住友生命保険(既婚女性差別)事件 大阪地裁判決(平成13年6月27日)

(分類)

 考課

(概要)

 生命保険会社Yに昭和33年から38年までの間に雇用され、既婚女性であった女性従業員Xら12名(育児休業等を取得していたものあり)が、長期間にわたり本俸昇給における考課査定につき標準者として扱われず、また未婚女性従業員と比較して昇格・賃金につき格差があったことから、既婚者であることを理由に昇給昇格において違法に差別的取扱いを受けたとして、差別がなければ到達していたであろう資格、地位にあることの確認と、差額賃金ないし差額賃金相当損害金等の支払を請求したケースで、現在の地位確認請求については昇格決定がなされていない以上、請求には理由はないとして棄却(過去の地位確認請求については却下)されたが、Xらに対する低査定は既婚女性であったことを理由とするものであるといわざるを得ず、また昇格についても同期入社者昇給状況等と比較して不当な措置がなされているとして、Yに対する不法行為に基づく損害賠償請求が一部認容された事例。

 査定については、それが被告会社による既婚女性従業員排除の方針の実現とまでいえなくても、現実に個々の具体的な人事考課において、既婚女性であることのみをもって一律に低査定を行うことは、人事考課、査定が、昇格、非昇格に反映され、賃金等労働条件の重要な部分に結びつく被告会社の人事制度の下では、個々の労働者に対する違法な行為となるといわなければならない。けだし、前述のとおり、被告会社における人事考課、査定は、個々の労働者の業績や能力等について、各考課要素に基づき判断するというものであり、婚姻の有無といった前記考課要素以外の要素に基づいて一律に査定することは本来就業規則で予定されている人事権の範囲を逸脱するものといえるからである。また、被告会社が人事考課において、産前産後の休業をとったり、育児時間を取得したこと自体をもって低く査定したのであれば、それは労基法で認められた権利の行使を制限する違法なものというべきで、その場合、被告会社はその責任を負うことになる。被告会社の当時の社会状況に鑑みれば違法性がない旨の主張は、上記の理由で採用できない。〔中略〕個々の既婚女性従業員について、実際の労働の質、量が低下した場合にこれをマイナスに評価することは妨げられないであろうが、一般的に既婚女性の労務の質、量が低下するものとして処遇することは、合理性を持つものではない。上記主張の産前産後の休業、育児時間を取得したことによって労働の質、量が大きくダウンするという意味が、休業期間、育児時間に労働がなされていないことをもって労働の質、量が低いというのであれば、それは法律上の権利を行使したことをもって不利益に扱うことにほかならず、許されないことである。被告会社は、労基法は、産前産後の休業や育児時間など労基法上認められている権利の行使による不就労を、そうした欠務のない者と同等に処遇することまで求めているものではないと主張する。確かに、労基法が欠務のない者と同等に処遇することを求めているとはいえないが、その権利を行使したことのみをもって、例えば、能力が普通より劣る者とするなど低い評価をすることは、人事制度が相対評価を採用している場合でも、労基法の趣旨に反するというべきである。  さらに、被告会社は、労基法上の権利行使による不就労により能力の伸長に差を生じたときには、能力考課にあたり、その差を評価の対象とするのは、やむを得ないと主張するが、一般的に不就労によって能力の伸長がないものと扱うことは許されないというべきである。〔中略〕  既婚者であることを理由として、一律に低査定を行うことは、そもそも被告会社に与えられた個々の労働者の業績、執務、能力に基づき人事考課を行うという人事権の範囲を逸脱するものであり、合理的な理由に基づかず、社会通念上容認しえないものであるから、人事権の濫用として、かかる人事考課、査定を受けた個々の労働者に対して不法行為となる。  原告X2については、前述のとおり、合理的な理由なく、昇給、昇格されなかったものであるから、不法行為に該当するものであり、被告会社は、これによって生じた損害を賠償すべき義務がある。〔中略〕
 女子差別撤廃条約については、同条約1条が、「男女の平等を基礎として」と規定しており、男子との比較において女子が差別を受ける場合を「女子に対する差別」と位置づけていることは明らかであり、女子が女子との比較で差別を受けることは「女子に対する差別」とはいえない。  また女子差別撤廃条約は、その2条(b)項において、「女子に対するすべての差別」を禁止する適当な立法その他の措置(適当な場合には制裁を含む)をとることを規定していることからすると、すべての差別を法律の規定により禁止することを求める趣旨ではないことは明らかである。  そして雇用の分野で具体的に締結国が措置すべき事項については、同条約の11条に規定されているが、そこでも同条約の実施に当たってどのような具体的な措置をとるかについては、各締結国の国情に応じて適当と判断される措置をとるとされているとするのが相当である(〈証拠略〉)。  以上によれば、我が国の社会、経済の現状を踏まえて規定された均等法7条、8条の努力規定は、同条約の要請を満たしているといえ、同条約に違反するものとはいえない。〔中略〕
  国家賠償請求については、いずれも理由がないからこれを棄却する。

 

(関係法令)

 民法90条  民法709条  労働基準法2章  国家賠償法1条

(判例集・解説)

 労働判例809号5頁  ジュリスト臨時増刊1224 224~226頁  労働法律旬報1511号6~9頁

 

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