ファースト商事事件 東京地裁判決(昭和48年1月29日)

(分類)

 懲戒  退職

(概要)

 営業及び会計担当の従業員が、退職届を提出した後に、職務怠慢等不都合な行為を理由として就業規則に基づき、懲戒解雇の意思表示を受け退職手当を支給されなかったので、右退職手当の支払を請求した事例。 (請求棄却)

 前認定の原告の行為のうちテレビ買受代金相殺勘定の件は社長の了解事項であるから、懲戒事由とはならない。

 (2)の1および2の被告会社の売上金を費消した行為は、費消した金額は少額であっても、経理担当社員としては最も悪質な破廉恥行為であり、しかも被告会社に損害を与える行為であるから、それ自体で就業規則第33条に定める懲戒解雇事由である会社の事業の円滑な推進を妨げる不都合な行為に該当する。日銀の金庫残高に虚偽の記入をし、また残高確認の通知を怠った行為は、右規定にいう職務を怠った不都合の行為に当たるが、単なる職務怠慢であって、これにより被告会社に重大な損害を与えた等の立証のない限り、これだけを懲戒解雇事由とするのは酷に失するきらいがある。しかし、前記金銭費消の行為は、単独でもそれ自体懲戒解雇事由に該当するのであるから、右職務怠慢行為は原告に不利な情状として考慮しなければならないし、結局原告の前記行為を総合すれば、十分懲戒解雇事由たる不都合の行為として評価されてもやむを得ない。しかも、これらの行為の情状からみても、本件解雇を権利の濫用と目することはできない。  そうすると、本件懲戒解雇は有効であるから、原告は、依願退職の効果が発生する以前の昭和46年7月7日ころ懲戒解雇により被告会社の従業員たる地位を失ったわけである。

 被告会社の就業規則第35条に、依願退職の場合には、15日以前に届出なければならない旨の規定があることは、当事者間に争いない。しかし、右規定は、その文言からみて、従業員から依願退職の意思表示がなされたときは、被告の承諾がなくても、15日後にはその効力を発生する旨の依願退職の効力発生要件を定めたものと解することはできない。むしろ右規定は、従業員から依願退職の申出がなされた場合は、被告は申出の日から15日間は承諾を拒むことができることを定めたものと解するのが相当である。そうすると、原告の右依願退職の申出の効果が発生する日は、民法の原則によって解決しなければならない。被告会社の給料が前月21日から当月20日までの1か月分を毎月25日に支払う約であることは、当事者間に争いない。これによれば、原告の右依願退職の申出に対し、被告の承諾のない限り、原告の退職の効果が発生する日は、7月21日ということになる(民法第627条第2項)。

(関係法令)

 労働基準法2章,89条1項9号

(判例集・解説)

 労経速報805号17頁

 

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