石見交通事件 松江地裁益田支部判決(昭44・11・18)

(分類)

 退職 

(概要)

 バス会社にガイド見習として試用されていた女子従業員が同社の運転手と情交関係があったところから上司のすすめに応じて退職願を提出したのちに、それが使用者の強迫に基づくものであるとしてその効力を争った事例。 (一部変更)

 右のごとく18才を越えたばかりの未成年者であった被控訴人に対し、その親権者である父母と相談する余裕も与えないで、上司たる立場にある者がこれを一方的に叱責面罵し、懲戒解雇に付するなどと被控訴人にとって不利益、不名誉な措置をとるべき旨を告げて退職願の即時提出を要求することは、被控訴人を畏怖させるに足る強迫行為というべきであり、これによって被控訴人がなした退職願の意思表示はその自由な意思決定を阻害された瑕疵あるものと認めざるを得ない。もっとも、A所長らが右退職願の提出を要求するのに費した時間は前記のとおり極く短いが、前記のようなその場の状況や被控訴人の置かれた立場、年令等に照らせば、右のように短時間の出来事であっても被控訴人に意思決定の自由を失わせるに十分であったと認められる。

 以上の認定によれば、控訴会社がその主張するようなバスガイドの職種の特殊性から被控訴人につき将来風紀上の問題を起すおそれがあり、その適格性に疑問があると判断したことには相応の理由があるにせよ、前判示のとおり所定の懲戒解雇事由に該当する事実がないのに前記A所長らが被控訴人に対し明らかに懲戒解雇に付すべき不当な行状があるとして退職願を提出するよう要求したことは、被控訴人が見習者であったことを考慮にいれても、違法な強迫行為に当るものというべきであり、違法性がない旨の控訴会社の主張は採用できない。  以上の次第で、被控訴人の退職願の意思表示は、A所長らの違法な強迫行為によるものというべきところ、被控訴人が本件昭和40年(ワ)第62号事件の訴状をもって控訴会社に対しこれを取り消す旨の意思表示をしたことは本件訴訟の経過に照らし明らかであるので、右取消は理由があり、これによって被控訴人の任意退職(合意解約)は無効に帰したものと認められる。

(関係法令)

 民法96条  労働基準法2章

(判例集・解説)

 高裁民集26巻4号431頁  時報728号54頁  タイムズ303号178頁

 

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