ベーチェット病

 ベーチェット病(Behçet’s disease)は口腔粘膜のアフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、皮膚症状、眼症状の4つの症状を主症状とする慢性再発性の全身性炎症性疾患です。トルコのイスタンブール大学皮膚科Hulsi Behçet教授が初めて報告し、この名がつけられました。
 従来、男性に多いといわれていましたが、最近の調査では発症にはほとんど性差はないようです。ただ、症状に関しては、男性の方が重症化しやすく、内蔵病変、特に神経病変や血管病変の頻度は女性に比べ高頻度です。眼病変も男性に多く、特に若年発症の場合は、重症化し失明に至る例もみられます。発病年齢は男女とも20~40歳に多く、30歳前半にピークを示します。

原因
 病因は現在も不明です。しかし何らかの内因(遺伝素因)に外因(感染病原体やそのほかの環境因子)が加わり、白血球の機能が過剰となり、炎症を引き起こすと考えらえています。内因の中で一番重要視されているのは、白血球の血液型ともいえるヒトの組織適合性抗原であるヒト白血球抗原(HLA)の中のHLA-B51というタイプで、健常者に比べ、その比率がはるかに高いことがわかっています。そのほか、日本人ではHLA-A26も多いタイプです。
 最近、ベーチェット病でも他の疾患と同様に全ゲノム遺伝子解析が進められ、発症に強く影響する遺伝子、すなわち疾患感受性遺伝子が次々と同定されてきています。

症状
 ベーチェット病の主な臨床症状は以下の4症状です。

口腔粘膜の再発性アフタ性潰瘍
 口唇、頬粘膜、舌、歯肉、口蓋粘膜に円形の境界鮮明な潰瘍ができます。これはほぼ必発です(98%)。初発症状としてもっとも頻度の高い症状ですが、経過を通じて繰り返して起こることも特徴です。

皮膚症状
 下腿伸側や前腕に結節性紅斑様皮疹がみられます。病変部は紅くなり、皮下に硬結を触れ、痛みを伴います。座瘡様皮疹は「にきび」に似た皮疹が顔、頸、胸部などにできます。下腿などの皮膚表面に近い血管に血栓性静脈炎がみられることもあります。皮膚は過敏になり、「かみそりまけ」を起こしやすかったり、注射や採血で針を刺したあと、発赤、腫脹、小膿疱をつくったりすることがあります。これを検査に応用したのが、針反応です。しかし、最近では、その陽性率が低下しており、施行する機会も減ってきました。

外陰部潰瘍
 男性では陰嚢、陰茎、亀頭に、女性では大小陰唇、膣粘膜に有痛性の潰瘍がみられます。外見は口腔内アフタ性潰瘍に似ていますが、深掘れになることもあり、瘢痕を残すこともあります。

眼症状
 この病気でもっとも重要な症状です。ほとんど両眼が侵されます。前眼部病変として虹彩毛様体炎が起こり、眼痛、充血、羞明、瞳孔不整がみられます。後眼部病変として網膜絡膜炎を起こすと発作的に視力が低下し、障害が蓄積され、ついには失明に至ることがあります。

 主症状以外に以下の副症状があります。

関節炎
 膝、足首、手首、肘、肩などの大関節が侵されます。典型的には腫脹がみられます。非対称性で、変形や強直を残さず、手指などの小関節が侵されない点で、関節リウマチとは異なります。

血管病変
 この病気で大きな血管に病変がみられたとき、血管型ベーチェット病といいます。圧倒的に男性が多い病型です。動脈、静脈ともに侵され、深部静脈血栓症がもっとも多く、上大静脈、下大静脈、大腿静脈などに好発します。動脈病変としては動脈瘤がよくみられます。日本ではあまり経験しませんが、肺動脈瘤は予後不良とされています。

消化器病変
 腸管潰瘍を起こしたとき腸管型ベーチェット病といい、腹痛、下痢、下血などが主症状です。
 部位は右下腹部にあたる回盲部が圧倒的に多く、その他、上行結腸、横行結腸にもみられます。潰瘍は深く下掘れし、消化管出血や腸管穿孔により緊急手術を必要とすることもあります。

