ミロク情報サービス事件 京都地裁判決(昭和12年4月18日)

(分類)

 配転

(概要)

 コンピューター等の販売、賃貸、リース等を目的とする会社Yの京都支社で営業業務に従事する従業員X(以前大阪支社で勤務していたことがあった)が、有給休暇の申請等をめぐり話がもつれ、上司から自宅待機命令を受け、右期間中(6か月)にメニエール病に罹患したところ、職場復帰後は、Xは同僚、上司に診断書を閲覧させ、右病気の説明をするとともに、体調に気を付けながら無遅刻無欠席で勤務していたが、上司からXの売上げが伸びないのはXの労働意欲・営業意欲等が欠如してからであること、また他の従業員との協調性も欠如していることを理由として、大阪支社への転勤と降職の内示がなされたが、これを拒否し、その後も京都支社に出勤したため、業務命令違反、無断欠勤を理由として解雇の意思表示がなされたことから、本件転勤命令は権利濫用により無効であるとして、雇用契約上の地位の確認、及び賃金の支払を請求したケースで、履歴書の記載、就業規則の規定、以前の転勤命令に対するXの対応等から、労働契約に勤務地を京都に限定する旨の合意は含まれていないとしたうえで、メニエール病に罹患し転勤により長時間の通勤に耐えられるか疑問であること等から、本件転勤命令は権利の濫用として無効であり、右命令に違反しXが無断欠勤したということはできないから、これを理由とする本件解雇も権利濫用で無効であるとして、請求が認容された事例。

 原告は、昭和59年8月2日付で履歴書を作成したが、同履歴書に通勤時間として京都支社30分、大阪支社1時間30分と記載し、入社志願書には勤務地に関する希望を記載しておらず、同月27日には、被告の就業規則を遵守し、業務上の指示命令に従うなどと記載された誓約書を被告に差し入れたこと、被告は、従業員を採用するに当たって勤務地を限定したことはなく、新聞等による従業員の募集広告に勤務地として支社名を記載したのは、勤務地を限定する趣旨ではなく、最初の勤務地を示したに過ぎないものであること、また、被告の就業規則13条には、「業務上必要があるときは、従業員に対し転勤、配置換え、出向を命ずることがある。この場合、従業員は正当な理由なくこれを拒むことができない。」と規定されていること、Aは、昭和60年9月から平成2年3月まで被告関西事業部長として大阪、京都及び神戸の各支社を統轄する立場にあったが、昭和60年9月上旬、原告に大阪支社への転勤の内示をした際、原告から勤務地が京都に限定されている旨の主張をされたことはなく、2、3年後に原告を京都に戻すと約束したこともないこと、また、Aは、昭和61年12月から平成元年3月までは大阪支社長を兼務しており、原告の上司であったが、その間に原告から京都支社へ戻して欲しいと希望されたことはなかったことなどの事実を認めることができ、これらの事実をもとに判断すると、原告と被告との間の労働契約において勤務地を京都に限定する旨の合意が含まれていたということはできない。

 原告は、被告から法的根拠がないのに自宅待機命令を受け、その間にメニエール病に罹患したため、自宅待機命令が解除されて職場に復帰した後は、睡眠不足等によりめまい発作が起こらないよう注意しながら生活していたこと、原告は、メニエール病に罹患していることを京都支社長であったB及びAはもちろん、京都支社の他の従業員にも知らせていたのであり、メニエール病のため仕事等に支障が生じるかも知れないことは周知されていたこと、被告は、原告につき、他の従業員とは異なり、飛び込みによる会計事務所の新規開拓の仕事に専任させており、この仕事による売上はもともと僅かしか期待できないものであったこと、原告の供述によると、原告が自宅から大阪支社に通勤するには1時間40分以上を要するが、メニエール病のため、このような長時間の通勤に耐えられるかどうかは疑問であることなどを指摘することができ、これらの諸点を勘案すると、本件転勤命令は、被告の転勤命令権の濫用であって許されないというべきである。

 原告は、本件転勤命令に従わず、右命令後も京都支社に出勤し、大阪支社には出勤しなかったのであるが、右命令が被告の転勤命令権の濫用であって許されないものである以上、原告が右命令に違反し無断欠勤したということはできないから、これを理由とする本件解雇も権利の濫用として無効になるというべきである。

(関係法令)

 労働基準法2章 89条1項3号  民法1条3項

(判例集・解説)

 労働判例790号39頁  労経速報1752号13頁  民商法雑誌125巻1号93~102頁

 

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