大晃産業事件 大阪地裁判決(昭和60年11月26日)

(分類)

 退職

(概要)

 新店舗開設のために被告会社代表取締役の積極的な働きかけにより訴外会社を退職し被告会社で就労を始めたが被告会社の都合で新店舗開設が中止となり就労できなくなった原告らが損害賠償を求めた事例 (一部認容)

 もっとも、前記1(7)認定の事実によると、被告のY常務から、原告らに対し、原告らが本件雇用契約に基づき就労できなくなったことにつき金銭解決の申入れがあり、原告らもこれに応じて同年10月15日Y常務と会見し、その際同人に対し金銭解決による意思であることを明らかにしており、しかも、その後原告らにおいて被告に対し本件雇用契約に基づき就労させるよう要求していないから、これらの事実に徴すれば、Y常務から原告らに対する金銭解決の申入れは本件雇用契約解約の申入れであり、原告らがこれに応じてY常務と会見したことは右解約申入れに対する黙示的な承諾の意思表示と解すべく、したがって、本件雇用契約は、原告らと被告の間で、同年10月15日合意解約され、同日の経過とともに原告らは被告を退職するに至ったものと認めるのが相当である。
 前記1の認定判断によれば、原告らは、被告が「A」3階部分にオープンするミニ・クラブの店長、支配人として就労する予定でB社長らとの間に雇用契約を締結したものであるところ、このように労働条件たる就労場所、職種が明示的に雇用契約の内容となっている場合には、使用者は、労働者がその変更に同意する等の特別の事情のない限り、労働者に対し、当該就労場所において当該職種の仕事を与えて就労させる義務を負っているものと解されるから、使用者がその責めに帰すべき申出によって右義務を履行しないため労働者において就労できない場合には、労働者は、使用者に対し、前記2(3)のとおり民法536条2項に基づきその間の賃金を請求できるだけでなく、使用者の右義務不履行によって被った損害の賠償を請求することができるものと解するのが相当である。そこで、進んで原告ら主張の損害について検討するに、まず、原告らは、被告の本件雇用契約違反(前記義務不履行)によって、訴外会社から退職金の6割しか支給を受けられず、支給を受けられなかった右退職金の四割と同額の損害を被った旨主張する。しかしながら、右退職金の4割は、もともと被告が本件雇用契約を履行したとしても、原告らにおいて訴外会社から支給をうけられなかった筋合のものというべきであるから、その意味で、被告の本件雇用契約違反と原告らが右退職金の4割の支給をうけられなかったこととの間に相当因果関係はないというべきである。したがって、原告らの右主張は失当である。また、原告らは、被告の本件雇用契約違反によって被告から得べかりし6か月分の給与及び賞与相当の損害を被った旨主張する。しかしながら、前記3(1)のとおり、原告らは、被告がその責めに帰すべき事由によって原告らを就労させる義務の履行をしない以上、被告に対しその間の賃金請求権を失わなかったものというべきであるから、被告の右義務不履行によってその主張にかかる給与及び賞与相当額の得べかりし利益を喪失したということはできず、原告らが右利益を喪失したのは前記2(2)認定のとおり、原告らが自ら被告との間で本件雇用契約を合意解約したことに帰因するものといわなければならない。したがって、原告らの右主張も失当というほかはない。

(関係法令)

 民法536条2項

(判例集・解説)

 労働判例465号29頁  ジュリスト892号114~116頁

 

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