牛(かぎゅう)と、平衡をつかさどる器官である前庭系という2つの主要部分から構成されています。内耳の前庭系は、位置感覚を判断する球形嚢と卵形嚢、体のバランスを保つのを補助する半規管で構成されています。

 

蝸牛はカタツムリの殻のような渦巻き形の中空の器官で、液体で満たされています。蝸牛の中にはコルチ器があり、その一部は有毛細胞(聴細胞)と呼ばれる特殊な細胞がおよそ2万個集まってできています。有毛細胞には、細い毛のような小突起(線毛)があり、液体の中へ伸びています。中耳の耳小骨から内耳の前庭窓へ伝えられた音の振動は、この液体と線毛を揺らします。蝸牛の各所にある有毛細胞は、それぞれ異なる周波数の音に反応し、その振動を神経インパルスに変換します。神経インパルスは蝸牛神経線維を伝わり、脳へと伝達されます。正円窓は、液体に満たされた蝸牛と中耳の間にある、膜に覆われた小さな開口部です。正円窓には蝸牛内の音波により生じた圧力を和らげる役割があります。

聴覚反射による防御作用があっても、大きな騷音は有毛細胞を傷つけたり破壊することがあります。有毛細胞は一度壊れると再生しないと考えられます。大きな騒音に継続的にさらされていると、有毛細胞の損傷が進み、やがて難聴となり、ときには耳鳴りも起こります。

半規管は、液体で満たされた3つの管が互いにほぼ直角に交わったものです。頭を動かすと、半規管の中の液体も動きます。頭が動く方向によって、1つの管の液体が他の2つより大きく動きます。半規管の中には有毛細胞があり、この液体の動きに反応します。有毛細胞は神経インパルスを生じさせ、頭がどの方向に動いているかを脳に伝え、この情報によって体のバランスを保つのに適切な動作を取ることができます。

上気道感染や他の一過性または永続性の病気によって半規管の機能障害が起こると、平衡感覚が失われたり、回転性のめまいを感じることがあります。

 

 

 

聴覚の障害

 

聴力による難聴の分類

 一般的に聴力の度合いは軽度難聴、中度難聴、高度難聴、重度難聴等の言葉で表現されます。  しかし分類法はいくつもあります。そのため、例え中度難聴という表現でも分類法の違いにより難聴の程度は異なることがあります。また、聴力は「平均聴力レベル」(会話に必要な500Hz~4,000Hzの平均)で表されるので、高い周波数と低い周波数では大きな差がある可能性もあります。つまり、度合いを表す言葉は同じでも難聴の程度は違うことがあるし、個人差も大きいのです。

 難聴の度合いはdBで表されますが、これは健康な人に聞こえる最も小さい音のレベルを基準にして、それよりどのくらい大きな音なら聞こえるかを倍率を意味するdBで表したものです。ちなみに60dBの難聴者は、健康な人に聞こえる最も小さな音の1000倍の大きさでなければ聞こえないことを意味します。40dBなら100倍、30dBなら30倍です。

 国連の世界保健機構(WHO)では41dB以上の難聴者に補聴器の装用が推奨されています。日本では41dB以上の難聴者は600万人と言われています。

 

 聴力レベル                       db:デシベル

120db

飛行機のエンジン近く

110db

2メートル以内の車のクラクション

100db

電車が通るガード下

90db

(健常な人が非常にやかましいと感じるレベル)

カラオケボックスの中 騒々しい工場内 ブルドーザーの音

80db

地下鉄の車内 1メートル以内のピアノの音

70db

事務所の中 蝉の声

60db

普通の会話、トイレの洗浄音

 

難聴の一般的な分類

 聴力の度合いは分類法によって異なりますが、おおむね次のように考えてよいでしょう。

 

重度難聴    91㏈以上の難聴ですが、一般的には聾に分類されます。言葉の聴き分けは殆どできませんが、補聴器を使えば音があるかないかの判別は可能な場合も多く、重度難聴と呼ばれたりします。また、ホワイトイヤーなら100dB以上でも会話が可能な場合も少なくないので、最重度難聴という言葉もいずれ一般化されるかもしれません。

