内山工業事件 岡山地裁判決(平成13年5月23日)

(分類)

 賃金  均等

(概要)

 自動車用ガスケット・シール材等の製造・販売を業とする株式会社Yの女性従業員Xら19名(八名はすでに退職)が、
(1)昭和56年から平成7年10月まではYでは二種類(【1】表・【2】表)の賃金表が作成され(なお、昭和56年以前は、男子賃金表及び女子賃金表という名称で作成されていた)それに基づいて基本給等の賃金支払の運用がなされており、また(2)平成7年11月以降は新賃金体系が導入されたが、新賃金体系の基本給を構成する職能給の該当号棒ないし等級は平成7年10月における基本給を構成するなどとされていたところ、男女間に賃金格差があったことから、いずれも女子であることを理由に、勤続年数・年齢の同じ男性従業員と比べて賃金等の支給につき不合理な差別がなされたとして、不法行為による損害賠償(支給されるべきであった額との差額)を請求したケースで、(1)については、その運用実態からすれば、いずれの年度も【1】表は男子に、【2】表は女子に適用するものとして作成・運用され、かつ女子従業員の基本給はいずれの年齢及び勤続年数においても、【2】表という形で意図的に【1】表の男子従業員の賃金よりも低いものとして設定・運用されてきたものと認められるとしたうえで、職務の区別や男女の配置の区別のあいまいさに比して、その格差は過大というべきであるなどとして、男女の賃金格差に合理的な理由があるとはいえず、(2)については、新賃金体系移行後も、それ以前の時点で生じている不合理な格差を含んだものとなっていると認められるなどとし、またこの世帯手当て、一時金、退職金にも不合理な格差が存在するとしたうえで、YがXらの賃金等につき、女性であることのみを理由として男子従業員の賃金等との間に格差を発生させ、かつこれを是正することなく維持していることは労基法4条に違反するとして、Xらと同条件の男子従業員の支給額とXらの実際の支給額との差額分につき不法行為に基づく損害賠償の支払が一部認容された事例。

 以上の事実からすると、昭和56年から平成7年10月までの年齢給及び勤続給の【1】表及び【2】表の2種類の各賃金表は、昭和56年以前に2種類の賃金表を「男子賃金表」、「女子賃金表」という名称で作成していたのとは異なり、「【1】表」、「【2】表」という名称で作成されていたものの、その適用の実態からすれば、いずれの年度においても、【1】表は男子に、【2】表は女子に適用するものとして作成、運用され、かつ女子従業員の基本給は、いずれの年齢及び勤続年数においても、【2】表という形で、意図的に【1】表の男子従業員の賃金よりも低いものとして設定、運用されてきたものと認められる。
 そこで、右の男子と女子との基本給の格差が合理的なものであるかどうかが問題となるところ、一般に、男女間に賃金格差がある場合、労働者側でそれがもっぱら女子であることのみを理由として右格差が設けられたことを立証するのは実際上容易ではなく、歴史的にみて、多くの業種において性別による不合理な差別がしばしば行われ、それが社会的にも半ば容認されてきた時代があったことから、現代においても、性別を理由とした不合理な差別が行われやすいことは公知の事実であることからすれば、男女間に格差(男子に有利で女子に不利な格差)が存在する場合には、それが不合理な差別であることが推認され、使用者側で右格差が合理的理由に基づくものであることを示す具体的かつ客観的事実を立証できない限り、その格差は女子であることを理由として設けられた不合理な差別であると推認するのが相当である。〔中略〕 以上のようなA、Bの2系統の職務の区別の不明確さ及び男女の配置の区別のあいまいさに比して、【1】表と【2】表の金額の格差は、昭和63年から平成7年までの間で、最大で、年齢給につき1か月あたり3万9650円、勤続給につき1か月あたり3万0560円(いずれも平成7年度、年齢は55歳、勤続年数は37年のもの。)であり、年齢給と勤続給を合わせた基本給では7万0210円(右の場合に同じ。)で、【2】表の基本給24万1950円の約3割の額にあたり、【2】表適用従業員すなわち女子は、【1】表適用従業員すなわち男子の約8割弱の基本給しか支給されていないのであるから、その格差は過大というべきであり、被告の主張するように使用者に賃金決定の裁量があるとしても、その裁量を逸脱したものと言わざるを得ず、加えて、右に認定したように、【1】表と【2】表は、昭和56年以前は「男子賃金表」、「女子賃金表」と性別により区別されていた歴史的な背景からすると、本件においては、男女の賃金格差に合理的な理由があるとはいえない。  したがって、本件において、昭和63年から平成7年10月までの基本給については、不合理な男女差別が存在したものと認められる。〔中略〕

