旭硝子事件 東京高裁判決 (昭和58年9月20日)

(分類)

 雇止め

 (概要)

 期間を3ケ月とする雇用契約を3ケ月ごとに2回~8回反覆更新されていた臨時工が、石油ショックに起因する経営悪化を理由に雇止めされたのに対し、右雇止めは相当な理由のない解雇として無効である等として地位保全等求めた仮処分申請事件の控訴審。

 本件労働契約が右のとおり結果的に反復更新されたとしても、そのことにより、本件労働契約が期間の定めのないものに当然に転化するいわれはなく、また、2回目の更新以後の時点において、本件労働契約を期間の定めのないものとする旨の当事者間の明示又は黙示の合意がなされたことについては何らの疏明がないから、本件労働契約が本件雇止め当時、期間の定めのないものに転化していたとの第一審債権者らの主張は理由がない(期間の定めのある労働契約が反復更新されることによって、期間の定めのないものに転化したり、あるいは、その法律関係が何らかの意味で質的に変化するがごときものと解することは、法理上も解釈上も肯認しがたいところである。)。しかし、本件労働契約は、第一審債務者において、特に更新をしない旨の意思表示をしない限り、前記3において説示した意味において、従前と同様の労働契約をある程度反復、継続して締結することが見込まれていた法律関係とみるべきであるから、第一審債権者らを本件労働契約の期間の満了によって雇止めをする場合、その雇止めが権利の濫用又は信義則違反によって無効となるときは、期間満了後においても従前の労働契約が更新されたと同様の法律関係が存続するものと解される。  もっとも、本件労働契約は、前記のとおりの方策、趣旨によるものであるから、雇止めの効力を判断するに当たっては、終身雇用の期待のもとに期間の定めのない労働契約を締結している本工を解雇する場合とはおのずから差異があるべきことは当然であり、前記3に説示したような期間を3ケ月とする臨時工の採用、処遇の方策の趣旨に鑑みると、これら臨時工の雇止めには、企業の維持、運営上の必要性をも勘案すべきであり、本件のような余剰人員整理のための雇止めについては、使用者に相当広範囲の自由が認められるというべきである。  (中略)  以上のとおり、第一審債務者による第一審債権者らに対する本件雇止めは、不況時における雇用量の調整を図り、企業の健全な運営を維持するため、比較的簡易な手続で短期の期間を定めて雇用されていた臨時工のうち、更新回数の少ない者を選んでなされたものであるから、右雇止めに不合理、不相当な点は見出し難く、使用者に許される裁量の範囲を逸脱したものとは認めがたい。したがって、第一審債務者に権利の濫用或いは信義則違反があったとみることはできず、他に本件雇止めを無効とすべき事由についての疏明はない。  (中略)  ところで、《証拠略》によれば、第一審債権者Xは、本件雇止めの当時、年齢30歳で妻と子供2人を扶養していたが、他の第一審債権者らはいずれも独身者であったことが一応認められ、一般に、妻子を扶養している者は独身者に比べて雇用関係が存しなくなることによって受ける不利益の大きいことは容易に推認されるところであるが、(中略)。  そのことにより、同人に対する雇止めが社会観念上明白に相当性を欠くものということはできない。原判決が、Xにつき、第一審債務者からの収入に対する依存度は高く、失職することにより被る生活上の不利益は著しく大きいとしてその雇止めを無効とした点は、失当である。

 (関係法令)

 労働基準法21条  民法1条3項,628条 

(判例集・解説)

 労働民例集34巻5・6合併号799頁  時報1090号176頁

 労経速報1166号5頁  労働判例416号35頁

 

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