 

高度難聴  71㏈〜90㏈が該当し、補聴器を使っても通常の会話は困難です。そのため高度難聴以上の多くの方が手話を使われます。症状例としては、「車がそばにこないと気づかないときが多い」「耳そばで大声で話してもほとんど聞こえない」等です。なお、大抵の場合ホワイトイヤーでは十分に実用範囲です。

 

中度難聴   46㏈〜70㏈であり、補聴器無しでは生活にかなりの支障があります。また、上限と加減では症状の差が大きく、中軽度難(46dB〜60dB)と中度難聴(61dB〜70dB)とに分けられたりします。中軽度難では「普通の会話が困難」、中度難聴では「耳のすぐそばで話してもらわないと普通の会話が困難」「大声なら聞き取れる」といった具合です。

 

軽度難聴    30㏈〜45㏈くらいであり、補聴器無しでも生活への支障はそれほどありません。しかし「ささやき声や、小さな音を聞き取れないときがある」「普段から聞き間違えたり、聞き返すことが多い」「会議などで聞き取りがつらい」「家族からテレビの音が大きいといわれる」等、健康な耳の人とは明らかな違いがあります。

 

 

世界保健機構(WHO)の分類による聴力レベル

・非常に高度な難聴  91db以上     

 言葉はほとんど聞き分けられない 

・高度難聴  71~90db

 耳の近くで大きな声で話しかけても聞こえないなど補聴器があっても会話が困難

・やや高度な難聴  56~70db 

 補聴器が必要

・中程度の難聴  41~55db

 近くで大きな声の会話でないと聞き取りづらい  普通の会話が困難

・軽度難聴  26~40db

 小さな声が聞き取りにくい

 

 

障害の程度

障 害 の 状 態

1級

・両耳の聴力レベルが100デシベル以上のもの

2級

・両耳の聴力レベルが90デシベル以上のもの

・両耳の平均純音聴力レベル値が80デシベル以上で、かつ、最良語音明瞭度が30%以下のもの

3級

・両耳の聴力が、40センチメートル以上では通常の話声を解することができない程度に減じたもの (以下のどちらかを満たすとき)  ① 両耳の平均純音聴力レベル値が70デシベル以上のもの  ② 両耳の平均純音聴力レベル値が50デシベル以上で、かつ、最良語音明療

度が50%以下のもの

障害手当金

・一耳の聴力が、耳殻に接しなければ大声による話を解することができない程度に減じたもの ① 一耳の平均純音聴力レベル値が80デジベル以上のもの

 

聴力の障害は、「純音聴力レベル値」および「語音明瞭度」により認定される。

どのくらいの大きさの音から聞こえるか、音の高低はどの範囲から聞こえるかを表すのが「純音聴力レベル値」デシベル(db)で表される。オージオメータという器械で音を出して調べる。

例えば「あ」という言葉を聞いて「あ」と判別できるかということを測定し、正答率から値を出して表したものが「語音明瞭度」(%)で表される。

 

聴力レベルはオージオメータという機械で測定する。

 

聴覚の障害による障害の程度は、補聴器等のない状態での測定をもとにする。

聴力レベルは原則として両耳でも障害認定基準表のデシベル以上であること。 (数値の和ではない)

 

 聴力レベルが基準をクリアしていなかった場合でも、最良語音明瞭度で2級に届くケースは多々ある。聴力レベルが左右とも80㏈程度しかなかったとしても、最良語音明瞭度が低いため、2級に認定されることがある。 

 

 

聴覚機能検査

 

純音聴力検査

聞こえの程度を調べる最も一般的な検査です。125ヘルツ(低音)から8000ヘルツ(高音)までの範囲を右耳と左耳に分けて検査します。

 

