株式会社新評論事件 東京高裁判決(平成4年7月23日)

(分類)

 賃金

(概要)

 労働者(原告)に対する解雇通告に関連して、原告・会社・組合の三者間で退職に関する確認書(和解契約)が成立した後、右労働者が右和解契約は錯誤により無効あるいは強迫によるもので取り消すことができる等と主張して右和解契約の効力を否定して地位保全、未払いの時間外労働手当、賞与等を請求した事例。  棄却(上告)

 「右事実によれば、6項の括弧内の算式は、時間外労働の有無及び時間数に争いがある中で、これまでの時間外労働全体に見合う時間外賃金の総額を算出するため、双方が妥協の上、その総額を算出するための算定方式を示したにすぎない。『控訴人請求時間数×2分の1』という表現は現実の時間外労働の時間数を確認した上でその2分の1分しか時間外割増し賃金を払わないということを意味するものではないし、『×750円』としかされていないことも、時間外労働に対応した時間外割増賃金部分を払わないということを意味するものではない。あくまで時間外賃金請求権の有無及び額についての争いを前提として、時間外割増賃金部分も含め全部でこの額を払うという合意なのである。したがって、右合意には、時間外労働の一部については賃金を払わないとか、労働基準法に定める割賃増金部分は払わないという趣旨は含まれていない。そうすると、控訴人の主張するように、右合意が労働基準法に違反し、無効であるということはできない。  そして、時間外賃金の支払を定めた右合意は、時間外労働の有無及びその時間数、したがって時間外賃金請求権の有無及び額について争いがあり、相互の互譲の結果定められたものであるから、民法695条にいう和解契約と理解される。そうすると、仮に控訴人がその主張する時間数の時間外労働をしていたことが証明されたとしても、右合意で確定した金額を超える部分の時間外賃金請求権は、民法696条により消滅したということになり、右合意により算定された金額に加えて別に時間外割増賃金部分を請求する余地もない。」

 「賞与請求権が発生するためには、控訴人と被控訴人との間で賞与を支給することにつき合意がされていることが必要で、たとえ被控訴人会社の他の従業員全員に対して賞与が支給されたとしても、そのことから直ちに控訴人に賞与請求権が生ずるものではない。控訴人は、確認書七項の『就業については、1987年10月1日以前の形態とする。』との文言を根拠に賞与の請求権があると主張し、原審における同人の供述中にはそれに沿うかのごとき部分も存在するが、その文言からしてそこに当然賞与支給の合意が含まれていたとは解し難いのみならず、控訴人自身の作成によること争いのない乙第五号証(『確認書について』と題する書面)においては確認書において残業代が支払われるに至ったことを『年末のボーナスがゼロでしたから、これでもとても助かります。』としていて、控訴人も右書面作成の時点(昭和63年1月29日)においてはボーナスが支払われないことを特に疑問視していないことが窺われること、原審における証人A及び証人Bの証言によれば、確認書締結までの交渉の過程で冬季賞与の支払について具体的に話題になったことがないことが認められることに照らすと、控訴人の前記供述部分は信用し難く、確認書七項に賞与支給の合意が含まれているということはできない。さらに、控訴人は、確認書7項の右合意には、賞与等につき控訴人を他の従業員と差別しない、すなわち他の従業員と同様に取り扱うとの趣旨が含まれていたところ、昭和62年の冬季賞与は控訴人と同期入社者を含む被控訴人会社の従業員全員に支払われたから、控訴人にも昭和62年の冬季賞与請求権が発生したとも主張し、原審における控訴人本人の供述中にはそれに沿う部分があるが、右7項の文言からは控訴人の賞与の支給を含む労働条件を他の従業員と同様にするという合意が含まれていたとは解し難いことや、原審における証人Aの証言等に照らし、控訴人の右供述部分は信用し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。そうすると、控訴人の冬季賞与の請求は理由がない。」

(関係法令)

 労働基準法11条 37条  

(判例集・解説)

 労働民例集43巻4号653頁  労働判例643号84頁

 

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