神経病変
 神経症状が前面に出る病型を神経ベーチェット病といいます。難治性で、男性に多い病型です。ベーチェット病発症から神経症状発現まで平均6.5年といわれています。大きく髄膜炎、脳幹脳炎として急性に発症するタイプと片麻痺、小脳症状、錐体路症状など神経症状に認知症などの精神症状をきたし慢性的に進行するタイプに大別されますが、個々の患者さんの症状は多彩です。急性型の一部には眼病変の治療に使うシクロスポリンの副作用として発症する例もありますが、抗TNF抗体(インフリキシマブ)の登場後は減ってきています。一方、慢性進行型は特に予後不良で、治療効果が乏しく、現在でも課題が残る病型です。神経型と喫煙との関連が注目されています。

副睾丸炎
 男性患者の約1割弱にみられます。睾丸部の圧痛と腫脹を伴います。

治療法
 ベーチェット病の病状は非常に多様ですので、すべての病状に対応できる単一の治療があるわけではありません。個々の患者さんの病状や重症度に応じて治療方針を立てる必要があります。

(1)眼症状:

 虹彩毛様体など前眼部に病変がとどまる場合は、発作時に副腎皮質ステロイド点眼薬と虹彩癒着防止のため散瞳薬を用います。視力予後に直接関わる網膜脈絡膜炎では、発作時にはステロイド薬の局所および全身投与で対処します。さらに積極的に発作予防する必要があり、その目的でコルヒチンやシクロスポリンを使用します。2007年1月、世界に先駆けてわが国で、インフリキシマブ(抗腫瘍壊死因子(TNF)抗体)が難治性眼病変に対して保険適用となり、従来の治療薬にない素晴らしい効果を示しており、市販後調査での有効率は90%にものぼり、多くの患者さんで、視力の改善が見られています。

(2)皮膚粘膜症状:

 口腔内アフタ性潰瘍、陰部潰瘍には副腎ステロイド軟膏の局所塗布が効くことが多く、また、口腔ケアや局所を清潔に保つことも重要です。また内服薬としてコルヒチン、セファランチン、エイコサペンタエン酸などが効果を示すことがあります。

(3)関節炎:

 コルヒチンが有効とされ、対症的には消炎鎮痛薬を使用します。

(4)血管病変:

 副腎皮質ステロイド薬とアザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリンAなどの免疫抑制薬が主体です。動脈瘤破裂による出血は緊急手術の適応ですが、血管の手術後に縫合部の仮性動脈瘤の形成などの病変再発率が高く、可能な限り保存的に対処すべきとの意見もあります。

(5)腸管病変:

 副腎皮質ステロイド薬、サラゾスルファピリジン、メサラジン、アザチオプリンなどを使用します。難治性であることも少なくありませんが、2013年、ヒト型抗TNF抗体であるアダリムマブの使用が保険上認可され、今後の成績の向上が期待されます。消化管出血、穿孔は手術を要しますが、再発率も高く、術後の免疫抑制剤療法も重要です。

(6)中枢神経病変:

 脳幹脳炎、髄膜炎などの急性期の炎症にはステロイドパルス療法を含む大量の副腎皮質ステロイド薬が使用され、アザチオプリン、メソトレキサート、シクロホスファミドなどの免疫抑制薬を併用することもあります。精神症状、人格変化などが主体とした慢性進行型に有効な治療手段は乏しいのですが、メソトレキセート週一回投与の有効性が報告されています。眼病変に使われるシクロスポリンは禁忌とされ、神経症状の出現をみたら中止すべきです。

 この病気は、眼症状や特殊病型が認められない場合は、慢性的に繰り返し症状が出現するものの一般的に予後は悪くありません。眼症状のある場合、特に眼底型の網膜ぶどう膜炎がある場合の視力の予後は悪く、かつては眼症状発現後2年で視力0.1以下になる率は約40%とされてきました。この数字は1990年代のシクロスポリン導入以後、20%程度にまで改善してきました。さらにインフリキシマブの登場により、有効率は90%にものぼります。中枢神経病変、血管病変、腸管病変等の特殊型ベーチェット病はいろいろな後遺症を残すことがあります。

 

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