オージオメーターは、250~8,000ヘルツの周波数の純音(125、250、500、1,000、2,000、4,000、8,000ヘルツ)を出すことができる機器で、それぞれの周波数の純音の強さ(大きさ)を調節できます。検査は、日常の会話音域である500ヘルツ以上2,000ヘルツの範囲の周波数(500、1,000、2,000ヘルツ)で、受検者に純音を聞かせ、音の高さ(周波数)ごとに音の大きさを変えながら、聞こえないレベルから段階的に音を強くして行われます。  その純音の強さを調節して標準にとった値より何デシベル大きい値にならないと聞こえないか(最小可能聴力閾値)を検査します。検査は防音室で受検者にヘッドホンを装着させて行います。  標準の聴力としては健聴者がある周波数で聞き取ることのできる最も弱い値(最小可聴値)をOdB(デシベル)とします。受検者が聞き取った値がaデシベルの強さの場合、それがその周波数におけるその受検者の聴音レベルとなり、aデシベルと判定されます。 なお、聴覚の障害により障害年金を受給していない人が1級に該当する場合には、オージオメーターによる検査に加えて聴性脳幹反応検査等の他覚的聴力検査またはこれに相当する検査を実施しなければなりません。 

 

 

語音明瞭度検査

音は聞こえているのに、何を言っているのか聞き取りづらいといった障害がある場合に、語音明瞭度の検査が行われます。純音聴力検査が、音が感知できるかどうかの検査であるのに対して、語音明瞭度の検査は、音色の違いを判別できるかの検査です。

検査は言葉を構成する「ア」「イ」「キ」など、日常会話で使われる頻度の高い音節50語が配列された「57S式語表」あるいは「67S式語表」を使います。語音表の中から語音を選び出して一定の大きさの声で読み上げ、これを受検者に聞きとらせ、筆記させます。その正解率を割合(%)で表します。語音が録音されたテープやCDを使って行われます。 

 

純音聴力検査の結果が良くても、この検査結果が芳しくない場合は、「音は聞こえるけれども、話しかけられると何を言っているかわからない」といったコミュケーションに支障をきたす症状がでます。

 

 

耳音響放射検査(Otoacoustic emission; OAE)

内耳、特に外有毛細胞と呼ばれる、聴こえに関する感覚細胞の反応について検査します。イヤホンを耳に入れて、音を聞いていただくだけで内耳感覚細胞の反応を検査することができ、内耳の活動の程度について推測することができます。特に歪成分(結合音)耳音響放射検査(DPOAE)と呼ばれる検査では、1000ヘルツから6000ヘルツくらいまでの音域について反応を調べることが可能です。

 

 

聴性脳幹反応( Auditory Brain-stem Response ; ABR )

蝸牛神経やそれより中枢側(脳幹)の聴覚伝導路の機能を調べる検査です。

 聴覚神経系を興奮させることによって得られる脳幹部での電位を頭皮上より記録したもの。蝸牛神経と脳幹部聴覚路由来の反応で音刺激から10msecの間に発生する6~7個の電位により

構成される。この反応は、意識や睡眠状態の影響を受けにくく、極めて再現性のよい安定した

波形が得られる。

純音聴力検査、耳音響放射検査、聴性脳幹反応などの検査を組み合わせることによって、病

気の原因が内耳にあるのか、それとも蝸牛神経や脳幹にあるのかを把握することが可能です。

ただし、内耳、蝸牛神経、脳幹による難聴のいずれもが治療の難しい疾患(難治性疾患)と言われ

ています。

 

 

 

 

難聴は耳のどの部分に損傷が生じたかにより、「感音性難聴」「伝音性難聴」のどちらかに分類される。

外耳、中耳に損傷を受けると伝音性難聴、内耳に損傷を受けると感音性難聴と呼ばれる。

 

 

伝音性難聴

外耳(耳介・外耳)と鼓膜及び中耳、つまり音を神経まで伝達する器官の障害による難聴である。

耳で音が感知できないものである。

原因は様々であるが、中耳炎、耳硬化症、鼓膜が破れる、外耳道閉鎖症、中耳奇形など様々な原因があげられる。

 

