紀伊高原事件 大阪地裁判決(平成9年6月20日)

(分類)

 雇止め

(概要)

 プロゴルファーについての雇用契約の更新拒否に関し、雇用期間満了時に更新手続がなされておらず、雇用契約は存続しており、右更新拒否は解雇に当たるとした事例。  プロゴルファーに対する更新拒否(解雇)につき、出勤日数が少ないこと等は解雇理由には該当しないとした事例。   認容  一部棄却

 右に述べたように、本件契約は、一年間の期間を定めたものであるから、所定の終期である平成2年12月31日の経過によって終了すべきものである。

 ところで、被告が主張する本件契約の終期は平成5年12月31日であるから、本件契約は、それまでに3回の更新手続きを経てきたことになる。そして、本件契約の更新手続きについては、前記のとおり、被告が契約終了期間満了日の30日前までに原告に対して更新の通知をなし、原告が通知を受けた日から10日以内に反対の意思表示をしないときは、契約が更新されたものとする旨規定されていたのであるが、被告は、右3回の更新手続きが何時、どのような形態で行われたのかについて具体的な主張、立証をしない(右各更新にあたって、書面が作成された形跡もない)し、原告は、本人尋問において、本件契約の更新は行われなかった旨を供述しているのである。

 これらの事情に照らせば、本件契約については、契約期間満了の際に更新が行われていたと断定することはできず、本件契約の当初の契約期間満了後の平成3年1月以降も原告が稼働していたことについて、被告がこれを知りながら異議を述べなかったとするほかはないから、本件契約は、民法629条1項により、期間の定めのない労働契約として継続していたことになる。

 そうすると、本件契約が終了したとするためには、契約期間満了以外の終了原因が必要となるから、この点に関する被告の主張の当否に検討をすすめることとする(なお、被告は、以下の諸事情を更新拒絶の正当理由として主張しているが、これらの主張は、本件契約が期間の定めのないものとされた場合の解雇事由としての趣旨を含んでいるものと解する)。


(1) 被告は、原告の契約違反行為として、出勤日数が少なかったこと、社外レッスンを行うにつき被告の明示の承認を得なかったこと及び次第にタイムカードの打刻を怠るようになったことを指摘する。

(2) 確かに、本件契約書には社外レッスンについては被告の承認を得ることやタイムカードに打刻することが定められているが、(人証略)によれば、被告も原告が社外レッスンをしていたことを承知していたこと及び被告が原告の社外レッスンにつき特段の咎め立てをしてはいなかったことが認められるのであって、これらの事情によれば、被告が原告の社外レッスンを問題視しておらず、黙認していたとも考えられるのである。〔中略〕

(3) また、タイムカードの打刻についても、(書証略)によれば、平成3年以降次第にタイムカードの打刻漏れが目立つようになり、ことに平成5年以降はほとんど打刻がなされていないことが認められるが、前記認定のとおり、原告については出退社時間がさほど重要ではなかったこと、被告がタイムカードの打刻をするよう原告に注意したことが認められる的確な証拠がないことや原告が本人尋問において原告のタイムカードが見当たらなくなった旨を述べていることなどの事情に鑑みれば、右タイムカードの打刻を怠ったとの一事をもって、原告の解雇を正当化することはできないといわなければならない。


(1) 被告は、さらに、原告のプロゴルファーとしての実績に見るべきものはなく、原告の競技会での活躍を通しての被告に対する貢献がなかったこと、原告が獲得したクラブの会員が僅少であったことを主張する。

(2) しかしながら、本件契約書には、原告の業務が「〔1〕来場者のコース及び練習場のレッスン、〔2〕キャディマスターの業務を補佐する、〔3〕会社が特に指示した業務」とされている(この事実は、(書証略)によって認めることができる)だけで、競技会での成績やクラブ会員の勧誘を原告の業務内容とする旨の明確な定めはない。〔中略〕

3.また、被告は、原告が自家用車のガソリン代合計474,003四円を清算しなかった旨を主張するが、後記のとおり、右清算にかかる経理処理はAが行っていたものであり、原告がこれに関与していたことが認められる証拠はない。〔中略〕

4.被告は、さらに、原告に依頼すべき業務が少なくなった旨を主張する。しかしながら、本件契約で定められた原告の業務は、前記のとおりであるところ、これらの業務について、原告に依頼すべき業務が少なくなったとの事実を認めるに足る的確な証拠はない。〔中略〕

5.また、被告は、原告が健康保険証を被告に返還したり、雇用保険被保険者離職証明書の交付や失業保険金の給付を受けたことから、本件契約の存続を主張し得る立場にない旨を主張する。  確かに、前記認定のとおり、原告は、健康保険証を被告に返還し、離職証明書の交付や失業保険金の給付を受けているのではあるが、これらは、いずれも、被告による本件契約の更新拒絶の通告を受けた後のことであるうえ、後記のとおり、原告は、被告の親会社であるB株式会社に対して、右更新拒絶の不当性を訴えるなどしていることに鑑みれば、原告が、被告による更新拒絶を受け入れたということはできないのであるから、右各事実があるからといって、原告が被告の従業員たる地位を主張することが許されなくなるものとはいえない。

6.被告は、さらに、原告がB株式会社の幹部役員に宛てて、CやDが被告の金員を着服、横領した旨などの虚偽の事実を記載した書面を送り付けたことを問題としているが、この行為がなされたのは本件契約の更新が拒絶された後のことであるから、右更新拒絶(解雇)の効力に影響を与えるものとすることはできない。

 以上判示のとおり、被告の主張する各事由は、いずれも原告に対する解雇の根拠たり得ないものである。さらにいえば、本件契約の更新拒絶の理由として原告に告げられたのは、前記のとおり、リストラであるというにすぎなかったこと、本件証拠上、本件契約の更新拒絶に際して、右被告主張の各事情がその理由として検討された形跡が認められないことに鑑みれば、被告の主張する右諸事情が真に本件契約の更新拒絶(解雇)の理由とされていたのかについても、疑問が残るといわなければならず、結局、本件契約の更新拒絶の実質が原告に対する解雇の意思表示であったと捉えるとしても、右解雇は、解雇権の濫用に該当し、無効というべきである。  右に述べたとおり、本件契約は、当初の終期である平成2年12月31日を経過した後は、期間の定めのない労働契約として存続しており、被告の主張する諸事情は、本件契約の解雇事由たり得ないのであるから、被告の解雇(更新拒絶)は、無効というべきである。したがって、本件契約は、平成6年以降も存続しているといわなければならず、原告は、被告に対して、雇傭契約上の権利を有しているとともに、被告は、原告に対し、平成6年1月以降の給与の支払義務を免れないというべきである。

(関係法令)

 労働基準法2章  民法629条1項

(判例集・解説)

 労経速報1640号9頁

 

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