マイスタッフ(一橋出版)事件 控訴審判決東京高裁判決(平成18年6月29日)

(分類)

 派遣

(概要)

 派遣労働者と派遣先会社との間の黙示の労働契約の存否、及び派遣元会社等との労働契約終了の有効性が争われた事案    (使用者勝訴)

 人材派遣会社Y1と派遣先を出版社Y2とする6か月間の派遣労働契約を締結したXが、3回の更新後、Y1・Y2間の労働派遣契約が打ち切られたことによりY1社との派遣労働契約を不更新とされことに対して、Y1とY2は一体であるとして、Y1との派遣労働契約の存在確認及びY2との間の黙示の労働契約の成立を前提とする労働契約上の地位の確認等を求めた事案の控訴審判決である。第一審東京地裁は請求をすべて棄却したため、Xが控訴。第二審東京高裁は、
〔1〕Y1とY2は筆頭株主・役員等の共通性から密接な関係にあるものの、募集・採用手続、労務管理、賃金の決定・支払い等にみられるY1の独立性と、派遣労働契約の不更新を通知された際のX本人の対応等から、XとY2との間に黙示の労働契約が成立したとは認められないこと、
〔2〕株式保有比率、派遣労働者数比率、Y1代表取締役のY2代表取締役からの退任等の事実からY2はY1を支配しておらず、法人格を濫用しているとはいえないことから、法人格否認の法理によりY2・X間の労働契約の成立は認められないこと、
〔3〕Y1による不当な更新拒絶はなく、解雇の法理を類推すべき前提も欠いていることから、最後の派遣労働契約は雇用期間の満了により有効に終了したことなどを認定し一審判決を支持した。

 労働契約も他の私法上の契約と同様に当事者間の明示の合意によって締結されるばかりでなく、黙示の合意によっても成立し得るところ、労働契約の本質は使用者が労働者を指揮命令及び監督し、労働者が賃金の支払いを受けて労務を提供することにあるから、黙示の合意により労働契約が成立したかどうかは、明示された契約の形式だけでなく、当該労務供給形態の具体的実態により両者間に事実上の使用従属関係があるかどうか、この使用従属関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があるかどうかによって判断するのが相当である。  そして、労働者派遣法所定の労働派遣は、自分の雇用する労働者を、その雇用関係を維持したまま、他人のために、その他人の指揮命令を受けて、労働に従事させることであるが(同法2条1号)、労働者が派遣元との間の派遣労働契約に基づき派遣元から派遣先へ派遣された場合でも、派遣元が形式的存在にすぎず、派遣労働者の労務管理を行っていない反面、派遣先が実質的に派遣労働者の採用、賃金額その他の就業条件を決定し、配置、懲戒等を行い、派遣労働者の業務内容・期間が労働者派遣法で定める範囲を超え、派遣先の正社員と区別し難い状況となっており、派遣先が、派遣労働者に対し、労務給付請求権を有し、賃金を支払っており、そして、当事者間に事実上の使用従属関係があると認められる特段の事情があるときには、上記派遣労働契約は名目的なものにすぎず、派遣労働者と派遣先との間に黙示の労働契約が成立したと認める余地があるというべきである。〔中略〕

 被控訴人マイスタッフは、形式的かつ名目的な存在ではなく、派遣先とされる被控訴人一橋出版との関係においても、派遣元としての独立した企業又は使用者としての実質を有しており、具体的な被控訴人一橋出版への労働者派遣という場面においても一体ではなく、その企業又は使用者としての独立性があり、本件全証拠によっても、被控訴人一橋出版が実質的に控訴人の募集・採用を行い、賃金、労働時間等の労働条件を決定して控訴人に賃金を支払っていたと認定することはできず、そして、控訴人も自己が被控訴人マイスタッフの派遣社員であることを理解していたのであるから、就労の具体的実態から、被控訴人一橋出版と控訴人との間に事実上の使用従属関係があり、労働契約締結の黙示の意思の合致があったものと認めることはできない。  したがって、控訴人と被控訴人一橋出版との間に黙示の労働契約が成立したと認めることはできない。〔中略〕