 

 

感音性難聴

内耳か又は聴覚神経に障害がある難聴である。

音はしっかり聞こえているのに、何を言っているのか明瞭に聞き取れないという難聴である。

 

一般的な特徴は、高音域(高い音)が聞こえにくくなったりします。

神経性難聴には感音性難聴も含みます。現在の医学では治療が困難です。補聴器による改善は可能ですが効果は様々であり、伝音性難聴ほど簡単ではありません。例えば、感音性難聴では、音の周波数違いによる聞こえ方に極端な差がある場合も多く、そのような場合は補聴器に高度な機能が必要です(ラージのホワイトイヤーは難聴者自身で容易に最適状態に設定出来ます)。また、難聴者は「小さな音は聞こえ難いのに大きな音は健聴者並に煩く感じる」と言われますが、これも感音性難聴の特徴です。

 

 感音性難聴は内耳より中枢の障害で気導聴力、骨導聴力共に低下するのが特徴となっています。その中には薬物性難聴(ストマイ難聴等)、メニエール症候群、突発性難聴、騒音性難聴、老人性難聴も含まれます。

 

 この感音性難聴は高度な障害になりやすく、補聴器の効果も低いのが特徴となっています。

 

 

 感音性難聴の特徴は、病気の進行スピードが非常にゆっくりとしていることです(一部、例外あり)。発病から20年、30年と経過して、ようやく障害年金の聴力レベルに達するため、多くの方が初診日の証明がとれないという問題を抱えています。

 

 

 

混合性難聴(混合難聴)

 
伝音性難聴と感音性難聴の両方を併せ持っているのが混合性難聴である。

(伝音器にも感音器にも損傷を受けていると混合性難聴と呼ばれる。)

どちらの度合いが強いかで補聴器の効果に大きな差がある。

 老人性難聴は多くの場合混合性難聴である。先天性の感音性難聴では音の周波数違いによる聞こえ方に極端な差があることが多いのに比べ、老人性難聴における感音難聴では、音の周波数が高くなるほど聴力がなだらかに低下しているのが普通である。

 

 

聴覚の障害(特に内耳の傷病による障害)と平衡機能障害とは、併存することがある。この場合には併合認定の取扱いを行う。併合されるのは下肢に器質的異常がない場合に限る。

 

 

先天性難聴

 先天性難聴は出生1000人あたり1人の割合で生まれる、頻度が高い先天性の病気です。

 

 症状のない初期の段階での診断は必ずしも容易ではなく、初回発作時ではめまいを伴う突発性難聴との鑑別が困難な場合もあります。

 先天性難聴のうち、半数以上は遺伝子が関係しているといわれています。

 

 

 先天性難聴に多いのは、長い間、医療機関を受診しておらず、病状も徐々に進行していったため、初診日がいつだったのかが、あいまいなケースです。このような場合には、初診日の証明が難しくになりますが、日付入りの診察券や薬袋、当時のカルテや受診記録簿の写しなど、どれだけ有効な客観的資料が提出できるかがポイントとなります。

 

 

 

中耳性疾患

 

耳管狭窄症(耳管カタル・中耳カタル)

 鼻の奥(鼻咽腔)と中耳との間に耳管という「くだ」があり、中耳の空気圧を調整しています。この耳管が何らかの原因で塞がると、中耳腔が陰圧になり、耳がつまった感じが出てくると共に「きこえ」が悪くなります。

 

急性中耳炎

 鼻やのどの細菌が耳管から中耳に侵入して、中耳に感染が起きると急性中耳炎になります。急性中耳炎で中耳腔に膿が溜まると、「きこえ」が悪くなると同時に激しい痛みを伴います。

 

滲出性中耳炎

 耳管狭窄症が長く続くと、滲出性中耳炎といって、中耳腔に水が溜まった状態になり、難聴は高度になります。小児の難聴の大部分は、これが原因です。急性中耳炎と違って炎症が軽度なため痛みがなく、また子供は難聴を訴えないので、発見が遅れます。テレビの音を大きくしたり、後ろから声をかけても振り向いたり答えがない場合は要注意です。

