三菱重工業長崎造船所(作業服着替え時間)事件(平12) 最高裁第1小(平成12・3・9)

(分類)

 労働時間

(概要)

 労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当であるとするもの。

 労働者が業務の準備行為を事業所内で行うことを使用者から義務付けられたときは、その行為は使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるとするもの

 午前8時の始業時刻に着替えをはじめたとして、会社が賃金カットしたことについて、従業員は会社から作業服などの装着を義務付けられていたとして、着替え時間を労働時間に含まれるとし、カット文の支払いを命ずる原判決を支持するもの。

 

 使用者から義務付けられた作業服や保護具の着脱等に要した時間について、労働者が就業を命じられた業務の準備行為と認めて、これを労働基準法上の労働時間としています。この事件は、会社側が、始業・終業基準として、
・始業に間に合うように更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に実作業を開始すること
・午前の終業においては所定の終業時刻に実作業を終了すること
・午後の始業に当たっては右作業に間に合うように作業場に到着すること
・午後の終業に当たっては所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うことを決めたのに対し、労働者が、
a)入退場門から所定の更衣所までの移動時間
b)更衣所等において作業服のほか所定の保護具等を装着して準備体操場まで移動時間
c)午前ないし午後の始業時刻前に副資材等の受出し・午前の始業時刻前の散水に要する時間
d)午前の終業時刻後に作業場から食堂等まで移動し、現場控所等において作業服等を一部離脱する時間
e)午後の始業時刻前に食堂等から作業場等まで、作業服等を再装着する時間
f)午後の終業時刻後に作業場等から更衣所等まで移動してそこで作業服等を脱離する時間
g)手洗い、洗面、洗身、入浴後に通勤服を着用する時間
h)更衣所等から入退場門まで移動する時間
が、いずれも労働基準法上の労働時間に該当するとして、8時間を越える時間外労働に該当する右諸行為に対する割増賃金等を請求したケースですが、裁判所は、このうちb)、c)及びf)の諸行為に要した時間は、いずれも使用者の指揮命令下に置かれているものと評価でき、労働基準法上の労働時間に該当するとして労働者の請求を一部認容しました。

 

 同日、同労組の組合員の起こしていた入浴時間分の賃金の支払いを求める別訴に対して、事業所での入浴は義務付けられておらず、労働時間には当たらないとする最高裁判決も出された。

(関係法令)

 労働基準法

(判例集・解説)

 労判778・6  

(関連判例)

 住友化学名古屋製造所事件 最高裁第3小(昭和54・11・13) 
 日野自動車工業事件 最高裁第1小(昭和59・10・18)  
 大星ビル管理事件 最高裁第一小(平成14.2.28) 
 大林ファシリティーズ事件 最高裁第2小(平成19.10.19)  

 

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