東京貨物社事件 浦和地方裁判所(平成9年1月27日)

(分類)

 退職  競業避止

(概要)

1.進学塾の講師2名が、年度の途中で代替要員を確保する時間的余裕を与えないまま講師の大半を勧誘して退職し、職務上入手した情報に基づいて生徒を勧誘して、新たに設立した進学塾に入学させた行為が、就業規則上の競業避止義務に違反するとして、連帯しての損害賠償義務を免れないとされた事例。

2.進学塾講師が年度途中に講師陣の大半を勧誘して退職し、職務上入手した情報に基づいて生徒を勧誘して、新たに設立した進学塾に入学させる行為は就業規則上の競業避止義務に違反する。

1.
(1) 競業禁止特約は、それを必要とする合理的な理由がある場合に、必要な範囲で競業を禁止する合意が正当な手続を経て得られ、かつ、禁止に見合う正当な対価の存在が認められる場合にのみ有効であり、特に使用者と労働者との間における特約については、その有効性は厳格に解すべきである。

(2) イベントの設営等を業とする会社とその従業員との間で結ばれた、退職後3年間の競業をすべての地域において禁止する旨の特約が、退職直前ないし退職届提出後に制定された就業規則中の競業禁止規定に基づき、かつ退職金規定の内容を従業員が知らない状態で作成されたものであること、従業員が受け取った退職金も右規定により算出した額よりも少ないこと、及び、右のように広範な特約によらなければ守れない正当な利益が会社側に存在したとは認められないことなどからみて無効であるとして競業関係に立つ業務の差止めを命じた仮処分決定を取り消した事例。

2.
(1) 職業選択の自由が保障され(憲法22条1項)、また、一切の事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正で自由な競争を促進すべきものとされている(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律1条参照)我が国においては、競業禁止が許されるのは、それを必要とする合理的理由があるとき、その必要を満たすに必要な範囲で、しかも競業を禁止する合意が、正当な手続を経て得られ、かつ、禁止に見合う正当な対価の存在が認められる場合に限られるものというべきであり、特に、使用者と労働者との間で成立させられる競業禁止の合意については、使用者の利益を守るためのみのものとして成立させられる危険が大きいから、より厳格に解すべきである。

(2) 労働者が退職に際して使用者と合意した競業禁止の特約につき、
 本件特約は、その期間、地域、職種などの範囲のいずれからみても、競業を行おうとする労働者にとって重大な制約となること
 本件特約の内容自体、一方的に労働者に義務を負担させるだけであること
 本件特約は、勤務継続中に勤務継続の前提とされていたものではないこと
 使用者の側に、本件特約以外の方法で守ることの困難な正当な利益が存在したとは認められないこと
 本件特約は、就業規則中の競業禁止規定の存在を前提に、しかも労働者が退職金規程の存在とその内容を伝えられることなく、成立したものであること
などの事情の下では、本件特約は、仮にその効力が認められるとしても限られた範囲内においてであって、それを超える部分においては、公序良俗違反により無効となり、その時間的範囲に関して見た場合、少なくとも現在においては効力を有しない。

(判例集・解説)

 判例時報1369号112頁  判例時報1618号115頁 
 労働経済判例速報1680号3頁  労働判例581号70頁

 

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