ア 被控訴人一橋出版は、平成15年5月当時、被控訴人マイスタッフの発行済株式の17.5パーセントを保有しているにすぎず、被控訴人マイスタッフは、被控訴人一橋出版と別個独立に存在して営業活動を行い、派遣先も被控訴人一橋出版以外に常時約100名ないし140名程度の労働者を派遣し、会計上の処理も別個独立であったこと、

イ 平成15年5月当時における被控訴人マイスタッフの被控訴人一橋出版に対する編集者の派遣者数は約7名、事務系の派遣社員は約18名であり、出版業界派遣総数の5パーセント弱であって、被控訴人一橋出版に対する売上高の比率(業務受託分を含む。)は、同当時で約15パーセントにすぎなかったこと、

ウ 丙川は、被控訴人一橋出版の代表取締役を平成12年7月25日に退任していること、

エ 被控訴人マイスタッフは、通常、他の出版者への派遣の場合には、派遣労働者への賃金に20から30パーセント加算した派遣料を設定していたものの、被控訴人一橋出版からは、控訴人の派遣料として時間単価2625円(本件派遣労働契約における賃金の時間単価2500円とその5パーセント相当額)にその消費税5パーセントを加えた額の支払いを受けていたが、これは、被控訴人マイスタッフの経営判断であり、これが直ちに不当に低廉な派遣料であるということはできないこと、

オ 被控訴人マイスタッフは、控訴人に対し、賃金を支払い、健康保険、厚生年金保険、雇用保険についても控訴人を被控訴人マイスタッフの派遣社員として加入し、所得税、社会保険等の徴収手続を行っていたことが認められるのであって、このような事実に基づけば、被控訴人一橋出版が被控訴人マイスタッフを支配していると認めることはできないから、その法人格を濫用しているということはできない。

 また、被控訴人一橋出版が被控訴人マイスタッフから派遣社員の派遣を受け、これがその経営上有益であったとしても、これは労働者派遣法による派遣を受けた効果であって、同法を潜脱するものということはできないから、上記事実も考慮すると、被控訴人一橋出版が、もっぱら「派遣労働者」という形態で安定的で低廉な労働者を供給させることを企図し、被控訴人マイスタッフを道具として意のままに支配しているということはできない。〔中略〕

 被控訴人一橋出版が、被控訴人マイスタッフの法人格と労働者派遣法を濫用しているとは認められないから、控訴人の主張する法人格否認の法理により被控訴人一橋出版と控訴人との間の労働契約の成立を認めることはできない。
 被控訴人一橋出版は、被控訴人マイスタッフとの間の労働者派遣契約に基づき、労働者の派遣を受けていたものであって、控訴人との間に労働契約が成立したとは認められないから、控訴人の被控訴人一橋出版との関係における本件解雇あるいは雇い止めの無効の主張は、その前提を欠いており、したがって、被控訴人一橋出版と控訴人との間の労働契約を前提として、控訴人の被控訴人らとの間の労働契約が終了していないとする控訴人の主張は、失当であって、採用することができない。〔中略〕

 4回の6ケ月間という期間の定めのある本件派遣労働契約が締結され、控訴人が被控訴人一橋出版で継続して通算2年間就労したこと、及び本件派遣労働契約に係る各派遣社員就業通知書の交付が各雇用期間の始期を過ぎてなされたことがあったとしても、これにより直ちに本件派遣労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものと断定することは相当でないというべきである。〔中略〕

 本件派遣労働契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、あるいは本件最後の派遣労働契約の期間満了後も使用者が雇用を継続すべきものと期待することに合理性が認められる場合には当たらないというべきであるから、被控訴人マイスタッフによる当該労働契約の不当な更新拒絶(いわゆる雇い止め)はなく、解雇の法理を類推すべき前提も欠いているので、平成15年5月20日、同雇用期間満了により本件最後の派遣労働契約も他の本件派遣労働契約と同様に有効に終了したというべきである。  したがって、控訴人の本件請求のうち、被控訴人らに対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求は理由がない。

(関係法令)

 労働者派遣事業の適正運営確保及び派遣労働者の就業条件整備法2条 労働基準法2章  民法623条

(判例集・解説)

 タイムズ1243号88頁  労働判例921号5頁  労経速報1944号18頁

 

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