急性中耳炎を完全に治さないと滲出性中耳炎に移行し、難聴が持続的になりますので注意が必要です。さらに、急性中耳炎や滲出性中耳炎を放っておくと慢性中耳炎になることがしばしばあります。

 

慢性中耳炎

 鼓膜に穴が開きっぱなしになり中耳が直接外気にさらされますので、感染をおこしやすく耳だれを繰り返します。難聴の程度は様々ですが、耳漏を繰り返しながら少しずつ悪化していきます。長い経過の内には炎症が内耳に波及し、めまいおよび内耳性難聴を引き起こすことがあります。

 

耳硬化症

 中耳の音を伝える耳小骨(ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨)が固着して動きが悪くなったり離断したりすると、内耳に音の振動が伝わらなくなり難聴が出現します。耳硬化症というのは耳小骨(主にアブミ骨)が固着する病気です。白人に多く有色人種には少ないとされていたのですが、最近では日本でも増加する傾向にあります。

 

 

 

突発性難聴

 突発性難聴とは、生来健康で耳の病気を経験したことのない人が、明らかな原因もなく、あるとき突然に通常一側の耳が聞こえなくなる病気をいいます。

 

突発性難聴の患者に野菜の摂取が少ない傾向がみられます。

 

 突発性難聴の原因としてウイルス感染説内耳循環障害説がありますが、突発性難聴の急性期にはこれらの原因を想定した治療を行うことになります。  急性期の治療として最も重要なものは安静です。

 

突発性難聴の発症前に精神的、肉体的疲労感(ストレス)を感じていることが多い。

 

 突発性難聴は再発しないことが一つの特徴とされており、突発性難聴が再発するようであれば、外リンパ瘻、メニエール病、聴神経腫瘍など他の疾患を疑わなければなりません。

 

 

特発性両側性感音難聴

特発性両側性感音難聴は、内耳や聴神経の感音器に障害が生じ、聴力が低下する感音難聴が、徐々に両耳に起こる病気です。若年型と成人型があり、若年型の場合は、特定の家族に発症する確立が高くなっています。難聴の程度は、軽いものから、重いものまで、さまざまですが、急に症状が悪化する急性増悪が左右の耳に現われることもあります。程度の軽い難聴であっても、その後の進行によって、両側重度難聴になってしまったり、耳が聞こえなくなってしまったりするケースもあります。

 

特発性両側性感音難聴のはっきりとした原因は、わかっていません。「特発性」という言葉は、特別な原因がわからないにも関わらず症状が発症するという意味があります。特発性の難聴の患者に、遺伝子異常やウイルスが原因であるという診断を出されたケースもあったため、遺伝子が何らかの形で原因に関わっているのではとも言われています。

 

特発性両側性感音難聴の特徴の一つとして、進行性であることが挙げられます。このため、高さの異なる音がどれくらいまで聞き取れるかを調べる標準純音聴力検査を、一定の期間に、何度か行い、難聴が進行しているかの観察を行います。両側性であることも、この病気の症状の一つであるため、右耳と左耳の両方の耳の聴覚検査も行います。ただし、特発性両側性感音難聴であるという診断に、常に両耳がこの病気の症状を発症していなければいけないということはありません。

 

 

 

身体障害者に認定される聴力とその等級  聴力レベル70dB以上では身体障害者手帳の交付を受けることができます。交付を受けている聴覚障害者は、全国で約36万人とされています。程度により6級〜1級に分類されますが、聴覚障害のみの場合の等級は2級までです。一級に認定されるのは聾唖(ろうあ)者の場合です。

 

