多発性硬化症

 多発性硬化症は中枢神経系の脱髄疾患の一つです。私達の神経活動は神経細胞から出る細い電線のような神経の線を伝わる電気活動によってすべて行われています。家庭の電線がショートしないようにビニールのカバーからなる絶縁体によって被われているように、神経の線も髄鞘というもので被われています。この髄鞘が壊れて中の電線がむき出しになる病気が脱髄疾患です。この脱髄が斑状にあちこちにでき(これを脱髄斑といいます)、病気が再発を繰り返すのが多発性硬化症(MS)です。

  MSというのは英語のmultiple sclerosisの頭文字をとったものです。病変が多発し、古くなると少し硬く感じられるのでこの名があります。

 わが国では比較的まれな疾患で、有病率(患者数)は10万人あたり1~5人程度とされていましたが、最近の各地での疫学調査や2004年全国臨床疫学調査などによれば、わが国全体で約12,000人、人口10万人あたり8~9人程度と推定されています。

 環境因子としてはEBウイルスなどの感染因子、緯度や日照時間、ビタミンD、喫煙などが知られています。

 MSは若年成人に発病することが最も多く、平均発病年齢は30歳前後です。15歳以前の小児に発病することは稀ではありませんが、5歳以前には稀で、3歳以前には極めて稀です。また、60歳以上の方に発病することは稀で、70歳以降では極めて稀です。但し、若い頃MSに罹患していて、年をとってから再発をすることがあります。MSは女性に少し多く、男女比は1:2~3位です。

 MSになるはっきりした原因はまだ分かっていませんが、自己免疫説が有力です。私達の身体は細菌やウイルスなどの外敵から守られているのですが、その主役が白血球やリンパ球などの免疫系です。ところが免疫系が自分の脳や脊髄を攻撃するようになるのです。これが自己免疫疾患です。先ほど述べた髄鞘が傷害されるので、脱髄が起こり麻痺などの神経症状が出るのです。なぜ自己免疫が起こるのかはまだ分かっていませんが、遺伝的になりやすさを決定する因子が関与していると考えられます。また先ほど環境因子としてEBウイルスを挙げましたが、免疫担当細胞がウイルスのような病原体と戦ううちに間違えて自分の脳を攻撃するようになるのではないかと言われています。従って感染因子が直接の原因ではないので、この病気が接触などにより人から人にうつることはありません。通常型MSに特異的な免疫異常は未だ発見されていませんが、NMOでは抗AQP4抗体が重要な役割をすることが明らかにされつつあります。しかし、特定疾患においては、NMOはMSに含めて考えられています。

 親から子にこの病気が遺伝することはありません。アレルギー体質が遺伝するように、MSになりやすさを決定する体質遺伝子が遺伝すると考えて下さい。このなりやすさを決定する遺伝子として色々なものが上げられていますが、今のところHLAという遺伝子が重要であると言われています。私達の赤血球にはA型、B型、O型といった血液型があるように、白血球にも血液型があり、その一つがHLAです。欧米白人や日本人でもDR2というHLAのタイプを持っている人は、典型的な通常型MSになりやすいと言われています。日本やアジア地域には視神経や脊髄を主に侵すタイプのMSがありますが、このようなタイプのMSは別のHLAを持った人に多いようです。

 MSの症状はどこに病変ができるかによって千差万別です。視神経が障害されると視力が低下したり、視野が欠けたりします。視神経のみが侵されるときは球後視神経炎といって、多くの患者さんは眼科にかかります。その一部の人が後にMSとなります。球後視神経炎のときは目を動かすと目の奥に痛みを感じることがあります。脳幹部が障害されると目を動かす神経が麻痺してものが二重に見えたり(複視)、目が揺れたり(眼振)、顔の感覚や運動が麻痺したり、ものが飲み込みにくくなったり、しゃべりにくくなったりします。小脳が障害されるとまっすぐ歩けなくなり、ちょうどお酒に酔った様な歩き方になったり、手がふるえたりします。大脳は大きいので少々の病変が起こっても症状を出さないことが多いようです。脊髄が障害されると胸や腹の帯状のしびれ、ぴりぴりした痛み、手足のしびれや運動麻痺、尿失禁、排尿障害などが起こります。脊髄障害の回復期に手や足が急にジーンとして突っ張ることがあります。これは有痛性強直性痙攣といい、てんかんとは違います。熱い風呂に入ったりして体温が上がると一過性にMSの症状が悪くなることがあります。これはウートフ徴候といいます。

治療法
 急性期には副腎皮質ホルモン(ステロイド)を使います。一般にソルメドロールという水溶性のステロイド剤を500mgないし1,000mgを2~3時間かけて点滴静注します。これを毎日1回、3日から5日間行い1クールとして様子を見ます。本療法をパルス療法と言います。まだ症状の改善が見られないときは数日おいて1~2クール追加したり、血液浄化療法を行うことがあります。ステロイドの長期連用には糖尿病や易感染性・胃十二指腸潰瘍や大腿骨頭壊死などの副作用が出現する危険性が増すため、パルス療法後に経口ステロイド薬を投与する場合でも(後療法と言います)、概ね2週間を超えないように投与計画がなされることが多くなっています。急性期が過ぎるとリハビリテーションを行います。対症療法として有痛性強直性痙攣に対しカルバマゼピンを、手足の突っ張り(痙縮)に対してはバクロフェンなどの抗痙縮剤、排尿障害に対しては抗コリン薬など適切な薬剤を服用します。
 MSの再発予防には、我が国ではインターフェロンβ-1b(ベタフェロン)とインターフェロンβ-1a(アボネックス)の注射薬が認可されています。また、2011年9月、フィンゴリモド(イムセラ/ジレニア)内服薬が承認されました。活動性の高い患者さんに対して使用される、モノクロール抗体点滴静注製剤ナタリズマブ(タイサブリ)は、2014年3月に製造販売が承認されました。一方、NMO病態を有する患者さんの再発予防には、インターフェロンβやフィンゴリモドは必ずしも有効ではないと考えられています。むしろ、経口ステロイド薬や免疫抑制薬の使用を優先した治療計画が推奨されています。

 通常型MSの多くは再発・寛解を繰り返しながら慢性に経過します。一部のMSでは最初からあるいは初期に再発・寛解を示した後、しだいに進行性の経過をとる場合があります(一次性および二次性進行型MS)。再発の回数は年に3~4回から数年に1回と人によって違います。再発を繰り返しながらも障害がほとんど残らない患者さんがおられる反面、何度か再発した後、時には最初の発病から寝たきりとなり、予後不良の経過をとる患者さんがおられますので、MSの診断がついたらなるべく早く再発予防のための治療薬を開始するよう勧められています。NMOの患者さんでは視力障害や脊髄障害の症状が比較的強く出る傾向があるとされています。

 

 多発性硬化症では、初期段階ではまだ多発性硬化症と病名がついていないため、初診日の特定が困難なケースが少なくありません。
 障害年金の制度では、病名が確定していなくても、自覚症状があり、医療機関を訪れた場合はそこが初診日と扱われます。あくまでも、多発性硬化症特有の症状で医師の診断を受けた日が初診日となります。

 

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