 前記争いのない事実2(3)(4)によれば、昭和63年から平成7年までの世帯手当は、各従業員の基本給に全ての従業員に共通の一定比率を乗じたものを前年度の世帯手当に加算したものであることが認められるところ、右(1)のとおり、昭和63年から平成7年までの基本給については、不合理な男女差別が存在するのであるから、このような基本給を前提として、これに一定比率を乗じて算出され、かつ前年度の世帯手当を加算することにより、さらに前年度の格差をも累積していくという点で、世帯手当についても、不合理な男女差別が存在するというべきである。〔中略〕

 前記争いのない事実2(3)(6)によれば、昭和63年か平成7年までの一時金は、定額分、一律分、査定分の合計により構成されるものであるところ、定額分は年度により異なる全ての従業員に共通の一定の数額であるから男女間においても格差は生じ得ないが、一律分は基本給に全ての従業員に共通の一定の比率を乗じたものであり、右(1)のとおり、昭和63年から平成7年までの基本給については、不合理な男女差別が存在するのであるから、このような基本給を前提として、これに一定比率を乗じて算出される一律分についても、基本給の格差分に応じた不合理な男女差別が生じていると評価することができる。  また、査定分については、前記認定事実によれば、査定分係数及び評価係数はそれぞれ2系統の係数が用いられており、いずれの係数についても、男子又は【1】系統の係数はすべてこれに対応する女子又は【2】系統の係数よりも大きい数値となっており、〔中略〕評価係数については、1人の例外もなく、【1】系統の係数は男子に、【2】系統の係数は女子にそれぞれ適用されているが、前記(1)のとおり、被告における職務内容はあえてその労働報酬に2種類の系統及び格差を設けなければならないほどの明確な区分、相違はないことからすれば、評価係数の【1】系統、【2】系統の区別並びに査定分係数の男子及び女子の区別は、その実態において、基本給における【1】表、【2】表と同様、何ら合理的な理由がないのに男子に有利で女子に不利な格差を生じさせるものであると評価すべきであって、一時金における査定分は、前記(1)で認定したとおり、既に不合理な男女の格差を包含する基本給に、さらに、男女の格差のある査定分係数及び評価係数を乗じている点で基本給以上に男女の格差を拡大するものであって、この点においても不合理な男女差別が存在するというべきである。〔中略〕

 賃金が当該支給の年度以前に現実に支給された賃金等の額を加算累積することにより、当該支給の年度における賃金額を決定されるものであるとしても、これは単なる賃金の算定の方法にすぎず、現実に支給される賃金等は、過去の累積分の賃金ではなく、当該年度における当該月又は当該期における賃金等であるから、仮に、消滅時効を問題とするとしても、時効の起算点としては、賃金等の支給時を起算点とすべきであって、被告の主張は理由がない。〔中略〕  弁論を終結するにあたり、双方とも他に主張立証はない旨述べているのであるから、その後に初めて主張されるに至った被告の消滅時効の主張等は、時効期間自体は本件訴訟提起時ないしそれ以前を満了時とするものであるから、より早期に提出することが期待できるものであり、少なくとも重大な過失により時機に遅れて提出されたものであるというべきである。  そして、本件訴訟においては損害額の計算方法が非常に複雑であり、これを明確にするために相当の時間が費やされてきたところ、〔中略〕各原告らが本件において問題となっている賃金格差が不法行為に該当し、これにより損害が発生していることを認識した時期については、各原告の認否を明確にした上、更に証拠調べを行うことが必要となることから、これらの主張を許すことにすれば、それにより訴訟の完結を遅延させることとなるものと認められる。  したがって、被告の消滅時効の主張等については、民事訴訟法157条1項により、却下するのが相当である。

(関係法令)

 労働基準法4条  民事訴訟法(平成8年改正前)157条1項 民法724条 709条

(判例集・解説)

 労働判例814号102頁

 

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