1級: 無し 2級: 両耳の聴力レベルがどちらも100dB以上(全ろう) 3級: 両耳の聴力レベルが90dB以上(耳介に接しなければ大声を理解出来ない)4級:   1. 両耳の聴力レベルが80dB以上(耳介に接しなければ話声を理解出来ない)   2. 両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50%以下 5級:  無し 6級:     1. 両耳の聴力レベルが70dB以上(40cm以上の距離で発声された会話を理解出来ない)     2. 一方の耳の聴力レベルが90dB以上、もう一方の聴力レベルが 50dB以上

 

中耳性疾患

 

中耳性疾患の主な症状としては耳鳴りです。その他にも、風邪を引いた延長線上で本疾患にかかることが多く、高熱が続いたり、耳の中が痛かったりなどの症状が出ることもあります。慢性化してくると、常に耳鳴りがするようになり、耳だれや難聴などの症状に発展することもあります。急性中耳性疾患の場合は、急な耳の痛みや聞こえにくさ、耳がふさがったような症状が発生します。そのような場合には、早急に耳鼻科の受診を受けるのが賢明です。

 

中耳性疾患の原因は細菌感染が原因といわれています。

対象となる原因菌は肺炎球菌やインフルエンザの菌などが過半数を占めています。元々急性上気道炎を発症し、上咽頭から耳管を通じて細菌が中耳腔内に侵入することにより起こります。 

また、中耳性疾患にもさまざまなタイプがあり、その中には未だ原因不明のものもあります。特に、真珠腫性中耳炎に関しては原因不明で、最近の研究では、中耳腔の陰圧による鼓膜の内陥に着目され始めています。

中耳性疾患の検査は問診、視診などを行い、疑いが濃厚になった場合、耳鏡検査にて直接耳の中を観察します。多くの疾患ではこの検査で診断が確定します。診断が確定できない場合には耳顕微鏡による検査や、中耳のインピーダンス検査などが行われることもあります。検査に際して耳内の洗浄などが行われます。また、本格的な検査の前に聴力検査を行うことがありますが、これは元々の難聴の程度を検査するためであり、治療したことに起因する難聴との区別を行うためです。

 

中耳性疾患は、症例の約8割は自然治癒するといわれています。しかし、経過観察を行っても症状が改善しない場合は、抗生物質が投与されることになります。一般的には抗生物質の効果が高く、1週間から2週間にて症状が改善し、難聴の後遺症などのリスクも下がるといわれています。耐性菌が出現してきていることもあり、初期段階から抗生物質が投与されることも多くなりました。また、対症療法としてアセトアミノフェンなどの鎮痛薬が投与されることもあります。

 

 


ストマイ難聴

 

ストマイ難聴(ストレプトマイシン難聴)に罹患すると、初期段階では高音域に対する聴力低下がみられ、耳鳴りやめまい、音がはっきりと聴き取れなくなるといった状態になります。 次に会話音域、低音域でも聴力低下がみられるようになります。これらの症状は、通常、片方の耳で起こるわけではなく、両耳でみられます。気づかないまま放置しておくと、補聴器を使用しても言葉を聞き取れなくなるほど悪化してしまうこともあります。また、国内のモルモット実験では、三半規管の内部で耳石が再生されなくなっていることも判明しました。

ストマイ難聴は、薬剤性難聴の1種で、結核の治療に使われるストレプトマイシン(アミノグリコシド系抗生物質)を長期間使用したときに、副作用として聴神経(蝸牛(かぎゅう)、内耳から脳までの音の振動を電気的に伝える器官)に障害が起こって現れます。一般的には、1 日 1g を注射し、累積投与量が 20g 前後に達したときに副作用が起きることが多いとされています。もっとも、アミノ配糖体系薬剤で難聴がおこるかどうかは個人差が大きく、長期間使用しても難聴にならない人もいれば、短期間の使用で難聴になる人もいます。

 

他の聴覚障害と同様、ストマイ難聴もその早期発見はやや困難とされています。まず、耳鳴りなどの聴力障害が起こった時は、薬剤の投与を中止したうえで、病院で聴力を計測します。すべての事例ではありませんが、投薬の中止により症状が治まった場合、ストマイ難聴である可能性が高いとされています。その後、いわゆる感音性難聴の初期の治療に準じ内耳細胞の栄養補給と回復治療へ努めます。

