労働者の損害賠償責任

 従業員が故意や重大な過失で就業規則違反、重大な背信行為、横領、窃盗などを起こした場合、会社は従業員に損害賠償請求をすることができます。

 損害賠償請求できる場合は、ある程度限定されます。特に過失の場合は、仕事自体の性質や従業員教育の不徹底、会社の管理不足を問われます。過失の場合は、損害は、会社と従業員が公平に損害を負担すべきだという考えから損害賠償金額が減額されることが多いのです。判例においては、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償または求償の請求をすることができる」茨城石炭商事事件 最高裁 昭51.7.8)として、労働者の損害賠償責任を制限しました。

 損害賠償の程度は、せいぜい損害額の2~3割程の金額が限度となります。従業員に重過失があった場合でも、損害額の5割が限度でしょう。

 懲戒処分と損害賠償は別物ですから、懲戒処分をして、さらに損害賠償請求をすることは可能です。従業員の過失が軽いものの場合は、懲戒処分が行われていれば、損害賠償をすることができないようです。

 就業規則に機密保持義務及び機密漏洩に対する懲戒の定めがある場合には、在職中の従業員については、その定めに基づいて懲戒処分に付すことができます。退職後の従業員については、営業上の秘密に接した者に限っては守秘義務契約を締結しておけば、もしこれに違反して機密を漏洩し会社が損害を受けたときは、損害賠償等の法的措置をとることができます。

 損害賠償請求は損害又は加害者を知ってから3年以内です。

 

留学・研修費用と損害賠償

 労働者の留学や研修の費用を使用者が負担し、その後一定期間内に当該労働者が退職した場合に、使用者が労働者に対して当該留学費用等の返還を求めることがあります。これが、労働基準法第16条により禁止されている損害賠償額の予定に当たらず消費貸借契約として有効であるかどうかをめぐって紛争が見られます。

・新日本証券事件 平成10年東京地裁判

 留学終了後一定期間内に退職したときは留学費用を全額返還させる旨の規定・誓約書について、「制裁の実質を有するから労働基準法16条に違反し、無効である」として、使用者の費用返還請求が認められなかった。

・明治生命保険事件 平成16年東京地裁判決

 留学には業務性がなく使用者が費用を負担すべきとはいえず、「留学費用を目的とした消費貸借合意は、実質的に違約金ないし損害賠償の予定であるということはできず、労働基準法16条ないし14条に反するとはいえない」として、費用返還請求を認めた。

 

従業員が突然退職した場合

  「一方的な契約の解約」を理由にある程度まとまった金額を「損害賠償」として請求できるか否かについて、一般論として、従業員の突然の欠勤や退職によって会社が実際に被害を被った場合には、損害賠償の請求をすることは可能です。しかし、この場合は、突然の退職(又は無断欠勤)と会社が被った損害との間に相当の因果関係がある場合に限られます。しかも、損害賠償額も会社が実害を受けた範囲内に限られますので、多くの場合、会社が被った損害を確定することは困難と考えます。賠償請求を受けた場合には、その内容について確認し、納得できるまで当事者で協議することが大切です。

(判例)

青木鉛鉄事件 最高裁第2小(昭和62.7.10)
藤野金属工業事件 大阪高等裁判所(昭和43年2月28日)

 

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