岐阜相互銀行事件 名古屋高裁判決(昭和45年10月29日)

(分類)

 懲戒  解雇  退職

(概要)

 家族手当の不正受給等が就業規則所定の懲戒事由に当るとして依願退職の勧奨を受け、これに同意した銀行員が、右同意は強迫によるもので取消すことができ、また不当労働行為によるもので無効であるとして従業員たる地位の確認等求めた事件の控訴審。  

(会社側控訴のみ認容、労働者敗訴)

 被控訴人が従業員の服務、賞罰等につき定めた就業規程の第56条の4が「職員が次の各号の一に該当する行為があったときは懲戒解雇とする。ただし情状により減給、出勤停止または降職にとどめることができる。」と定め、その第2号に「窃盗、横領、暴行等の刑法犯に該当する行為のあった場合」、第10号に、「その他各号に準ずる不都合な行為のあった場合」と各規定されている。(中略)

 被控訴人は昭和37、38両年度において前記妻Aのほか長男および長女を扶養し、右3名を扶養家族として申告した結果前記給与規程細則により昭和37年中は毎月金2,500円、昭和38年中は毎月金3,900円の家族手当の支給を受けたが、Aは定職を持ち納税義務を負担していたから、同細則の規定により扶養家族とみなされず、長男および長女をそれぞれ第1、第2被扶養者として申告すべきであったから、毎月金400円宛、合計金9,200円(昭和38年11月分まで)の家族手当を不当に受給していたことになる。しかも、被控訴人は、同居の妻が定職を有し毎月給与の支給を受け年末に給与所得の源泉徴収票の交付を受けていたことを当然知っていたものと推定されるから、少なくとも昭和37年末には同年度分の右家族手当の超過受給分を控訴人に返還すべきことを知ったにもかかわらず、これを返還しないのみか昭和38年分扶養家族申告書にも妻Aを第1被扶養者として申告したのであるから、少なくとも昭和38年分の家族手当の超過受給分については詐欺罪が成立し、また昭和39年分扶養家族申告書にも右同様の記載をして、これを控訴人に提出したが、前記のように事件が発覚したため控訴人の係員が同申告書中妻Aに関する記載を抹消したため、同年1月分給与については詐欺未遂に終ったものである。したがって右の行為は前記就業規程第56条の4第2号に該当し、また前記所得税の扶養控除に関し妻孝子を扶養家族として申告し所得税の一部につき源泉徴収を免れた行為は、右同様少なくとも昭和38年分につき当時施行の所得税法第69条の2第1項第38条に該当するから、右行為は前記就業規程第56条の4第10号に該当する。

 控訴人が被控訴人を懲戒解雇に処すべしとした判断は不当ということを得ず、また人事委員会において控訴人側人事委員らが組合側人事委員らに対し威嚇的または強圧的な言動をした事実も認められない。(中略) が、控訴人側人事委員らが組合側人事委員らをして被控訴人に対し、短時間内に退職届を提出しないときは懲戒解雇を発令すると告げさせた結果、被控訴人に畏怖を生じさせたことは、これを認めることができる。しかし、強迫による意思表示が取り消し得べきものであるためには、強迫者において相手方に畏怖を生じさせる故意のほか、この畏怖によって特定の意思表示をさせようとする故意を有することを必要とし、また強迫が違法であることを要するところ、控訴人側人事委員らないし控訴人は、すでに被控訴人を懲戒解雇に処することを決意していたが、組合側人事委員らの提案により、もし被控訴人が任意に退職願を提出するときは懲戒解雇を発令しないことを約したのであって、しかも被控訴人を懲戒解雇に処することは不当でないのであるから、被控訴人の畏怖によって退職願を提出させようとする故意を有せず、また被控訴人をして退職願を提出せしめることによって不正の利を得ようとするものでもないから、控訴人側人事委員らが前記のように被控訴人に畏怖を生じさせた行為は強迫の故意を欠き、また違法性を帯びないものといわなければならない。

(関係法令)

 労働基準法2章 89条1項1号

(判例集・解説)

 労働民例集21巻5号1404頁  時報621号91頁  ジュリスト508号164頁

 

労働相談・人事制度は 伊﨑社会保険労務士 にお任せください。  労働相談はこちらへ

人事制度・労務管理はこちらへ