 

いったんアミノ配糖体系薬剤で変性してしまった内耳の感覚細胞は再生しません。このため、原則として聴力回復の期待できる治療方法は存在しません。代謝賦活剤(たいしゃふかつざい)や血行改善剤(けっこうかいぜんざい)などを用いて治療しますが、あまり効果が期待できないのが実情です。

 

 


頭部外傷または音響外傷による内耳障害

 

 病気以外にも、誰でも起こり得る原因の一つに「外傷による難聴」があります。交通事故やスポーツ中のケガなどにより頭を強く打ち、内耳しんとうを起こした場合などに発症するのが「頭部外傷による内耳障害」です。

近くで爆発やスピーカー事故などが起こり、瞬間的に大音響を聞かされたことにより、内耳の蝸牛がダメージを受けて難聴が生じるのが「音響外傷による内耳障害」です。

 どちらも耳鳴りや耳の痛み、聴力の低下といった症状が現れることが多く、早期に治療を行えば回復が期待できますが、放っておくと悪化してしまうこともあります。

 

 外傷後聴覚障害には大きく次のように分類されます。

 

内耳震盪(ないじしんとう)  頭部外傷による難聴の原因としてもっとも多く、受傷後、脳、側頭骨、鼓膜、中耳にレントゲン検査、CT検査などの諸検査で異常がないにもかかわらず難聴(程度はさまざま)、時に耳鳴り・平衡感覚の障害が出ます。

 

耳小骨転位(じしょうこつてんい)  耳小骨の連結に異常が出たり、連結がはずれてしまったりしたりした状態。内耳震盪を合併していることも多いです。耳小骨周辺に出血などを伴うことも多く、受傷後の早期の診断は容易ではありませんので初診日などに注意が必要です。

  外リンパ漏(がいりんぱろう) 蝸牛窓(かぎゅうそう)、前庭窓(ぜんていそう)が破裂して外リンパ液が中耳に流れ出るものです。

 

側頭骨骨折(そくとうこつこっせつ)  側頭部を構成する骨の骨折で、外耳、中耳、内耳などにも外傷があることも多く、また、顔面神経麻痺が生じることも比較的多いです。反対側の耳の内耳震盪を合併することもあります。

 

後迷路性難聴(こうめいろせいなんちょう)  迷路とは内耳を指します。後迷路とは、内耳より奥、という意味です。聴神経から脳に至る聴覚伝導路のいずれかが障害された難聴をさします。

 

 


薬物中毒による内耳障害

 

 薬物中毒による内耳障害とは、全身的、または局所的な薬剤の使用によって難聴やめまいが起こる病気です。

 内耳には平衡感覚を司る前庭と聴力を司る蝸牛があります。前庭に障害が起こった場合はめまいが起こり、蝸牛に障害が起こった場合は難聴が起こります。薬剤の投与中に、フラフラとする浮遊感を主体とするめまいの症状があります。両耳同時に障害が進行するため、両耳に耳鳴りがあると薬物による内耳障害の可能性が高いと言われています。

 

 聴力の障害を起こす原因にあげられる薬として、キニーネ・サリチル酸・ヘノボン酸・アルコール・タバコ・カフェイン・鉛・水銀・クロロフォルムなどがあります。これらの薬は聴覚障害を起こすとともに、めまいを引き起こす可能性が示唆されています。そのほか、ストマイ難聴・アスピリン・透析性難聴があり、ストマイは長期に大量に摂取することで起こりやすいため、早期発見が重要になります。

 

 薬物中毒による内耳障害は一度悪化すると修復が難しいのが特徴です。内耳障害を引き起こす薬剤の使用には細心の注意が必要となります。もし服用中に耳鳴りやめまいを感じた場合はすぐに服用を中止し、医師に相談しましょう。初期の症状なら比較的改善が期待できます。