兼松事件 東京高裁判決(平成10年1月31日)

(分類)

 均等

(概要)

 商事会社の女性社員らが、男女差別を理由に差額賃金、慰謝料等を請求した事案

(労働者一部勝訴)

 商事会社の女性社員らが、いわゆるコース別人事制度において、同期男性との賃金格差及び定年引上げに伴う事務職への賃金引下げ等は男女差別に当たるとして、差額賃金、慰謝料等を請求した控訴審である。第1審東京地裁は、会社の行為は差別的取扱いには当たらないとして労働者らの請求をいずれも棄却し、女性社員らがこれを不服として控訴した。これに対し第二審東京高裁は、まず、新制度による職務等級の設定により既に存在しない地位について雇用関係上の地位の確認の訴えは、確認の利益を欠き不適法として、原判決中、この訴えについて本案判断をして請求を棄却した部分を取り消し、訴えを却下した。

 次に、賃金上の差別の有無及び違法性について、男女の差によって賃金を差別するこのような状態を形成、維持した会社の措置は、労基法4条及び不法行為の違法性の基準とすべき雇用関係についての私法秩序に反する違法な行為であり、その後も違法行為が継続しているとして(なお、原告のうち職種の違いによる格差のあった者については違法性を否定)、一審判決を取り消し、賃金差額の支払と精神的損害に対する慰謝料を認めた。

 被控訴人は、男性社員と女性社員とで職務内容が異なることを明らかにして採用をしたわけではないが、少なくとも勤務地については男女を区別しているということができる。したがって、この募集、採用により、控訴人らと被控訴人との労働契約は、勤務地を一定地域とする勤務地に限定のあるものとして締結されたと認めるのが相当であり、このことは、採用後の配置において、控訴人らは終始東京で勤務しており、全国的な異動の対象とはされていないことからも明らかである。すなわち、一般職と事務職では、転居を伴う勤務地の異動(海外勤務も含む)があるか(原判決別紙2の(1)参照)否かという差異があった。転勤、特に海外勤務の場合、本人のみならず、家族などへの影響も大きく、さまざまな負担があることは明らかである。 

賃金格差の合理的根拠の有無 

はじめに 格差の合理性について判断するには、男女間の賃金格差の程度、控訴人ら女性社 員が被控訴人において実際に行った仕事の内容、専門性の程度、その成果、男女間の賃金格差を規制する法律の状況、一般企業・国民間における男女差別、男女の均等な機会及び待遇の確保を図ることについての意識の変化など、様々な諸要素を総合勘案して判断することが必要である。そこで、以下、時期を区分して、検討することとする。〔中略〕 

 上記イ及び(a)に認定したところによれば、控訴人らが損害賠償を請求する期間の始期とする平成4年4月1日の時点において、入社以来34年11月勤続していた控訴人A(55歳)、27年勤続していた控訴人C(45歳)、26年勤続していた控訴人D(44歳)の関係では、同控訴人らの前記認定のような職務内容に照らし、同人らと職務内容や困難度を截然と区別できないという意味で同質性があると推認される当時の一般1級中の若年者である30歳(入社後8年で自立が期待された)程度の男性の一般職との間にすら賃金についての前記認定のような相当な格差があったことに合理的な理由が認められず、性の違いによって生じたものと推認され、上記3名の控訴人らについて男女の差によって賃金を差別するこのような状態を形成、維持した被控訴人の措置は、労働基準法4条、不法行為の違法性の基準とすべき雇用関係についての私法秩序に反する違法な行為であり、その違法行為は平成4年4月から、控訴人Aについては退職した平成9年1月まで、控訴人C、同Dについては、ここで判断の対象とした期間の終わりである平成9年3月まで継続したものであり、被控訴人にはそのような違法な行為をするについて少なくとも過失があったものというべきである。

 また、控訴人Eの関係では、同人が15年勤続となった平成7年4月1日の時点においては、同人の前記認定のような職務内容、成果、専門性の程度等を斟酌すれば、前記と同じく、被控訴人の措置は、違法な行為と評価することができ、その後違法行為が継続しているというべきである。〔中略〕

 事務職の勤務地が限定されていることは、前記のような一般職と事務職給与体系の前記のような格差を合理化する根拠とはならない。 

 また、一般職と事務職の給与の格差は前記のとおりであり、事務職の女性は定年まで勤務しても、育成途中にあると見られる27歳の一般職の賃金に達することはないことを考えると、前記のような給与の格差に合理性がないことは明らかである。 

 職掌別人事制度の導入と併せて旧転換制度が設けられたが、その運用の実情は転換の要件が厳しく、転換後の格付けも低いもので、上記のような給与の格差を実質的に是正するものとは認められない。

 職掌別人事制度の導入は、控訴人らが所属する労働組合と被控訴人との労働協約である昭和59年協定に基づくものであるが、上記のような事情のもとでの男女の差による賃金差別にかかわる問題であることを考慮すると、そのことをもって前記のような給与の格差が控訴人A、同C、同Dとの関係で平成4年4月1日、控訴人Eの関係では平成7年4月1日以降違法であることを否定する理由にはならないと解するのが相当である。〔中略〕 

 上記イ及び(a)に認定したところによれば、新人事制度が導入された平成9年4月1日の時点において、〔中略〕前記認定のような職務内容に照らし、同人らの賃金と同年齢の男性新一般1級の賃金〔中略〕との間にすら前記認定のような大きな格差があったことに合理的な理由は認められず、性の違いによって生じたものと推認され、上記3名の控訴人らについて男女の性の違いによって賃金を差別するこのような状態を形成、維持した被控訴人の措置は、労働基準法4条、不法行為の違法性判断の基準とすべき雇用関係についての私法秩序に反する違法な行為であり、その違法行為は平成9年4月1日から、控訴人Cの関係では同人が退職した平成19年2月末日まで、同D、同Eの関係では少なくとも請求期間の終期である同年2月末日まで継続したものであり、被控訴人にはそのような違法行為をするについて少なくとも過失があるものというべきである。〔中略〕 

 また、新一般1級と新事務1級の格差は前記のとおりであり、新事務1級は定年退職まで勤務しても、まだ養成途中と見るのが相当な27歳の新一般1級の賃金に達せず、その点は事務職掌の中でも最も高い新事務特級でも同様であることを考慮すると、前記のような賃金の格差に合理性のないことは一層明らかである。 

 新人事制度の導入には新転換制度も伴っており、その後も手直しされたが、その内容及び新転換制度の存在が、上記の格差を補い、実質的に是正するものと認められないことは、後記(c)のとおりである。新事務職掌の勤務地が限定されていることは、前記のような給与体系の格差を合理化する根拠とならない。新人事制度の導入は、控訴人らの所属する労働組合と被控訴人との労働協約である平成9年協定に基づくものであるが、上記のような事情のもとでは、そのことをもって、上記の賃金の格差が、上記3名の控訴人らとの関係で、平成9年4月以降違法であることを否定する理由にはならないと解するのが相当である。

(関係法令)

 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律6条 日本国憲法14条  

 労働基準法3条  民法90条  民事訴訟法248条

(判例集・解説)

 時報2005号92頁  タイムズ1280号163頁  労働判例959号85頁   労経速報2001号3頁

 

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