近畿大学事件 大阪地裁判決(昭和41年5月31日)

(分類)

 休職  解雇

(概要)

 大学の教職員としてふさわしくない非違行為を行った等として休職を命ぜられ、その後改善の様子が見られないとして休職期間の満了とともに解職された原告が、解雇の無効確認等を請求した事例。 (棄却)

  一般に、休職処分とは当該従業員に執務させることが不能であるか、もしくは適当でないような事由が生じた場合に、従業員の地位は現存のまま保有させながら執務のみを禁止する処分であると解されるから、通常は、その事故が一時的であり、かつ事故の消滅によって当然に復職することが予定されているものであることは勿論、休職期間中に休職事由が消滅しない場合においても就業規則に特段の定めがない限り、休職期間の満了により復職する趣旨のものであると解するを相当とする。けだし、そうでないと条件付解雇を認めるのと同様な結果となり被処分者の地位を甚しく不安定にするからである。本件のように期間の定めのない雇用契約において、労働基準法第20条の解雇予告手当を提供すれば、通常解雇は使用者の自由に任されていて、解雇事由を示すことを要しないし、その効力発生要件としても正当な事由の存否や、その客観的妥当性を必要とするものでないと解するを相当とする。しかしながら解雇は被処分者やその家族の生活に甚大な打撃を与えるものであるを通常とするものであるから、解雇が自由であるといつても無制限に自由であるというものではない。すなわち直接、労働基準法第19条のような明文の存する場合は勿論のこと、そうでなくても本件のような場合についていえば、前記休職処分と一連の密接な関係を有するものとしての解雇事由の存否、解雇の経過その他、諸般の状況から解雇権の行使が被告大学に格別の利益をもたらすものでなく、却つて原告に対する害意その他の不当な目的を達成するためになされたとか、その他、信義則に反して濫用されたものと認められる事情が存在する場合には民法第1条により、その効力を否定されるものであるといわなければならない。
 以上の諸点を綜合して全体的に考察すると、被告の主張するような酒行上の悪癖および実験室の不法占拠だけが本件解雇の主要な原因であるとは容易に認められないのであるが、そうであるからといって、それらが単なる口実であるにすぎず、解雇の真の理由が原告に対する害意に出て他の違法または不当な目的を達成するためのものであったとは到底認められないので(この点については原告の側においても格別の主張立証をしないところである)、結局、本件解雇が信義の原則に違反するかどうかの問題に帰着するものであるというべきところ、前記のような原告に有利な諸事情だけからみると、本件解雇について大学の側に、いささか信義の原則にもとる落度が少くないといわざるを得ないけれども、他面、大学の側からすれば本件解雇に踏み切るに至った経緯において前記のような肯認するに足る事情が相当に存在し、なかんづく、被告が下村助教授の処分問題を機会に学校経営の姿勢を正そうとしている際に、原告の非違行為をも是正しようとしたことは何ら非難さるべき事柄でなく、むしろ当然になすべき措置であるのに、原告において心ある大学首脳部の勧告に従おうとしなかったため遂に復職が不可能となったものであるとの被告の言分を容易に動かし難いから、原告としても被告の側の前記落度を一概に非難できる筋合ではないというべく、これに通常解雇の前記性格を併わせ考えると、本件解雇につき被告の側に就業規則の誤解やその他、前記落度があることをもって、その効力を否定しなければならない程、原被告間の雇傭契約の信義に反するものとは認め難いといわざるをえない。  以上の次第で本件解雇は解雇権の濫用とは認められないので、それにつき正当な理由がないから無効であるとの原告の主張は到底採用することができない。

(関係法令)

 民法1条3項

(判例集・解説)

 労働民例集17巻3号707頁

 

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